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第五章『夢と魔法のエッグポッド』
5(挿絵あり)
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『開始前に、おふたりに弾丸コースター用のお楽しみグッズをお渡ししますね』
フラップの言葉のすぐあと、
ハルトとスズカの体の下に、後ろから何かがすいーっと流れてきた。
「えへへっ、なにこれ!?」
長さ八十センチくらいの、クリーム色のピストル弾型の極厚な抱き枕だった。
それが二人に一本ずつ、渡されたのだ。
表面をさわってみるとスベスベしており、ひんやりと気持ちよくて、
中に細かいビーズがぎっしりつまっているようだった。
ご丁寧に、両手両脚を通す四つの紐の輪がついている。
体を密着させる部分は、グレーの素材が使われているので、
どこからしがみつけばいいのか分かりやすかった。
『そちら、手足を紐に通して、ギュウッとしがみついていてくださいね』
いったいどこから、いつの間に?
まあ、それは置いておくとして、
ハルトとスズカは、言われるまま奇天烈な抱き枕に搭乗した。
『――はいはぁ~い、おふたりとも、準備完了ですね!
わりとふかふかしてるでしょ? おかしな格好をさせちゃってごめんね。
では、プロセス終了まで、し~っかりとおつかまりくださあい。いきますよ~!』
フラップは気合いとともに、真っ白な雲海にむかって頭から急降下していった。
ハルトたちも、弾丸のような抱き枕にしがみついたまま、いっしょに落ちていく。
全身を温かな突風がつらぬき、風圧で前髪がバタバタと激しく後ろになびく。
ズボン!
厚い雲の中へダイブすると、目の前が灰色にそまって何も見えなくなる。
少しひんやりと湿った雲の感触に、おぼろげながら体じゅうがくすぐったくなる。
フラップは、上体をそらすと、また雲の上へ浮上していった。
ボン! と雲の上に出ると、今度は五十度の角度でぐんぐん上昇……
昇った先で、大きいゆるやかな丘を描くように弓なりに飛んでいく。
反重力で体がふわあっと浮かび上がる、天にも昇るような快感――。
『ここで、逆さ垂直ループに突入しまあす! はじめての方はご注意を~!』
フラップは、ひょいっと少し上昇しながら一呼吸すると、
頭から雲海にむかって突っこんでいった……ここがもし地上界だったら、
彼らは間違いなく地面に激突してペシャンコになっていただろう。
フラップは、雲海を見下ろすうつ伏せ状態から、
まぶしい太陽を見上げるあお向けになっていく形で、雲の中にダイブする。
ハルトたちは、真っ白な地面に背中からのまれたような錯覚を味わった。
あっという間に雲海から浮上し、あお向けからまたうつぶせに戻った時、
ハルトは、自分が受け止めきれないほどの楽しさに歓声をあげていたことに、
ようやく気がついた。
「た、の、しい……!」
かすれるような声でそうつぶやいたのは、スズカだった――満面の笑顔だ。
これまでで一番かわいらしい顔。
ハルトはそんな彼女の笑った顔を見た瞬間、胸の中で、
何か喜びを閉じこめた明るい球が、一気にぱあっと弾け飛ぶのを感じた。
いけない。もし自分たちが今、遊園地の乗り物に乗っていると仮定したなら、
まるでデートそのものじゃないか。
顔面が焼けるほど熱い……これって、ちょっぴり大人な感じ――?
ふいに、フラップが体をひねってぐるーんとローリングした時、
はっとしたハルトは、その弾みで首を少し痛めた。
「いたたた……」
出会ってあまり間もない女の子を好きになるなんて図々しい――
そんな言葉が聞こえた気がした。
『あっ。首、大丈夫ですか?
ごめんなさい、ちゃんと宣告しておけばよかったですね。
でも安心してください。ほら、ハクリュウ島が見えてきましたよ。
あそこに降りたら、首も楽になりますから』
ハルトたちは目をこらして、雲海の先に雲に抱かれて悠然と浮かぶ緑の島を見た。
あれはかなり大きな島だ。びっしりと森の葉に包まれた青い山々がある。
その麓には、コバルトブルーの絵具が溶けこんだような美しい湖もある。
「あの湖に、白竜さまが!?」
と、ハルトは急きこんで聞いた。
『はい! とってもきれいな白竜さまが住んでいらっしゃいますよ。
お空が晴れてよかったあ。今日一日、島の天気は晴れだそうです。
そうそう! 島に降りる時、
おふたりに島探索のためのスーツを新たに着用していただきますので、
そのおつもりで』
「この服じゃダメなの?」
ハルトは、スカイトレインに乗った時に着せてもらったスーツを指して聞いた。
『そうですねえ。そちらのスーツには、
低体温症や高山病を予防するための機能が搭載されていませんので』
そうだった。ここは標高が恐ろしく高いんだ。すっかり忘れていた!
『でも、その服と同様に着やすいので、きっとお気に召すかと』
「わたし、楽しみ――」
と、スズカが言った。
フラップは、ハルトとスズカを待たせまいと、
翼の羽音をうならせて、島にむけて全速力で飛んでいった。
フラップの言葉のすぐあと、
ハルトとスズカの体の下に、後ろから何かがすいーっと流れてきた。
「えへへっ、なにこれ!?」
長さ八十センチくらいの、クリーム色のピストル弾型の極厚な抱き枕だった。
それが二人に一本ずつ、渡されたのだ。
表面をさわってみるとスベスベしており、ひんやりと気持ちよくて、
中に細かいビーズがぎっしりつまっているようだった。
ご丁寧に、両手両脚を通す四つの紐の輪がついている。
体を密着させる部分は、グレーの素材が使われているので、
どこからしがみつけばいいのか分かりやすかった。
『そちら、手足を紐に通して、ギュウッとしがみついていてくださいね』
いったいどこから、いつの間に?
まあ、それは置いておくとして、
ハルトとスズカは、言われるまま奇天烈な抱き枕に搭乗した。
『――はいはぁ~い、おふたりとも、準備完了ですね!
わりとふかふかしてるでしょ? おかしな格好をさせちゃってごめんね。
では、プロセス終了まで、し~っかりとおつかまりくださあい。いきますよ~!』
フラップは気合いとともに、真っ白な雲海にむかって頭から急降下していった。
ハルトたちも、弾丸のような抱き枕にしがみついたまま、いっしょに落ちていく。
全身を温かな突風がつらぬき、風圧で前髪がバタバタと激しく後ろになびく。
ズボン!
厚い雲の中へダイブすると、目の前が灰色にそまって何も見えなくなる。
少しひんやりと湿った雲の感触に、おぼろげながら体じゅうがくすぐったくなる。
フラップは、上体をそらすと、また雲の上へ浮上していった。
ボン! と雲の上に出ると、今度は五十度の角度でぐんぐん上昇……
昇った先で、大きいゆるやかな丘を描くように弓なりに飛んでいく。
反重力で体がふわあっと浮かび上がる、天にも昇るような快感――。
『ここで、逆さ垂直ループに突入しまあす! はじめての方はご注意を~!』
フラップは、ひょいっと少し上昇しながら一呼吸すると、
頭から雲海にむかって突っこんでいった……ここがもし地上界だったら、
彼らは間違いなく地面に激突してペシャンコになっていただろう。
フラップは、雲海を見下ろすうつ伏せ状態から、
まぶしい太陽を見上げるあお向けになっていく形で、雲の中にダイブする。
ハルトたちは、真っ白な地面に背中からのまれたような錯覚を味わった。
あっという間に雲海から浮上し、あお向けからまたうつぶせに戻った時、
ハルトは、自分が受け止めきれないほどの楽しさに歓声をあげていたことに、
ようやく気がついた。
「た、の、しい……!」
かすれるような声でそうつぶやいたのは、スズカだった――満面の笑顔だ。
これまでで一番かわいらしい顔。
ハルトはそんな彼女の笑った顔を見た瞬間、胸の中で、
何か喜びを閉じこめた明るい球が、一気にぱあっと弾け飛ぶのを感じた。
いけない。もし自分たちが今、遊園地の乗り物に乗っていると仮定したなら、
まるでデートそのものじゃないか。
顔面が焼けるほど熱い……これって、ちょっぴり大人な感じ――?
ふいに、フラップが体をひねってぐるーんとローリングした時、
はっとしたハルトは、その弾みで首を少し痛めた。
「いたたた……」
出会ってあまり間もない女の子を好きになるなんて図々しい――
そんな言葉が聞こえた気がした。
『あっ。首、大丈夫ですか?
ごめんなさい、ちゃんと宣告しておけばよかったですね。
でも安心してください。ほら、ハクリュウ島が見えてきましたよ。
あそこに降りたら、首も楽になりますから』
ハルトたちは目をこらして、雲海の先に雲に抱かれて悠然と浮かぶ緑の島を見た。
あれはかなり大きな島だ。びっしりと森の葉に包まれた青い山々がある。
その麓には、コバルトブルーの絵具が溶けこんだような美しい湖もある。
「あの湖に、白竜さまが!?」
と、ハルトは急きこんで聞いた。
『はい! とってもきれいな白竜さまが住んでいらっしゃいますよ。
お空が晴れてよかったあ。今日一日、島の天気は晴れだそうです。
そうそう! 島に降りる時、
おふたりに島探索のためのスーツを新たに着用していただきますので、
そのおつもりで』
「この服じゃダメなの?」
ハルトは、スカイトレインに乗った時に着せてもらったスーツを指して聞いた。
『そうですねえ。そちらのスーツには、
低体温症や高山病を予防するための機能が搭載されていませんので』
そうだった。ここは標高が恐ろしく高いんだ。すっかり忘れていた!
『でも、その服と同様に着やすいので、きっとお気に召すかと』
「わたし、楽しみ――」
と、スズカが言った。
フラップは、ハルトとスズカを待たせまいと、
翼の羽音をうならせて、島にむけて全速力で飛んでいった。
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