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②〈フリーナ編〉
10『魔法は心にはじまり、君の手から生まれるもの』
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後日、日曜日の午前十時半。
レンは、〈はじまりの丘〉の一本杉の前で、
大股を開きながら、ジュンとタクを待ちかまえていました。
そばにはユカがいて、例のミニロケットや、その他の手荷物を見張っています。
やがて、ジュンとタクが、バットやらグローブやら、いろんな遊び道具を持参して、
えっちらおっちらと丘の歩道を登ってきました。
丘の上には、四人以外だれもいません。少なくとも人間は――。
「はぁ~、やっと着いたよ……」
小太り少年のタクは、しんどい丘の道を徒歩で登ってきて、息を切らしています。
「なんだよレン、最近あんまし遊んでくれねーと思ったら、
いきなりこんな丘の上に呼びつけやがってー」
ジュンが顔をしかめて不平をもらします。無理もありませんね。
近頃のレンは、怪しさばかり目立っていましたから。
「悪いね、二人とも! 今日は二人に、ぼくとユカちゃんで隠してた秘密を、
ついに教える時が来た、と思ってさ」
「マジで!?」ジュンとタクは、同時に叫びました。
「その前にね」ユカが口をはさみます。
「今からここで起こることを、他のだれにも言わないでほしいの。
どんなことが起こったとしてもね……約束できる?」
レンの偉ぶったような表情とは反対に、ユカは神妙な顔つきでした。
彼女の表情にこめられた気持ちをなんとなく読みとった時、
ジュンとタクは、無意識におたがいの顔を見合ったあとで、
ゆっくり、コックリと、うなずきました。
「では二人とも、これからぼくがすごいものを見せてあげよう」
「すごいものとは、また大きく出たよね、レン。
……というか、その首にかけてるやつ、なに?」
タクが指さしたのは、レンがある小さな友達から借りた、ピンクのポーチです。
小型で、スマホやネズミがすっぽり入りそうなサイズです。
「レンて、そんなの持ってたかよ?」
「あ、いや……これはとくに気にしないで。じゃあ、よく見ててよ」
レンは、後ろにそびえる一本杉のほうをむくと、
首かけポーチにむかって、ひそひそと小声でつぶやきました。
(――フラップ、今なら二人に見えてないよ)
にょきっ。
(ふぅ……この中、せまいですよう。早く出たい……)
小さなチャックの口から、フラップの頭が出てきました。
(もうちょっと我慢して。じゃあ、練習したとおりに――)
「レンー、なにをひそひそ話してるのさ?」
タクが不思議がって、後ろから呼びかけてきました。
「あ、気にしない、気にしない!(せーのでいくよ。せーの……)」
「「ひらけ! 見えない世界の扉!」」
――ふたりの声が、重なって聞こえてきましたが、問題なし。
レンが両手を大きく前に上げて、まじないを唱えると、
次の瞬間、例の輝くような〈異界穴〉が、ぱあっと出現しました!
「「なんじゃあ、こりゃーーーー!!」」
ジュンとタクの驚きようは、きっとだれでも想像がつくでしょう。
レンがはじめてこの現象を見た時と、まったく同じだったのですから。
「ささ、入って入って~」
今やレンは、悠々とした足取りで、宙に開かれた穴へ跳び入ります。
今日に至るまで、調査のために何度も出入りしていましたから。
ユカも、手荷物を両手に持って、穴へむかいました。その途中――、
「安全、みたいだから。心配しないで、ね。
あと、どっちか悪いんだけど、レン君のロケットを運んできてくれる?」
そう言って、ユカが穴の奥へ消えていく姿を見た、ジュンとタクは、
「……どうするよ?」
「いや、すごい秘密といったって、これは度を越してるよね」
「でもさ、でもさ、入ってみたくね?」
「まあ……言われてみれば、そうだよね。
世界の不思議が、今ぼくらの目の前に存在してるんだもの。安全そうだし」
「だーよなあ! 愛すべき、われらが坂本レンに続け、なーんてな!」
さすがは、非現実的な体験に飢えている子どもたちです。
ジュンは、お先に! と言って、穴の中へ跳びこんでしまいました。
ああ、ずるい――タクは、残っていたミニロケットを抱えて、
その後を追っていきました――。
*
「おおおおお~~~っ!」
「これ……これ、すっごすぎ!」
建物だらけのうさみ町とはまるで違う、
爽やかな真昼の高原を思わせるような、青く澄んだ空、緑の大森林。
遠くに望めるのは、わずかに雪をいただいた灰色の山並み。
そして、どこからかふわっと吹き寄せる、温かいそよ風。
「「ビバ、世界の不思議!!」」と、ジュンとタクは叫びました。
「さあ、ここがぼくとユカちゃんの、秘密の場所!
丘の上、かなり広くていいところでしょ?
夜になるとね、あの森の針葉樹がみんな青く光り輝くんだ。必見だよ。
今日はここで、はじめてロケットの打ち上げる会をやろうと思います!
……まあ、その前に、いろいろ持ってきたし、いっぱい遊んでから――」
「ていうか、レン! お前って――」
「魔法使いだったの!?」
ジュンとタクが、ずいずいずいっと、レンの前に歩みよってきました。
「あ、まあ……ね。ほ、ほんのいくつかしか、使えないけど。
さっきのは、この世の裏側の世界の扉を開く、一種の呪文、みたいなやつ?」
「裏側の世界! ここのことか?」ジュンがさらに興味を示します。
「そうは思えないかもしれないけど、ね」
と、ユカがひかえめな口調で言いました。
「ほらほら、タク。ぼくのロケットあそこに置いて」
タクは、ずっとロケットやら他の装置やら、両腕に抱えたままでした。
指示を受けて、手荷物置き場へ置きにいくと、
その場でうーんと背伸びをして、息を深く吸いこみます。
「ぼくらの親友が、魔法使いかあ! すごいなあ!」
「ホントすげーよ! 魔法に目覚めた時のこと、あとで聞かせてくんない?
とにかく今は、なんだろ――もう、走りたい!」
「じゃあまず、競争しようよ。百メートル走!」と、レンは提案しました。
「んじゃ早い方が、焼きそばパンをゲットな。レン、手加減すんなよ~?
タク、ゴールラインと審判たのんだ」
*
「――はい! ジュンの勝ち!」
百メートル走は、一メートル差でレンが負けてしまいました。
「イェーイ! へへーん、レンお前、最近なまってんじゃねーのぉ?」
「ゼェ、ゼェ……ホンキ出したつもりなのに」
一方、ユカはレジャーシートを広げて、そこにみんなの荷物を置いて座り、
レンたちの競争を静かにながめていました。
「なーなー、ユカちゃーん! 足早いんだろ~? レンと勝負したらー?」
ジュンが両手をメガホンにして叫ぶので、ユカも同じようにして叫び返します。
「あ、わたしはいいのー! みんなが遊んでるの見てて、楽しいからー!」
ユカにはユカで、やるべきことがあったのです。
それは、今、ユカのカバンの裏で身をひそめながら、
レンたちをながめているドラギィたちの、話し相手になってあげることでした。
「レンくん、すごくイキイキしてるネ~」
結局、今日はフリーナまでついてきていました。
フリーナは、ユカの家から持ちこまれた箱入りチョコボールを、
「あーん、パクッ」と口に放りこんでいます。
「……あなたたちのこと秘密にしてるの、やっぱり後ろめたいな」
「でしたら、いっそのこと」フラップがふと言いました。
「ぼくたちのこと、二人に言っちゃってください。
レンくんの親友たちなら、信用できそうですし。なにより――」
「なにより?」
「ぼくもみんなといっしょに、堂々と遊びたいですー!」
フラップは子どものわがままのように、右腕をふりふりして憤慨しました。
そこへ、レンたちがユカのほうへ戻ってくるのが見えました。
フラップとフリーナは、あわててユカのカバンの中に身を隠します。
「――他には、どんな魔法が使えるんだ、レン?
ワープの魔法とか? 手からビーム出す魔法とか?」
「そんなの使えないよ。どっちも、その……危ない魔法なんだから」
――どうやら今度は、
バットとグローブを取り出して、バッティング勝負をはじめるようです。
「でも使えるんだよね? レン、お願いだから見せてよ~!」
「ははは、だからムリだって~!」
できもしないことをせがまれて、レンが笑いながら困っていました。
自分を魔法使いだと名乗ったのは、失敗だったかもしれませんね。
「レン、ぼくたち夜までいられないかな、ここに。
みんなでキャンプファイヤーしようよ。ここで見る星、最高だと思うんだ」
「じゃあ、薪とか、マッチとか、用意しないとね」
「レン、お前魔法で火ィ出せないのかよ~?」
レンたちは、行ってしまいました。
遠ざかったのを見計らって、ドラギィたちがカバンから顔をのぞかせます。
「……き、きゃんぷふぁいやーって、なんですか……?」
なにやらフラップがおびえています。
両耳をぺたんと頬に当てて、ぶるぶると体を震わせ、顔も真っ青。
「焚火のことだよ。こういう大自然のなかでやるのが、楽しくて――」
そこまで言いかけて、ユカはハッとためらいました。
「そっか! フラップは火を見るの、ダメだったね!」
――フラップはその昔、
友達の家を、うっかり自分の炎で燃やしてしまった、苦い経験があります。
その時の恐怖心と、後悔のせいで、彼はうまく火を吹けないのです。
「今でもぼく……夢にみるんです。あの日のこと。
怖くて眠れなくなる日だってある……でも、そんな自分もいやで」
そう言って、頭を抱えながらもだえ苦しむフラップ。
それを見つめていたフリーナは、何か物思いにふけるようにだまりこみます。
それから、しばらくのち……
ふっと思いついたように、フラップの手を取って、
「あたしが毎晩、いっしょにいてあげられたらなぁ。こうやって――」
ぎゅっ。
黄色い腕で、フラップのことを抱きしめてあげたのです。
「こうやって、フラップを安心させてあげられるのにな!」
フリーナらしい、元気の湧いてくるような行動でした。
それを微笑ましい気持ちでながめていたユカは、ひとり思います。
このまま、ドラギィと暮らしたいという自分の感情にしたがって、
フリーナとフラップを毎日引き離したままで、いいのかしら。
二匹にとって、一番いい選択は、いったいなんなのかしら……?
丘に吹き寄せる風が、ほんの少し、冷たく感じられる瞬間でした。
レンは、〈はじまりの丘〉の一本杉の前で、
大股を開きながら、ジュンとタクを待ちかまえていました。
そばにはユカがいて、例のミニロケットや、その他の手荷物を見張っています。
やがて、ジュンとタクが、バットやらグローブやら、いろんな遊び道具を持参して、
えっちらおっちらと丘の歩道を登ってきました。
丘の上には、四人以外だれもいません。少なくとも人間は――。
「はぁ~、やっと着いたよ……」
小太り少年のタクは、しんどい丘の道を徒歩で登ってきて、息を切らしています。
「なんだよレン、最近あんまし遊んでくれねーと思ったら、
いきなりこんな丘の上に呼びつけやがってー」
ジュンが顔をしかめて不平をもらします。無理もありませんね。
近頃のレンは、怪しさばかり目立っていましたから。
「悪いね、二人とも! 今日は二人に、ぼくとユカちゃんで隠してた秘密を、
ついに教える時が来た、と思ってさ」
「マジで!?」ジュンとタクは、同時に叫びました。
「その前にね」ユカが口をはさみます。
「今からここで起こることを、他のだれにも言わないでほしいの。
どんなことが起こったとしてもね……約束できる?」
レンの偉ぶったような表情とは反対に、ユカは神妙な顔つきでした。
彼女の表情にこめられた気持ちをなんとなく読みとった時、
ジュンとタクは、無意識におたがいの顔を見合ったあとで、
ゆっくり、コックリと、うなずきました。
「では二人とも、これからぼくがすごいものを見せてあげよう」
「すごいものとは、また大きく出たよね、レン。
……というか、その首にかけてるやつ、なに?」
タクが指さしたのは、レンがある小さな友達から借りた、ピンクのポーチです。
小型で、スマホやネズミがすっぽり入りそうなサイズです。
「レンて、そんなの持ってたかよ?」
「あ、いや……これはとくに気にしないで。じゃあ、よく見ててよ」
レンは、後ろにそびえる一本杉のほうをむくと、
首かけポーチにむかって、ひそひそと小声でつぶやきました。
(――フラップ、今なら二人に見えてないよ)
にょきっ。
(ふぅ……この中、せまいですよう。早く出たい……)
小さなチャックの口から、フラップの頭が出てきました。
(もうちょっと我慢して。じゃあ、練習したとおりに――)
「レンー、なにをひそひそ話してるのさ?」
タクが不思議がって、後ろから呼びかけてきました。
「あ、気にしない、気にしない!(せーのでいくよ。せーの……)」
「「ひらけ! 見えない世界の扉!」」
――ふたりの声が、重なって聞こえてきましたが、問題なし。
レンが両手を大きく前に上げて、まじないを唱えると、
次の瞬間、例の輝くような〈異界穴〉が、ぱあっと出現しました!
「「なんじゃあ、こりゃーーーー!!」」
ジュンとタクの驚きようは、きっとだれでも想像がつくでしょう。
レンがはじめてこの現象を見た時と、まったく同じだったのですから。
「ささ、入って入って~」
今やレンは、悠々とした足取りで、宙に開かれた穴へ跳び入ります。
今日に至るまで、調査のために何度も出入りしていましたから。
ユカも、手荷物を両手に持って、穴へむかいました。その途中――、
「安全、みたいだから。心配しないで、ね。
あと、どっちか悪いんだけど、レン君のロケットを運んできてくれる?」
そう言って、ユカが穴の奥へ消えていく姿を見た、ジュンとタクは、
「……どうするよ?」
「いや、すごい秘密といったって、これは度を越してるよね」
「でもさ、でもさ、入ってみたくね?」
「まあ……言われてみれば、そうだよね。
世界の不思議が、今ぼくらの目の前に存在してるんだもの。安全そうだし」
「だーよなあ! 愛すべき、われらが坂本レンに続け、なーんてな!」
さすがは、非現実的な体験に飢えている子どもたちです。
ジュンは、お先に! と言って、穴の中へ跳びこんでしまいました。
ああ、ずるい――タクは、残っていたミニロケットを抱えて、
その後を追っていきました――。
*
「おおおおお~~~っ!」
「これ……これ、すっごすぎ!」
建物だらけのうさみ町とはまるで違う、
爽やかな真昼の高原を思わせるような、青く澄んだ空、緑の大森林。
遠くに望めるのは、わずかに雪をいただいた灰色の山並み。
そして、どこからかふわっと吹き寄せる、温かいそよ風。
「「ビバ、世界の不思議!!」」と、ジュンとタクは叫びました。
「さあ、ここがぼくとユカちゃんの、秘密の場所!
丘の上、かなり広くていいところでしょ?
夜になるとね、あの森の針葉樹がみんな青く光り輝くんだ。必見だよ。
今日はここで、はじめてロケットの打ち上げる会をやろうと思います!
……まあ、その前に、いろいろ持ってきたし、いっぱい遊んでから――」
「ていうか、レン! お前って――」
「魔法使いだったの!?」
ジュンとタクが、ずいずいずいっと、レンの前に歩みよってきました。
「あ、まあ……ね。ほ、ほんのいくつかしか、使えないけど。
さっきのは、この世の裏側の世界の扉を開く、一種の呪文、みたいなやつ?」
「裏側の世界! ここのことか?」ジュンがさらに興味を示します。
「そうは思えないかもしれないけど、ね」
と、ユカがひかえめな口調で言いました。
「ほらほら、タク。ぼくのロケットあそこに置いて」
タクは、ずっとロケットやら他の装置やら、両腕に抱えたままでした。
指示を受けて、手荷物置き場へ置きにいくと、
その場でうーんと背伸びをして、息を深く吸いこみます。
「ぼくらの親友が、魔法使いかあ! すごいなあ!」
「ホントすげーよ! 魔法に目覚めた時のこと、あとで聞かせてくんない?
とにかく今は、なんだろ――もう、走りたい!」
「じゃあまず、競争しようよ。百メートル走!」と、レンは提案しました。
「んじゃ早い方が、焼きそばパンをゲットな。レン、手加減すんなよ~?
タク、ゴールラインと審判たのんだ」
*
「――はい! ジュンの勝ち!」
百メートル走は、一メートル差でレンが負けてしまいました。
「イェーイ! へへーん、レンお前、最近なまってんじゃねーのぉ?」
「ゼェ、ゼェ……ホンキ出したつもりなのに」
一方、ユカはレジャーシートを広げて、そこにみんなの荷物を置いて座り、
レンたちの競争を静かにながめていました。
「なーなー、ユカちゃーん! 足早いんだろ~? レンと勝負したらー?」
ジュンが両手をメガホンにして叫ぶので、ユカも同じようにして叫び返します。
「あ、わたしはいいのー! みんなが遊んでるの見てて、楽しいからー!」
ユカにはユカで、やるべきことがあったのです。
それは、今、ユカのカバンの裏で身をひそめながら、
レンたちをながめているドラギィたちの、話し相手になってあげることでした。
「レンくん、すごくイキイキしてるネ~」
結局、今日はフリーナまでついてきていました。
フリーナは、ユカの家から持ちこまれた箱入りチョコボールを、
「あーん、パクッ」と口に放りこんでいます。
「……あなたたちのこと秘密にしてるの、やっぱり後ろめたいな」
「でしたら、いっそのこと」フラップがふと言いました。
「ぼくたちのこと、二人に言っちゃってください。
レンくんの親友たちなら、信用できそうですし。なにより――」
「なにより?」
「ぼくもみんなといっしょに、堂々と遊びたいですー!」
フラップは子どものわがままのように、右腕をふりふりして憤慨しました。
そこへ、レンたちがユカのほうへ戻ってくるのが見えました。
フラップとフリーナは、あわててユカのカバンの中に身を隠します。
「――他には、どんな魔法が使えるんだ、レン?
ワープの魔法とか? 手からビーム出す魔法とか?」
「そんなの使えないよ。どっちも、その……危ない魔法なんだから」
――どうやら今度は、
バットとグローブを取り出して、バッティング勝負をはじめるようです。
「でも使えるんだよね? レン、お願いだから見せてよ~!」
「ははは、だからムリだって~!」
できもしないことをせがまれて、レンが笑いながら困っていました。
自分を魔法使いだと名乗ったのは、失敗だったかもしれませんね。
「レン、ぼくたち夜までいられないかな、ここに。
みんなでキャンプファイヤーしようよ。ここで見る星、最高だと思うんだ」
「じゃあ、薪とか、マッチとか、用意しないとね」
「レン、お前魔法で火ィ出せないのかよ~?」
レンたちは、行ってしまいました。
遠ざかったのを見計らって、ドラギィたちがカバンから顔をのぞかせます。
「……き、きゃんぷふぁいやーって、なんですか……?」
なにやらフラップがおびえています。
両耳をぺたんと頬に当てて、ぶるぶると体を震わせ、顔も真っ青。
「焚火のことだよ。こういう大自然のなかでやるのが、楽しくて――」
そこまで言いかけて、ユカはハッとためらいました。
「そっか! フラップは火を見るの、ダメだったね!」
――フラップはその昔、
友達の家を、うっかり自分の炎で燃やしてしまった、苦い経験があります。
その時の恐怖心と、後悔のせいで、彼はうまく火を吹けないのです。
「今でもぼく……夢にみるんです。あの日のこと。
怖くて眠れなくなる日だってある……でも、そんな自分もいやで」
そう言って、頭を抱えながらもだえ苦しむフラップ。
それを見つめていたフリーナは、何か物思いにふけるようにだまりこみます。
それから、しばらくのち……
ふっと思いついたように、フラップの手を取って、
「あたしが毎晩、いっしょにいてあげられたらなぁ。こうやって――」
ぎゅっ。
黄色い腕で、フラップのことを抱きしめてあげたのです。
「こうやって、フラップを安心させてあげられるのにな!」
フリーナらしい、元気の湧いてくるような行動でした。
それを微笑ましい気持ちでながめていたユカは、ひとり思います。
このまま、ドラギィと暮らしたいという自分の感情にしたがって、
フリーナとフラップを毎日引き離したままで、いいのかしら。
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