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第十三章『虹色の翼と赤き超新星(スーパールーキー)』

3-Ⅰ

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フラップの言う通り、ターミナルは全体として、

オニ飛竜どもがもたらした粗暴の爪跡を直すための復旧作業に追われていた。


幸い、ターミナルの都市機能はさほどダメージを受けておらず、

各層を照らす大照明や街灯は普通についていたし、

地上人のための酸素フィールドはまだターミナルをおおっていた。

しかし、案内板やいろんなオブジェ、建物の窓や壁、

空中広告機材が破壊されまくり、通路の至るところにガレキが散乱していた。

しかも、リフターは止まったままだった。


あれだけ大勢いた亜人客が、各層からほとんどいなくなっていた。

第一~九層の都市部は、どこも活気が失せ、

大通りや建物内ではがらんどうとした光景が目立つ。

残っているのは、騒動が鎮まって逃げずにすんだわずかな利用客たちだけだ。

彼らが上空を見上げれば、オハコビ竜たちが機材やガレキをせっせと運んでいる。

夜通し復旧作業を行うのだろうか。


さて、警備部総官のフーゴは、

黒と青のプロテクターを着た部下六頭をともなって、病院前の広場に待っていた。

フーゴを中央にそえて横一列にならぶ彼らの前には、

フリッタやフレッドたち十一頭のツアー係が、三列に整然とならんで立っていた。

彼らもやはりフライトスーツを脱いでいる。


病院から出てきたハルトたち一行は、この物々しい風景に胸を打ちながら、

モニカさんの誘導で、この集会現場より左側の位置に固まって集まった。

ハルトは子どもたちの一番前の位置に立った。


「みなさん、そそうのないようにお願いしますね」


フラップは、フリッタたちの左一列目の先頭に空いた場所にむかっていった。


ハルトは、再び勢ぞろいしたオハコビ竜の面々を見て、胸をなで下ろしていた。

しかし、どうやらだれもハルトに声をかけられる空気ではないらしい。

フリッタとフレッドは、ハルトに笑いかけてくれはしたが、

何も言ってはこなかった。でも、それだけで十分だった。


十二頭のオハコビ竜たちが、フーゴにむかっていっせいに敬礼した。


「フリッタたちもよばれてたのね」

アカネがひそひそとハルトに言った。


「みんなケガしてるみたいだけど、そんなにひどそうじゃないね。よかった」


「直れ。全員、休め」

フーゴは、軍人さながらの気力あふれる声で言った。


「地上人歓迎プロジェクト担当員の諸君。よく集まってくれた。

ならびに、地上界よりお越しの皆さん。ご無事で何よりです」


プロテクターに身を包んでいたものの、フーゴも、その他の部員たちも、

腕や足などむき出しの部分には白い包帯がのぞいていた。

その痛々しい様子せいか、オオカミの群れのボスのようなフーゴの険しい顔に、

より歴戦の戦士らしい風格が生まれている。


「さて、もう知っているだろうが、

先ほど対策本部より『スズカ様救出作戦』が発令された。

われわれ警備部は、ガオルとオニ飛竜が結託していることを想定して、

今動けるありったけの部員を総動員し、その強力な連合軍に立ちむかうことになる。

しかしながら、先刻のターミナル防衛戦において、

警備部内に多くの戦闘不能者が出ている。

敵地で想定しうる敵軍の数には、おそらく負けてしまうだろう」


「そこで、対策本部より打開策が発案された。

わたしがここへ参上したのは他でもない。

プロジェクト担当員の諸君に、本作戦への協力を要請するためだ。

どうか、諸君の真の力をわれわれに貸してほしい。

お運び部のエキスパート特殊部隊《虹色の翼》としての力をだ!」


子どもたちから、どよめきがさざ波のように広がった。

フーゴの口から、だれ一人今まで耳にしなかった言葉が飛び出したからだ。


「にじいろのつばさ?」

「なんかカワイイひびきだけど」

「フラップたちがトクシュ部隊?」

「そんな話聞いてないけどな……」


「なあハルトー、にじいろのつばさ~なんてどっかで聞いた?」


ケントが首をひねりながらささやいてきたので、

ハルトは「いや、まったく」と短めに答えた。

極秘のチーム名か何かなのだろうか。


「フラップ、フリッタ、フレッド、フリーダ、フィーナ、フレッチェル、

フリモン、フランク、フマリア、フューロ、フカモル、フレイリー」


フーゴは、十二頭ひとりひとりの名をよんだ。


「諸君はプロのお運び部員にして、わが警備部にて高度なバトル訓練を受けた、

秘密兵器ともいえる強力な戦闘チームである。

その数で、あのワイバーン軍団との空域争奪戦における戦局を、

一気にくつがえした実績もある。オハコビ隊の上層部も全幅の信頼をよせている。

そのほまれ高いチーム力が、今回の作戦において必要と判断されたのだ。


というのも、諸君も一度は遭遇したガオルだが、

やつが持つ戦闘能力など、多くの点が明らかになってきたからだ。

それに対抗するべく、こちらも相応の戦力でもってかかるべきだということだ。

こちらを見てほしい」


フーゴは、腰のベルトにつけていた小さな白い装置を取ると、

その場から二、三歩右に離れ、装置のボタンを押し、

自身のいた場所に空中モニターを出現させた。


モニターには、赤銅色の鎧のようなウロコをまとった三つ首のドラゴンの姿……

そのドラゴンと空中で激しく戦う、小さな黒い竜の映像が流れていた。

ハルトたちにもその映像がよく見えた。

三つ首のドラゴンのほうは、黒い竜よりも十倍以上の大きさだ。


「少々手ぶれがあるが、

これは二年前、カドラ島付近で目撃されたヒュドラー系の翼竜と、

仮面をかぶった謎の黒い竜の戦いをとらえた映像だ。このヒュドラーの周囲を、

まるで翻弄するかのように高速で飛び回る小さな影は……

諸君や、ハクリュウ島にいた隊員たちから集めた目撃情報のとおり、

ガオルそのものと見て間違いない。


飛行中の機動力、格闘技術、ともに高度なものであり、

これまでわれわれ警備部がシミュレーションしてきたどの戦い方とも異なる。

このように巨大なヒュドラーとも、たった一頭で互角以上に渡りあうほどだ」


壮絶な戦闘現場だった。ガオルの体とヒュドラーのこぶしがぶつかるたびに、

大気中に衝撃波が生じ、まわりの薄い雲が白い砂ぼこりのように吹き散られていく。


「あ、あの、せんせー!  そのヒュドラーって、どのくらい強いんですかー?」


息をのんで映像を見ていたタスクが、急に手を上げた。


「われわれ警備部員が三十頭がかりで戦い、

ようやくおさえられるとだけお伝えします。

それをやつは、たった一頭でやってのけるようです。さらに――」


ガオルと思しき影が青いたてがみを怪しく光らせ、口から青い破壊光線を放ち、

その一撃がヒュドラーの胸を真正面からつらぬいたところで、

フーゴは映像を止めた。

そして、ガオルの小さな素顔が大きくアップされる――。


「もっとも注目すべきは――

この映像のガオルは、これまで見受けられていた黒い仮面をかぶっていない……

素顔があらわになっているということです。

お分かりでしょうか、この表情……そう、われわれと大差のない犬の顔なのです。

じつは、黒影竜にまつわるデータが集積、精査された結果、

驚くべき事実が浮き彫りになりました。信じがたい話――」


それまで気高く厳格だったフーゴの顔が急にゆらぎ、

思いつめたような表情に変わった。


「やつは……ガオルは、

われわれオハコビ竜と《同族》であることが分かったのです」

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