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第十九章『最後の一日』

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二十四人のだれもが気がかりになっていた、ツアー最終日の日程……

つまり今日一日の予定はどうなっているのか?


その答えは、八時五十分頃――レストランに姿を現したモニカさんが持ってきた。


「えーっと、ツアー参加者のみなさん。朝食はしっかり食べましたか?

――それでは、本日のツアーの予定について、発表するね!」


有言実行とはこのことだった。

あれほどのトラブルに見舞われてもなお、モニカさんの声はまるで、

それなりの楽しみを用意してますよ、と言わんばかりの明るさだった。

彼女なりに、クロワキ氏の志を継ごうとしているのが見て取れる。


「と、その前に……

今回のツアーは、本当に大変なこと続きでした。

オハコビ隊が十分な警備体制を取らなかったせいで、

みんなには怖い思いをさせたり、不便を強いたりしてしまいました。

本当に、本当にすみませんでしたっ!」


モニカさんは、六つのテーブルに座る子どもたちにむかって頭を下げた。


ハルトもスズカも、今さらそんなことしなくていいのに、と思っていた。

ガオルの城で警備部の謝罪を受け、病院でもモニカさんに謝られ、

そして今再びモニカさんが謝っている。

無理もないのは分かるけれど、

最終日の楽しい……はずの予定の発表を心待ちにしていたところへ、

また重たい空気にされるのはたまったものではなかった。


「そういうことはもういいから、今日の予定ー!」

「早く教えてよ~!」

「どこかに行くの?  行かないの~?」


あちこちのテーブルから、子どもたちの催促の声がかかり、たちまち騒ぎになった。

アカネが率先して「しーずーかーにー!」と叫んで、

ようやくみんな大人しくなった。


「ありがとね、アカネさん」

モニカさんがほっとしたような表情で言った。


「じつはね、クロワキさんがいなくなったことで、

今日行く予定だった島との都合が合わなくなり、

訪問キャンセルせざるを得なくなってしまったの。

でも、みんなのツアーを、このままつまらない形で終わらせるわけに行かない。


そこで!  ツアー立ち上げ以来の特別プログラムを用意しました。

ズバリ!  今日の十時から五時までの間、

『オハコビ竜さんレンタルターイム』を開催します!」


えっ、レンタルタイム?

二十四人は、それだけ聞いてもあまりピンと来なかった。


「ターイムって……つまりなんですか?」タスクが聞いた。


「つ・ま・り、夕方五時までの七時間、

自分の竜さんと好きなように過ごしてオーケーってこと!

どこへ連れてってもらうのも、何をしてもらうのも、何をして遊ぶのも、

全部もれなくまるっきり、みんなの自由だよ!

――平たく言っちゃえば、『自由行動』だねえ。


レンタルターイムの行動範囲は、

ここターミナルと、ターミナルから半径ニ十キロ以内。

離陸ポートから雲海に出て、好きなだけ飛び回るのもよし。

周辺の島を散策するのもよし。

もちろん、ここターミナル内の各施設を見物するもよし。

みんなが着ているオレンジ色のツアー衣装が、

そのまま『VIPパス』の役目を果たしているから、

遊戯施設だってチケットなしで入れちゃうよ!」


子どもたちから大歓声が上がった。

ハルトとスズカも両手を取って大喜びした。

フラップが好きなところへ連れて行ってくれる……

こんなに嬉しいことは他になかった。


「ただし!  みんなはお金を持っていないから、

ターミナル内でのお買い物は一切できません。そこだけ理解しておいてね――

ああ、でも飲み物は、竜さんたちが用意してくれているから、安心してね。

なお、お昼の十二時半から、ターミナル第八層のスカイテラスで

バーベキューを行う予定だから、遅れないように行動すること。

そうそう、他の利用客のみなさんに粗相のないようにね。

みんなのオハコビ竜が、目を光らせてるんだから~」


「夕方五時からは、何かあるんですか?」とハルトは聞いた。


するとモニカさんは、人さし指を悪戯っぽくふりながらこう答えるのだった。


「そ・れ・は、時が来てのお楽しみ、だよっ」


      *


一時間後――。


ハルトとスズカの全身は、舞い上がるような浮遊感に包まれていた。


「やっぱりエッグポッドは、こうでなくっちゃ!」


ハルトは空中でくるりとスピンした。

こんなことが自力でできるようになるほど、

ハルトはエッグポッドの浮遊感には完全に慣れていた。

まったく怖くなんかない。重力に逆らうのって、なんて素晴らしいことなんだ。

何度味わったって飽きないよ。


『見て見て、ハルトくん!  わたしね、ほら、こうだよ。ふふふっ!』


左を見れば、スズカが両腕を広げ、気持ちよさそうな鳥になっていた。


またこうして二人で、いや、三にんで空を飛べるだけで、

危険を冒してスズカを助けにいった甲斐があった。

ハルトは今、最高に幸せだった。


『――さあ、お二人とも!  輝くような雲海はどちらへ参りましょう?』


フラップの声が上から降ってきた。

彼の声も、ツアー一日目とくらべるとかなり上機嫌に聞こえる。

苦心の末の幸福感を、フラップも全身全霊で感じているに違いない。


「先にケントたちが飛び出していったはず……なんだけど、

フリッタとフレッドを探してみて」


『了解しました!  隊員探査レーダーで、ふたりの位置をチェックしますね……』


五秒後、フラップはすぐさま右に大きく飛行方向を変え、速度を上げて空を駆った。

フラップの秘術で触覚が共有化されたおかげで、

ハルトとスズカは全身に清々しい風を感じ、背中に羽が生えたような感覚に浸る。


吸いこまれるような真っ青な空――太陽に輝く真っ白な雲海――

スカイランドの澄んだ空が、不幸の終わりを祝福してくれているかのようだった。


フラップは、青と白の通常通りのフライトスーツに身を包んでいた。

頬の火傷もすっかり治って、

火傷を負っていたところには新たな毛が生えはじめている。


「発見しましたあ!  フリッタとフレッドの姿を、前方百メートル先に確認。

一気に近づいて、驚かしちゃいましょうか!」


フラップはぐんぐんと二頭に接近していった。

あと五十メートル――二十メートル――五メートル――そして。


「ぼくがフラップですがぁ~!」


背後から大声をかけたフラップに、

フリッタとフレッドは、おおぅっ!  と叫んで身をひねった。


「ああぁあ~、心臓にワル!  オニ飛竜の襲撃かと思ったヨ!」


フリッタが両手で胸をおさえながら、驚きを禁じ得ない顔をした。


「フラップお前、超ゴキゲンだなあ!」フレッドが言った。


「ふふっ、もちろんだよ!  スズカさんが帰ってきたんだ。

今のぼくは、世界一ご機嫌なオハコビ竜なんだから!」


フラップはそう言うと、くるりときりもみ回転して喜びをアピールした。


「ねえねえ、フラップちゃん。今ケントくんたちからネ、

『フライング・アトラクション』をやってほしいってリクエストがあったノ」


「三にんでいっしょにやってあげないか?  景気よくパーッとな!」


フリッタの言う『フライング・アトラクション』とは、

ざっくり言えば、遊園地の乗り物を空中でマネするサービスの総称だ。

これまでフラップたちが披露してくれた《オハコビ弾丸コースター》や、

《オハコビ・レーシング・コースター》が、それにあたる。

他にも《オハコビ・フリーフォール》や、《オハコビ・スピンカップ》などがある。


「ぼくもやりたい、やりたい!  ――と、その前に。

ハルトくんたちがね、近くにいい島はないかたずねてるんだ」


フラップが言った。


「ぼくは、ここからすぐ北にある『花畑島』がいいなって思ってて。

かわいい小動物がいっぱい生息してて、いい紹介になるしさ」


「あっ、いいネ、それ!」


「俺たちも行き先が決まってなかったから、おあつらえむきだな!」


「ケントくんたちにも勧めたいんだけど、行きたいかどうか聞いてみてよ。

フライング・アトラクションは、それからでもいっぱいできるでしょ?

――ぼくのレンタル主さんたちは、いかがです?」


『いくいく!』

『やって、やって!』


花畑島行きと、フライング・アトラクションのセットが、六人全員に所望された。


「では、みなさま!  まずはぼくらの『オハコビ・レーシング・コースター』で、

楽しいアップダウンの魅力をご堪能ください!

だれが一番に到着できるか勝負ですよ~!」


「アタシが一番だもんネ!

このあと、ビッグでワンダフルなアレを控えるんだモン。

ここで負けてたら、キラメキがすたるってやつだヨ!」


フラップ、フリッタ、フレッドの三頭は、六人の子どもたちの歓声とともに、

果てしなく広がる雲海のむこうへと全速力で飛んでいった――。
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