32 / 36
10.夜明けの呼び声
夢の終わり
しおりを挟む「ミステリーが好きなんですか?」
「特にこれが好きっていうのはあまりないですね。恋愛ものも読むし、ファンタジーも読むし。雑食です」
そう言って笑うと、侑李が声を出して笑った。
「雑食ですか」
「変ですか?」
「いいえ。いいと思います」
「小鳥遊さんは……」
さっきから自分のことばかり話してしまった。もっと彼のことも知りたい、と切り出そうとした奈月を、侑李がやんわりと制した。
「名前で呼んでください、奈月さん」
「あ……はい……」
微笑まれ、奈月は少し逡巡する。彼は目上の人だ。取引先の副社長だとか、そういうことを抜きにしても、年上の人を気軽に下の名前で呼んで良いものだろうか。だが、奈月を見つめるブルーの瞳は、名前で呼ばれるのを待っている。
「じゃあ、侑李、さん……私からも、一ついいでしょうか?」
「はい、何でしょう?」
「敬語じゃなくていいです。私の方が年下ですし」
年下の自分が敬語を使うのは当たり前だと思っている。だが、年上の彼に敬語を使われるのは何だか居た堪れない。すると、少し考えた素振りを見せた侑李は、にっこりと笑って奈月を見た。
「では、お互いに敬語もなしにしましょう」
「え?」
まさか自分もだとは思わず、奈月は素っ頓狂な声を上げる。そんな彼女を見る侑李の視線は、どこか悪戯めいていた。
「年は関係なく、対等でいましょう。もちろん、プライベートでは」
「っ……」
「いいかな、奈月さん?」
ニッコリ微笑む侑李に、なんだかしてやられた気分になる。だが、提案したのは奈月だ。そこに自分を含めたつもりはなかったけれど、彼が求めるなら応じる他ない。
「わかり……わかった」
言い直した奈月に、侑李は心底嬉しそうな顔になる。その顔を見ただけで、いろんな考えが霧散するのは惚れた弱みだろうか。
「特にこれが好きっていうのはあまりないですね。恋愛ものも読むし、ファンタジーも読むし。雑食です」
そう言って笑うと、侑李が声を出して笑った。
「雑食ですか」
「変ですか?」
「いいえ。いいと思います」
「小鳥遊さんは……」
さっきから自分のことばかり話してしまった。もっと彼のことも知りたい、と切り出そうとした奈月を、侑李がやんわりと制した。
「名前で呼んでください、奈月さん」
「あ……はい……」
微笑まれ、奈月は少し逡巡する。彼は目上の人だ。取引先の副社長だとか、そういうことを抜きにしても、年上の人を気軽に下の名前で呼んで良いものだろうか。だが、奈月を見つめるブルーの瞳は、名前で呼ばれるのを待っている。
「じゃあ、侑李、さん……私からも、一ついいでしょうか?」
「はい、何でしょう?」
「敬語じゃなくていいです。私の方が年下ですし」
年下の自分が敬語を使うのは当たり前だと思っている。だが、年上の彼に敬語を使われるのは何だか居た堪れない。すると、少し考えた素振りを見せた侑李は、にっこりと笑って奈月を見た。
「では、お互いに敬語もなしにしましょう」
「え?」
まさか自分もだとは思わず、奈月は素っ頓狂な声を上げる。そんな彼女を見る侑李の視線は、どこか悪戯めいていた。
「年は関係なく、対等でいましょう。もちろん、プライベートでは」
「っ……」
「いいかな、奈月さん?」
ニッコリ微笑む侑李に、なんだかしてやられた気分になる。だが、提案したのは奈月だ。そこに自分を含めたつもりはなかったけれど、彼が求めるなら応じる他ない。
「わかり……わかった」
言い直した奈月に、侑李は心底嬉しそうな顔になる。その顔を見ただけで、いろんな考えが霧散するのは惚れた弱みだろうか。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
シンクの卵
名前も知らない兵士
児童書・童話
小学五年生で文房具好きの桜井春は、小学生ながら秘密組織を結成している。
メンバーは四人。秘密のアダ名を使うことを義務とする。六年生の閣下、同級生のアンテナ、下級生のキキ、そして桜井春ことパルコだ。
ある日、パルコは死んだ父親から手紙をもらう。
手紙の中には、銀貨一枚と黒いカードが入れられており、カードには暗号が書かれていた。
その暗号は市境にある廃工場の場所を示していた。
とある夜、忍び込むことを計画した四人は、集合場所で出くわしたファーブルもメンバーに入れて、五人で廃工場に侵入する。
廃工場の一番奥の一室に、誰もいないはずなのにランプが灯る「世界を変えるための不必要の部屋」を発見する五人。
そこには古い机と椅子、それに大きな本とインクが入った卵型の瓶があった。
エポックメイキング。
その本に万年筆で署名して、正式な秘密組織を発足させることを思いつくパルコ。
その本は「シンクの卵」と呼ばれ、書いたことが現実になる本だった。
月からの招待状
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
児童書・童話
小学生の宙(そら)とルナのほっこりとしたお話。
🔴YouTubeや音声アプリなどに投稿する際には、次の点を守ってください。
●ルナの正体が分かるような画像や説明はNG
●オチが分かってしまうような画像や説明はNG
●リスナーにも上記2点がNGだということを載せてください。
声劇用台本も別にございます。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
みかんに殺された獣
あめ
児童書・童話
果物などの食べ物が何も無くなり、生きもののいなくなった森。
その森には1匹の獣と1つの果物。
異種族とかの次元じゃない、果実と生きもの。
そんな2人の切なく悲しいお話。
全10話です。
1話1話の文字数少なめ。
【総集編】日本昔話 パロディ短編集
Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。
今まで発表した
日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。
朝ドラの総集編のような物です笑
読みやすくなっているので、
⭐️して、何度もお読み下さい。
読んだ方も、読んでない方も、
新しい発見があるはず!
是非お楽しみ下さい😄
⭐︎登録、コメント待ってます。
見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜
うさみち
児童書・童話
【見習い錬金術士とうさぎのぬいぐるみたちが描く、スパイス混じりのゆるふわ冒険!情報収集のために、お仕事のご依頼も承ります!】
「……襲われてる! 助けなきゃ!」
錬成アイテムの採集作業中に訪れた、モンスターに襲われている少年との突然の出会い。
人里離れた山陵の中で、慎ましやかに暮らしていた見習い錬金術士ミミリと彼女の家族、機械人形(オートマタ)とうさぎのぬいぐるみ。彼女たちの運命は、少年との出会いで大きく動き出す。
「俺は、ある人たちから頼まれて預かり物を渡すためにここに来たんだ」
少年から渡された物は、いくつかの錬成アイテムと一枚の手紙。
「……この手紙、私宛てなの?」
少年との出会いをキッカケに、ミミリはある人、あるアイテムを探すために冒険を始めることに。
――冒険の舞台は、まだ見ぬ世界へ。
新たな地で、右も左もわからないミミリたちの人探し。その方法は……。
「討伐、採集何でもします!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?」
見習い錬金術士ミミリの冒険の記録は、今、ここから綴られ始める。
《この小説の見どころ》
①可愛いらしい登場人物
見習い錬金術士のゆるふわ少女×しっかり者だけど寂しがり屋の凄腕美少女剣士の機械人形(オートマタ)×ツンデレ魔法使いのうさぎのぬいぐるみ×コシヌカシの少年⁉︎
②ほのぼのほんわか世界観
可愛いらしいに囲まれ、ゆったり流れる物語。読了後、「ほわっとした気持ち」になってもらいたいをコンセプトに。
③時々スパイスきいてます!
ゆるふわの中に時折現れるスパイシーな展開。そして時々ミステリー。
④魅力ある錬成アイテム
錬金術士の醍醐味!それは錬成アイテムにあり。魅力あるアイテムを活用して冒険していきます。
◾️第3章完結!現在第4章執筆中です。
◾️この小説は小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
◾️作者以外による小説の無断転載を禁止しています。
◾️挿絵はなんでも書いちゃうヨギリ酔客様からご寄贈いただいたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる