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第十三章『虹色の翼と赤き超新星(スーパールーキー)』

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フーゴからもたらされた言葉に、

二十三人の子どもたちは次々と落胆の声をもらした。

これほどの災いに見舞われたとあれば、仕方のないことではあったが。


「あのさ、あたしたちコレカラ帰らなきゃダメ?

あと数時間こっちにいられない?」


「ちょっとアカネさん、何言ってるんですか!  ムリに決まってるでしょう……」


アカネのわがままに、トキオがすかさず駄目出しをした。


「みんなごめんね。せっかく二日目まで楽しんでもらってたのに」


モニカさんが子どもたちの前に立って、自分も残念だという表情で謝罪した。


「でも、参加者一名がさらわれて、ツアーの企画者も不在、

ターミナルはこんなあり様。ここまで悪い状況が重なってしまったから、

もうツアー続行は不可能に近いの。どうか、分かってね」


ハルトは、怒りのような、絶望のような激しい感覚が全身をかけめぐり、

わなわなとふるえが走った。

スズカを残して地上界へ帰ることなど、できるわけがなかった。


「ぼく、まだ帰りません」


ハルトは両手を固く握りしめながら言った。


「フーゴさん、お願いがあるんです。

ぼくを、ガオルのところに連れていってください。

スズカちゃんを助けたいんです!」


みんなの驚く声が、破裂した爆弾のように病院前広場をゆるがした。

二十二人の子どもたちも、オハコビ隊員たちも、もれなく目玉を皿にしていた。


「いやいやいやいや!」


ケントが激しく目の前を手で払いながらツッコミを入れた。


「お前さー、いくらなんでもそりゃムリだって!

あんなチョー危険なガオルのところに、

わざわざ俺らみたいな子どもを連れてくバーローがいるか?」


「ハルトくん、ぼくたちはもうここにいるべきじゃないと思う。

何にもできないぼくたちじゃ、フレッドたちの足手まといでしかないよ。

分かるだろ?」


タスクも、めずらしくあわてた表情をしてそう言った。


「もちろんだよ!  この期におよんでまた無茶なわがままを言うなんて、

自分でもどうかしてるって思うよ。だけど……」


穴があったら入りたい。

ハルトは、ひどく情けない気持ちに目の奥を熱くした。


「たとえ何かができるってわけじゃなくても、ぼくはあの子のところへ行きたい。

だってあの子……最後に、ぼくにむかって助けてって言ったんだ。

なのに、背中をむけてサヨナラなんて……。

ぼくの父さんも、昔言ってた。助けをもとめられたら、背をむけちゃダメだって。


ぼく、スズカちゃんとしっかり仲よくなりたい!

これから先、スズカちゃんのために、できることはなんだってしてあげたい!

だから、ひっく……なん、言われ、たって、帰りませ……ひっく。

ぼくの、まっすぐ、の、気持ち、す……

この、気持ち……ひっく、嘘は、つけ、ませ、ん……!」


ハルトはがっくりとひざをつき、顔じゅうをぐちゃぐちゃにして泣いていた。

まわりの参加者たちは、この光景に言葉もなく、

ただ彼を心配するように周囲を取りかこんだ。


こうして泣くたびに、昔失くした犬のぬいぐるみを思い出す。

父が四歳の誕生日にプレゼントしてくれた、大好きなぬいぐるみだった。

どこへ行くにもいっしょだった。

失くしたのは群馬のキャンプ場で、

帰る時にはいつの間にか手元からいなくなっていた。

どこに置き去りにしたのかも、だれかに盗まれたのかも分からなかった……

今となっては笑い話だが。


涙に暮れるハルトのもとへ、フラップがゆっくりと飛んできた。


「ハルトくん。その言葉、本気なんです?」


ハルトはフラップの顔を見上げた。

フラップはハルトの前にしゃがみこむと、真剣そのものだった。

しかし、怒っているわけではなく、その声はとてもおだやかだった。


「ぼく、言いましたよね。

オハコビ隊はだれかひとりを特別あつかいできないよって。

ぼくたちは、キミを死なせるわけにいかない。だけど……

キミが本気でスズカさんのもとへ行きたいなら、

その願いを叶えてあげることも、やぶさかではないんです。

オハコビ隊員にとって、お客様の望む場所へ運ぶことも、その命を守ることも、

同じくらい大切なことですから。ね、みんな?」


フラップの静かな言葉に、フリッタやフレッドたちもみんなうなずいた。


「うむ……しかし、今のわれわれにはその権限がありません」

フーゴがフラップのそばから言った。


「厳しいことを言いますが、あなたお一人の願いのためだけに、

われわれは動くことができないのです。したがって――」


「んんんだあぁぁぁあああ!!」


突然、ケントが頭をかきむしりながらわめいた。


「じれってえなー!  もう分かった、だったら俺も行くし!

スズカちゃんとこへ連れてってくれよ!  フリッタたちには悪いけどさ!」


ケントは、親指で自分を指しながら、どんと構えてそう言ったのだ。


「ぼくもああは言ったけど」

タスクがため息をつきつつも、意を決したように言った。


「やっぱりいい男子として、スズカさんを迎えに行きたい気持ちには勝てないな」


「なら、あたしも行く!  

このまま帰るなんてさ、同じ班の一員として認めらんない!」


「ですよね。一人がダメなら、みんなでお願いすればいいだけなんです!」


アカネとトキオも続いた。


波乱が波乱を生むように、人の勇気は驚くほど伝染する。

東京の四人組の雄弁に、他の子どもたちも心を突き動かされたのか、

四人に続いて次々と賛同しはじめた。


「あたしもいく!」

「俺も俺もー!」

「いっしょに行かせて!」

「ここで帰るって選択肢だけはないからねー!」


ひざをついたままのハルトの前を、

子どもたちがフーゴにむかってデモ隊のように突撃していく。


もはや手もつけられない勢いだった。

押しよせる子どもたちの熱気に、さしものフーゴもうめいてたじろいだ。

しかし、フラップたち十二頭は、長いしっぽや翼をうごめかしながら、

とても嬉しそうにしていた。この光景をはなから期待していたかのように。


「み、みなさん、落ちついてください。どうか、落ちついて――」


フーゴが対応に迷っていた時だった。

彼のかぶるヘルメットから、ピピピッ、という着信音が鳴った。

フーゴはヘルメットの右側面を指で押して応答した。


「こ、こちらフーゴ!  ただいま、立てこんでおりまして。

…………なっ!?」


突然、フーゴが素っとん狂な顔をして固まった。

すると、大騒ぎしていた二十二人の子どもたちもピタリと静まり返った。


「……はい。……はい。……ええ、病院前にて。

……はい。……えっ!  よろしいのですか?  しかしそれでは――。

んなっ!  《アレ》の使用を?  この子たちのためだけに!?」


  フーゴと通信相手のやり取りは、しばらく続いた。

子どもたちも、フラップたちも、そのやり取りを緊張しながらじっと見守っていた。


やがて通信は終わり、フーゴがこれまでよりもいっそう引きしまった態度で言った。


「皆さん。ただいま、フラクタール最高責任官より、

われわれ一同にむけて緊急指令が下りました。

フラクタールは、われらがオハコビ隊の頂点に立つお方……。

指令の内容とは、『新たなるツアープログラム』。

すなわち、皆さんをガオルの待ち受ける居城へと、

過去最高レベルの安全体制をもってお連れすることです!」


「じゃあ……」

ハルトは涙をぐいっと腕でぬぐい、すっくと立ちあがった。


「ぼくたち、スズカちゃんのところへ行けるんだね!」


「ええ。わたしにも、突然のことで何がなんだかさっぱりですが、

ともかくわれわれは、『スズカ様救出作戦』と並行して、

皆さまを、竜の戦場ツアーへお連れすることになりました。


よろしいですか。皆さんは、あくまでもエッグポッドの中で守られるだけ。

戦いが終わるまで、けっして外にお出しすることはできませんが、

フラップ率いる《虹色の翼》の特殊部隊が、

かならずやスズカ様を救出することでしょう。

皆さんには、その一部始終をご覧いただきます」


どんでん返し。子どもたちは、割れんばかりの大歓声を上げた。


これにはオハコビ竜たちも、モニカさんも、臆面もなく大騒ぎした。

オハコビ竜たちは、一頭、また一頭と担当する子どもたちと抱きあい、

喜びを分かちあった。


「よかったね、ハルトくん!  最高責任官からの特別措置が出ましたよう!」


ハルトは、フラップと力のかぎり抱きあった。

嬉し涙で視界がすっかりにじんでいた。


「フ、フラクタールさんって、どんな人物なの、フラップ?」


「あの方は、ホント……偉大なオハコビ竜なんですよ。

まるで神さまのように、いつでもぼくたちを見守ってらっしゃるんです。

ぼくたちのあこがれの的!  きっと、そうですね……

そのうちハルトくんたちの前にも、姿を見せられると思いますよ。

何しろ、ハルトくんたちの思いをくみ取ってくださったんですから!」


オハコビ隊トップからの、思いもよらぬ鶴の一声。

ハルトは、そんな大物がこのツアーをどれほど気にかけているのか

知るよしもなかったが、今はなんでもよかった。


おかげでスズカのところへ行ける。

しかも、ツアー中止をまぬがれたのだ。
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