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名古屋支局内に警報が鳴り響く中、第三の大天使が現れた。
第一大天使や第二大天使はまだ生物らしき姿であったが、この第三代天使はその形状からして生物には見えない。

ふたつの重なり合う輪の本体に水晶かそれに類似する鉱石のようなものがぐるっと囲んでいるのだ。しかしそれは紛れもなく7体の神の先兵のひとつである。
 湊の黒鉄とロナウドの水晶が最前線に立ち、さらに名古屋支局奪還作戦のために来ていた民間人協力者である鳥居純吾と伴亜衣梨が参戦。

東京・名古屋の国連軍の共同戦線によって立ち向かうが、第三大天使はぐるぐると回転し、内円と外円を合体・分離しながらさまざまな攻撃をしかけてくる。
おまけに合体時には人間側の攻撃は受け付けないという強敵だ。

次第に人間側の戦力は削られ、国連軍たちは次々と倒れていった。
ジュンゴの翡翠とアイリのロードナイトは奮戦するが、彼らは明らかに疲弊している。
ロナウドも死力を尽くして戦うが、悪魔だけでなく悪魔使い本人たちも体力を消耗していった
 
「このままじゃこっちが消耗するばかり。奴の力を削ぐ方法はないのか!?」
 
 湊と黒鉄もかなり疲れている。頭の回転も鈍り、第三天使の攻撃をかわすだけで精一杯だ。
 
ほんの一瞬だった。
湊の脳裏に僅かに「もしダメだったら」という不安が掠めた次の瞬間、黒鉄が第三大天使の放つビームに貫かれてしまったのだ。
断末魔の悲鳴のような声を上げた黒鉄は消えてしまう。
そして携帯の中で「修復中」という表示が悪魔リストの黒鉄の上に現れた。
黒鉄が使えなくなったことで、人間側の戦意はガタ落ちだ。
 
「くそッ」
 
ミヤビはビャッコの頭を撫でると、ビャッコは「承知した」とばかりにフェクダに襲いかかって行った。しかし物理攻撃・魔法攻撃とも受け付けない第三大天使にはまったく効果がない。
有効な方法は見つからず、仲間たちは次々に倒れていく。
 
その時だった。新たな悪魔が現れたのだ。
それと同時に若い女性の声がミヤビの耳に届いた。
 
「わたしに任せて!」
 
声の主は柳谷乙女。国連軍のの医療スタッフだ。
名古屋支局が占拠された時に人質になっていた局員のひとりで、本来なら彼女は司令室の外で悪魔の侵入を防いでいるはずだった。
彼女の使役している悪魔は翡翠。しかしレベルが低い。
湊たちが手こずる第三天使に対して戦闘力の低い翡翠では敵うはずがない。
しかし翡翠は予想以上の力を発揮した。
 翡翠が手にした氷の凍結攻撃を行うと相手の力が弱まっていったのだ。
 
「わたしの翡翠には弱体化のスキルを覚えさせておいたのよ」
 
オトメは自信満々の顔で言った。
たしかにどんな攻撃も利かない相手だが、弱体化すれば人間側の攻撃も届くようになる。しかし第三大天使も必死であり、力が残っているうちにと次々にビームを発射した。
 ロードナイト、翡翠、水晶と順に消滅していき、最後に残ったのは乙女の翡翠だけだ。そして第三大天使は翡翠を消滅させた次の瞬間、湊に照準を向けた。
これで人間側の悪魔はすべて第三大天使に全滅させられてしまった。
すべて修復中となり、再び召喚できるようになるまで時間がかかる。
第三大天使も虫の息だが、人間側に攻撃手段がないとなればどうしようもない。
そのフェクダは最後の一撃として、エネルギーを溜める。
 
「湊くん、逃げろ!」
 
 湊の悲痛な叫びが耳に届いた。しかしミヤビは意外にも冷静でいた。死を目前にしながら、彼女は驚くほど平常心でいる。
 
(こんな、ここで終わりなのか、こんな、何もできないまま)
 
 最後の抵抗として睨みつけることしかできない。その瞬間湊と第三大天使の間の床に魔方陣が浮き上がり、その中から最強の悪魔が現れた。
 
「鋼……!?」

 鋼は空間操作能力と重力操作能力、更には増幅機関を備えた最強の悪魔だ。中世鎧騎士のような鋼色の光沢が鈍く光る。

 この名古屋支局に現れるはずのない鋼が出現したのだ。その場にいた全員がありえないといった顔をし、ある一点に視線が集中した。
 それは第三大天使のビームによって天井が破壊されて地上に大きな穴ができている場所。
日が完全に沈み、空には青白い大きな月が昇っている。
その月をバックにして立つ人影は総司令だ。
 
「総司令?」
 
 大阪本局にいるはずの総司令が目の前にいた。湊はそんな疑問を抱くが、今はそれどころではない。
 最強の助っ人が現れたことで、周囲の空気が一変した。第三大天使は攻撃目標を鋼に変更し、ビームを発射する。
 しかし鋼は正面から受け止めてブラックホールが飲み込む。
 
「国連軍の秘蔵か」
 
ロナウドは呟くような小さな声で言うが、それは総司令の耳に届いていた。
 
「違う。これは私個人の力だ」
 
鋼は右手に重力球を生み出し、それを砲撃する。第三大天使を完全に消滅させた。
いくら弱っていたとはいえ、湊たちが何人もかかって倒せない大天使をたったひとりで倒してしまう大天使にその場にいた全員が驚愕した。
 
湊が総司令を見上げると、彼と視線が合った。
 
「うむ、貴重な若者が無事で良かった」
 
冷淡だが、その中にミヤビが無事であったという安堵感が込められた言葉だった。
 湊はそれだけ言って踵を返す。

「湊くん、君には話がある。ついて来い」
 
総司令はその場から離れようとするが、湊が呼び止めた。
 
「お待ちください。どんな処分であろうとも厳粛に受け止めますが、その前にやらなければならないことがあります」
「何をする気だ?」
「名古屋支局をこのままにしてはおけません。最優先は負傷者の手当と支局の復旧です。人員が足りませんから、わたしも作業に加わりたいんです」
「……好きにしてくれ」
 
少し考えてからそう言い放つと、総司令はひとりで立ち去ってしまった。
 
 
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