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第六章『白竜さまの島』
2(挿絵あり)
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スズカは、島の動物たちに気に入られているようだった。
その後に出会った、赤く尾の長いアカナガホウビという鳥や、
イタチみたいに胴の長いリスの仲間であるクダノリスなんかも、
スズカが近づいて手をさし出すと、彼女に興味をしめして体に乗ってきたのだ。
合計、三種類の小動物に囲まれて、スズカは今やひとり夢気分だった。
楽しそうに前を歩く彼女の様子に、ハルトはいつの間にか、
昔のアニメーション映画に出てくる、森のプリンセスの姿を重ねてしまっていた。
この森は、愛らしいスズカをさらに演出する。
このままだと、自分の脳内イメージはスズカでいっぱいになってしまいそうだ。
「そういえば、ハルトくんとはまだ、
ふたりきりでちゃんとお話していませんでしたよね」
いいタイミングで、フラップが声をかけてくれた。
うまい具合に、頭のイメージをそらせそうだ。
「あっ、うん。そうだったよね」
「ハルトくんは、竜が好き、なんですよね。
ぼくたちオハコビ竜に、とても興味を持ってくれるのは、嬉しいかぎりですよ」
「オハコビ竜ってさ、どうして犬みたいな姿をしてるの?
なんで鳥の羽を生やしてるの?」
「うーん、いきなり難しい質問ですね……なんていうのかな。
ヒジョーにフクザツで、おとぎ話みたいなお話なんですけども。
まあ、ざっくりと言わせてもらうとですね、
ぼくらの遠いご先祖さまである犬がおりまして」
「えっ、犬?」
「その犬が、長年にわたって空を飛びたいと、ずっと願い続けてきた結果、
ある日、天から鳥の羽を授かったんです」
「え、いきなり羽が生えたの!?」
「そうしてその犬は、長年の願いを叶えた結果、
やがてより強い生物……竜へと進化。
そして、今のぼくらに至る、といったところでしょうか」
「えっ、えっ、よく分かんない。ざっくりしすぎ!
じゃあ……オハコビ竜は、竜の仲間じゃなくて、
犬の仲間ってことになるじゃない」
ハルトは、フラップの道を立ちふさいだ。聞き捨てならなかった。
もともと犬だった、ということは、竜の仲間とは言えないのではないか。
「――ハルトくん。ぼくの頭をよく見てください。
この角、竜の何よりの証なんですよ」
「あ……」
ハルトは、フラップの琥珀色の角を見た。
ヤギやヒツジのそれを思わせる、かぎりなく本物に近い質感を持った角。
作りものなんかじゃない。
「起源こそ他とは違えど、ぼくらは正真正銘、竜の仲間です。
嘘はつきません。嘘じゃないことを証明するために、
オハコビ竜の起源をしっかり語ろうとすると、とんでもない時間がかかります。
だから、とりあえず今は、この角にめんじて勘弁してほしいな、なんてね」
フラップは、本当にやりにくそうな顔をしていた。
その表情からは、確かに嘘は感じなかった。
ハルトは、自分の質問がかなり野暮なものだったかもしれないと、
今になって少しみじめな気分になった。
「――うん。分かった。とりあえず、答えてくれてありがとう。
ごめんね、いきなり通せんぼうなんかして。ちょっと動揺しちゃったんだ」
「いえ、いいんですよ。ハルトくんはとてもいい子で、
スズカさんの警戒心を解いてしまうほどの、不思議な魅力を感じます。
ぼく……キミのことが好きなんですよ。だから、
そんなハルトくんの夢や興味を壊してしまわないか、ぼくも不安だったんです」
改まったような清々しい気分で、ハルトとフラップはたがいの顔を見ていた。
「あれ、そういえばスズカさんは?」
「んーと、ずいぶん先に行っちゃったみたい」
「意外と歩くの速い子なんですね」
ハルトは、駆け足で林道を急いだ。
「あんまりぼくから離れちゃダメですよー!」
と、フラップが後ろから叫んだ。
森をぬけると、素晴らしい景色がハルトを待っていた。
踊りうねる雲の波にさらわれるような島の真ん中に、
恐ろしく澄みわたった大きな湖が一望できる。
そのむこうに美しい湿原が見える。
さらにそのむこうには、青くかすんだ山肌が広がっている。
スズカはすんなりと見つかった。
彼女は、湖を見下ろす小高い丘の上に、ぽつねんと立っていたのだ。
まわりに動物たちがいない。途中でお別れをしたのだろう。
「スズカちゃん!」
ハルトがよびかけても、スズカはふり返ろうとはしなかった。
ハルトは、スズカの隣に駆けよった。
「スズカちゃん? スズカちゃ……えっ?」
スズカは、目に涙を浮かべていた。
「――アカネ、さん、の、言った、とおり」
スズカは、感動に声をつまらせながら言った。
「全部、夢、みた、い……」
「――うん、夢みたいだ。でも、全部本物なんだ」
ハルトは、息をのむようなハクリュウ島の絶景を、
ふたりでいっしょに目に焼きつけた。
*
そのふたりの姿を、すぐ近くの茂みの奥から見つめていた影があった。
「おお、おお……」
それは、あの黒い竜だった。
彼は、長い苦難のはてに一条の光でも見出だしたような、
期待に満ちた声をもらしていた。
(こんな奇跡が、はたして起こりうるだろうか……?)
黒い竜は、先ほどの戦いで疲労した体を、ここで静かに休めていた。
その時、森の中から歩み出てくるスズカの姿を見た。
その姿を目にとらえるなり、彼は目をそらせなくなってしまったのだ――
美しい。彼女は可憐な人間の少女でありながら、すでに美しすぎる。
人間の命をいただく。この島に来た目的は、ただそれ一つのみ――。
ただし、いただくのはたった一人だ。
(俺は、決めた)
黒い竜は、決意に瞳を燃やしていた。
(スズカ……俺は、キミに決めた)
この体が回復でき次第、すぐにキミを迎えに行こう――。
その後に出会った、赤く尾の長いアカナガホウビという鳥や、
イタチみたいに胴の長いリスの仲間であるクダノリスなんかも、
スズカが近づいて手をさし出すと、彼女に興味をしめして体に乗ってきたのだ。
合計、三種類の小動物に囲まれて、スズカは今やひとり夢気分だった。
楽しそうに前を歩く彼女の様子に、ハルトはいつの間にか、
昔のアニメーション映画に出てくる、森のプリンセスの姿を重ねてしまっていた。
この森は、愛らしいスズカをさらに演出する。
このままだと、自分の脳内イメージはスズカでいっぱいになってしまいそうだ。
「そういえば、ハルトくんとはまだ、
ふたりきりでちゃんとお話していませんでしたよね」
いいタイミングで、フラップが声をかけてくれた。
うまい具合に、頭のイメージをそらせそうだ。
「あっ、うん。そうだったよね」
「ハルトくんは、竜が好き、なんですよね。
ぼくたちオハコビ竜に、とても興味を持ってくれるのは、嬉しいかぎりですよ」
「オハコビ竜ってさ、どうして犬みたいな姿をしてるの?
なんで鳥の羽を生やしてるの?」
「うーん、いきなり難しい質問ですね……なんていうのかな。
ヒジョーにフクザツで、おとぎ話みたいなお話なんですけども。
まあ、ざっくりと言わせてもらうとですね、
ぼくらの遠いご先祖さまである犬がおりまして」
「えっ、犬?」
「その犬が、長年にわたって空を飛びたいと、ずっと願い続けてきた結果、
ある日、天から鳥の羽を授かったんです」
「え、いきなり羽が生えたの!?」
「そうしてその犬は、長年の願いを叶えた結果、
やがてより強い生物……竜へと進化。
そして、今のぼくらに至る、といったところでしょうか」
「えっ、えっ、よく分かんない。ざっくりしすぎ!
じゃあ……オハコビ竜は、竜の仲間じゃなくて、
犬の仲間ってことになるじゃない」
ハルトは、フラップの道を立ちふさいだ。聞き捨てならなかった。
もともと犬だった、ということは、竜の仲間とは言えないのではないか。
「――ハルトくん。ぼくの頭をよく見てください。
この角、竜の何よりの証なんですよ」
「あ……」
ハルトは、フラップの琥珀色の角を見た。
ヤギやヒツジのそれを思わせる、かぎりなく本物に近い質感を持った角。
作りものなんかじゃない。
「起源こそ他とは違えど、ぼくらは正真正銘、竜の仲間です。
嘘はつきません。嘘じゃないことを証明するために、
オハコビ竜の起源をしっかり語ろうとすると、とんでもない時間がかかります。
だから、とりあえず今は、この角にめんじて勘弁してほしいな、なんてね」
フラップは、本当にやりにくそうな顔をしていた。
その表情からは、確かに嘘は感じなかった。
ハルトは、自分の質問がかなり野暮なものだったかもしれないと、
今になって少しみじめな気分になった。
「――うん。分かった。とりあえず、答えてくれてありがとう。
ごめんね、いきなり通せんぼうなんかして。ちょっと動揺しちゃったんだ」
「いえ、いいんですよ。ハルトくんはとてもいい子で、
スズカさんの警戒心を解いてしまうほどの、不思議な魅力を感じます。
ぼく……キミのことが好きなんですよ。だから、
そんなハルトくんの夢や興味を壊してしまわないか、ぼくも不安だったんです」
改まったような清々しい気分で、ハルトとフラップはたがいの顔を見ていた。
「あれ、そういえばスズカさんは?」
「んーと、ずいぶん先に行っちゃったみたい」
「意外と歩くの速い子なんですね」
ハルトは、駆け足で林道を急いだ。
「あんまりぼくから離れちゃダメですよー!」
と、フラップが後ろから叫んだ。
森をぬけると、素晴らしい景色がハルトを待っていた。
踊りうねる雲の波にさらわれるような島の真ん中に、
恐ろしく澄みわたった大きな湖が一望できる。
そのむこうに美しい湿原が見える。
さらにそのむこうには、青くかすんだ山肌が広がっている。
スズカはすんなりと見つかった。
彼女は、湖を見下ろす小高い丘の上に、ぽつねんと立っていたのだ。
まわりに動物たちがいない。途中でお別れをしたのだろう。
「スズカちゃん!」
ハルトがよびかけても、スズカはふり返ろうとはしなかった。
ハルトは、スズカの隣に駆けよった。
「スズカちゃん? スズカちゃ……えっ?」
スズカは、目に涙を浮かべていた。
「――アカネ、さん、の、言った、とおり」
スズカは、感動に声をつまらせながら言った。
「全部、夢、みた、い……」
「――うん、夢みたいだ。でも、全部本物なんだ」
ハルトは、息をのむようなハクリュウ島の絶景を、
ふたりでいっしょに目に焼きつけた。
*
そのふたりの姿を、すぐ近くの茂みの奥から見つめていた影があった。
「おお、おお……」
それは、あの黒い竜だった。
彼は、長い苦難のはてに一条の光でも見出だしたような、
期待に満ちた声をもらしていた。
(こんな奇跡が、はたして起こりうるだろうか……?)
黒い竜は、先ほどの戦いで疲労した体を、ここで静かに休めていた。
その時、森の中から歩み出てくるスズカの姿を見た。
その姿を目にとらえるなり、彼は目をそらせなくなってしまったのだ――
美しい。彼女は可憐な人間の少女でありながら、すでに美しすぎる。
人間の命をいただく。この島に来た目的は、ただそれ一つのみ――。
ただし、いただくのはたった一人だ。
(俺は、決めた)
黒い竜は、決意に瞳を燃やしていた。
(スズカ……俺は、キミに決めた)
この体が回復でき次第、すぐにキミを迎えに行こう――。
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