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②〈フリーナ編〉

1『隠しておきたい夢は、だれにでも』

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小学四年生の市原ジュンと、浜田大駆タクは、
最近、知りたがりの病にかかっています。
二人の親友、坂本レンという男の子のせいで……。


――その日二人は、レンの部屋に招かれて、
彼がどこからか入手したかなり精巧そうな玩具を自慢されていました。

「――これだよ。どう?  ぼくが昨日もらった『電動式ミニロケット』!
バッテリータンクにためた電力を充填して、飛ばすんだ」

その純白のミニロケットは、大型のRCラジコンカーくらいの大きさがあり、
発射台と、ランドセルサイズのバッテリー充填用タンクもついた、
かなり本格的な作りです。ロケット本体は、内蔵された細かな部品をのぞき、
外側がゴムのような弾力性の素材でできていて、
なぜか先端には、やんちゃそうなネズミの顔が描かれています。

これはこれで興味をそそられるものの、
ジュンとタクが気になっているのは、これではありません……
いっしょに部屋に招かれた、同じクラスの本田由香ユカのことでした。

愛らしいミディアムヘアで、だれにでも優しい女の子。
そんなユカが最近、レンとよくいっしょに過ごすようになったのです。


ジュンは、少々いやらしい視線をレンにむけて言いました。

「――な~、レン~。お前ホント、最近元気ハツラツだよな。
ユカちゃんと二人きりな時間過ごすようにもなったしさ~」

すると、タクも続いて言いました。

「ぼくの見立てによると、レンには何か重大秘密ができたと見えるね」

その一言に、レンの体だけでなく、ユカの体もびくり。
その動きを、ジュンが逃しませんでした。

「おれ、親友として問うから。……レン、最近お前、ペット飼いだしただろ?」

ああ、当たらずとも遠からず。
レンは、頬を上気させながらあわてて答えました。

「ペ、ペット飼うってどこで!?  ぼくには無理だってば!」

……この動揺ぶりは、絶対に何かを隠しています。
タクはすかさず言いました。

「親友に隠すことないでしょ~。どこで飼ってるのかな?
近所の公園とか、橋の下とか、林の中とか、場所はいくらでもあるねえ。
さしずめ、ユカちゃんと内緒で飼ってるってところかな」

「そ、そんなことないよ」ユカが答えました。
「わたし、その……動物触るの苦手だもん……たぶん」

たぶん?  ユカが嘘をつくのが苦手なのは、
彼女の目が困ったようにあちこち泳いでいるのを見るかぎり、明らかでした。

「あ、あのさ、とにかく!」レンが急ぎ言いました。
「このロケット、近々打ち上げたいと思うんだ。どっか広いとこで。
うまくいけば、高さ二百メートル近く飛ばせるらしいんだ」

「おれも見たい!  レンたちの秘密を探るチャンスだもん」

「言われるまでもなく、ぼくも行くよ。とりあえず面白そうだしね」

「わたしも行きたいな、うん。打ち上げ場所、見つかるといいね」


この日は、レンたちの秘密を聞き出すことはできなさそうです。
ジュンとタクはこの後、近所のホビー専門店に用があったので、
そろそろおいとますることにしました。

レンの見送りを受けながら玄関を出た二人は、
外階段を下りながら、悪戯っぽい調子でささやき合いました。

「あの二人、ぜってーなんか隠してる。
あ~あ、レンのやつ、おれを差し置いて女の子と秘密の密会?  イヤラシ~!」

「まあ、感触としては、だいぶ手応えアリだったよね」

「へへへ、そのうち暴いてやろ……タク、つきあってちょ?」

「無論だよ。ふふふっ、レンってば、いつになくワクワクさせてくれるね」

    *

(やれやれ。いつまで隠していられるかな、あの二人から)

レンは、自信なさげに頭をかきながら、自室の中に戻りました。

「――フラップ、もう行ったよ!」

その名前が呼ばれたとたん、ベッドの下のすき間から、
小さな生き物が、ひゅうう!  と飛びだしてきました。


「ふぁあああ~!  息がつまるかと思いましたあ!」


ドラギィのフラップです!
フラップは小さな翼を羽ばたかせ、空中に浮かびながら、うーんと伸びを行います。

「もう、レンくん。あなたのベッドの下、少し掃除した方がいいですよう。
ホコリっぽくって仕方ないったら……へ、へっくしょん!!」

文句を言うなり、大きなくしゃみを一つ。
むずがゆそうに鼻をこするフラップに、
ユカはお菓子の入った器を捧げ持ちました。

「お疲れさま、フラップ。ずっと鼻をおさえながら隠れてたんだね。
ほら、カレー煎餅あるから食べて」

「はぁーい!  そうします!  ふふっ、いただきまぁす」

フラップは、手のほこりをパンパンたたいて払い、カレー煎餅をつかみます。
幸せそうにお煎餅をほおばるフラップの様子は、まるで無邪気な子どものよう。

「……ありがとね、ユカちゃん。口合わせてもらっちゃって」

レンは床のカーペットに腰を下ろしながら、申しわけなさそうに謝りました。

「フラップのためだもん。ふたりには、前に助けてもらったし」

ユカが言っているのは、以前、彼女の大切な届け物を、
レンとフラップに代わりに届けてもらった日のことです。

「たしか、あの日からちょっとだけ火を吹けるようになったんだよね。
スカイランドに帰る日が、一歩近づいたね、フラップ」

「いやあ、でも、ムグムグ、ゴックン……まだほんの一歩ですから」

ユカの言葉に、フラップはひかえめな返事をするのでした。


「そーの通りじゃ。先はまだまだ長いぞ」


おや?  レンのほうから、幼い男の子のような別の声が――。

見ると、レンの左肩の上に、一匹の白ネズミの姿がありました。

「……しろさん。ぼくの肩は、キミの特等席じゃないんだけどな。
しょっちゅうよじ登ってくるよね?」

レンは少々げんなりした調子で言いました。

「ふふん、そう固いことを言うでない、レン少年よ。
ドラギィとの暮らしを後押ししてやっとるのは、このわしなのじゃから」

この偉そうな白ネズミこそが、しろさん。またの名を「フレデリック博士」。
この世のありとあらゆる不思議を研究する、ネズミ界随一の天才科学者。
彼の研究所フレデリック・ラボは、部屋の本棚の最下段の奥に取りつけられた『ラボドア』の先、
時空バイパスで繋がれたむこう側にあるのでした。

「じゃがしかし、わしも一言いわせてもらうからの」

しろさんは、急につんとした態度をとって、レンの頬を指でツンツンつつきました。

「そこにある小型ロケットは、
わしが日々の研究のついでに、新発明した素材を使って作成した代物なんじゃ。
高く高く飛び、墜落の衝撃にも耐えれば、ネズミ学会で自慢できるからのう。
それを、勝手に友人への見世物にされては困るわい」

「別にいいじゃない。研究が目的じゃないんでしょ?」

レンは、ロケットの先端に描かれたネズミの鼻先を、指でつつきながら返しました。
とがった先端が、プルン、プルン、と折れ曲がります。

「わしが言いたいのは、それを我が物顔で自慢するなということじゃ!
おぬしのものだと言った覚えはないんじゃが?」

「おおかた、遊び目的で作ったくせに、それすら言わずにぼくに預けたのなら、
その後ぼくが私物化して、友達に自慢するってことも分かってたことだよね?
ぼくはてっきり、キミからの突然のプレゼントかと思ってたよ。
ね、フラップ?」

「モグモグ……あ、ハイ!  ゴックン……あのロケット、
ぼくとレンくんのものだと思ってましたよう」

フラップは、すでに三枚目のカレー煎餅に手をつけたところでした。
よっぽど我慢していたのでしょうね。

「おぬしら……言うようになったのう……」

しろさんは、悔しそうに右手を握りしめました。
こんなことなら、レンに頼まず、自分で飛ばすことを検討すればよかった。
何しろ、日々の研究で忙しかったわけだから。

「ふふふっ、おっかし~い!」ユカが、思いがけず笑い声を立てました。
「ここでは、いつもこんな、ふふっ、楽しい会話してるんだね」

「ハイ!  ぼくたち、毎日楽しくやってますよ!」

愉快そうに長いしっぽを踊らせながら、フラップは意気揚々と答えました。

「でも今は、ユカさんもぼくたちの仲間!  ぼく、この輪を大事にしたいです!」

するとフラップは、まるで風船が勢いよくふくらんでいくように、
みるみる、みるみる……姿を巨大化させていきました!
大人のシロクマぐらいの、部屋半分ほどかさばるほどの大きさになって、
しっぽも部屋の壁にぶつかって、天井むかってぐりんと反り返る始末。

そんな巨体から、木の幹のような太い両腕が伸び、
レンとユカをぎゅうっと胸に抱きよせました。
そのはずみで、しろさんがレンの肩から危うく転げ落ちそうになります。

「こ、これ!  大きくなるなら先に言わぬか!」

レンの肩にしがみつきながら、しろさんは不満げに叫びましたが、
三にんで幸せそうな笑顔で頬をよせあうフラップの表情を見て、

「……まあ、おぬしの愛らしさにめんじて、全部水に流してやるか!」

と言って、自分もにんまりと顔をほころばせるのでした。

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