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④〈フロン編〉
1『ウソか本物か最後まで分からないのが、夢なのです』②
しおりを挟む「危なぁーーーい!!」
二匹の目の前に、大きな赤いものが立ちふさがりました。
フラップです! 背中にレンを乗せて、やっと駆けつけてきたのです。
ゴオオォォ―――ッ!!
ドラギィたちと赤い球体の間に、燃え上がる炎の壁がそびえました。
簡単な理由です。赤い球体が砲口から噴き出した機械の炎と、
フラップの口から吹き出した竜の炎が、ぶつかり合ったのです。
真っ向から衝突した二つの炎は、打ちつけあう拳のように、
押されたり、押し返したりを繰り返します。
「がんばってーっ、フラップ!」
「修行の成果を見せてやれ!」
十五秒が過ぎました。
あたりに熱気がうず巻き、赤い熱の光が肌をこがすようです。
「フラップぅー、負けるなぁーっ!」
レンの声援が耳元から聞こえた瞬間、フラップの目つきが変わりました。
フラップの炎が、勢いを増します。決意に満ちた竜の炎は、
相手の炎をみるみる押し返していき、赤い球体の顔にせまりました。
ドオオォォ―――ン!
ついに、フラップの炎が赤い球体をのみこみました!
「「「やった!!」」」」
炎の戦いは、じつに三十秒を越えたものでした。
赤い球体が、黒い煙をまといながら落下していきます。
力くらべに敗れ、くらくらと目を回すような表情をして。
「あいつを追いかけよう!」
レンの指示で、三匹は煙のあとを追ってもとの山へと降下していきました。
*
山のてっぺんの草地に、あの球体が落ちていました。
落下の衝撃で地面がえぐれて、土くれがあたり一面に散らばっています。
球体の前に降り立ったドラギィたちは、再び仔犬サイズに小さくなって、
もはや抵抗することもやめてしまったそれを、慎重に見つめていました。
球体は、表面からなおも黒い煙を上げながら、赤と白に点滅していました。
もうそこにはなんの顔模様も浮かんでいません。完全に故障したのでしょうか?
「……それで、結局なんなんです、コレ?」と、フラップがたずねました。
「わかんない」レンは頼りなく答えました。
「掲示板の依頼文に書かれてた説明には、
『UFOみたいに空を飛ぶ、白くて丸いもの』としかなかったんだよ」
掲示板というのは、
なんでも調査隊がウェブに公開しているホームページにある、
不思議な事件の調査依頼を書きこんでもらうための掲示板のことです。
まだ学校内でしか知られていないホームページで、知名度もまずまずですが。
「あ~あ、こんなに派手にやっちゃって……。
どう説明すればいいのかなー、依頼してきた子に」
レンは、途方に暮れて頭をかきました。
その時です。球体が点滅をやめて白一色になり、それからまるで、
機能を取り戻したように「ピコピコピコン!」と音を鳴らしました。
そして、レンたちの目の前で、ぽこんっとボールのように弾むと、
そのまま空中でピタリと静止して、再び水平に回りはじめたのです。
もう煙すら上げていません。
それどころか、いったいどうなっているのでしょう?
まだ夕方にもなっていないのに、球体の後ろから神々しい黄金の光が、
まるで偉大な天使を称える後光のように差しかかってきたではありませんか。
『――かわいいスクールの生徒たちよ。よくぞ修行を成しとげました』
白い球体から声がしました。
妙なことに、機械音声ではなく、しっとりと美しい女の人の声が。
『わたしは、天高きスカイランドより遣われしもの。
ここ人間界に落とされた生徒たちに、
今一度、卒業試験の場をあたえるためにやってきました』
「「「ははーっ!」」」
レンの顔の前で、
フラップ、フリーナ、フレディが、なぜか深々とおじぎをしました。
『スクール校長の名のもと、
あなたたちが下界での修行を満了したことを認めます。
さあ、わたしの光のもとへいらっしゃい。スカイランドまで送りましょう』
「「「ありがとうございます!」」」
何がどうなっているのやら。話が支離滅裂です!
「ちょ、ちょっと待った! これってどういうこと?」
頭が混乱してきたレンは、急いでドラギィたちにたずねました。
「ああ、その……だまっててすまなかったな、レンくん」
「じつはアタシたち、今日が最後の日だったの」
「さいご!? 最後の日って……」
「つまり、サヨナラってことです」フラップが罰の悪そうに微笑んで言いました。
「サヨナラ? ね、ねえ、オレもいっしょにスカイランドへ行けるんだよね?
ほら、オレ、みんなの保護者だったし、それに修行も手伝って――」
『それは、なりません』球体の声がきっぱりと答えました。
『人間は、スカイランドに入れてはならない決まりなのです』
「ええーっ、ひどい!
フラップ……みんな、そんなこと一度も言わなかったじゃないか!」
「本当にごめんなさい、レンくん。ぼくたち、もう行かなきゃ」
「さよなら、レン。ユカちゃんによろしくネ……」
「短い間だったが、ぼくも楽しく過ごさせてもらったよ。ヨシくんによろしく……」
ドラギィたちが手を振りながら、妙に遠ざかっていくように見えました。
そして三匹は、球体の底から降りてきた虹色の光をあびながら、
球体もろとも、レンが立ちつくしている地上から離れていきます。
「「「さよなら、レンくん。さようなら~……」」」
「待って、そんな! こんな別れ方はないだろ! 待ってよ、待ってーーーっ!」
レンは、思わず駆け出しました。
*
「待って!!」
弾丸のように飛び起きると、そこは学校の教室でした。
レンの絶叫に驚いたクラスのみんなが、一斉にこちらを見ています。
(……ゆめ)
レンは、自分の机のイスに座っていました。
今の反動で、机の向きが少しずれています。
見下ろせば、レンを眠りにいざなった原因であるタブレット端末が、
四角い図形の面積を求める公式を示しています。
「跳ね起きたあ……!」
「すごいなお前、今の。マンガみたいな起き方だったな」
クラスメートのジュンとタクが、離れた席から声をかけました。
「いねむり坂本君」クラス担当で女性教師の畑山先生が、
意地の悪そうな笑みを浮かべてレンを見ていました。
「月島君の代わりにこの問題を答えたいの?
じゃあ、この図形の面積を求める式は、なにかなあ~?」
黒板には、長方形の図形と、数のぬけた計算式が。
「あー、それは」レンは立ち上がりながら、そっと答えました。
「すみません、変な丸い図形に友達を連れていかれる夢を見たんで、
答えたくないです」
「へえ~、それってもう円の面積の求め方を学習してるってことかあ。
でも坂本君。夢の中でもそれが分からなかったから、跳び起きたんじゃないかな?」
クラス中からどっと笑い声が起こりました。
廊下側の前から四番目の席では、レンのライバルである小野寺ヨシが、
これはいいネタになるぞと言わんばかりにほくそ笑んでいます。
優等生である彼は、とっくに予習して分かっている授業の内容より、
今のレンの発言のほうがよっぽど興に入ったようです。
レンの二つ左にいるユカも、こちらを見てくすくすと笑っていました。
ユカは、今やレンにとってなくてはならないほどの友達でした。
(――オレ、いろいろとかっこ悪い男になるかも)
レンは、今しがた見ていた夢が、
この先起こるイヤな出来事の啓示みたいに思えてなりませんでした。
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