DRAGGY!-ドラギィ!- 【一時完結】

Sirocos(シロコス)

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③〈フレドリクサス編〉

13『もしもあだ名がたくさんあったら、人気者の証かな』①

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謎の球体に岸まで連行されたフラップとレンは、
草の生えた荒れ地の上に、ゆっくりと降ろされました。
ふたりを包んでいたピラミッド状の光も、しゅっと消え去ります。

「んん……フラップ、平気?」

「ま、まあ、なんとか」

なんだか肌がピリピリします。
レンがフラップの背から降りてあげると、フラップもよろりと立ち上がりました。
レンの手放していたスマホが、フラップの背から落ちて草の上に落ちます。

「おっとっと、オレのスマホ。拾わなくちゃ――よっ……と。
カメラアプリ、ずっと起動したまんまだ」

幸い、ふたりとも外傷は見当たりません。ただ、困惑だらけでした。
異界穴を開いていた先ほどのトビラ装置といい、ミサイルザメといい、
次々とわけの分からないメカに遭遇しましたが、
まさか、すべてひとりの人間か何かが操っているのでしょうか?

「こんなことするの、いったいだれなんだよ……」

「ホントですよ、もう。どうして、ぼくらがこんな目に――」

ふたりは、あたりをぐるりと見回してみましたが、
先ほど自分たちを連行していた黒猫球体の姿は、もうどこにもありません。
フリーナとフレディの姿もなく、人っ子ひとり見えないのです。

「フラップ、よく分からないけど、ここに長居しない方がいいんじゃない?」

「そうですね。他のみんなも探さないといけませんし。
さあ早く、もう一度ぼくの背中に」

レンが背中のサドルに飛び乗ると、フラップは力強く翼を動かそうとします――

が、翼がうまく広げられません。
まるで、翼そのものが羽ばたくのをためらっているように、抵抗しているよう。
おまけに翼がビリビリとしびれます。マヒしているのかもしれません。

「レン、くぅ~~ん……!   ダメです、翼がぁ。なんなんです、これ?」

「――まさか、さっきの黒いヤツが出した電撃のせいかも!
あれは、オレたちを捕まえるための、ただの電撃銃じゃなかったりして」

「これじゃあ、『浮遊の術』で低空を移動できても、
また何かヘンテコなものに襲われたら、素早く逃げられませんよう」

「なら、オレが元の大きさになって、キミを抱いて運ぶよ。
そうすればきっと、問題ないんじゃない?」

「あ、そっか!   チヂミバンド!   レンくんたち、新しくつけてましたね」

「今まで襲ってきた変なメカは、よく分かんないけど、
どっちとも今のオレたちとそんなに変わらないサイズだったしね」

「じゃあ、それでさっそく――レンくん、待って!   何かこっちくる」

「はぁ?   今度はなに!?」

――大きな車が、けたたましいエンジン音を立てて走ってくるのが聞こえます。
湖と逆方向に広がる、斜面の下からです。
そのさらにむこうに広がる森の青々とした木々から、
車に驚いた無数の鳥たちが飛び去って行くのが、斜面の上からも分かります。

「もうすぐそこまで来てます……ああ、来た!!」


ドォォォォォ!!   


トラックのような、オフロード車のような、細長でどっしりとした大型車が、
前脚を上げていななく黒馬のように、土をけたてながら飛び出してきました。
ゴツゴツしたタイヤを外側にむき出しにした、その漆黒の大型車は、
ドシーン!!   とやかましい音を立てて着地して、そのまま停車。
その拍子に起きた地鳴りで、ネズミサイズだったふたりの足の裏が、
ぴょこんと地面を弾みます。

(……エ?   あれ、なんで)

なぜだか不明ですが、その大型車のフロントに――黒猫の顔。
瞳孔を細めた金色の瞳に、いたずらっぽくベロンと出したピンクの舌。
振動でゆれる半透明の長いヒゲや、全身の毛の質感まで再現したこだわりよう。

目下もっかネズミサイズのフラップたちにとって、
この黒猫カーは、漆黒の宇宙戦艦も同然の壮大さ!

唐突すぎる出来事に、ふたりが目をパチクリさせていると、
黒猫カーの頭の上のハッチが開いて、中から一匹の猫がせり上がってきました。


その猫は、車に負けずおとらずの黒猫で――後ろ脚だけで立っています。
おまけに、マフィアのような濃灰色のコートを羽織っていたのです。
やや大柄ですし、いわゆる猫界のギャング、にも見えますが、
一つチャームポイントを上げるとすれば、
オレンジ色のネクタイを巻いていることでしょうか。

「あん?   まだ一匹しかおらんやないかい」

その猫は、黒猫カーの頭から、ぴょーん!   と鮮やかな跳躍を見せつけると、
四本の足でピタリと着地。そこからまた二本足で立ちあがり、
二、三歩ほど近づいてきてから、二ッと不敵な笑みを浮かべました。


「なんやねん、リアクション薄いやないか。猫が口利いたんやで?
ここはもっと、『ワァー!   猫がしゃべったわ~!』ってビビるとこやろ?」

「「………」」

「ふっ、しかしまあ……こんなところでえるとは、
フシギなこともあるもんやのう。坂本少年?」

えっ、坂本?   自分の苗字を呼ばれた瞬間、
レンは、目の前の黒猫の目元についていたひっかき傷に、気がつきました。

「ああ~っ!   キミもしかして、くろさま!?」

「え?   くろさまって、
ぼくがこの間、レンくんちの外階段でお会いした、あの怖そうな猫さん!?」

フラップも、黒猫から香ってくる嗅ぎ覚えのあるニオイに、ピンときました。

「や~っと驚いてくれたか、ジブンら」

黒猫は、苦笑いを浮かべながら、やれやれと両手を広げます。
最近よく会っていた野良猫が、黒服をまとっていきなり現れる――
どう考えても奇天烈でした。

「ワイはなあ、この人間界を西へ東へさすらいつつ」
黒猫は、その場を行ったり来たりしながら、語りました。
「各地にいくつもの根城をこさえてきた、ベテランのなんや。
根城っちゅうんは、文字通りの根城や。どこもごっつええ場所やねんで!
ちなみに、こないな黒服姿なんは、ちょっとした趣味やねん。気にせんといてや」

妙になれなれしく話しかけてくる黒猫の口調に、
レンは調子を狂わされそうでした。

「……で、くろさま?」

「ん、なんやねん坂本」

「後ろのでっかい車……キミの?」

「チッチッチッ」黒猫は舌打ちしながら指を振ります。
「ワイのやあらへん。のや」

ワイら?   一匹で来たわけではないのでしょうか?

「それと、ゆうとくけどな少年、ワイのホンマの名ァは、くろさまやあらへん。
ワイの名は……ふん、いっぱいあんねん。
けどまあ、ウン、やっぱこれやな」

黒猫は、ぴたりと止まってこちらに面とむかい合い、
どっしりと構えながら言いました。

「ワイはその名も、ルドルフ・シュレデンガー様や!
猫界に!   古今東西!   その名を轟かす!   珍生物コレクターやねん!」

「ちんせいぶつ、コレクタぁー?」

レンには、なんだかくだらなそうな肩書きに聞こえました。

「それで、あ、あのう」フラップがおびえながら聞きました。
「ル、ルド、シュ、シュレ……デンガナさん?」

「デンガナちゃうわ、アホゥ!」ルドルフがプンスカ怒りました。

「ぼくたちに何のご用です?   まさか、ぼくたちを捕まえて、ガブリ!   とか?」

「あ、せやせや。お前らを頭からしっぽの先までザクザク~!   と角切りにして、
タコ焼きみたいに焼いて食うたら、どんだけうまいやろな~、てちゃうわ!!
そないなかわいそーなマネ、できるかっちゅーねん。
ワイがわざわざ、ここまで来たんも、目的はたった一つや……」

静かにそう言うと、ルドルフはいきなりフラップを指で指し示し、


「空島スカイランドから落とされし、摩訶不思議な生物ドラギィ!
オマエら全部、ワイのコレクションに加えるためやがな!」


「えええ~~~~っ!?」顔を真っ青にするフラップ。
「……て、ってなんなんです?」

「だはっ!!」
ルドルフは、その場で足を滑らすようなポーズを取りました。
よほど不意をつかれたのか、苦い茶葉を噛んだような顔で向き直ると、

「……ワイをズッコケさせるとは、なかなかの手練れやな。
今のは、ただのボケとちゃうんやろ?   どんだけ天然モノやねん」

「テンネンモノ、です?」フラップは、ポカンとして首をかしげました。

「ねえ、くろさま?   今キミ、って言ったよね?
もしかして、さっきオレたちを襲った魚雷ザメは、キミの差し金?」

「もち、決まっとるやろ。あの黒猫型の電撃捕獲ドローンもな。
まあ、遠隔操作したんは、ワイのやけどな。今、車内に待機させとんねん。
……お~っと?   ウワサすれば、もう一匹」

ルドルフが遠くを見るようなポーズをするので、フラップたちも振り返ると、
湖の真ん中から、あの黒猫顔の飛行物体がやってくるところでした。
そのピラミッドに捕らえているのは――フレディとタクでした!
彼らの水泡の術も、すでに割れてしまっています。

(ああ!   あのふたりも捕まったのか!)

フレディたちを、丁重にゆっくりと地面に降ろした黒猫球体は、
ルドルフの頭上をくるりと旋回してから、
彼の後ろにある車の上のハッチの中へ、撤収していきました。

フレディとタクも、なんとか無事なようです。
ただふたりとも、この状況にたいして用意ができていなかったせいで、
黒猫のルドルフの姿や、その後ろに停まっている巨大な車に、目を疑っていました。

「お、おいフラップ、これは……どうなっているんだ?
この黒いヤツ……いったい何者なんだ?」

「あ、この黒い猫さんは、デンガナさんだよ」

うっかりでもしていたのか、フラップは間違いだと指摘されたばかりの名前を、
フレディに教えてしまうのでした。

「デンガナだって?   こいつの名前がか?」

「あれ?   ブラックスターじゃないか」と、タクがルドルフのことを呼びました。
「やあ、しばらく見ないうちに、二足になって、おしゃれまでしちゃって」

「はぁ?   ぶらっ……?   デンガナじゃないのか?」とフレディ。

「あ、違う違う、くろさまだよ」
と、レンが悪乗りするように伝えます。

「く、くろさま?    ぶらすたーじゃなくて?」


「あ~~もう!   なんでもええわ!」

しびれを切らしたルドルフが、地団駄をふんで叫びます。


「そこの青いドラギィ!   ちょうどええ。
オマエに会いたいやつがおんねん。よう知っとる人間のはずや」

するとルドルフは、黒猫カーにむかって、

「おーい!   フレドリクサスが来たでぇ!   姿見せたれ!」

すると、黒猫カーの後ろの荷台についた小さなドアが、つと開いて、
中から、一人の少年が姿をあらわにしました。


(((はっ……あれは!)))


こんなところで遭遇するとは、だれも予想だにしなかったでしょう。


小野寺ヨシ。
全身黒服の彼が、何やら画面つきのコントローラーを手にして、
ゆっくりと車外に降り立ったのです。
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