DRAGGY!ードラギィ!ー【フレデリック編連載中!】

Sirocos(シロコス)

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④〈フロン編〉

4『でたらめ話は、人を笑わせたい時にするべし』①

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 夜の八時。その日の店のお手伝いを終えたレンは、
なんでも調査隊の仲間たちに連絡して、スマホを使ったグループ通話をしました。
ドラギィたちやしろさんも参加していて、
しろさんは、研究所の中から自分のタブレット端末を使って通話していました。

 議題はもちろん、シロウ先生が言っていた〈赤黄青の不思議なコウモリ〉。
レンの口からそのことが報告されたとたん、
参加した全員がレンの言葉に強い疑問を抱きました。

『その、赤黄青っていうのがさ、いかにもって感じするよなあ』
 ジュンがくちびるを真一文字にしていぶかります。

『レン君、そのヒト本当にそう言ってたの?』ユカがたずねます。

「間違いないよ。でも変なんだ。
オレたちこれまで、ドラギィたちが人に見つからないように気をつけてきたのに」

「ぼくたち、レンくんの断りなしに真っ昼間の外に出かけたりしてませんよう。
だから、自分たちから人前に姿を見せるようなことなんて」

 フラップがレンの右肩から身を乗り出して言いました。

「大丈夫。そこはオレ、信じてるから」

 と、レンは言いました。ドラギィたちはレンとの取り決めで、
レンの同行がないまま明るいうちに外へぬけ出すことは、
絶対にしないと誓っていたのです。

「アタシたちドラギィは、一度した約束は必ず守り通すモン」
 フリーナがレンのひざの上から画面にむかって、きっぱりと言います。

『ならばその調子で、
知能を伸ばす学習を一日もさぼらぬよう、約束してほしいものじゃ』

 しろさんが、大きな緑色の目の間にしわをよせながら腕組みしていました。

『しかし、そのウワサの正体がおぬしらドラギィだとして、
ここにいる諸君以外におぬしらのウワサを流す者が、はたしておるのか?

「い、いるじゃないか、ひとりだけ」

 レンの反対側の肩の上から、フレディがわなわなしながら言いました。

「ほら、彼がいるだろ。ぼくの最初の人間の友達……ヨシくんだよ。
聞けば彼は以前、ぼくたちドラギィの名を、
町中で言いふらしていたそうじゃないか」

『たしかに、一番考えられるのは彼だろうね』

 そう答えたのは、タクでした。
IT系にくわしい親を父に持っていて、ちょっとだけ裕福な彼は、
自分用に持っていたノートパソコンを素早い手打ちで操作しながら、
何かを調べつつ会議に参加していました。

『でもさ、うさみ町関連のウワサ話を今調べてみたけど、
赤黄青のコウモリのことは、今のトコだれもつぶやいたりしてないよ?
有名なウワサになってるなら、調査依頼が来ているはずだけど』

『まだ一件も掲示板に書きこまれてねーし』
 と、ジュンがつけ加えました。

『――おぬしら人間にとって、関心のある都市伝説や怪談話ならば、
たちどころにネットや口頭を通じて広がってゆくものじゃ。
しかし今回の……何と言ったかの? 〈赤黄青の不思議なコウモリ〉は、
ネットでの拡散もなければ、ウワサの出どころも分からんときた』

 しろさんも、しろさんなりに調べをつけてくれていたようです。

『つまり、取るに足らん出まかせ。イイネも押されぬ子どもだまし。
小野寺少年も、そういう評価になることは分かっておるじゃろうて。
わざわざドラギィのことは口に出すようなことはもう、してはおらぬじゃろうな』

「小野寺がウワサをばらまいたって可能性は、考えられないってこと?」

『そう解釈するのが自然じゃ。もはや、考えられるとすれば一つだけ……
その古杉ナニガシなる男が、でたらめを言っているということくらいじゃな』

「シロウ先生がでたらめを!? でも、何のために?」

『そこが謎なのじゃ!』しろさんが人さし指を向けてきました。
『ドラギィのことを知りえないはずの人間が、
なぜ赤黄青のコウモリなどと、ドンピシャな表現を使ったのか。
こればっかりは、わしにも見当がつかん』

『たまたま、色だけがかぶっている別の何かを指した、
なんてことはないのかな?』ユカが目線を上にやりながら言います。

「オレも、そうじゃないかと思ってるけど……」

 自信なくそう答えたレンは、
フラップが真剣な表情で考えこんでいるのに、ふと気がつきました。

「どうしたの? 何か心当たりでもあるの?」

「……えっ?」フラップはわれに返ったように顔を上げました。
「いやいや。たいしたことじゃないですよう。気にしないでください」


 シロウ先生にたいする不思議な気持ちのことを、
フラップは語りませんでした。なぜなら、とても不確かな問題だったから。
……ただ、あわてたように受け答えする自分の様子を、
フリーナとフレディがじっと見つめていたことにも気づかずに。


『ともかく、レン』タクが注意をうながすように言いました。
『みんなで協力して、引き続きドラギィの秘密を守ろう。
まだ何も分からない状態なんだし、念には念を入れて、
そのシロウ先生って人には用心したほうがいいよ』

 レンは口をとがらせます。「どうして用心なんか」

『おかしなこと言い出すかもだけどよ』ジュンが言いました。
『その人、もしかしたら親しい顔してお前に近づいて、
お前にゆさぶりをかけてるのかもしれねーってことだよ』

「ゆさぶり? 何のために?」

『分かんねーかなあ!』ジュンは、あきれて拳をひたいに当てます。
『万が一その人が、そいつらを捕まえようと狙ってたらどうする?
フラップ、フリーナ、フレディをさぁ!』

 *

 会議が終わった後、レンは机の上に座るドラギィたちとむかい合いました。

「ジュンの言葉を聞いたら、なんだか怖くなっちゃったよ」

「シロウ先生のことがかい?」フレディがたずねてきます。

「うーん……なんていうのかな。
オレ、シロウ先生のことはとても優しくて正しい人だって、心から思ってる。
でも、もしもある日、いきなり本性をあらわして、
この部屋に上がりこんでキミたちをさらっていったら、どうしようって。
そんな場面を想像したら、なんか……怖いなって」

「大丈夫だヨ!」フリーナが勇んで言いました。
「アタシたち、ネズミみたいに小さくなれるから、簡単に見つからないモン。
それに、もし見つかっても、アタシのスパークでやっつけちゃうもんネ」

「シロウ先生がぼくらのことを知っていたら、の話だがね」

 フレディがきっちりとツッコミの言葉を入れると、フリーナは、
あっ! と目を見開いてオトボケぶりをかましました。

 一方のフラップは、ずっとひとり黙っていました。
やっぱり、あのことをちゃんと言った方がよいのかどうか……。
いやいや、会ったことがあるかどうかも分からない人間を懐かしむだなんて、
そもそもおかしいじゃありませんか。言えば、隣にいるフレディが、
最近頭のほうがふやけてるんじゃないかと、おちょくってくることでしょう。

 その当のフレディ本人は、静かなフラップの様子が気になったのか、
声をかけてきました。

「なあ、フラップ」

「え? あ、はい。フラップはぼくですが」

「……キミ、もしかしてだけど」

「もしかしてだけど……なに?」

「……いや、やっぱりなんでもないよ。たいしたことじゃないんだ」

 フラップは首をかしげました。レンも首をかしげていました。
ついでに、フリーナも。
 
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