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第十一章『嵐のターミナル』
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タワーへの入り口は、大きな階段をかけ上がった先に、
十メートル以上もの幅広に設けられていた。
オハコビ竜でも中に入れるほど余裕のある高さで、
三メートルくらいの全面スライドドアが三つもある……はずだったのだが、
今はそれがなかった。
すべての入り口は鋼鉄のシャッターによって、固く完全に閉じられていた。
左右を見回しても、同じだった。
全体的にシャッターが下ろされ、外界を閉め出している。
「そんな! 開かない! なんだよ、タワーに入れないじゃないか!」
ハルトは、
オハコビ隊の赤いオハコビ竜のエンブレムが描かれた冷たいシャッターを、
ガンガンと何度も力いっぱい叩いた。けれども、うんともすんとも言わなかった。
この非常時だというのに、タワーはこれ以上の来客を拒んでくれているのだ。
ハルトが足止めを食らっていると、後方からモニカさんが駆け足で追いついてきた。
「はあ~、想像はついてたけど、やっぱりこうなってたかあ……」
モニカさんはかすかに息を切らしながら、
ハルトの横に立ち止まってシャッターを見上げた。
かなりきまり悪そうな顔をしている。
「想像はついてた? 今さらそんなこと言われても困るよモニカさん!
完全にシャットアウトじゃん、これ!」
ハルトは今にもかんしゃくを起こしそうだった。
無言のシャッターにむかって気のすむまで悪態をつきながら、
靴で何度も蹴り飛ばしてやりたい気分だった。
このシャッターのむこうに何人ものサポーターたち……
いや、スズカがいるというのに。
ぼくは、自分の足であの子に会いに行くことすらできないのか。
そんなふうに激怒と落胆で心がへし折れそうになっていると、
上空から翼で羽ばたくような低い重みのある音が降ってきた。
ハルトたちはシャッターから少し離れ、音のするほうをあおぎ見た。
「――あのう、そこにいるのはどなたですかあ!?」
タワーの上から、桃色のオハコビ竜が降下してくるところだった。
フライトスーツを着ていない……どうやら一頭だけのようだ。
むこうもこちらの存在に気づいているらしい。
「あなたもしかして、フロルちゃん!?」
降りてくるオハコビ竜にむかって、モニカさんが驚いたように叫んだ。
「モニカさん、知ってるの?」
「スズカさんの代わりの引率係の子」
「スズカちゃんの!? ……しかも、かわいいな」
フロルは下までやってくると、翼で風を巻き立てながらすたっと着地した。
それからモニカさんの姿を見るなり、ポカンと目を丸くしていた。
「モニカさん、ですよね? その格好……どうしたんですか?」
「フーゴ総官にも聞かれたけど、
これはわたしの勝負服みたいなもの。仕事で着る機会があったの」
と、モニカさんははっきりと答えた。
さっきよりも言葉が足され、しかも堂々とした口調だった。
「ああ、そうなんですね……そちらの男の子は、
スズカちゃんと同じツアー参加者の子ですね。あの、キミのお名前は?」
「えっ、ああ、ハルトです……」
「ハルトくん? そうか、キミがハルトくんだね。
スズカちゃんからもキミの名前は聞いてるよ。会えて嬉しいな!
今さらだけど、スカイランドにようこそ。
とてもそんなこと言ってる場合じゃないけどね、ふふっ……」
なんだろう。このおだやかでふわふわした話しぶりにはおぼえがある。
まるでフラップのようだ。きっとモニカさんやクロワキ氏は、
フラップに近しい雰囲気がただよう彼女を代役として、
スズカにあてがったに違いない。フラップとは知りあいなのだろうか。
「それよりもフロルちゃん。スズカさんとクロワキ主任を知らない?」
と、モニカさんが聞いた。
「あの、じつは……さっきまでその二人といっしょだったんです。
でも、ちょっとわけがあって、はぐれてしまったんです。
わたしが、わたしが未熟だったから……
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」
フロルは泣きそうな声で何度も何度も頭を下げた。
こんなに必死になって謝られたら、いくら焦燥にかられたハルトでも、
彼女を責め立てる気持ちにはなれなかった。
「中には人がいっぱいいるんでしょ?
だったらスズカちゃんも大丈夫だと思うよ……」
ハルトが優しい声でそう言葉をかけると、
フロルは安心したように顔を上げて笑った。
モニカさんも、急な代役を頼んでしまった相手に物申すことはしなかった。
「あの、ところでモニカさんたちこそ、どうしてここへ?
むこうにはスピーダーが一台壊れちゃってるのが見えますし。
みんなでスカイサーキットに行っていたはずじゃ?」
当然だろうが、フロルにはメイン側のツアー日程が知らされていたようだ。
「それなんだけどね、
サーキットにもオニ飛竜の群れが襲ってきたの……小規模の部隊だったけどね」
「サーキットにも!? 他のツアー参加者は?」
「フラップくんたちが防護を引き受けてくれたから、大丈夫だと思う」
「でも、なんでサーキットにもオニ飛竜が襲ってきたんですか?」
「分からない。でも、
彼らのこの二つの襲撃には、どこか計画的なものを感じるの。
だけどあの原始的なオニ飛竜たちに、
こんな大それた襲撃を計画する意思があるとは思えない。
目的もまるで見当つかないし……」
モニカさんは右手の指をあごにそえて、難しそうに考えるポーズを取った。
彼女の赤ぶち眼鏡が静かに光っている。
「それって、だれかが裏から糸を引いてるってこと?」
と、ハルトは聞いた。
「たぶんね。サーキットの施設爆破に、スピーダーの全機強制停止……
フラップくんたちを足止めするかのようなあの行動。
黒影竜捜索で警備が手薄になっているところに、ターミナル一斉襲撃。
これじゃまるで………まさか!」
モニカさんの目は、何か非常にまずい答えにたどり着いたように凍りついた。
ハルトは生つばをゴクリと飲んだ。
なんだ? モニカさんは何に気づいたんだ――と、その時だ。
ドゴォォォォ――――ッ!!
すさまじい轟音が空中から降ってきた。
ハルトたちは雷に撃たれたように空を見上げた。
――ガラスドームの一か所が煌々と燃えている。
ガスコンロのような蒼炎の光が、
キラキラと光るシールドに激しい波紋を起こしている。
オニ飛竜の吐くようなかわいい火の玉とはわけが違う。
今にも強固な壁を突きやぶりそうな勢いだ――。
ガシャアアア、バリバリバリ……!!
シールドがやぶられ、ガラスの破片がいくつも落ちていく。
そして開いた穴からあふれ出す蒼炎とともに、黒い影がひゅうと躍り出た。
その姿に、ハルトたちは息をのんだ。
(((あれは!)))
そいつは紛れもなく、ガオルだった。
ターミナルの中に侵入するなり、左右いっぱいに漆黒の羽を広げると、
張りつめるような暗雲と雷の閃きを背にして、
おぞましい悪魔のような様相をまざまざと見せつけた。
血のこびりついたような真っ赤な爪に、頭部を完全な謎につつむ黒い仮面。
ハルトがおぼえているガオルの姿そのものだった。
だがやっぱり、体格はどことなくオハコビ竜に似ている――。
ハルトの体の底から、じりじりとしびれるような怒りがこみ上げてきた。
「ガオル――――ッ!!」
ハルトはありったけの憎しみをたぎらせて名を叫んだ。
やつとの距離は三十メートルくらいだった。
むこうはタワーのほうをキョロキョロと見回していたが、
名を叫ぶ声を聞いてこちらを見下ろした。
自分の目とやつの目がぴったりと合った気がして、ハルトは内心恐怖におびえた。
十メートル以上もの幅広に設けられていた。
オハコビ竜でも中に入れるほど余裕のある高さで、
三メートルくらいの全面スライドドアが三つもある……はずだったのだが、
今はそれがなかった。
すべての入り口は鋼鉄のシャッターによって、固く完全に閉じられていた。
左右を見回しても、同じだった。
全体的にシャッターが下ろされ、外界を閉め出している。
「そんな! 開かない! なんだよ、タワーに入れないじゃないか!」
ハルトは、
オハコビ隊の赤いオハコビ竜のエンブレムが描かれた冷たいシャッターを、
ガンガンと何度も力いっぱい叩いた。けれども、うんともすんとも言わなかった。
この非常時だというのに、タワーはこれ以上の来客を拒んでくれているのだ。
ハルトが足止めを食らっていると、後方からモニカさんが駆け足で追いついてきた。
「はあ~、想像はついてたけど、やっぱりこうなってたかあ……」
モニカさんはかすかに息を切らしながら、
ハルトの横に立ち止まってシャッターを見上げた。
かなりきまり悪そうな顔をしている。
「想像はついてた? 今さらそんなこと言われても困るよモニカさん!
完全にシャットアウトじゃん、これ!」
ハルトは今にもかんしゃくを起こしそうだった。
無言のシャッターにむかって気のすむまで悪態をつきながら、
靴で何度も蹴り飛ばしてやりたい気分だった。
このシャッターのむこうに何人ものサポーターたち……
いや、スズカがいるというのに。
ぼくは、自分の足であの子に会いに行くことすらできないのか。
そんなふうに激怒と落胆で心がへし折れそうになっていると、
上空から翼で羽ばたくような低い重みのある音が降ってきた。
ハルトたちはシャッターから少し離れ、音のするほうをあおぎ見た。
「――あのう、そこにいるのはどなたですかあ!?」
タワーの上から、桃色のオハコビ竜が降下してくるところだった。
フライトスーツを着ていない……どうやら一頭だけのようだ。
むこうもこちらの存在に気づいているらしい。
「あなたもしかして、フロルちゃん!?」
降りてくるオハコビ竜にむかって、モニカさんが驚いたように叫んだ。
「モニカさん、知ってるの?」
「スズカさんの代わりの引率係の子」
「スズカちゃんの!? ……しかも、かわいいな」
フロルは下までやってくると、翼で風を巻き立てながらすたっと着地した。
それからモニカさんの姿を見るなり、ポカンと目を丸くしていた。
「モニカさん、ですよね? その格好……どうしたんですか?」
「フーゴ総官にも聞かれたけど、
これはわたしの勝負服みたいなもの。仕事で着る機会があったの」
と、モニカさんははっきりと答えた。
さっきよりも言葉が足され、しかも堂々とした口調だった。
「ああ、そうなんですね……そちらの男の子は、
スズカちゃんと同じツアー参加者の子ですね。あの、キミのお名前は?」
「えっ、ああ、ハルトです……」
「ハルトくん? そうか、キミがハルトくんだね。
スズカちゃんからもキミの名前は聞いてるよ。会えて嬉しいな!
今さらだけど、スカイランドにようこそ。
とてもそんなこと言ってる場合じゃないけどね、ふふっ……」
なんだろう。このおだやかでふわふわした話しぶりにはおぼえがある。
まるでフラップのようだ。きっとモニカさんやクロワキ氏は、
フラップに近しい雰囲気がただよう彼女を代役として、
スズカにあてがったに違いない。フラップとは知りあいなのだろうか。
「それよりもフロルちゃん。スズカさんとクロワキ主任を知らない?」
と、モニカさんが聞いた。
「あの、じつは……さっきまでその二人といっしょだったんです。
でも、ちょっとわけがあって、はぐれてしまったんです。
わたしが、わたしが未熟だったから……
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」
フロルは泣きそうな声で何度も何度も頭を下げた。
こんなに必死になって謝られたら、いくら焦燥にかられたハルトでも、
彼女を責め立てる気持ちにはなれなかった。
「中には人がいっぱいいるんでしょ?
だったらスズカちゃんも大丈夫だと思うよ……」
ハルトが優しい声でそう言葉をかけると、
フロルは安心したように顔を上げて笑った。
モニカさんも、急な代役を頼んでしまった相手に物申すことはしなかった。
「あの、ところでモニカさんたちこそ、どうしてここへ?
むこうにはスピーダーが一台壊れちゃってるのが見えますし。
みんなでスカイサーキットに行っていたはずじゃ?」
当然だろうが、フロルにはメイン側のツアー日程が知らされていたようだ。
「それなんだけどね、
サーキットにもオニ飛竜の群れが襲ってきたの……小規模の部隊だったけどね」
「サーキットにも!? 他のツアー参加者は?」
「フラップくんたちが防護を引き受けてくれたから、大丈夫だと思う」
「でも、なんでサーキットにもオニ飛竜が襲ってきたんですか?」
「分からない。でも、
彼らのこの二つの襲撃には、どこか計画的なものを感じるの。
だけどあの原始的なオニ飛竜たちに、
こんな大それた襲撃を計画する意思があるとは思えない。
目的もまるで見当つかないし……」
モニカさんは右手の指をあごにそえて、難しそうに考えるポーズを取った。
彼女の赤ぶち眼鏡が静かに光っている。
「それって、だれかが裏から糸を引いてるってこと?」
と、ハルトは聞いた。
「たぶんね。サーキットの施設爆破に、スピーダーの全機強制停止……
フラップくんたちを足止めするかのようなあの行動。
黒影竜捜索で警備が手薄になっているところに、ターミナル一斉襲撃。
これじゃまるで………まさか!」
モニカさんの目は、何か非常にまずい答えにたどり着いたように凍りついた。
ハルトは生つばをゴクリと飲んだ。
なんだ? モニカさんは何に気づいたんだ――と、その時だ。
ドゴォォォォ――――ッ!!
すさまじい轟音が空中から降ってきた。
ハルトたちは雷に撃たれたように空を見上げた。
――ガラスドームの一か所が煌々と燃えている。
ガスコンロのような蒼炎の光が、
キラキラと光るシールドに激しい波紋を起こしている。
オニ飛竜の吐くようなかわいい火の玉とはわけが違う。
今にも強固な壁を突きやぶりそうな勢いだ――。
ガシャアアア、バリバリバリ……!!
シールドがやぶられ、ガラスの破片がいくつも落ちていく。
そして開いた穴からあふれ出す蒼炎とともに、黒い影がひゅうと躍り出た。
その姿に、ハルトたちは息をのんだ。
(((あれは!)))
そいつは紛れもなく、ガオルだった。
ターミナルの中に侵入するなり、左右いっぱいに漆黒の羽を広げると、
張りつめるような暗雲と雷の閃きを背にして、
おぞましい悪魔のような様相をまざまざと見せつけた。
血のこびりついたような真っ赤な爪に、頭部を完全な謎につつむ黒い仮面。
ハルトがおぼえているガオルの姿そのものだった。
だがやっぱり、体格はどことなくオハコビ竜に似ている――。
ハルトの体の底から、じりじりとしびれるような怒りがこみ上げてきた。
「ガオル――――ッ!!」
ハルトはありったけの憎しみをたぎらせて名を叫んだ。
やつとの距離は三十メートルくらいだった。
むこうはタワーのほうをキョロキョロと見回していたが、
名を叫ぶ声を聞いてこちらを見下ろした。
自分の目とやつの目がぴったりと合った気がして、ハルトは内心恐怖におびえた。
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