【完結!】ぼくらのオハコビ竜 ーあなたの翼になりましょうー

Sirocos(シロコス)

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第七章『黒い竜との遭遇』

2(挿絵あり)

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白竜さまは、湖の底へと帰っていった。


紆余曲折はあったものの、ハクリュウ島ツアーの目玉行事は無事に終了した。

しかし、ガオルが起こした事件は、やはりスズカの心に爪痕を残したようだ。


スズカは体調をくずしてしまった。

ハルトや他の子どもたちが見守るなか、地面に腰かけ、

探索用スーツに搭載された酸素を何度も吸引して、

自分に応急処置をするのがやっとだった。

ハルトはともかく、他の子どもたちの心配そうな視線は、

スズカにとっては痛いほど辛いものだった。

それがスズカの不調に拍車をかけているのだ。


いっぽうでフラップたちは、ターミナルに救援要請を出したり、

亜人の野次馬たちを崖のまわりから退散させたりと、忙しそうにしていた。

ツアー参加者がたかだか体調不良を訴えただけなのに、

彼らはかなり焦っているように見えた。


儀式終了からおよそ二十分後、ターミナルから救援部隊が到着した。

白いナース姿のオハコビ竜が二頭と、

青と黒の機動隊のような姿のオハコビ竜が四頭の、合計六頭だった。

頭数は少ないものの、大規模な災害があったわけではないのだ。


「救援部のフメリーです。患者様はどちらでしょうか」


「あ、こっちです」


ハルトは、飛んでかけつけたメスのオハコビ竜にむかって、手を上げた。


「ご安心くださいね。

わたしと、むこうに待機しているもうひとりのフアンナで、

スズカさんをターミナルへ運びつつ、しっかり治療しますからね」


「でもさ、ただの体調不良なんだよ?  べつに、そこまでしなくても……」


「そ、そういうわけにまいりません!

皆さんは、われわれにとってとても大切なお客様ですから、

もしものことあったら一大事ですもの」


そう言って、救援部員のフメリーはスズカをそっと抱きあげた。

スズカは、ちっとも嫌がらなかった。

フメリーは彼女に優しく声をかけながら、フアンナのところまで飛んでいく。

フアンナの胸には、フラップたちと同じようなエッグポッドが抱かれていたが、

他とは違って表面が白色だった。ポッドのホルダー機器も、ピンク色をしている。


「あの、あのあの、どうかスズカさんを、よろしくお願いしますね!」


フラップが、二頭の救援部員にむかって、

落ちつきなさそうにそう伝えているのが聞こえた。


スズカは、フメリーともども白いエッグポッドの中へ入ってしまった。

あの中で、スズカはフメリーによる治療を受けるのだろう。

中はどうなっているのやら。


スズカが一足早くターミナルに運ばれていくのを下から見送ると、

ハルトは今になって、がっくりと肩を落とした。

たかだか体調をくずしただけでも、

スズカちゃんにとってはとても辛い部分があっただろうに。

ぼくは、かなり不謹慎なことを言ってしまったろうか。

スズカちゃんに嫌われてしまったらどうしよう――。


「元気出せよ、ハルト」


ケントが、横からハルトの肩をぽんとたたいて、声をかけてきた。


「まー、あの子になんにもしてあげらんないのは、みんな悔しいよ。

けどさ、おれたちはゲストの立場なんだから、

あれこれしゃしゃり出るのもどうかと思うわけよ」


そこへタスクも近づいてきて、ハルトにこう言った。


「そうだよ、ハルトくん。だから心配いらないよ。

きっとすぐ元気になって、また会えるよ」


「違うよ、ぼくはさ――」


言いかけて、ハルトはやめた。無力な自分を追いつめるのは嫌だったし、

そんなことをしたって少しも意味がない。


「……そうだよね。

ぼくがくよくよしたって、スズカちゃんはよくならないものね」


ハルトが笑顔でそう答えた時だ。フリッタとフレッドが、

一頭の灰色のオハコビ竜の後ろに続いて、崖の上に戻ってきた。


フラップは、まるで警察官のように敬礼して、

そのオハコビ竜をうやうやしく迎えた。


「フーゴ総官!  お待ちしてました!」


警察の機動隊に近しく勇ましい身なりのフーゴは、

ハルトたちがこれまで見てきたオハコビ竜たちの中でも、

一回り大きな体つきをしていた。




皮膚の下にはがっしりとした筋肉がついていて、

オオカミのように鋭い顔つきだ。

いかにも歴戦の戦士らしい風格がただよう。

これほどかっこいいオハコビ竜がいたとは、だれが想像できただろう?


フーゴは、二十三人の子どもたちをじっくりながめてから、

礼儀正しく挨拶した。


「――オハコビ隊、警備部・総官のフーゴです。

スカイランドツアー参加者の皆さん、ご無事で何よりです」


ハルトは、

フラップもこれぐらいかっこいい顔になれないかなと、ぼんやり考えていた。


「事件のあらましについてはすでに聞きました。

われわれオハコビ隊の一大プロジェクトにおいて、

地上界のお客人のひとりを命の危険にさらしてしまったこと、

オハコビ隊を代表して、心よりおわびいたします」


「あのう……」


ハルトはそっと手を上げて、フーゴに質問した。


「黒影竜って、いったい何者なんですか?」


それを聞いたフーゴは、

ハルトを見下ろしながらあごに手を当てて、ふむ、と小さくうなった。


「あなたは、例の黒い竜について興味がおありのようだ。

しかし残念ながら、わたしも存じ上げないのです。

黒影竜は、われわれオハコビ隊でも、未確認の存在と認定されています。

ただいまターミナルにおいて対策本部を開いており、

黒影竜にまつわる資料を、大至急かき集めているところです」


すごい。オハコビ隊はやることがとても早い。


ハルトは、先ほどスズカを捕らえたガオルの姿をもう一度思い出した。

全身がほぼ真っ黒。

青いたてがみ、両手にウロコの甲冑、顔には悪魔のような黒い仮面。

そして、あの恐ろしい赤い爪――存在そのものがすでに凶器だ。

なのに、どことなくオハコビ竜に近い感じがしたのは、

きっとあの鳥のような翼のせいだ――ハルトはそう思うことにした。


「みんな、よく聞いてほしい」


フレッドがフリッタといっしょに、子どもたちにむかって説明をはじめた。


「ハクリュウ島での滞在時間は、残りあと二時間だ。

そのあいだ、みんなは俺たちのエッグポッドの中に入ってすごしてもらうよ。

残り時間は、俺たちといっしょに飛びながら、島を自由に探索しよう。

せっかく来たんだから、もっとこの島にいたいよな」


「んで、その後はターミナルに戻って、

ホテル《オハコビ・イン》に移動しま~す。

ちなみにスズカちゃんは、警備部の保護下に入ることになったからネ。

んまあ、これも全部、みんなの身の安全のためなんだヨ。例のアイツが、

今度はキミたちのうちのだれかのトコに来ちゃうかもしれないし」


この決定事項に、フラップも喜んで賛成した。


「それにお望みでしたら、

ぼくらは《フライング・ジェットコースター》でもなんでも、

喜んでご披露しますよ。まだまだ、いっしょに遊びましょう!」


すると、子どもたちからも安堵の声がわき起った。


「よかった~、すぐ帰ることになると思ってたよ~」

「まだここにいられるの?  いるー!」

「フラップたちが守ってくれれば、平気だよー」


そう。

ここに集まったのは、肝のすわった、選ばれし勇気ある子どもたちなのだ。


ここで、フーゴは言った。


「これもすべて、今年のツアーを最後まで無事にやり遂げるべく、

クロワキ主任によって決定されたことですので。ご了承いただき感謝します」


フーゴは、子どもたちにむかって頭を下げた。

どうやら、彼もあのクロワキ氏の部下という位置づけになっているようだ。


だが、ハルト以外の参加者は、もうだれも彼の言葉を聞いていなかった。

それぞれのオハコビ竜とどうすごすか、ペア同士で相談しはじめていたのだ。


      *


ハクリュウ島からはるか彼方に、とある小さな島があった。

草木の一本も生えていない、乾いた荒れ地ばかりの死んだ島だ。

敗北者が行きつくのにふさわしい島――。


白竜さまによって吹き飛ばされたガオルは、ここに倒れていた。

意識はあった。しかし、体じゅうが激痛を起こしていた。


圧倒的な力だった。

あれが、偉大なる白竜の末裔とよばれる理由だったとは。

ガオルは悔しさのあまり、あおむけのまま右手で地面をなぐりつけた。


(神通力を使うなど、聞いていなかったぞ……!)


だれかにたいして強い不満をあらわにした。

だが、このくらいであきらめはしない。

竜は、体の回復が恐ろしく早い。

飛べるようになったら、すぐにまた行動しよう。

次なる手段をこうじねばならない。


「待っていてくれ、スズカ。必ずまた、キミを迎えに行こう――」
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