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6.安息のかなたへ
リスの城
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トロッコはけたたましい音を反響させながら、ようやく出口のアーチをくぐりぬけた。
流れ落ちる水とともに外へ飛び出すと、にわかに空気がおいしく感じられる。
どうやら大きな渓流のようだ。
七色の光をふくんだおだやかな谷川の上には、断崖をのぞむ夢見の森の木々がきらめいている。
線路は、そんな涼やかな渓流の真ん中にそびえ立っていたのだ。
でも、そんな景色など、線路のずっと先に存在するものに比べれば、まだまだ甘い。
「見よ。あれこそがリス族の城じゃ」
視線の先に、夜空をつかまんとするような巨大樹がそびえ立っていた。
大きな中州に生えた樹だ。
なんという大きさだろう。都会の大きなタワービルを思わせる高さだ。
おおいかぶさる葉の全部が、青緑色のイルミネーションのようにきらめいている。
その幹には、数えきれない数の尖塔や丸い建物がひしめきあって、
黄金色のやわらかな灯りをたたえていた。
トロッコから見上げるだけで、城内の上品さや、リスたちの活気が伝わってきて、胸の奥までひびくようだ。
想像以上だ。
いや、これは、頭がくらくらするほどのすごさだ。
「森の中に、こんな場所があるなんて……」
これも全部、夢の世界のなせるわざだ。
テムはそれを思い出すと、首を横に振ってめまいを振りはらった。
「ぼくも、リスの王様に会えるかな?」
「もちろんじゃ!
なんせおぬしは、緑の宝石を持っておるからな。
それにわが陛下は、いつ誰にでも御前を開いておられる。王妃様もお優しい方じゃ」
まわりをよく見ると、ほかの場所からのびるいくつもの線路が、すべてあのリスの城の中に続いている。
トロッコは、巨木の幹の低い場所に開いたゲートから、城内に入っていった。
しばらく細いトンネルをすすむと、いくつものトロッコ乗り場が放射状に設置された、広大な部屋にたどりついた。
大勢の白いリスが働いている。ものすごい数の機関だ。
カラコロ、カラコロと軽やかな音を立てて回る動力機構の歯車に、目が回りそうだ。
ここは樹の中のはずだが。
トロッコがホームに到着すると、テムたちは部屋の奥にあるどんぐり型の屋根のついたリフトにむかった。
「お帰りなさいませ、ビビ様!」
「ご無事でなによりです!」
「お客人様もようこそ、いらっしゃいました」
リスたちがテムたちのそばへよってきて、次々と温かく歓迎してくれた。
意外にも、アットホームな雰囲気だ。
森の外からやってきた人間に、ちっとも警戒の色を見せないなんて。
やはり、この城の誰からも信頼されているビビといっしょにいるだけで、顔なじみも同然なのだ。
「みんな大きなリスで面白いね、ノックス」
「ワン!」
ノックスも、リスたちに歓迎されてか、機嫌よくしっぽをふって歩いていた。
「あのリフトに乗れば、陛下がお待ちの城の最上層へ、あっという間じゃ。
おふたりの前では、くれぐれもそそうのないようにな」
テムたちは、どんぐりのリフトに乗りこんで、みるみる城の上層へ運ばれていった。
最初の乗り場の部屋は天井があったが、その上の階からは、一気に開放感のある吹きぬけに変わった。
城内なのに、まるで街のようだ。
ショッピングモールのようにお店がならぶにぎやかな通りや、
裕福なリスの暮らしていそうな豪華なバルコニーの数々。
そして、城内を警備するたくさんのリスの兵士たち。
ここにはテムが、いや、人間が知るよしもない日常が存在している。
けっして眠ることのない日常が。
リフトが最上層に到着すると、そこは赤い絨毯が敷かれた、
豪華なエントランスホールのような場所だった。
皮のよろいに木の槍を持ったリスの兵士たちが左右に整列し、
その先では、ほかより一回り大きなリス王夫妻が出迎えていた。
相手はリスだというのに、緊張感がテムの体をにわかにはい上がってきた。
テムは、すぐにマントのフードを頭から外した。
「おお、ビビよ! 早い帰還であったな」
赤いマントに金の王冠をかぶった白リスの王様が、少し驚きをにじませた顔で言った。
「あなたの帰りを、心待ちにしていました」
お母さんのような温かみのある声で言ったのは、明るい黄色のドレスに身をつつんだ王妃様だ。
テムたちは、リス王夫妻のもとへ歩いていった。
するとビビがテムたちの前に出て、絨毯の上で勇ましくひざをつき、主君たちにこう言った。
「陛下! ならびに王妃様!
このビビ、ただいま帰還つかまつりました!
報告をしたいことが多々ありますが、その前にまず、ご紹介したい者がおります」
そう言うとビビは、立ち上がってテムを横へ来るようにうながした。
「この子は、森の外より、夢をわたっておとずれし者。
わが道中において、少なからず力を貸してくれました。
名をテムと言います!」
「こ、こんばんは……」
テムは、みょうな緊張感で体がカチコチになっていた。
流れ落ちる水とともに外へ飛び出すと、にわかに空気がおいしく感じられる。
どうやら大きな渓流のようだ。
七色の光をふくんだおだやかな谷川の上には、断崖をのぞむ夢見の森の木々がきらめいている。
線路は、そんな涼やかな渓流の真ん中にそびえ立っていたのだ。
でも、そんな景色など、線路のずっと先に存在するものに比べれば、まだまだ甘い。
「見よ。あれこそがリス族の城じゃ」
視線の先に、夜空をつかまんとするような巨大樹がそびえ立っていた。
大きな中州に生えた樹だ。
なんという大きさだろう。都会の大きなタワービルを思わせる高さだ。
おおいかぶさる葉の全部が、青緑色のイルミネーションのようにきらめいている。
その幹には、数えきれない数の尖塔や丸い建物がひしめきあって、
黄金色のやわらかな灯りをたたえていた。
トロッコから見上げるだけで、城内の上品さや、リスたちの活気が伝わってきて、胸の奥までひびくようだ。
想像以上だ。
いや、これは、頭がくらくらするほどのすごさだ。
「森の中に、こんな場所があるなんて……」
これも全部、夢の世界のなせるわざだ。
テムはそれを思い出すと、首を横に振ってめまいを振りはらった。
「ぼくも、リスの王様に会えるかな?」
「もちろんじゃ!
なんせおぬしは、緑の宝石を持っておるからな。
それにわが陛下は、いつ誰にでも御前を開いておられる。王妃様もお優しい方じゃ」
まわりをよく見ると、ほかの場所からのびるいくつもの線路が、すべてあのリスの城の中に続いている。
トロッコは、巨木の幹の低い場所に開いたゲートから、城内に入っていった。
しばらく細いトンネルをすすむと、いくつものトロッコ乗り場が放射状に設置された、広大な部屋にたどりついた。
大勢の白いリスが働いている。ものすごい数の機関だ。
カラコロ、カラコロと軽やかな音を立てて回る動力機構の歯車に、目が回りそうだ。
ここは樹の中のはずだが。
トロッコがホームに到着すると、テムたちは部屋の奥にあるどんぐり型の屋根のついたリフトにむかった。
「お帰りなさいませ、ビビ様!」
「ご無事でなによりです!」
「お客人様もようこそ、いらっしゃいました」
リスたちがテムたちのそばへよってきて、次々と温かく歓迎してくれた。
意外にも、アットホームな雰囲気だ。
森の外からやってきた人間に、ちっとも警戒の色を見せないなんて。
やはり、この城の誰からも信頼されているビビといっしょにいるだけで、顔なじみも同然なのだ。
「みんな大きなリスで面白いね、ノックス」
「ワン!」
ノックスも、リスたちに歓迎されてか、機嫌よくしっぽをふって歩いていた。
「あのリフトに乗れば、陛下がお待ちの城の最上層へ、あっという間じゃ。
おふたりの前では、くれぐれもそそうのないようにな」
テムたちは、どんぐりのリフトに乗りこんで、みるみる城の上層へ運ばれていった。
最初の乗り場の部屋は天井があったが、その上の階からは、一気に開放感のある吹きぬけに変わった。
城内なのに、まるで街のようだ。
ショッピングモールのようにお店がならぶにぎやかな通りや、
裕福なリスの暮らしていそうな豪華なバルコニーの数々。
そして、城内を警備するたくさんのリスの兵士たち。
ここにはテムが、いや、人間が知るよしもない日常が存在している。
けっして眠ることのない日常が。
リフトが最上層に到着すると、そこは赤い絨毯が敷かれた、
豪華なエントランスホールのような場所だった。
皮のよろいに木の槍を持ったリスの兵士たちが左右に整列し、
その先では、ほかより一回り大きなリス王夫妻が出迎えていた。
相手はリスだというのに、緊張感がテムの体をにわかにはい上がってきた。
テムは、すぐにマントのフードを頭から外した。
「おお、ビビよ! 早い帰還であったな」
赤いマントに金の王冠をかぶった白リスの王様が、少し驚きをにじませた顔で言った。
「あなたの帰りを、心待ちにしていました」
お母さんのような温かみのある声で言ったのは、明るい黄色のドレスに身をつつんだ王妃様だ。
テムたちは、リス王夫妻のもとへ歩いていった。
するとビビがテムたちの前に出て、絨毯の上で勇ましくひざをつき、主君たちにこう言った。
「陛下! ならびに王妃様!
このビビ、ただいま帰還つかまつりました!
報告をしたいことが多々ありますが、その前にまず、ご紹介したい者がおります」
そう言うとビビは、立ち上がってテムを横へ来るようにうながした。
「この子は、森の外より、夢をわたっておとずれし者。
わが道中において、少なからず力を貸してくれました。
名をテムと言います!」
「こ、こんばんは……」
テムは、みょうな緊張感で体がカチコチになっていた。
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