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アルフレッド、問いただす。

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 誰に相談することもできずーー普段であればラウーラに相談していただろうがーーアルフレッドの目の下に隈ができたころ、ラウーラが変装して出かけたとの報告が入った。とはいえ、黒いマントではないらしいが。

 フラつく足を叱咤しながら、アルフレッドはお忍びという体で公爵家へと馬車を走らせた。城に呼び出すより、いつもと違う状況の方が何かわかるのでは、という僅かな期待があった。

 彼女を驚かせたいから、と公爵家の執事や侍女に言ってお茶の準備をしてもらいつつこっそりと帰りを待っていると、いつもより質素な出で立ちの楽しそうなラウーラが帰ってきた。

 久しぶりに見たラウーラの笑顔に思わず見惚れ、疲れた心が癒されるのを感じ、声をかけるタイミングを失ってしまった。
 そうこうするうちにラウーラから自分の名前が挙がった為、アルフレッドはもう少し様子を見ることにした。
 侍女から妙な目で見られていることはこの際気にしないことにして。

 アミュレットに魔力を注ぎ込むラウーラは、うっすら光を纏い美しかった。そっと近づくとピリピリと痛みを感じる。忘れようもないあの回復の術の痛みに似ていた。
(もしかしたらラウーラの魔力が多すぎて人体には強すぎるから痛みが出るのではないだろうか)
「よし」と満足そうな彼女の横顔に、つい思ったままが口からこぼれると、ラウーラはピョーンとうさぎのように跳ね、椅子から転げ落ちかけた。なんとか咄嗟に床に落ちる前に抱きとめたが。

「ただいまラウーラ」


 突然の来訪を謝罪し、レアストロ地方の有名な菓子を勧め、先の討伐について話す。恐らくラウーラは「黒い鳥」としてあの場にいたはずだが、いつもの様に非常に興味深そうに話を聞き、意見を言ってくれた。
 そう言えば。と、ふと以前同世代の他国の王子と話した時のことを思い出す。
「婚約者だから話を合わせるが、令嬢というものは大抵、ドレスとか菓子とか、どこの花が綺麗だとかそういう話ばかり好むだろう?政務の話なんてすると機嫌を損ねるし、本当に気を使って疲れる」
 あの時はいまいちピンとこなかったが、確かにラウーラ以外の令嬢はそう言った傾向がある。というかラウーラが規格外なのか。
(無理して話を合わせている様にも見えないし)


 一通り話を終えると、人を下がらせ本題に入る。
 頭の中で、どう話を持っていくか何度も考えていたはずなのに、知らず感情的になってしまった。
 そのことに気づいてアルフレッドが顔を上げると、ラウーラはガタリと音をたて駆け寄ってきた。
 その、自分を見上げる彼女の顔が真っ白な事にハッと息を飲む。こんな顔のラウーラを見たのは初めてだった。泣いている、姿なんて。

「ごめんねラウーラ泣かないで」
 そう言って彼女を抱きしめる。あの夜とは逆だ。
(ああ。一体どこまでが嘘なのラウーラ)



「ラウーラ」



 アルフレッドの言葉の意味を一拍おいて理解したラウーラは、びくりと震え、アルフレッドから離れようともがいた。それをぎゅっと抱きしめて拒絶すれば、諦めたのか静かになる。

「あれからずっと、どういうことなのか考えているんだけど……サヴオレンス公爵から指示?それとも他に誰かいるのかな。説明してくれるよね?ラウーラ」
「だ、誰もいません!え、え~っとあのですね…うーん」

「まあ、誰かいたとしてもそう簡単に言うわけはないよね」
「本当にいないんです。私が、自分で……父にもやりすぎるなといつも」

「サヴオレンス公爵は知ってたんだ」
「あっ」

 沈黙が流れる。アルフレッドはラウーラの肩にもたれかかった。
「僕は君に出会えて本当に嬉しいと思ってるし、心から大切に思っている。大好きだよラウーラ」
「殿下…………」
「でも、君はずっと嘘をついていたんだね」
「も、申し訳」
「君は、君だけは、僕を「勇者の生まれ変わり」として見ないと思っていたのに……本当は、誰よりも……頼りない僕はさぞ滑稽だったろう。そうやって、自分の方が優秀だと名乗りをあげる機会を伺ってたのか?僕の立場が欲しかったの?」

「いえ!いえ違います殿下!!……むしろその逆で」
「逆?」
 思わず語気が強くなったアルフレッドに、ラウーラは、うぅ……唸り声をあげると
「……信じて、頂けるかわかりませんが」と口を開いた。
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