上 下
11 / 36
3.温もりにくるまれて

リスの騎士(3)

しおりを挟む
ノックスが、テムのそばで退屈そうに大あくびをしたころ。

すっかり休憩をとったテムたちは、そろそろ出発することにした。

薪がぜんぶ燃えつきて、こげ臭い残り香があたりに充満していた。

テムが腰を上げると、ノックスは、待っていましたとばかりにはね起きて、何度も尻尾をふった。


「さてと、テム。

わしらのこれからの行き先なんじゃが、ひとつよいかの?」


「え、なあに?」


ビビはこれから、ねむり姫のもとへ案内してくれるはずだが、なにか他にあるのだろうか。


「ほれ、最初に話したはずじゃろ?  

わしは、リスの王の命令で、あの宝物庫に、ある……モノを取りに来たのじゃ。

今、城で起きている問題を解決するために必要な、その……モノでな」


なぜか口にしにくそうなビビの言い方が、テムには少し気がかりだった。


「なんの因果か知らぬが、それは今、おぬしが手に入れておる」


ビビの言葉に、テムはまさかと思って、服のポケットにしまっていた、あの緑色の宝石を取りだした。


「そう、まさにその宝石じゃ」


手にした宝石は、いまだにこうこうとやわらかな緑の光を投げかけ、テムの顔をそめている。

あいかわらず、なにかをうったえかけている気はするが、光の言葉なんて分かりっこない。


「わしはその宝石を、城にとどけなくてはならん。

おぬしを助けると言っておいてなんじゃが、その……まずは、わしの用事をすませておきたいんじゃ。

すまぬが、おぬしはそれを持って、わしといっしょにリスの城へ来てくれぬか?」


「それは、かまわないけど……」


ビビに助けてもらうばかりでは申しわけないので、彼のたのみをひとつ聞くぐらい、どうということはない。


「ビビが持っているんじゃだめなの?

城で起きている問題ってなんなの?

そもそも、この宝石はなに……ってコラ、ノックスったら!」


ノックスは宝石が気になるのか、よく見せてとせがむように、テムの手首を引きよせようとした。

それとも、テムたちをせかそうとしているのだろうか。

それを見たビビが、おもしろそうにケラケラと愛らしい笑い声を立てた。


「元気のいい犬じゃのう!

まあ、細かい事情は気にせんでもよい」


ビビは、今はじめてノックスの頭にふれて、よしよしと優しくなでながら言った。


「ノックスといったな。

突然じゃが、今からおぬしに活躍してもらうとしよう」


ノックスは、なんのことを言われているのか分からずに、ポカンとしながら、テムの顔をあおいだ。

もちろん、テムにも同じような疑問があった。


「活躍って、どういうこと?

リスの城まで、においをたどっていこうってこと?

もしかして、道に迷ったの?」


「そ、そんなわけないわい!」


ビビは、足で踏み鳴らしながら、子どものように憤慨した。

見た目にもかなっていたし、なんだか笑いたくなるような一面だった。


「それに、においをたどれとか、安っぽいことは言わん。

ノックスには、わしらの乗り物になってもらいたいのじゃ」


予想だにしない言葉に、ノックスが、アウッ?  と驚きの声を立てた。


「ちょっとまって!

変なこと言わないでよ。ノックスは、こんなに小さいんだから。

夢じゃあるまいし、魔法みたいに大きくなんかなれないよ」


ビビは、チッチッチッと指をふって、甘い甘いと言いたげだった。


「夢じゃあるまいし、とな?

忘れたのかのう。ここはすでに夢の中なのじゃ。

森の来訪者が、頭に思い描いたことが、そのまま現実みたいに起こりうる。

先ほどの大トカゲを思い出すがよい。

あれは、おぬしの想像の産物だったではないか」


ビビの言うとおり、あれはそうだっただろう。

肌の質感や色合い、舌の動きや息づかいにいたるまで、すべて本物だった。


「でも、だからって、ホントにノックスが大きくなるわけ……」


「ふふん。ためしに、目をとじて、強くイメージしてみるがよい。

ノックスが、熊のように巨大な体つきになったさまを。

わしらは、その背中に乗って、この森をかけるのじゃ!」


テムは、疑心暗鬼な気持ちで目をつむると、言われたとおりにしてみた。

じっと思いをつめて、想像力をはたらかせる。

ノックスが、ライオンのように大きくなった姿。

テムは、鮮明に頭で形づくることができた。


ひゅうっと、温かい風が体を通りぬけた。


「テムよ、目を開いてみるのじゃ!」


テムの瞳に、驚くべき光景が飛びこんできた。

イメージどおり、ノックスが本当にライオンのごとく大きくなっていたのだ。

体つきはそのままに、サイズだけが拡大コピーされたような具合だ。

テムとビビなら、余裕で背中に乗せられるくらいに。


「見事に巨大化しておるわ。

テムよ、おぬしの想像力は立派なもんじゃのう!」


「でも、こんなことありえない……」


ノックスは、自分の身に起きた奇跡が面白いと思ったのか、やや興奮して、

ウォー―ォゥ!!

と、天にむかって遠吠えを上げた。


「さあ、ノックスたのんだぞ。

リスの城へむけて、出発じゃあ!」


ビビが、意気揚々とした調子で叫んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

とあるぬいぐるみのいきかた

みのる
児童書・童話
どっかで聞いたような(?)ぬいぐるみのあゆみです。

おかたづけこびとのミサちゃん

みのる
児童書・童話
とあるお片付けの大好きなこびとさんのお話です。

なんでおれとあそんでくれないの?

みのる
児童書・童話
斗真くんにはお兄ちゃんと、お兄ちゃんと同い年のいとこが2人おりました。 ひとりだけ歳の違う斗真くんは、お兄ちゃん達から何故か何をするにも『おじゃまむし扱い』。

お姫様の願い事

月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

異世界桃太郎 ~桃から生まれし英雄 伝説への道~

bekichi
児童書・童話
ある村の川辺に不思議な光を放つ巨大な桃が流れ着き、名門貴族の令嬢・桃花姫の屋敷近くで発見される。桃花姫は好奇心から桃を割らせ、中から元気な少年・桃太郎が現れる。桃太郎は桃花姫に育てられ、村人に愛されるが、自身の出自に疑問を持つ。ある日、伝説の英雄についての古文献を見つけ、自身の出自を探るために旅に出ることを決意する。桃花姫の監視を逃れ、船頭の翔平の助けを借りて夜に村を抜け出し、未知の世界へ旅立つ。旅中、困難に直面しながらも、特別な運命を持つことを理解し、自己発見と出自を知る旅を続ける。

かつて聖女は悪女と呼ばれていた

楪巴 (ゆずりは)
児童書・童話
「別に計算していたわけではないのよ」 この聖女、悪女よりもタチが悪い!? 悪魔の力で聖女に成り代わった悪女は、思い知ることになる。聖女がいかに優秀であったのかを――!! 聖女が華麗にざまぁします♪ ※ エブリスタさんの妄コン『変身』にて、大賞をいただきました……!!✨ ※ 悪女視点と聖女視点があります。 ※ 表紙絵は親友の朝美智晴さまに描いていただきました♪

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

処理中です...