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第八章『迷子の心』

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湯につかって体がポカポカになると、

二十三人の子どもたちはロボットに運ばれて最上階を目指した。

むかうのは、スカイランドのご馳走がならぶ豪華なレストラン。

腹ペコ地上人のパレードがお通りだ。


レストラン前のロータリーに着くなり、ケントが空きっ腹をさすってこう言った。


「もこもこ牛のローストビーフ、まだ残ってたらいいなー」


会場にはすでに、大勢の亜人客が詰めかけているようだ。

子どもたち用のテーブルが用意されていればよいが――。


開かれた大きなドアからレストラン会場に入ると、

何もかもがキラキラとかがやいていた。

夕暮れのマジックアワーを映したような美しい壁。

黄金の玉がいくつも吊り下げられた天井のシャンデリアにも目を見張る。

かなりの奥行きがあって、

奥のほうが宇宙船の先端のように広く丸みをおびていた。


「壁は一面、特殊ライトが埋めこまれていて、

時間にあわせて朝焼け空にも、真昼空にも変色するんだそうですよ」


後でトキオがこっそりそう教えてくれた。


そして、会場いっぱいにただようご馳走のにおい!


ハルトも地上界で一度や二度は嗅いだことのありそうなにおいばかりだった。

メニューはすべて、かっこいいカート型ロボットたちがのせていて、

バイキング形式になっていた。カート前はすでに、

わらわらと亜人客で賑わっていて、自分のプレートに料理を次々盛りつけている。


ビーフステーキ、ポークステーキ、フライドチキンにフライドポテトはもちろん、

蒸したエビ、カニの脚、貝のムニエル、白身魚のムニエル、

ほうれん草炒め、ナス炒め、キャロットスープ、三種のスパゲティー、

シーフードピラフ、カレーピラフなどなど――。


お楽しみのデザートには、ショートケーキ、チョコケーキ、チーズケーキ、

クリームパイ、バニラアイスにチョコアイス、エクレア、もちもちドーナツ、

プディング、いちごタルト、そしてなんと――お煎餅。


もちろんのこと、どれもこれもただのメニューなんかではない。

スカイランドで採れる素材だけを使った、特徴的なメニューばかりだ。

それぞれのメニュープレートに、

地上界ではまず見られそうもない素材名がもれなくついている。

もこもこ牛とか、羽白大豚とか、山岳暴れエビとか――。


「地上界からお越しのみなさんは、こちらのテーブル席をご利用くださあい!」


コック姿のオハコビ竜が、

やってきたばかりの子どもたちにむかってよびかけてきた。


二十四人分の腰かけが、

四つの空いたテーブルの前でじっとみんなを待ちかねていた。


(あ……)


ハルトは腰かけを数えた後で、ふと気づいた。


(スズカちゃんの席もある……)


あの子もここに食べに来る?

ハルトはそんな期待すらしたものの、その考えはすぐに塵と消えた。

彼女は今、警備部の病院を出られないはずなのだから。


「どうしたの、ハルトくん?  気になることでもあるの?」


そう声をかけてきたのは、アカネだった。

彼女は三人の女子をそばにともなって、ハルトたちの次に会場に入ってきたのだ。


「いやさ、あの黒い竜と出会わなければ、スズカちゃんもきっと今、

アカネに続いてここに入ってきたんだろうなって」


ハルトはスズカのことを考えるあまり、少し胃袋が落ちこんだような感じがした。


「そうだよねえ。今頃どうしてるんだろね、あの子。

ご馳走食べれなくて、ショック受けてないかな……

あ、それはあたしの場合だ。ふふっ!」


「ハルトー、お前も早くこーい。おれたち先に行っちゃうからー!」


ケントは他の四人といっしょに、もうご馳走を取りにコーナーへ急いでいる。

よほどこの浮かれるようなディナータイムを心待ちにしていたようだ。

ハルトも、おなかが空っぽで不平をもらしていたので、

アカネにじゃあね、と言いつつその場を後にした。


      *


二十三人の子どもたちは、

スカイランドの華やかなご馳走を思い思いに取り合わせて、皿を演出していた。

オハコビ竜の優しいコックたちに見守られるなか、みんなテーブルにつき、

ひと時びっくりするほどのおいしさに酔いしれた。

それから、今日というめくるめく感動的な日の出来事を、

みんな思いのままに語りあった。笑顔も笑い声も絶えなかった。


そうして、いったいどれくらいの時間がすぎただろう?

ハルトがケントたち五人に、

島で出会った山ほど大きなダルマ熊について語っている時だ。

フラップがレストラン会場の入り口ドアをくぐって、ハルトのところに歩いてきた。

彼は、近くにいたオハコビ竜のコックと短く言葉を交わしてから、


「ハルトくうん。迎えにきましたよ」


フラップはもうフライトスーツを脱いでいて、

本日の業務を終えたばかりというさっぱりした気配がただよっていた。


「うん。待ってたよフラップ。行こう」


ハルトは、まだ暴れチーズケーキがプレートに残っていたが、

ここで席を立ちあがった。


「え、どこかに行くんですか、ハルトくん?」

と、トキオが聞いてきた。


「うん、ちょっと、ね。だれかまだいけるなら、

ぼくのケーキを食べていいよ。まだ手をつけてないから」


ハルトは、くわしくは言わずにそのまま会場を後にした。


「――なんでしょうね、ハルトくん。

フラップと出かけるって、話してなかったですよ」


するとケントが、肉料理を食べすぎてドロンとした目で言った。


「あれじゃね?  スズカちゃんのお見舞い。

あー、なあ……あの子が会って喜びそうなの、ハルトぐらいしかいないもんなー。

おお、ぼくちゃん悲しいなあ、悲しいなあ」


「まあさ、今のケントが会いに行ったら、スズカさん、

おそらく気絶しちゃうかもだよね」


タスクがニタニタしながら冗談めかして言うと、ケントはむっとした。


「お前さー、部屋戻ったら『ぶりぶりヒップの刑』だからな」
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