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①〈フラップ編〉
10『届け物は、小さいものほど大事に運ぶべし』
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お届け物は、土曜日の朝十時、ユカの家の前であずかる手筈でした。
レンは、お気に入りの緑のパーカーを着て、
灰色のショルダーバッグを背負い、ユカの家を訪れました。
白い外壁とブラウンの屋根がおしゃれな、清潔感のある家です。
塀のむこうには中庭もあって、芝生の周囲に花壇がならんでいます。
ピンポーン!
門扉のそばにあるインターホンを押したところで、レンは、はっとしました。
(まずいな……心の準備そっちのけで、ついボタンを押しちゃった!)
急ごしらえで呼吸を整えようとしても、時すでに遅し。
一瞬の間の後、小さなスピーカーから、少しかすれた女の子の声がしました。
『はーい、坂本君いらっしゃい。ちょっと待っててね――』
よく見れば、インターホンに丸い目をしたカメラがついています。
屋内のドアホンに、訪問者の映像が送られるのでしょう。
赤面してあたふたする顔を見られたと思うと、ちょっと恥ずかしい……。
ガチャ。
玄関が開き、中からユカがサンダルを履いてかけてきました。
この間会った時よりも、だいぶ表情が明るい気がします。
門扉を開いて出てきた彼女の手には、赤い包装紙でラッピングし、
ピンクのリボンで愛らしく口を結んだ、小さなギフト袋がありました。
「坂本君! ホントに来てくれた……嬉しいな」
ユカも照れているのか、そこはかとなく顔も赤いような――。
「あ、あのね。これをシホちゃんに届けてほしいの。わたしの手作り……
ホントにわたしね! 自分で渡しに行きづらくて……」
「だ、大丈夫! ぼくにまかせて。必ず届けてあげるからさ」
レンは、十分に気を配るようにギフト袋をあずかりました。
手のひらにすっぽり収まるくらいの大きさです。
中身はどうやら、さらに小さくてやわらかな何かのよう。
こんなに小さくても、大事な大事な贈り物。なんとしてでも――。
「わたし、事前に伝えたと思うけど、
シホちゃんの家があるのは『すずか町』の二丁目、二十二番地。
青い屋根の家が目印だよ……あの、坂本君。
今更だけど、ホントにいいの? こんなに大変なお願いしちゃって……」
「ぼくも、その……男だからね!
最近、ちょっとだけ遠くまで旅がしたいなって思ってたトコだし」
それは事実でした。
フラップと旅行する、なんて考えていたわけですから。
レンは、ほてった耳の熱さを感じながら、
ユカに手をふりふり、彼女の家を後にしました――最高の高揚感とともに。
*
自宅に戻ると、レンは小ビルの外階段を伝って屋上へむかいました。
お店で働く両親には、友達と都会に遊びに行くと伝えてあります。
屋上ドアを開いた瞬間、しろさんの間断なくしゃべる声が聞こえてきました。
「よいか? 今のうちにたっぷり食べておくんじゃぞ!
小さい体で飛んでも、目的地に着くまでに日が暮れてしまう。
そうならぬように、大きな姿で飛び続けながら、
こまめにエネルギー補給するのじゃ。これも修行のうち! 忘れるなよ?」
「それ、もう三度目です、ゴックン。分かりましたから、ガツガツ……」
屋上のど真ん中、大勢のネズミたちを前にして、
フラップが、昨日お店で余ったカレーを大急ぎで食べていました。
まだモルモットサイズのまま、皿に盛ったカレーを口へ流しこんでいるのです。
レンが一度使ったことのある、例の乗用具もすでに装着しています。
「あ、レンくん! ゴクッ……戻ったんですね。早く出発しましょう!
日が暮れるまでには、ここに帰ってこないと」
レンは、フラップとしろさんのそばで、ひざをついてかがみこみます。
「さあ、まずはわしのチヂミガンで小さくなるがいい。
小さい姿で離陸後、はるか上空まで上昇。だれにも見られない高度まで昇ったら、
レン、事前に渡しておいたスペアのチヂミガンの逆行機能を使え。
昨晩、練習したように、フラップとタイミングを合わせて大きくなるのじゃ。
よいか、着陸時はその逆じゃぞ。
そうすれば、離着陸でフラップの姿が目立たずにすむ」
パシュ! 発射された発光物が、レンの額に命中して、
レンの体はみるみる小人化していきました。
「気をつけて行ってこい!」
しろさんがこちらの手をふっています。
「分かった! 見送りありがとうね!」
レンは、届け物も一緒に入ったショルダーバッグを胸側にかけ直すと、
ネズミ研究員から受け取ったヘルメットをかぶり、
フラップの背中の鞍へすっと飛び乗りました。
「出発いたしまーす!」
フラップは翼をうならせると、ぬけるような青い空へむかって上昇していきます。
「……無事を祈っておるぞ。心からな」
しろさんは、部下たちと一緒に、
空の彼方に吸いこまれていく翼を長らく見送っていました。
レンは、お気に入りの緑のパーカーを着て、
灰色のショルダーバッグを背負い、ユカの家を訪れました。
白い外壁とブラウンの屋根がおしゃれな、清潔感のある家です。
塀のむこうには中庭もあって、芝生の周囲に花壇がならんでいます。
ピンポーン!
門扉のそばにあるインターホンを押したところで、レンは、はっとしました。
(まずいな……心の準備そっちのけで、ついボタンを押しちゃった!)
急ごしらえで呼吸を整えようとしても、時すでに遅し。
一瞬の間の後、小さなスピーカーから、少しかすれた女の子の声がしました。
『はーい、坂本君いらっしゃい。ちょっと待っててね――』
よく見れば、インターホンに丸い目をしたカメラがついています。
屋内のドアホンに、訪問者の映像が送られるのでしょう。
赤面してあたふたする顔を見られたと思うと、ちょっと恥ずかしい……。
ガチャ。
玄関が開き、中からユカがサンダルを履いてかけてきました。
この間会った時よりも、だいぶ表情が明るい気がします。
門扉を開いて出てきた彼女の手には、赤い包装紙でラッピングし、
ピンクのリボンで愛らしく口を結んだ、小さなギフト袋がありました。
「坂本君! ホントに来てくれた……嬉しいな」
ユカも照れているのか、そこはかとなく顔も赤いような――。
「あ、あのね。これをシホちゃんに届けてほしいの。わたしの手作り……
ホントにわたしね! 自分で渡しに行きづらくて……」
「だ、大丈夫! ぼくにまかせて。必ず届けてあげるからさ」
レンは、十分に気を配るようにギフト袋をあずかりました。
手のひらにすっぽり収まるくらいの大きさです。
中身はどうやら、さらに小さくてやわらかな何かのよう。
こんなに小さくても、大事な大事な贈り物。なんとしてでも――。
「わたし、事前に伝えたと思うけど、
シホちゃんの家があるのは『すずか町』の二丁目、二十二番地。
青い屋根の家が目印だよ……あの、坂本君。
今更だけど、ホントにいいの? こんなに大変なお願いしちゃって……」
「ぼくも、その……男だからね!
最近、ちょっとだけ遠くまで旅がしたいなって思ってたトコだし」
それは事実でした。
フラップと旅行する、なんて考えていたわけですから。
レンは、ほてった耳の熱さを感じながら、
ユカに手をふりふり、彼女の家を後にしました――最高の高揚感とともに。
*
自宅に戻ると、レンは小ビルの外階段を伝って屋上へむかいました。
お店で働く両親には、友達と都会に遊びに行くと伝えてあります。
屋上ドアを開いた瞬間、しろさんの間断なくしゃべる声が聞こえてきました。
「よいか? 今のうちにたっぷり食べておくんじゃぞ!
小さい体で飛んでも、目的地に着くまでに日が暮れてしまう。
そうならぬように、大きな姿で飛び続けながら、
こまめにエネルギー補給するのじゃ。これも修行のうち! 忘れるなよ?」
「それ、もう三度目です、ゴックン。分かりましたから、ガツガツ……」
屋上のど真ん中、大勢のネズミたちを前にして、
フラップが、昨日お店で余ったカレーを大急ぎで食べていました。
まだモルモットサイズのまま、皿に盛ったカレーを口へ流しこんでいるのです。
レンが一度使ったことのある、例の乗用具もすでに装着しています。
「あ、レンくん! ゴクッ……戻ったんですね。早く出発しましょう!
日が暮れるまでには、ここに帰ってこないと」
レンは、フラップとしろさんのそばで、ひざをついてかがみこみます。
「さあ、まずはわしのチヂミガンで小さくなるがいい。
小さい姿で離陸後、はるか上空まで上昇。だれにも見られない高度まで昇ったら、
レン、事前に渡しておいたスペアのチヂミガンの逆行機能を使え。
昨晩、練習したように、フラップとタイミングを合わせて大きくなるのじゃ。
よいか、着陸時はその逆じゃぞ。
そうすれば、離着陸でフラップの姿が目立たずにすむ」
パシュ! 発射された発光物が、レンの額に命中して、
レンの体はみるみる小人化していきました。
「気をつけて行ってこい!」
しろさんがこちらの手をふっています。
「分かった! 見送りありがとうね!」
レンは、届け物も一緒に入ったショルダーバッグを胸側にかけ直すと、
ネズミ研究員から受け取ったヘルメットをかぶり、
フラップの背中の鞍へすっと飛び乗りました。
「出発いたしまーす!」
フラップは翼をうならせると、ぬけるような青い空へむかって上昇していきます。
「……無事を祈っておるぞ。心からな」
しろさんは、部下たちと一緒に、
空の彼方に吸いこまれていく翼を長らく見送っていました。
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