DRAGGY!-ドラギィ!- 【一時完結】

Sirocos(シロコス)

文字の大きさ
上 下
15 / 72
①〈フラップ編〉

10『届け物は、小さいものほど大事に運ぶべし』

しおりを挟む
お届け物は、土曜日の朝十時、ユカの家の前であずかる手筈でした。
レンは、お気に入りの緑のパーカーを着て、
灰色のショルダーバッグを背負い、ユカの家を訪れました。
白い外壁とブラウンの屋根がおしゃれな、清潔感のある家です。
塀のむこうには中庭もあって、芝生の周囲に花壇がならんでいます。

ピンポーン!

門扉のそばにあるインターホンを押したところで、レンは、はっとしました。

(まずいな……心の準備そっちのけで、ついボタンを押しちゃった!)

急ごしらえで呼吸を整えようとしても、時すでに遅し。
一瞬の間の後、小さなスピーカーから、少しかすれた女の子の声がしました。

『はーい、坂本君いらっしゃい。ちょっと待っててね――』

よく見れば、インターホンに丸い目をしたカメラがついています。
屋内のドアホンに、訪問者の映像が送られるのでしょう。
赤面してあたふたする顔を見られたと思うと、ちょっと恥ずかしい……。

ガチャ。

玄関が開き、中からユカがサンダルを履いてかけてきました。
この間会った時よりも、だいぶ表情が明るい気がします。
門扉を開いて出てきた彼女の手には、赤い包装紙でラッピングし、
ピンクのリボンで愛らしく口を結んだ、小さなギフト袋がありました。

「坂本君!  ホントに来てくれた……嬉しいな」

ユカも照れているのか、そこはかとなく顔も赤いような――。

「あ、あのね。これをシホちゃんに届けてほしいの。わたしの手作り……
ホントにわたしね!  自分で渡しに行きづらくて……」

「だ、大丈夫!  ぼくにまかせて。必ず届けてあげるからさ」

レンは、十分に気を配るようにギフト袋をあずかりました。
手のひらにすっぽり収まるくらいの大きさです。
中身はどうやら、さらに小さくてやわらかな何かのよう。
こんなに小さくても、大事な大事な贈り物。なんとしてでも――。

「わたし、事前に伝えたと思うけど、
シホちゃんの家があるのは『すずか町』の二丁目、二十二番地。
青い屋根の家が目印だよ……あの、坂本君。
今更だけど、ホントにいいの?  こんなに大変なお願いしちゃって……」

「ぼくも、その……男だからね!
最近、ちょっとだけ遠くまで旅がしたいなって思ってたトコだし」

それは事実でした。
フラップと旅行する、なんて考えていたわけですから。

レンは、ほてった耳の熱さを感じながら、
ユカに手をふりふり、彼女の家を後にしました――最高の高揚感とともに。

    *

自宅に戻ると、レンは小ビルの外階段を伝って屋上へむかいました。
お店で働く両親には、友達と都会に遊びに行くと伝えてあります。
屋上ドアを開いた瞬間、しろさんの間断なくしゃべる声が聞こえてきました。

「よいか?  今のうちにたっぷり食べておくんじゃぞ!
小さい体で飛んでも、目的地に着くまでに日が暮れてしまう。
そうならぬように、大きな姿で飛び続けながら、
こまめにエネルギー補給するのじゃ。これも修行のうち!  忘れるなよ?」

「それ、もう三度目です、ゴックン。分かりましたから、ガツガツ……」

屋上のど真ん中、大勢のネズミたちを前にして、
フラップが、昨日お店で余ったカレーを大急ぎで食べていました。
まだモルモットサイズのまま、皿に盛ったカレーを口へ流しこんでいるのです。
レンが一度使ったことのある、例の乗用具もすでに装着しています。

「あ、レンくん!  ゴクッ……戻ったんですね。早く出発しましょう!
日が暮れるまでには、ここに帰ってこないと」

レンは、フラップとしろさんのそばで、ひざをついてかがみこみます。

「さあ、まずはわしのチヂミガンで小さくなるがいい。
小さい姿で離陸後、はるか上空まで上昇。だれにも見られない高度まで昇ったら、
レン、事前に渡しておいたスペアのチヂミガンの逆行機能を使え。
昨晩、練習したように、フラップとタイミングを合わせて大きくなるのじゃ。
よいか、着陸時はその逆じゃぞ。
そうすれば、離着陸でフラップの姿が目立たずにすむ」

パシュ!  発射された発光物が、レンの額に命中して、
レンの体はみるみる小人化していきました。

「気をつけて行ってこい!」
しろさんがこちらの手をふっています。

「分かった!  見送りありがとうね!」

レンは、届け物も一緒に入ったショルダーバッグを胸側にかけ直すと、
ネズミ研究員から受け取ったヘルメットをかぶり、
フラップの背中の鞍へすっと飛び乗りました。

「出発いたしまーす!」

フラップは翼をうならせると、ぬけるような青い空へむかって上昇していきます。


「……無事を祈っておるぞ。心からな」

しろさんは、部下たちと一緒に、
空の彼方に吸いこまれていく翼を長らく見送っていました。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

児童絵本館のオオカミ

火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

【完結!】ぼくらのオハコビ竜 ーあなたの翼になりましょうー

Sirocos(シロコス)
児童書・童話
『絵本・児童書大賞(君とのきずな児童書賞)』にエントリーしている作品になります。 皆さまどうぞ、応援くださいませ!!ペコリ(o_ _)o)) 【本作は、アルファポリスきずな文庫での出版を目指して、本気で執筆いたしました。最後までどうぞお読みください!>^_^<】 君は、『オハコビ竜』を知っているかな。かれらは、あの空のむこうに存在する、スカイランドと呼ばれる世界の竜たち。不思議なことに、優しくて誠実な犬がまざったような、世にも奇妙な姿をしているんだ。 地上界に住む君も、きっとかれらの友達になりたくなるはず! 空の国スカイランドを舞台に、オハコビ竜と科学の力に導かれ、世にも不思議なツアーがはじまる。 夢と楽しさと驚きがいっぱい! 竜と仮想テクノロジーの世界がミックスした、ドラゴンSFファンタジー! (本作は、小説家になろうさん、カクヨムさんでも掲載しております)

【総集編】日本昔話 パロディ短編集

Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。  今まで発表した 日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。 朝ドラの総集編のような物です笑 読みやすくなっているので、 ⭐️して、何度もお読み下さい。 読んだ方も、読んでない方も、 新しい発見があるはず! 是非お楽しみ下さい😄 ⭐︎登録、コメント待ってます。

命がけの投票サバイバル!『いじめっ子は誰だゲーム』

ななくさ ゆう
児童書・童話
見知らぬ教室に集められたのは5人のいじめられっ子たち。 だが、その中の1人は実はいじめっ子!? 話し合いと投票でいじめっ子の正体を暴かない限り、いじめられっ子は殺される!! いじめっ子を見つけ出せ! 恐怖の投票サバイバルゲームが今、始まる!! ※話し合いタイムと投票タイムを繰り返す命がけのサバイバルゲームモノです。 ※モチーフは人狼ゲームですが、細かいルールは全然違います。 ※ゲーム参加者は小学生~大人まで。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

みかんに殺された獣

あめ
児童書・童話
果物などの食べ物が何も無くなり、生きもののいなくなった森。 その森には1匹の獣と1つの果物。 異種族とかの次元じゃない、果実と生きもの。 そんな2人の切なく悲しいお話。 全10話です。 1話1話の文字数少なめ。

【完】ことうの怪物いっか ~夏休みに親子で漂流したのは怪物島!? 吸血鬼と人造人間に育てられた女の子を救出せよ! ~

丹斗大巴
児童書・童話
 どきどきヒヤヒヤの夏休み!小学生とその両親が流れ着いたのは、モンスターの住む孤島!? *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆*   夏休み、家族で出掛けた先でクルーザーが転覆し、漂流した青山親子の3人。とある島に流れ着くと、古風で顔色の悪い外国人と、大怪我を負ったという気味の悪い執事、そしてあどけない少女が住んでいた。なんと、彼らの正体は吸血鬼と、その吸血鬼に作られた人造人間! 人間の少女を救い出し、無事に島から脱出できるのか……!?  *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* 家族のきずなと種を超えた友情の物語。

処理中です...