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廻る時
三十二
しおりを挟む何時もより帰宅するのが遅くなった。それもこれも今同じ馬車に乗っている王太子の所為だろう。付いてくるなと言うのに勝手に乗り込んできたバカ太子。自分の身分をもう少し考えて欲しいものだ。
そして次いでとばかりに一緒に乗り込んできた近衛隊長。お前もそうだ。明日覚えていろよ。
だが、帰ってみれば妻の出迎えが無い
何時もなら気配を読んで迎えてくれるはずなのに。
不審に思い執事に声を掛ければ、部屋に居るのでは?との返事。明らかに何かを隠している。
王太子と近衛に応接室で待つよう声を掛け、彼女を探しだそうと歩き始めれば背後から思いっきり肩を引かれた。
手伝うと言われ、屋敷内を探すも見当たらず、気温が低くなって来ている庭を捜索した。
其処で蹲っている彼女を発見する。明らかにお茶をしていた形跡があり、不審に思いながらも彼女を抱きかかえれば、ドレスの下の方が血塗れになっていた。
事態を重く見た王太子が、付いてきた侍従に医者の手配をさせ私は彼女を寝室のベッドに運んだ。
灯りをつけた部屋で見た彼女の顔は蒼白く、辛うじて息をしているのが救いであった。
そんな中空気も読まずに部屋に入り込んできたのが義母と義妹。
彼の者達曰くお茶をして眠くなったらしいとの事、そしてそれを執事で有る彼も知っていると言う事。
つまり私はあの執事に嘘を吐かれた事になる。そして使用人も女主人を助けることもせずに放置。
如何にこの邸の人間が腐っているのかが目に見えてわかる一件となった。
医者が来るまで時間があるので王太子には王宮に戻る様に話をしたが、結果を知っておきたいからと居座られた。
その間に近衛が執事や使用人を一か所に集め、今後どうなるかの話をすると執事が暴れたそうだ。
どの様な人物か知っている為直ぐに拘束。口も聞けない様にし身体を調べると、針やナイフ等を仕込んでいたため全て没収とした。
使用人の中にも同じ様なものを仕込んでいた人物がいたのでその者も縛り上げ持ち物を没収しておいた。
ただ、彼らが口々に言うのが、何故私の妻リーズラントに従わなければいけないのか?と言うこと。
「執事はこの家の実権を握っているわけではない。そしてあの親子は先代侯爵とは婚姻関係にない、彼方こそ居候の身。いなくて良い人物。
それなのに現当主の妻を蔑ろにするお前たちの心情が私には分からない。
お前達は解雇。執事、お前に関しては領地で極刑に値する仕事に着いてもらう、覚悟しておけ」
そう言い捨て再びリーズラントの所に戻る。医者ともう一人、腹の子を見てくれていた産婆が一緒に来た。
確かにあの出血量は危ないのかもしれない。前回は無事に出産していたが、今回はそうとは限らない。
不安に思いながら医者に見てもらっていると、リーズラントに付いていた侍女が帰って来た。
話をすれば直ぐに部屋を探し出し手紙を発見する。其れには執事とあの二人から執拗にお茶に誘われていたことが書かれていた。
そしてお茶の時に来ていた服に何があったか記されており、執事に針で刺されたと暗号で書いてあったそうだ。
その話を聞いた医者は、お茶を頑なに飲まなかった妻に対し強行に出たのでは無いかと言った。つまり針に毒を仕込み刺したと。
執事が持っていた物の中から毒と思わしきものを探り当て、解毒剤を作って貰い妻に飲ませる。
産婆曰く、子供は流れた。つまり死産である事が伝えられた。
このままではいけないので、適切な処置をし、暫くは月の物同様の処理が必要になると伝えられた。
産婆が帰りかける間際リーズラントが目を覚ました。
まだ虚で意識はしっかりしていないが、侍女が彼女に話し掛けると返事をしてくれた。
いくつかのことを話し、お腹の子のことを気にしていたが、誰も何も言わなかったことを不審に思ったのだろう産婆に訊ねた。
其処で子供が亡くなったことを聞かされ彼女は謝りながら悲鳴にも似た声を上げて意識を失った。
その後彼女が目を覚ましたと連絡が有り、王宮から邸に向かう。
目覚めたリーズラントを力任せに抱きしめていたら頭を叩かれた。この国の諜報の親玉で私も世話になっているリーズラントの祖父。
丁度医師と産婆も来てくれて状態を確認してもらう。今の所副作用は出ておらず動けないこと以外は問題無かった。
ただ、もう一度子供が亡くなったことを理解して彼女は心を病んでしまった。私はその時側に付いていることが出来なかった。
徐々に身体が動く様になって来ていたので侍女には気をつけるよう伝えていたのだが、彼女は侍女の目を盗んで邸を向け出した。
そして、彼女は庭の池で手首を切って自害していた。
私が最後に見た彼女は苦悩に満ちた顔をしており自分の不甲斐無さを痛感させられた。
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