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温室には
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ノエルは、研究室で、ポーションを作成していた。
(一角獣の角、王水、ドグイ山の雪解け水、オパール。それから・・)
今日生成しているのは、王家からの注文だ。
王家は常にさまざまな攻撃にさらされる事から、常用するポーションも存在する。
今日製作しているのは、十二歳以下の王族が週に一度服用するポーションだ。
対毒、対呪術、対魅了の3点に特化したポーション。
繊細な魔力の調整が必要とされる、ノエルの得意とする分野のポーション錬成だ。
(これはアン王女のためのポーションだったか)
今回生成しているのは、まだ六歳のアン王女のためのポーションだ。
あまり効能を強くしすぎても、体に毒となる。実に繊細な魔力の調整が必要とされる。
(味付けは甘く、香りは優しく・・)
ノエルはすみれのエキスを抽出した薬剤を棚に探す。
(切らしているか・・)
そのために、専用の温室がある。そして温室には、ベスがいる。
ノエルは、温室にすみれを取りに行くことにする。
ーーーーーーーーーーーー
温室にはベスは留守だった。
(いつここに来ても素晴らしい)
ノエルは、嘆息する。
温室には、ノエルが世話をお願いした植物が、それはそれは素晴らしい状態で育っている。
どの植物ものびのびと幸せそうだ。
最近は、「その方が植物の調子が良くなる」というベスの言葉で、鳥や虫まで温室に招き招き入れており、言葉通りに素晴らしい結果をあげている。
(不思議なものだな)
目的のすみれは、すぐに見つけた。
鑑定をかけるまでもない。
根も葉も大きく、自由に思うままに花びらをひろげてすみれは実に、幸せそうだ。
簡単な鑑定魔法を施すと、やはりSクラスに仕上がっている。ノエルは微笑んだ。
そしてあたりを見渡すと、温室の中央には、見慣れぬものがあった。
布張りの、ソファだ。
そしてその布張りのソファの上には、ロドニーが微睡んでいた。
ここのところ、精神の不調を訴えて、いつも青い顔をしていたロドニーだが、実に幸せそうにソファの上で眠りの世界を揺蕩っている。
ソファの周りには、いくつかの鉢が並べられていた。
温室の天窓には、クリスタルが吊るされており、光を受けて小さな虹を生み出す。風が入ると虹は揺れて、この温室の中はさながら天国のごとくだ。
思わず深呼吸をしていると、視線を感じたのだろうか。ロドニーがゆっくりと眠りの世界から起き出してきた。
「あっれ、ノエル様ですか」
ガリガリと頭をかいて起き出したロドニーは、大きなあくびをした。
「ロドニー、仕事中だぞ」
ノエルは言葉とは裏腹に、少し安心してロドニーの横に腰掛けた。
腰を下ろした布の部分から、薬品の香りが匂いたった。
この香りには覚えがある。ナーランダの研究室と、同じものだ。
ふわああと大きなあくびをすると、ロドニーはノエルに向き合った。
「良かったです。本当にこの温室で少し休むと、心と体が全部回復したような気持ちになる」
本当はすみれを摘んだらすぐに退室するつもりだったのだが、重度の不眠症に苦しみ、日々の重責に疲労困憊しているノエルには、ロドニーの言葉は興味を引くものだった。
「神経が苛立ったり、眠れなかったりする時は、本当に整います。ここの植物も動物も、みんな好きなように元気にしてて、本当に癒される」
ロドニーの目の前を、でっぷりとした野良猫が我が物顔で歩いてゆく。
貴重な薬草やらが大切に育てられている横で、贅沢なものだ。
「ベスは不思議な娘ですね。あの娘の手にかかれば、みんな生まれたままの自分本来の姿に戻ることができる。ここにいる時だけは、安全に元の自分に戻れる気が、するんです」
(一角獣の角、王水、ドグイ山の雪解け水、オパール。それから・・)
今日生成しているのは、王家からの注文だ。
王家は常にさまざまな攻撃にさらされる事から、常用するポーションも存在する。
今日製作しているのは、十二歳以下の王族が週に一度服用するポーションだ。
対毒、対呪術、対魅了の3点に特化したポーション。
繊細な魔力の調整が必要とされる、ノエルの得意とする分野のポーション錬成だ。
(これはアン王女のためのポーションだったか)
今回生成しているのは、まだ六歳のアン王女のためのポーションだ。
あまり効能を強くしすぎても、体に毒となる。実に繊細な魔力の調整が必要とされる。
(味付けは甘く、香りは優しく・・)
ノエルはすみれのエキスを抽出した薬剤を棚に探す。
(切らしているか・・)
そのために、専用の温室がある。そして温室には、ベスがいる。
ノエルは、温室にすみれを取りに行くことにする。
ーーーーーーーーーーーー
温室にはベスは留守だった。
(いつここに来ても素晴らしい)
ノエルは、嘆息する。
温室には、ノエルが世話をお願いした植物が、それはそれは素晴らしい状態で育っている。
どの植物ものびのびと幸せそうだ。
最近は、「その方が植物の調子が良くなる」というベスの言葉で、鳥や虫まで温室に招き招き入れており、言葉通りに素晴らしい結果をあげている。
(不思議なものだな)
目的のすみれは、すぐに見つけた。
鑑定をかけるまでもない。
根も葉も大きく、自由に思うままに花びらをひろげてすみれは実に、幸せそうだ。
簡単な鑑定魔法を施すと、やはりSクラスに仕上がっている。ノエルは微笑んだ。
そしてあたりを見渡すと、温室の中央には、見慣れぬものがあった。
布張りの、ソファだ。
そしてその布張りのソファの上には、ロドニーが微睡んでいた。
ここのところ、精神の不調を訴えて、いつも青い顔をしていたロドニーだが、実に幸せそうにソファの上で眠りの世界を揺蕩っている。
ソファの周りには、いくつかの鉢が並べられていた。
温室の天窓には、クリスタルが吊るされており、光を受けて小さな虹を生み出す。風が入ると虹は揺れて、この温室の中はさながら天国のごとくだ。
思わず深呼吸をしていると、視線を感じたのだろうか。ロドニーがゆっくりと眠りの世界から起き出してきた。
「あっれ、ノエル様ですか」
ガリガリと頭をかいて起き出したロドニーは、大きなあくびをした。
「ロドニー、仕事中だぞ」
ノエルは言葉とは裏腹に、少し安心してロドニーの横に腰掛けた。
腰を下ろした布の部分から、薬品の香りが匂いたった。
この香りには覚えがある。ナーランダの研究室と、同じものだ。
ふわああと大きなあくびをすると、ロドニーはノエルに向き合った。
「良かったです。本当にこの温室で少し休むと、心と体が全部回復したような気持ちになる」
本当はすみれを摘んだらすぐに退室するつもりだったのだが、重度の不眠症に苦しみ、日々の重責に疲労困憊しているノエルには、ロドニーの言葉は興味を引くものだった。
「神経が苛立ったり、眠れなかったりする時は、本当に整います。ここの植物も動物も、みんな好きなように元気にしてて、本当に癒される」
ロドニーの目の前を、でっぷりとした野良猫が我が物顔で歩いてゆく。
貴重な薬草やらが大切に育てられている横で、贅沢なものだ。
「ベスは不思議な娘ですね。あの娘の手にかかれば、みんな生まれたままの自分本来の姿に戻ることができる。ここにいる時だけは、安全に元の自分に戻れる気が、するんです」
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