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アンリミテッド・スノーマンの情景
18.
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夜を引き摺ったままの東の空が、徐々に赤く染まっていた。それはじっと眺めていないと気がつけないような細やかな変化だったのに、気がつくと見違えるような鋭い光が辺りに降り注いでいる。圭吾は寝不足の目を瞬かせて、ゆうるりと面を上げた。
恭介を信じて命じられたその言葉に従うか、或いは、何もかもを投げ捨てて、欲しいものだけ拐って逃げるが。
どちらを選ぶかなんて、まだちっとも決まってやしないのに、平等に朝はやって来るのだ。
楠の口から語られた恭介の過去は、いずれ落ち着いたら本人が話してくれるだろうなどと暢気に構えていた圭吾の頭を、真上から打ち砕くような衝撃のあるものだった。
――落ち着いたら?
――今よりもっと、仲良くなれば?
そんな日々を幾ら重ねたところで、きっと本人の口から語られることはないだろう。あんな凄惨な過去を自ら復習するかのように、なぞるように、改めて組み立て直すように――頭から言葉にして、初めて聞く誰かにもわかるように事細かに伝えるだなんて、恭介の心を、再びナイフでずたずたに切り裂くのと同意だった。
今更触れることも叶わない過ぎ去ったそれらの事実がすべて、言葉になった途端に軽くなって消滅するだなんて魔法がこの世にないことは圭吾でもわかっている。恭介が密かに背負い続けるその荷物は、きっとどんなに甘い言葉を注いでも、さも共感したかのような顔を演じてみせても、ほんの少しだって軽くなどならないと圭吾は正しく理解した。抱えていくつもりなのだ――あの人は、ずっと。誰かに半分持ってもらおうなんて、考えもしないのだろう。自分に危害を加えようとした人間に負わせた傷さえも――二度と動かなくなった彼らの下半身や、左腕などに向けた懺悔もすべて、一生ひとりで。
本当は、このままどこかへ連れ去ってしまいたかった。これまで一切気に掛けたこともないようなどうでもいい事情に振り回されることもなく、圭吾以外には頼る人間のいないところへ。そうして最果てまで連れて行って、他の誰も知らないような場所へ閉じ込めてしまいたい。そうしたらきっと、意地っ張りなあの人も自分にだけ甘えてくれるに違いない。頭を撫でて、柔らかくその頬を包んで、着るものも、食べるものも、すべて圭吾の手で与えてやるのだ。もう何ひとつ傷つかなくていいし、寝不足になるまで資料を漁るなんてこともしなくていい。頑張らなきゃならないことは何もない、穏やかで静かな時間を与えてあげたかった。
必要なことは全部、圭吾が代わりにやればいい。そうして三年経ってしまったら、おそらく圭吾一人の努力では叶わないこともある。恭介の命は、残酷な盟約によって奪われてしまうだろう。その時にもしかしたら、少しだけ後悔するかもしれないけれど。最期の最期まであの人をひとりじめできるのなら、それも悪くない気がした。閉じた世界に二人だけ、互いの息遣いさえ感じられるような距離で、その瞬間を迎えるのだ――もし、ひとりきりであの世に行くのが心細いなら、圭吾の魂だって手土産に持っていけばいい。
(こんなことを考えてるなんて知られたら、犬神さんに怒られるかもしれないな)
犬神だけじゃない。きっと他の誰だって納得はしないだろう。現実はわかっていた。どんなに想い描いたって、できることと、できないことがある。世界は平等なんかじゃない。約束された、確実で安全な未来などはなく、進むと決めた道を、何の障害もないように整えてくれる誰かなんかいない。
(本当は僕だって、あの人の命を諦めたくはない)
圭吾は、少しだけ泣きたい気持ちになった。それでも、朝日は少しずつ空へと登ってゆく。
世界は、見せかけだけの明るい光に満ちていた。
――ちょっと思いついたことがあるんだ。
そう言ってすたすたと先を行く鳴海を慌てて追いかけながら、和真は漂う空気に僅かな違和感を覚えていた。それははっきりと言葉にするには今一歩及ばない程に、明瞭で且つ漠然とした齟齬だった。
〝ど……どちらへ〟
〝んーとね、ここに居るのも飽きちゃったから、外に出ようと思って〟
〝外?〟
まるでドアの開閉ひとつで、簡単に外の世界に行けるかのような口調だった。
〝で……ですが、私達は今、魂を金魚の中に……〟
〝思ったんだけどさ〟
ころりとどこかへ転がってしまうのではないかと見ているこっちが不安になるほど大きな目をぱちぱちさせてから、鳴海は桜色の唇を仄かに尖らせながらあっさりと言ってのけた。
〝それって、言ってるの智也さんって人だけだよね?〟
和真は宇宙空間に一人で取り残されたような、壮大な孤独を味わっていた。
〝そ……れは、どういう……?〟
〝さっき、和真さんと話してる時に隙間風の音が聴こえたの。水の中にいるにしては、籠ってる感じしなくて……ちゃんとクリアに聴こえたんだよね〟
言われてみれば、僅かに外の音が聞こえている。それは木々が葉を揺する音だったり、誰かがパタパタと忙しなく廊下を歩く音だったり。そのどれもこれもが、膜をひとつ隔てているとは思えないような近い音。
有り体にいえば、臨場感があった。
〝そもそもさ、お互い金魚の中に閉じ込められたっていうなら、こんな距離感で相手の声が聞こえなきゃ成り立たない話なんか、できないと思わない? 別に手足とか、金魚の尾ヒレや胸ビレになってる感覚はないし。水の中にいるっていう息苦しさもないよね?〟
〝じゃあ……魂を閉じ込めたって言うのは嘘……?〟
〝まるっきり嘘と言うより、暗示に近いのかも。何もかも突然だったし、露骨に金魚鉢持ってたし。あまつさえご丁寧に本人がそう言ってるから、うっかり信じ込んじゃったけど。実際は、どこか別の……シェルターのような空間に、一時的に捕獲されてるって感じなんだよね〟
和真の感じていた僅かな違和を、鳴海が目の前で具現化し、組み立てていく。正体不明だった筈のそれは、このあどけない子供のような少年の手によって、少しずつその形を現し、ひとつの疑念と可能性を導きだしていた。
〝詳しいことはわからないけど……相手に金魚鉢を見せて、移し替えの術に関する説明をするのが、対象を暗示に……というより催眠? にかける発動条件だったんじゃないかな?〟
〝……それって、何が違うんです?〟
しかしながら、どこかに幽閉されているという現状は覆せない。実際はそうじゃなかったとしても、脱出できなければ大差はないように思えた。
〝全然違うでしょ。だって催眠なら、解けたら出られるよ?〟
何でもないことのように、あっさりと鳴海が言った。暗示を解く鍵のひとつもないという絶望的な状況下を加味した上で、そうかそれなら全然違うよなぁと相手に思わせるような朗らかな声だった。
〝まあでも、おとなしく解いてもらうのを待つつもりはないけどね。本当に、金魚の中に閉じ込められてる訳じゃないなら、打開策もあるし〟
新しい遊びを思い付いた小学生のような顔で、鳴海が和真を覗き込んだ。それは、危ないことはよしなさいという大人の言葉を無邪気に叩き潰し、且つねじ伏せるような、得も言われぬ迫力のある声だった。
〝さっきから気になってたんだけど、あそこのオーラが一番不安定みたい。穴をあける場所としては最適かな〟
〝無理だと思います〟
和真は即答した。明確な論拠のある落ち着いた声だった。
〝どうして?〟
〝私は……一人でここに閉じ込められてから、既にもう何度か、あちこちに霊気の弾を当ててみました。しかし、まるで効果はないのです〟
既に実験済みの方法に関しては、結果を添えたデータと明示すれば納得してもらえるだろう。和真は淡々と、実体験に基づいた事実を述べた。
〝俺も最近知ったんだけど、死んでる人間の霊気は、生きている人間のそれに干渉できないんだって〟
〝は……?〟
〝つまりさ、それは俺の霊気を混ぜたら、無理だったこともひっくり返るってこと〟
和真は息を飲んだ。それは、大の大人が怯む程クレバーな声だった。
〝この部屋を結界代わりに囲ってるオーラの急所がどこなのか、俺には正確に、全部視えてる〟
言葉の通り迷いのない指先が、一ヶ所の空間を迷いなく指した。
〝絶対、出られるよ。俺を信じて。力を貸してくれる?〟
〝……み、鳴海!〟
気持ち良く寝ていたというのに、乱暴に肩を揺すられる。まるで凍てつく大地に放り投げられていた体を、足元からゆっくりとぬるま湯に浸けているような感覚。痺れた手足が血の巡りを感じるようになって、鳴海は漸く重たい目を開いた。
「えっ……いち君……!?」
信じられない近距離まで顔を近づけている想い人を目の前にして、瞼を開いた瞬間の幸福に鳴海は思わず飛び上がった。ぎしりと音を立てながら、どうにか左手を動かし刺激の強いその顔を押し返す。まるでプールから上がった直後のような倦怠感があったが、偽物みたいな体は徐々に鳴海の精神に馴染んでくれたよう。死後硬直のように固まりかけていた指先を、握ったり開いたりして自分のものだということを確かめる。僅かな強張りはあったものの、それらは鳴海の意思通りに動いた。
〝良かった。気が付いたみたいだな〟
「俺……体に戻ってる……?」
目の前で、心底安堵したように笑いながら一之進が言った。それは見慣れた自分の顔などではなく、精悍で、けれどどこか純朴さの残る切れ長の一重だった。わざとじゃないかと思える程絶妙なラインで肌を露出させている着崩した着物も、その裾から覗くバランスのいい筋肉も、すべて鳴海にはないものだ。
〝急に耳元ですげーでけェ風の音が鳴って、押し出されるようにお前の体から出ちまったんだよ。どうやったのか知らねェが、無事金魚から出られたんだろ? お前の魂が解放されたから、本来あるべき体に引っ張られたんだな」
魂はあまり長い間自分の体を離れているのは良くないからだとか、一種の事故防衛みてェなもんだとか、現状を一切理解できていない鳴海のためにと滔々と解説してくれている一之進には悪かったが、鳴海の心はおとなしくそれらの講釈を聞いていられない程歓喜に満ちていた。
「良かった……無事だったんだね」
〝そりゃこっちの台詞だろーが!〟
無防備に晒された右肩をそっと撫でながら再会を果たせた喜びを噛み締めていたら、同じように無事を願っていてくれていただなんて可愛いことを一之進が叫ぶものだから、思わずにやけてしまう。こんなにも、鳴海の頭の中を一気に桜色に染めあげてしまうような人間は、世界中探したって一之進しかいないだろう。
本当は投げたままの告白の返事も聞かせて欲しいところだったが、目下それどころじゃない緊急事態のさなかにいることはわかっているので、そっと鎖骨に額を擦り付けるだけに留めておく。神社に戻ったら覚えてろよという念だけはしっかり込めて。ぶるりと、一之進の背が震えた気がした。
〝お前は……和真か〟
鳴海の魂に引っ張られるようにして、和真もこちらへ連れてこられたらしい。一之進の斜向かいで所在なく佇んでる姿を視界に留めたのであろう彼は、本人確認をするかのように問い掛けた。
〝じゃあ、拓真がお前を助けるために、恭介たちを裏切ってたってのは本当なんだな〟
〝……〟
拓真の行為に理由があったことに、寧ろほっとしたような声で一之進が確認する。目を伏せて、和真は静かに頭を下げた。
詫びのつもりではなかった。事実を正面から受け入れてくれたことへの、和真なりの感謝が表れた行為だった。
〝そんなことすんな。皆ができることをやって、守りたいもんを守っただけだ。要は最終的に、全員無事で帰るべきところに帰れりゃそれでいいんだよ〟
「そうだよ~! もう俺お腹ペッコペコ! たっ君拾って、圭吾と合流したらすぐに帰ろうね!」
一之進の首にするりと腕を巻き付けて、猫のように頬を擦り寄せながら鳴海がはしゃぐ。
〝言わなきゃならねェことがある〟
そのしなやかな腕を、やんわりと外しながら一之進が言った。ひどく深刻な声だった。
「何」
〝恭介が、この家に連れてこられた本当の理由だ〟
「えっ……恭ちゃんここに来てるの!? 何で!? っていうか……ここ、どこだっけ?」
連れ去られたことに思考が持ってかれていたけれど、改めてこの場所がどういった施設なのかは考えたことがなかった。今更鳴海は、しっかりした梁の巡らされた天井を見遣る。
〝土屋の実家だ。鳴海が連れ去られたのも、元々は恭介の家の事情だったんだよ。妹の体調が思わしくないからって、恭介を跡目にするためにお前が人質にとられたんだ〟
「ほぼ犯罪!」
軽快な声で鳴海が叫んだ。叫んだ後に、ほぼも何もしっかり犯罪だと改めて思った。
「うわー……それ言い出したのお父さん? 超自己中じゃん。ドン引きなんですけど……」
あからさまにないわという顔で、鳴海が口を歪める。沖縄の瓦屋根に見られる独特の仏像のような顔だった。
〝……だが、それも表向きの事情だったみてェだぜ〟
言いにくそうに目を反らし、一之進は唇を噛んだ。
〝お家騒動では、なかったということですか……?〟
〝金魚鉢を探していた時に、糸目野郎と圭吾が話してるのを聞いちまったんだ。恭介は、生け贄のために呼ばれたんだよ。物の怪に侵された妹の魂の代わりに、恭介のそれを移し変えて補う予定だって……糸目野郎が言ってた〟
鳴海の顔から表情が消えた。底の見えない空洞のような瞳が、ゆっくりと一之進に向けられる。
「何……それ」
理解しようとして、失敗する。例え友人の親がすることでも、心底理解できないこともあるのだと今日初めて鳴海は知った。
「そんなこと、まさか本当にお父さんが言い出したんじゃないよね……?」
せめて第三者の策略であってくれと、縋るような気持ちで質問する。一之進は優しい顔をしていたので、鳴海はほっとした。完全に油断したといって良かった。
〝どの家庭にも、理想的なお父さんがいる訳じゃねェよ〟
柔らかい表情で、そんなことを言った。それはぐずる子供をあやすかのような声だった。
「それは……そうだけど」
だから、鳴海はそれ以上何も言えなかった。
一之進は、犯罪だと騒ぎ立てる鳴海に賛同しながらも、まるであり得ないことだとは言わない。彼の生きた時代には、もしかしたらさして珍しくもないお家事情だったのかもしれない。
〝その儀式が行われるのは、今日の午前十時らしい。早くしねェと、恭介の命が危ない〟
一之進は、状況を端的に説明した。時計などどこにもなかったが、その日差しの高さが時間がないことを物語っていたので、悠長に構える人間は誰一人いなかった。
とにかく圭吾を探そう。そう一之進が提案する前に、大きな破壊音が響く。それは、余韻だけで畳を暫く揺らす程の勢いのある爆音だった。
〝っ、何だ……!?〟
一之進の声につられて、鳴海が視線を音のした方へと走らせる。コバルト・ブルーに光沢を含ませたようなシルバー。高貴な王様が身につける装飾品のように、華やかな霊気には見覚えがあった。
「今の、音がした方……圭吾のオーラが見えた……」
〝どういうことだよ?〟
「わ、わかんない……」
鳴海を問い詰めたところで、状況把握などはできない。一之進はすぐに頭を切り替えた。何による爆音であっても、圭吾が穏やかならざる状況に置かれていることは確かだった。
〝行くぞ! 圭吾を助けて、こんな馬鹿げたことはとっとと終わらせる!〟
一同、何ひとつ反論はなかった。パーティの中で唯一、霊圧を見極めるセンサーを持つ鳴海が弾丸のように先頭へ飛び出す。やや遅れて、一之進と和真もそれに倣った。
〝――圭吾!〟
名前を呼ばれた。テノールに、ほんの僅かなビブラートをかけたような低音のそれ。反射的に向けようとした切っ先を、手首に力を加えることで回避する。白虎のかたちどってくれた刀は、むやみやたらに振り回されるべきものじゃない。それはときどき怖くなる程、圭吾の指令に諾々と従うのだ。振り下ろす対象を間違える訳にいかなかった。
顔を向ける前に、圭吾の周りを柔らかいオレンジの光が取り囲む。誰による結界かなんて、考えるまでもない。それは、記憶を呼び起こすまでもなく鮮明な確信だった。あの世とこの世の狭間に向かった時も、悪霊と化した依頼者の兄と対峙した時も、そこにいる全員を、誰一人取り溢すことがないよう守りきると心に決めている優しい男の生み出すものだったから。
「一之進さん……!」
可視できる範囲から外れているから、圭吾にはその姿こそはっきりと見えなかったけれど。人情味溢れるその声だけで伝わってくる存在感や、悪徳商社の幹部のようだった友人の顔が元の年相応な表情に戻っていることから、ひとつの作戦の成功を知る。口元についたホコリを手の甲で拭い、圭吾は改めて鳴海を見遣った。
「無事だったのか」
「おいガキ! なめた真似してっと、ぶっ殺すぞ!」
「お陰さまで。っていうか、圭吾は何してんの?」
鳴海が快活に返答する前に、凡そ穏やかではない罵声が圭吾に浴びせられた。彼の周りを取り囲むように、数名の大人が肩をいからせて立っている。三十は越えていそうな男性が二名と、生活改善を提案したくなるぐらいには、でっぷりと太った中年男が一人。鳴海と同い年に見える若い少年が一人と、その斜め後ろで血気盛んに腕を回している男性が一人。各々鎌や鉈、刀のようなものを持っているが、最後の一人に関してはお前だけは素手でもどうにかできるのではと思う程に筋肉が隆々としている。彼ら全員を圭吾一人で相手していたのであれば、絵に描いたような多勢に無勢であった。
「今日の朝十時に、先輩の魂を使った儀式が行われるらしい。その時に、土屋のやり方に反目してる人間が挙って奇襲をかけてくる可能性があるから、そういうやつらから儀式の行われる場所を守って欲しいって言われたんだんだけど……案の定だったな」
どうやら既にこの中の誰かによって左頬を殴られたらしい圭吾が、口の中にたまった唾液混じりの血を吐いてから淡々と言った。
〝いやお前、人様の家の畳に躊躇いなく唾を吐くなよ〟
案外常識人であるところの一之進が、呆れたように小さな声で窘めた。
「頼まれたって……え、誰に?」
「先輩に」
「ちょ……ちょっと待ってよ!」
必要最低限の情報だけ呈示して、圭吾は鳴海に向かって鉈を振りあげた男を制すように刀を振り下ろす。その風圧に倒れた相手に更なる追撃をすべく、武器を構えた圭吾を鳴海が慌てて引き止めた。
「素直に言う通りにしていいの? だってそれって、恭ちゃんが生け贄に使われちゃう儀式なんでしょ……!?」
「……聞いてたのか」
「そんな話今はどうでもいいよ!」
殆ど悲鳴のような声だった。噛み合わない苛立ちを飲み込みながらも、鳴海は濁されかけた趣旨が曖昧になるのを許さなかった。
「奇襲をかけられるなんて、寧ろ絶好のチャンスじゃん!? いっそこの人たちに便乗して、こんなくだらない儀式なんか中断させれば良くない!? 恭ちゃんと、たっ君と一緒に、早くこんなところから逃げようよ!」
「それで、どうするんだ」
静かなトーンだった。圭吾は感情の読めない相貌で、じっと鳴海を見つめる。
「え……?」
「土屋先輩と、人質だった人間を連れて、どこまで逃げるんだ?」
「そ……れは」
〝鳴海!〟
一之進の声にはっとする。自身に投げられた灯籠をギリギリのタイミングで避けながら、鳴海は躊躇うように圭吾を振り返った。
〝今はちんたら話している余裕がねェ! 一旦圭吾の指示に従うぞ!〟
「でも……!」
〝圭吾は、恭介をただ単に見殺しにする策を、何のアテもねーのに易々と飲み込む男じゃねェだろ! 事情は後で聞く! 先にこいつらを何とかしねーと、落ち着いて話もできねーだろ!〟
それは確かに正論だったのに、何故か鳴海はうまく頷けなかった。そわそわとした、妙に落ち着かない不安が足元に漂っている。どうしてかなんて、説明はできなかったけれど。
〝くっそ……! やっぱり俺の霊気じゃあんまり役に立たねェな……!〟
一之進が満遍なく張っていた結界は、あまり効果をなさなかったようで。すぐに解き、それらのパワーを攻撃へと回したが、一之進の繰り出す霊気そのものでは、足止めするのさえ難しいようだった。
(変なこと、不安がってる場合じゃない)
鳴海自身、うまく説明のできない違和感だ。それをうまく飲み込むことに、躍起になる前にすることがあった。
奮闘する一之進の傍に駆け寄ることだって、そのうちのひとつだ。鳴海は美しい筋肉を惜しげもなく晒す唐紅の着物の裾を掴み、今できることを提案した。
「いち君、ここは任せて! 俺が霊気を……!」
がくり。突然体の力が抜け、へたりとその場にしゃがみこんでしまう。その持ち主である鳴海が一番驚いたような顔で、暫く状況を把握することもままならなかった。
〝鳴海……!?〟
「あ……れ、何で……?」
肩に手を添えて、こんな状況下でもまっすぐに鳴海だけを心配してくれる。気遣うようにしっとりとした肌に撫でられ、鳴海はふいに泣きたくなった。
〝無理もねェよ。人間の魂ってのは、その体を離れてる時間が長ければ長いほど、衰弱が激しいんだ。ましてやお前……酷使しすぎだろ、馬鹿〟
馬鹿、のところをそんなに優しく言わないで欲しい。鳴海はぎゅうっと目を閉じる。好きな子の前で、これ以上格好悪いところを見せたくはなかった。
「おいおい、余所見たァ随分余裕あるんじゃねーの?」
下卑た笑いを含ませながら、鎌を持った男が襖を蹴倒した。一之進は小さな竜巻を作り、指を回して大きく旋回させる。巻き込まれた襖を顔面に食らい、件の男は呻き声をあげながらもんどり打った。
〝和真、鳴海を見ててくれ。俺は圭吾の援護をしてくる〟
〝わ、わかりました……!〟
着物の裾を翻し、躊躇いなく戦闘の渦中へと進むその背中を、引き留める指が空しく弧を描いた。
(だめだ、このままじゃ勝てっこない)
鳴海の体を介在しなくなった一之進だけでは、できることに限りがあった。近くに転がった物だけをうまく利用して動くには、相手の反応によって判断しなければならないことが多い。それはこの戦局において、常に一歩遅れた状態にあるということ。
圭吾だって、結界を張ることに関しては不得手で、かといって、その霊力のすべてを攻撃に特化するには明らかに経験不足だ。徐々に単調な動きになっている刀の動きは、当たり前だけれどどこかの偉いひとに従事た流派がある訳でもない独学で。今はどうにか応戦しているが、じきに防戦一方になるだろう。
(こんなやり方、長くは続かない……!)
鳴海は叱咤した。圭吾でも、一之進をでもなく、自身の太腿をだ。これさえまともに動いて、しっかりと立ち上がって、何ならくるっと一回転なんかして見せたりして。「もう大丈夫だよ、俺の霊気を全部を使って」と一之進に提案するくらいのことができなければ、悪ぶってるくせにどこまでも優しいあの人は、簡単に首を縦には振らないだろう。
(動け、動け……!)
鳴海は、きつく拳を握って振り下ろした。骨と骨のぶつかる音が響く。こんなに守りたいのに。一之進といれば、自分は戦えるのに。お荷物になるだけの鳴海を、一之進だけがヒーローにしてくれるのに。
(動けよ……!)
ひたすら、拳を振り下ろしていた。痣になっても、鳴海の腕は止まらなかった。
戦況の不利には気づいていた。単純に、頭数という数えることのできる戦力に於いても、押されていることは明確だ。マンツーマンを貫き、スポーツマンシップに乗っ取った上で戦ってくれるような相手じゃない。すぐに前後は囲まれてしまうだろう。天井に張り巡らされた梁と、それぞれの柱の位置を確認する――多分、ここが限界。これ以上の侵入を許してしまうと、上手く切り落とすことはできないだろうから。
「……白虎」
〝はい〟
静かな声だったが、従順な動物霊はすぐに返事をしてくれた。
切り札はあった――けれど、それはたったひとつだけ。
必然、使うタイミングを厳選することになった。使ってしまえば、後は丸腰当然だ。だからって、出し惜しみをしていい局面ではなかった。一之進は後手に回っているし、鳴海の体力だって限界に近い。
(だったらもう、今しかないじゃないか)
恭介の言葉に従うと誓った。その時にもう、既に必要な覚悟は決めていたから。
「僕を信じてくれ」
〝はい〟
一泊も置かずに、白虎が返事をする。それは木々を伝い落ちる雪解けの山水のように、どこまでも透き通った声だった。
胸ポケットを探り、脱脂綿を取り出して口に放り込む。奥歯でしっかり噛んだそれから滲み出る血液を飲み込んでから、圭吾は刀を逆手に持ち変えた。
もしも、もしも――圭吾の信じた恭介の意図が何もかも的外れで、すべては自分達から戦うための切り札を奪い、恭介の救出を諦めさせ、外の世界に逃がすためだけの、あの上司の策略だったとしたら――。
(後、追いますからね)
圭吾は狙いを定め、その刀を大黒柱に突き立てた。
――瞬間、目を開けていられない程の閃光が全員を襲う。それは、その区画にだけ現れた、局所的なビッグ・バンだった。
渡り廊下の下を走っているだろう地脈エネルギーが爆発的に増加し、廊下の内側と外側にいる人間を隔離するかのような位置に、目映い光が現れ壁を作った。瞬く間に、それは圭吾たちの守ろうとしていた儀式の部屋ごと取り囲む大きな半円を作り、そのギリギリ外側にいた反乱分子たちは一様に吹っ飛ばされ気を失っている。
大きな結界は光を増すばかりで、突き刺した刀の柄を握り続ける圭吾から、恐ろしいスピードで膨大な霊力を奪っていった。
(あ……やばいかも)
根刮ぎ持っていかれる、と圭吾が嫌な予感と共に覚悟したその時に、狭い天井を旋回するかのような動きを見せて一匹の梟が姿を現した。
〝――圭吾!〟
その梟に先導されたかのようなタイミングで、犬神が飛び込んでくる。止まり木代わりに床の間の壺に着地した梟から一枚の羽を受け取った犬神は、口を器用に使って、それを柄の先端に押し当てた。
瞬間、接着剤でくっつけたように離れなくなっていた圭吾の手が柄からするりと離れ、暴力的にまで奪われていたエネルギーの供給をどうにか塞き止めることができたよう。自分じゃうまく閉められなかった蛇口の詮を閉めてもらえたことに安堵し、圭吾はずるずるとその場所にしゃがみこんだ。
「まったく……無茶をしおって」
「梟が喋った!」
力を振り絞って圭吾へと近づいていた鳴海が、さすがに違和感を見過ごせず叫んだ。折しも、それは圭吾も抱いた感想だった。口の中に含んだままだった綿を吐き捨てて、改めて鳥網フクロウ目フクロウ科フクロウ属に分類される鳥類を見遣る。
〝うわ、こいつまたひとんちで何か吐き捨てやがった〟
どうしても常識人であるところの一之進が、やんわりと圭吾の所業に突っ込んだ。
「あの……どちら様」
声にこそ聞き覚えはあったものの見た目の違いが余りにもあったため、悩んだ末に圭吾は、素直な質問をぶつけてみることにした。
〝馬鹿、楠師匠だよ。鳴海、一之進。安心しろ、味方だ〟
犬神が、その横で居住まいを正しながら言った。
「えっ……と、鳥ですよ?」
「梟じゃ馬鹿者」
動揺しつつもどうにか絞り出した質問は、あっさりと件の梟に訂正される。なるほど、その声は確かに楠のものだった。
「……梟の霊と、盟約を交わしてたとでもいうんです?」
「逆じゃよ。まあ、つもる話は機会があればいつか話そう」
片翼の先を広げて、パタパタと振られる。まるで人間の翳す掌に、制されたと思えるような仕草だった。
「さて圭吾……あのまま柄を握っておれば、その刀に霊力の殆どを搾り取られ、まともに立つこともできなくなっていたじゃろう。ひとまず、羽に溜め込んだ儂のエネルギーを使って制御を図ってやった。ああしておけば、お主が注ぎ込んだ力と地脈のパワーをキープしたまま、このレベルの結界を小一時間は維持できよう。しかし……」
太い眉を持ち上げて、呆れたように楠は言った。
「『地脈』と『穴』の話はしたが、まさか穴の力を根刮ぎ奪って、白虎の力に生かそうなどとはな……」
圭吾は、梟にも眉毛があるんだななどと、どうでもいいことを一人考えていた。
「普通なら地脈のエネルギーに押し負けてバランスが取れず、下手をしたら自滅していたぞ。お主、よっぽど結界を作る力に長けておるのか?」
〝あれ? でも圭吾って確か……結界とか、『守り』の力は割と弱かったよな……?〟
一之進が、今思い付いたというような口調で話に割って入ってきた。
「……ずっと、引っ掛かってたんです」
制服についた汚れをまるでやる気のない手つきで払いながら、圭吾が淡々と答えた。
「拓真さんの守護霊を説得するために霊門に向かった時、僕は確かに、一之進さんにそれを指摘されました。けれどその後で、土屋先輩の口の中に僕の舌を捩じ込んで口内炎から滲み出てた血液を舐めとり逃亡したことがあったんですけど」
「圭吾、言い方」
〝お前マジ何やってんだ〟
さすがに居たたまれなくなって窘めた鳴海の後ろで、一之進が真顔でひいていた。
「その直後に、白虎に指示を出して結界を張らせたところ、何故か烏丸さんの札から漏れていたオーラさえなければ、誰にも見つかることがないほど完璧な結界を作ることができたんです」
〝……ん? つまりどういうことだ?〟
一之進が、手をあげて質問を投げた。それは授業に追い付けない学生のような、たどたどしい声だった。
「土屋の血縁者でなければ、九尾を介した大きな盟約はできない。そう聞いていたので、最初は血筋を欺く目的で先輩の血液を摂取したんですけど……その時に、もしかしたら先輩の血液は血筋を高めるのみならず、一時的に霊力をあげる効果があるんじゃないかって気がついたんですよ」
〝いやいやお前、だったとしても、一体いつ恭介の血液を……〟
〝あっ、ああー!〟
問いを重ねる一之進の横で、犬神が飛び上がらんばかりに叫んだ。
「どうした犬神」
〝お前、だからあの時あんなねちっこい数珠の渡し方したのか!〟
〝数珠?〟
〝恭介に! これだけは持たせたいって! 数珠を!〟
犯人はこいつですと全世界に発信したいような心持ちで、犬神は前足をピンと伸ばして圭吾を指した。
「先輩の皮膚に直接触れる渡し方をしないと成立しない作戦だったので、致し方なくです。烏丸さんの死角になるような位置で、数珠を渡す素振りで腕の皮膚を引っ掻いて、いざという時に備えて血液を採取しておきました」
一之進はうわあと思ったが声には出さなかった。
〝烏丸が出てった後、そういやお前、脱脂綿か何かで爪を拭いてたな……!? あン時頬に怪我してたから、てっきりあれはお前の血だと思ってたんだが、恭介の……!〟
「あのタイミングで頬に怪我できたのは僥倖でした。お陰で先輩の血液が指先についていることも、うまくカモフラージュできましたから」
遅れて来た衝撃に耐えかねて、犬神は前足で器用に頭を抱える。一之進は腕を伸ばして、とりあえずその肩を叩き方向性のよく分からない激励を送った。
〝待て待て! そもそも何で都合よく脱脂綿なんか持ってたんだ!?〟
「ここに来るまでに、修学旅行に参加していたでしょう? ホテルのカウンターに置いてあったカッターナイフが原因で掌に怪我をしてしまったので、その時にたまたま多めにもらっていたんですよ」
〝……じゃあ、あの時恭介にキスしたのも……〟
へろへろな声で、犬神は最後の疑問点を確認した。
「勿論、烏丸さんに悟られないようにするためですよ。引っ掻き傷といえど、つく瞬間は痛いですから。僕が数珠を渡す振りをして血を掠め取ったことが呻き声でバレないように、あらかじめ口を塞いでおいたんです。特に理由もないのに、先輩にキスなんかする訳ないでしょう」
〝いやお前は特に理由もなくキスぐらいしそうだよ〟
そもそも職場の上司が声をあげないように口を塞ぐ方法を熟考した結果「キス」が選択肢上位に叩き出されるところだとか、突然恭介にキスをする不自然さは考慮しなかったのかだとか、あのキスによって確実に烏丸の理性はぶっ飛んだから結果的には良い心理戦を繰り広げているという事実がいっそ怖いだとか、言いたいことは湯水のように涌き出てきたが、犬神はそれらを全部飲み込んで穏やかに微笑んだ。
「待って……じゃあ、それってつまり……パワーアップできる切り札を、圭吾は持ってたってこと……?」
それまで黙って話を聞いていた鳴海が、急に口を開いて圭吾に聞いた。それは感情の見られない、ひどく機械的な声だった。
「そうなるな」
圭吾が簡易的に答える。鳴海はその瞬間、まるで動かなかった両足に、一気に血が廻ったのがわかった。それは踏み出す一歩となり、その勢いのまま圭吾の胸ぐらを掴む。
〝鳴海……!?〟
「何で!? 何でそれを今使っちゃうの!? 恭ちゃんを助ける時に、とっておくべきだったんじゃないのかよ……!?」
激昂に近い叫び声だった。圭吾は少し考えてから、視線を反らさずに答える。
「先輩が、絶対にここを守れって言った」
「それがほんとの最善かなんて、わかんないだろ……!? 恭ちゃんが自分の命と引き換えて俺らを守るために、そう言ったって可能性だってあるじゃん! 考えろよ!!」
〝な、鳴海……でも圭吾も、もしかしたら〟
「助けに来たんだろ!!」
宥めようとする一之進の優しい手を振り払って、鳴海は喉をも削りそうな勢いで叫んだ。それは全員に共通した目的だと信じていたから、ここまで頑張れた。だからこそ、圭吾の態度が許せなかった。
〝鳴海……落ち着け。圭吾もそれはわかってるよ、大丈夫だ〟
犬神が、柔らかい声でそう言った。それは駄々を捏ねる幼稚園児を、毛布でくるんで寝かせる時のような響きを含んでいた。
「確認しに行くか」
唐突に楠が言った。それは水面に投げられた小石のように、確かな波紋を作る明瞭な声だった。
「え……?」
毛繕いに似た仕草で自身に嘴を立てながら、胸元から何枚かの羽を毟る。空気抵抗を受けひらひらと畳へ落ちるそれらが無事着地するにはそれなりの時間が掛かったが、全員で静かに眺めることになった。不思議な空気感だった。
「儂の羽には、屍布と同等の効果がある」
「……屍布って?」
鳴海が、無表情のまま聞き返す。
「胸ポケットにでも入れておけば、その存在を他の人間に悟られることがないようにできるという呪具じゃ。但し、羽を持つ者同士の存在は認識できる。所謂、猫型ロボットのアニメに出てくる、石ころ何とかという帽子みたいなものじゃ」
〝楠師匠。いろいろギリギリです〟
神妙な声で、犬神が突っ込んだ。
「その目で、確認しに行くといい。自分達が守ったものが、選んだ未来が、どのような結果を迎えているのかを」
「鳥さん……」
〝楠師匠な〟
目を潤ませて感嘆の声をあげる鳴海に、聞き過ごす訳にはいかない部分だけ犬神はやんわりと訂正した。
〝ここで揉めてたって埒あかねーし、そうしようぜ。んで、納得いかない展開になるなら、全部ぶち壊しゃあいいんだよ〟
既にぶち壊す気まんまんな人間じゃなきゃそこまて筋肉を解さないだろうという勢いで、肩を回しながら一之進が明るく言った。まるで何でもないことをただ口にしたかのような、朗らかで曇りのない声だった。
「わかった。取り乱してごめん……圭吾がそれを選ぶんなら、とりあえず従うよ。だけど」
幾分か落ち着いたらしい鳴海が、少しだけ表情を和らげて言った。シワの寄ってしまった圭吾の制服の胸元を指先でならしながらも、ギロッと睨むことは忘れない。
「恭ちゃんと、心中するつもりなら許さないからな!」
ドン、と最後に胸を叩かれ、その襟元はあっさりと解放される。
痛いところを突かれたなと圭吾は思った。誤魔化すでもなく、曖昧に笑う。反射的に浮かんだ苦笑の意味を、鳴海は追求しなかった。
恭介を信じて命じられたその言葉に従うか、或いは、何もかもを投げ捨てて、欲しいものだけ拐って逃げるが。
どちらを選ぶかなんて、まだちっとも決まってやしないのに、平等に朝はやって来るのだ。
楠の口から語られた恭介の過去は、いずれ落ち着いたら本人が話してくれるだろうなどと暢気に構えていた圭吾の頭を、真上から打ち砕くような衝撃のあるものだった。
――落ち着いたら?
――今よりもっと、仲良くなれば?
そんな日々を幾ら重ねたところで、きっと本人の口から語られることはないだろう。あんな凄惨な過去を自ら復習するかのように、なぞるように、改めて組み立て直すように――頭から言葉にして、初めて聞く誰かにもわかるように事細かに伝えるだなんて、恭介の心を、再びナイフでずたずたに切り裂くのと同意だった。
今更触れることも叶わない過ぎ去ったそれらの事実がすべて、言葉になった途端に軽くなって消滅するだなんて魔法がこの世にないことは圭吾でもわかっている。恭介が密かに背負い続けるその荷物は、きっとどんなに甘い言葉を注いでも、さも共感したかのような顔を演じてみせても、ほんの少しだって軽くなどならないと圭吾は正しく理解した。抱えていくつもりなのだ――あの人は、ずっと。誰かに半分持ってもらおうなんて、考えもしないのだろう。自分に危害を加えようとした人間に負わせた傷さえも――二度と動かなくなった彼らの下半身や、左腕などに向けた懺悔もすべて、一生ひとりで。
本当は、このままどこかへ連れ去ってしまいたかった。これまで一切気に掛けたこともないようなどうでもいい事情に振り回されることもなく、圭吾以外には頼る人間のいないところへ。そうして最果てまで連れて行って、他の誰も知らないような場所へ閉じ込めてしまいたい。そうしたらきっと、意地っ張りなあの人も自分にだけ甘えてくれるに違いない。頭を撫でて、柔らかくその頬を包んで、着るものも、食べるものも、すべて圭吾の手で与えてやるのだ。もう何ひとつ傷つかなくていいし、寝不足になるまで資料を漁るなんてこともしなくていい。頑張らなきゃならないことは何もない、穏やかで静かな時間を与えてあげたかった。
必要なことは全部、圭吾が代わりにやればいい。そうして三年経ってしまったら、おそらく圭吾一人の努力では叶わないこともある。恭介の命は、残酷な盟約によって奪われてしまうだろう。その時にもしかしたら、少しだけ後悔するかもしれないけれど。最期の最期まであの人をひとりじめできるのなら、それも悪くない気がした。閉じた世界に二人だけ、互いの息遣いさえ感じられるような距離で、その瞬間を迎えるのだ――もし、ひとりきりであの世に行くのが心細いなら、圭吾の魂だって手土産に持っていけばいい。
(こんなことを考えてるなんて知られたら、犬神さんに怒られるかもしれないな)
犬神だけじゃない。きっと他の誰だって納得はしないだろう。現実はわかっていた。どんなに想い描いたって、できることと、できないことがある。世界は平等なんかじゃない。約束された、確実で安全な未来などはなく、進むと決めた道を、何の障害もないように整えてくれる誰かなんかいない。
(本当は僕だって、あの人の命を諦めたくはない)
圭吾は、少しだけ泣きたい気持ちになった。それでも、朝日は少しずつ空へと登ってゆく。
世界は、見せかけだけの明るい光に満ちていた。
――ちょっと思いついたことがあるんだ。
そう言ってすたすたと先を行く鳴海を慌てて追いかけながら、和真は漂う空気に僅かな違和感を覚えていた。それははっきりと言葉にするには今一歩及ばない程に、明瞭で且つ漠然とした齟齬だった。
〝ど……どちらへ〟
〝んーとね、ここに居るのも飽きちゃったから、外に出ようと思って〟
〝外?〟
まるでドアの開閉ひとつで、簡単に外の世界に行けるかのような口調だった。
〝で……ですが、私達は今、魂を金魚の中に……〟
〝思ったんだけどさ〟
ころりとどこかへ転がってしまうのではないかと見ているこっちが不安になるほど大きな目をぱちぱちさせてから、鳴海は桜色の唇を仄かに尖らせながらあっさりと言ってのけた。
〝それって、言ってるの智也さんって人だけだよね?〟
和真は宇宙空間に一人で取り残されたような、壮大な孤独を味わっていた。
〝そ……れは、どういう……?〟
〝さっき、和真さんと話してる時に隙間風の音が聴こえたの。水の中にいるにしては、籠ってる感じしなくて……ちゃんとクリアに聴こえたんだよね〟
言われてみれば、僅かに外の音が聞こえている。それは木々が葉を揺する音だったり、誰かがパタパタと忙しなく廊下を歩く音だったり。そのどれもこれもが、膜をひとつ隔てているとは思えないような近い音。
有り体にいえば、臨場感があった。
〝そもそもさ、お互い金魚の中に閉じ込められたっていうなら、こんな距離感で相手の声が聞こえなきゃ成り立たない話なんか、できないと思わない? 別に手足とか、金魚の尾ヒレや胸ビレになってる感覚はないし。水の中にいるっていう息苦しさもないよね?〟
〝じゃあ……魂を閉じ込めたって言うのは嘘……?〟
〝まるっきり嘘と言うより、暗示に近いのかも。何もかも突然だったし、露骨に金魚鉢持ってたし。あまつさえご丁寧に本人がそう言ってるから、うっかり信じ込んじゃったけど。実際は、どこか別の……シェルターのような空間に、一時的に捕獲されてるって感じなんだよね〟
和真の感じていた僅かな違和を、鳴海が目の前で具現化し、組み立てていく。正体不明だった筈のそれは、このあどけない子供のような少年の手によって、少しずつその形を現し、ひとつの疑念と可能性を導きだしていた。
〝詳しいことはわからないけど……相手に金魚鉢を見せて、移し替えの術に関する説明をするのが、対象を暗示に……というより催眠? にかける発動条件だったんじゃないかな?〟
〝……それって、何が違うんです?〟
しかしながら、どこかに幽閉されているという現状は覆せない。実際はそうじゃなかったとしても、脱出できなければ大差はないように思えた。
〝全然違うでしょ。だって催眠なら、解けたら出られるよ?〟
何でもないことのように、あっさりと鳴海が言った。暗示を解く鍵のひとつもないという絶望的な状況下を加味した上で、そうかそれなら全然違うよなぁと相手に思わせるような朗らかな声だった。
〝まあでも、おとなしく解いてもらうのを待つつもりはないけどね。本当に、金魚の中に閉じ込められてる訳じゃないなら、打開策もあるし〟
新しい遊びを思い付いた小学生のような顔で、鳴海が和真を覗き込んだ。それは、危ないことはよしなさいという大人の言葉を無邪気に叩き潰し、且つねじ伏せるような、得も言われぬ迫力のある声だった。
〝さっきから気になってたんだけど、あそこのオーラが一番不安定みたい。穴をあける場所としては最適かな〟
〝無理だと思います〟
和真は即答した。明確な論拠のある落ち着いた声だった。
〝どうして?〟
〝私は……一人でここに閉じ込められてから、既にもう何度か、あちこちに霊気の弾を当ててみました。しかし、まるで効果はないのです〟
既に実験済みの方法に関しては、結果を添えたデータと明示すれば納得してもらえるだろう。和真は淡々と、実体験に基づいた事実を述べた。
〝俺も最近知ったんだけど、死んでる人間の霊気は、生きている人間のそれに干渉できないんだって〟
〝は……?〟
〝つまりさ、それは俺の霊気を混ぜたら、無理だったこともひっくり返るってこと〟
和真は息を飲んだ。それは、大の大人が怯む程クレバーな声だった。
〝この部屋を結界代わりに囲ってるオーラの急所がどこなのか、俺には正確に、全部視えてる〟
言葉の通り迷いのない指先が、一ヶ所の空間を迷いなく指した。
〝絶対、出られるよ。俺を信じて。力を貸してくれる?〟
〝……み、鳴海!〟
気持ち良く寝ていたというのに、乱暴に肩を揺すられる。まるで凍てつく大地に放り投げられていた体を、足元からゆっくりとぬるま湯に浸けているような感覚。痺れた手足が血の巡りを感じるようになって、鳴海は漸く重たい目を開いた。
「えっ……いち君……!?」
信じられない近距離まで顔を近づけている想い人を目の前にして、瞼を開いた瞬間の幸福に鳴海は思わず飛び上がった。ぎしりと音を立てながら、どうにか左手を動かし刺激の強いその顔を押し返す。まるでプールから上がった直後のような倦怠感があったが、偽物みたいな体は徐々に鳴海の精神に馴染んでくれたよう。死後硬直のように固まりかけていた指先を、握ったり開いたりして自分のものだということを確かめる。僅かな強張りはあったものの、それらは鳴海の意思通りに動いた。
〝良かった。気が付いたみたいだな〟
「俺……体に戻ってる……?」
目の前で、心底安堵したように笑いながら一之進が言った。それは見慣れた自分の顔などではなく、精悍で、けれどどこか純朴さの残る切れ長の一重だった。わざとじゃないかと思える程絶妙なラインで肌を露出させている着崩した着物も、その裾から覗くバランスのいい筋肉も、すべて鳴海にはないものだ。
〝急に耳元ですげーでけェ風の音が鳴って、押し出されるようにお前の体から出ちまったんだよ。どうやったのか知らねェが、無事金魚から出られたんだろ? お前の魂が解放されたから、本来あるべき体に引っ張られたんだな」
魂はあまり長い間自分の体を離れているのは良くないからだとか、一種の事故防衛みてェなもんだとか、現状を一切理解できていない鳴海のためにと滔々と解説してくれている一之進には悪かったが、鳴海の心はおとなしくそれらの講釈を聞いていられない程歓喜に満ちていた。
「良かった……無事だったんだね」
〝そりゃこっちの台詞だろーが!〟
無防備に晒された右肩をそっと撫でながら再会を果たせた喜びを噛み締めていたら、同じように無事を願っていてくれていただなんて可愛いことを一之進が叫ぶものだから、思わずにやけてしまう。こんなにも、鳴海の頭の中を一気に桜色に染めあげてしまうような人間は、世界中探したって一之進しかいないだろう。
本当は投げたままの告白の返事も聞かせて欲しいところだったが、目下それどころじゃない緊急事態のさなかにいることはわかっているので、そっと鎖骨に額を擦り付けるだけに留めておく。神社に戻ったら覚えてろよという念だけはしっかり込めて。ぶるりと、一之進の背が震えた気がした。
〝お前は……和真か〟
鳴海の魂に引っ張られるようにして、和真もこちらへ連れてこられたらしい。一之進の斜向かいで所在なく佇んでる姿を視界に留めたのであろう彼は、本人確認をするかのように問い掛けた。
〝じゃあ、拓真がお前を助けるために、恭介たちを裏切ってたってのは本当なんだな〟
〝……〟
拓真の行為に理由があったことに、寧ろほっとしたような声で一之進が確認する。目を伏せて、和真は静かに頭を下げた。
詫びのつもりではなかった。事実を正面から受け入れてくれたことへの、和真なりの感謝が表れた行為だった。
〝そんなことすんな。皆ができることをやって、守りたいもんを守っただけだ。要は最終的に、全員無事で帰るべきところに帰れりゃそれでいいんだよ〟
「そうだよ~! もう俺お腹ペッコペコ! たっ君拾って、圭吾と合流したらすぐに帰ろうね!」
一之進の首にするりと腕を巻き付けて、猫のように頬を擦り寄せながら鳴海がはしゃぐ。
〝言わなきゃならねェことがある〟
そのしなやかな腕を、やんわりと外しながら一之進が言った。ひどく深刻な声だった。
「何」
〝恭介が、この家に連れてこられた本当の理由だ〟
「えっ……恭ちゃんここに来てるの!? 何で!? っていうか……ここ、どこだっけ?」
連れ去られたことに思考が持ってかれていたけれど、改めてこの場所がどういった施設なのかは考えたことがなかった。今更鳴海は、しっかりした梁の巡らされた天井を見遣る。
〝土屋の実家だ。鳴海が連れ去られたのも、元々は恭介の家の事情だったんだよ。妹の体調が思わしくないからって、恭介を跡目にするためにお前が人質にとられたんだ〟
「ほぼ犯罪!」
軽快な声で鳴海が叫んだ。叫んだ後に、ほぼも何もしっかり犯罪だと改めて思った。
「うわー……それ言い出したのお父さん? 超自己中じゃん。ドン引きなんですけど……」
あからさまにないわという顔で、鳴海が口を歪める。沖縄の瓦屋根に見られる独特の仏像のような顔だった。
〝……だが、それも表向きの事情だったみてェだぜ〟
言いにくそうに目を反らし、一之進は唇を噛んだ。
〝お家騒動では、なかったということですか……?〟
〝金魚鉢を探していた時に、糸目野郎と圭吾が話してるのを聞いちまったんだ。恭介は、生け贄のために呼ばれたんだよ。物の怪に侵された妹の魂の代わりに、恭介のそれを移し変えて補う予定だって……糸目野郎が言ってた〟
鳴海の顔から表情が消えた。底の見えない空洞のような瞳が、ゆっくりと一之進に向けられる。
「何……それ」
理解しようとして、失敗する。例え友人の親がすることでも、心底理解できないこともあるのだと今日初めて鳴海は知った。
「そんなこと、まさか本当にお父さんが言い出したんじゃないよね……?」
せめて第三者の策略であってくれと、縋るような気持ちで質問する。一之進は優しい顔をしていたので、鳴海はほっとした。完全に油断したといって良かった。
〝どの家庭にも、理想的なお父さんがいる訳じゃねェよ〟
柔らかい表情で、そんなことを言った。それはぐずる子供をあやすかのような声だった。
「それは……そうだけど」
だから、鳴海はそれ以上何も言えなかった。
一之進は、犯罪だと騒ぎ立てる鳴海に賛同しながらも、まるであり得ないことだとは言わない。彼の生きた時代には、もしかしたらさして珍しくもないお家事情だったのかもしれない。
〝その儀式が行われるのは、今日の午前十時らしい。早くしねェと、恭介の命が危ない〟
一之進は、状況を端的に説明した。時計などどこにもなかったが、その日差しの高さが時間がないことを物語っていたので、悠長に構える人間は誰一人いなかった。
とにかく圭吾を探そう。そう一之進が提案する前に、大きな破壊音が響く。それは、余韻だけで畳を暫く揺らす程の勢いのある爆音だった。
〝っ、何だ……!?〟
一之進の声につられて、鳴海が視線を音のした方へと走らせる。コバルト・ブルーに光沢を含ませたようなシルバー。高貴な王様が身につける装飾品のように、華やかな霊気には見覚えがあった。
「今の、音がした方……圭吾のオーラが見えた……」
〝どういうことだよ?〟
「わ、わかんない……」
鳴海を問い詰めたところで、状況把握などはできない。一之進はすぐに頭を切り替えた。何による爆音であっても、圭吾が穏やかならざる状況に置かれていることは確かだった。
〝行くぞ! 圭吾を助けて、こんな馬鹿げたことはとっとと終わらせる!〟
一同、何ひとつ反論はなかった。パーティの中で唯一、霊圧を見極めるセンサーを持つ鳴海が弾丸のように先頭へ飛び出す。やや遅れて、一之進と和真もそれに倣った。
〝――圭吾!〟
名前を呼ばれた。テノールに、ほんの僅かなビブラートをかけたような低音のそれ。反射的に向けようとした切っ先を、手首に力を加えることで回避する。白虎のかたちどってくれた刀は、むやみやたらに振り回されるべきものじゃない。それはときどき怖くなる程、圭吾の指令に諾々と従うのだ。振り下ろす対象を間違える訳にいかなかった。
顔を向ける前に、圭吾の周りを柔らかいオレンジの光が取り囲む。誰による結界かなんて、考えるまでもない。それは、記憶を呼び起こすまでもなく鮮明な確信だった。あの世とこの世の狭間に向かった時も、悪霊と化した依頼者の兄と対峙した時も、そこにいる全員を、誰一人取り溢すことがないよう守りきると心に決めている優しい男の生み出すものだったから。
「一之進さん……!」
可視できる範囲から外れているから、圭吾にはその姿こそはっきりと見えなかったけれど。人情味溢れるその声だけで伝わってくる存在感や、悪徳商社の幹部のようだった友人の顔が元の年相応な表情に戻っていることから、ひとつの作戦の成功を知る。口元についたホコリを手の甲で拭い、圭吾は改めて鳴海を見遣った。
「無事だったのか」
「おいガキ! なめた真似してっと、ぶっ殺すぞ!」
「お陰さまで。っていうか、圭吾は何してんの?」
鳴海が快活に返答する前に、凡そ穏やかではない罵声が圭吾に浴びせられた。彼の周りを取り囲むように、数名の大人が肩をいからせて立っている。三十は越えていそうな男性が二名と、生活改善を提案したくなるぐらいには、でっぷりと太った中年男が一人。鳴海と同い年に見える若い少年が一人と、その斜め後ろで血気盛んに腕を回している男性が一人。各々鎌や鉈、刀のようなものを持っているが、最後の一人に関してはお前だけは素手でもどうにかできるのではと思う程に筋肉が隆々としている。彼ら全員を圭吾一人で相手していたのであれば、絵に描いたような多勢に無勢であった。
「今日の朝十時に、先輩の魂を使った儀式が行われるらしい。その時に、土屋のやり方に反目してる人間が挙って奇襲をかけてくる可能性があるから、そういうやつらから儀式の行われる場所を守って欲しいって言われたんだんだけど……案の定だったな」
どうやら既にこの中の誰かによって左頬を殴られたらしい圭吾が、口の中にたまった唾液混じりの血を吐いてから淡々と言った。
〝いやお前、人様の家の畳に躊躇いなく唾を吐くなよ〟
案外常識人であるところの一之進が、呆れたように小さな声で窘めた。
「頼まれたって……え、誰に?」
「先輩に」
「ちょ……ちょっと待ってよ!」
必要最低限の情報だけ呈示して、圭吾は鳴海に向かって鉈を振りあげた男を制すように刀を振り下ろす。その風圧に倒れた相手に更なる追撃をすべく、武器を構えた圭吾を鳴海が慌てて引き止めた。
「素直に言う通りにしていいの? だってそれって、恭ちゃんが生け贄に使われちゃう儀式なんでしょ……!?」
「……聞いてたのか」
「そんな話今はどうでもいいよ!」
殆ど悲鳴のような声だった。噛み合わない苛立ちを飲み込みながらも、鳴海は濁されかけた趣旨が曖昧になるのを許さなかった。
「奇襲をかけられるなんて、寧ろ絶好のチャンスじゃん!? いっそこの人たちに便乗して、こんなくだらない儀式なんか中断させれば良くない!? 恭ちゃんと、たっ君と一緒に、早くこんなところから逃げようよ!」
「それで、どうするんだ」
静かなトーンだった。圭吾は感情の読めない相貌で、じっと鳴海を見つめる。
「え……?」
「土屋先輩と、人質だった人間を連れて、どこまで逃げるんだ?」
「そ……れは」
〝鳴海!〟
一之進の声にはっとする。自身に投げられた灯籠をギリギリのタイミングで避けながら、鳴海は躊躇うように圭吾を振り返った。
〝今はちんたら話している余裕がねェ! 一旦圭吾の指示に従うぞ!〟
「でも……!」
〝圭吾は、恭介をただ単に見殺しにする策を、何のアテもねーのに易々と飲み込む男じゃねェだろ! 事情は後で聞く! 先にこいつらを何とかしねーと、落ち着いて話もできねーだろ!〟
それは確かに正論だったのに、何故か鳴海はうまく頷けなかった。そわそわとした、妙に落ち着かない不安が足元に漂っている。どうしてかなんて、説明はできなかったけれど。
〝くっそ……! やっぱり俺の霊気じゃあんまり役に立たねェな……!〟
一之進が満遍なく張っていた結界は、あまり効果をなさなかったようで。すぐに解き、それらのパワーを攻撃へと回したが、一之進の繰り出す霊気そのものでは、足止めするのさえ難しいようだった。
(変なこと、不安がってる場合じゃない)
鳴海自身、うまく説明のできない違和感だ。それをうまく飲み込むことに、躍起になる前にすることがあった。
奮闘する一之進の傍に駆け寄ることだって、そのうちのひとつだ。鳴海は美しい筋肉を惜しげもなく晒す唐紅の着物の裾を掴み、今できることを提案した。
「いち君、ここは任せて! 俺が霊気を……!」
がくり。突然体の力が抜け、へたりとその場にしゃがみこんでしまう。その持ち主である鳴海が一番驚いたような顔で、暫く状況を把握することもままならなかった。
〝鳴海……!?〟
「あ……れ、何で……?」
肩に手を添えて、こんな状況下でもまっすぐに鳴海だけを心配してくれる。気遣うようにしっとりとした肌に撫でられ、鳴海はふいに泣きたくなった。
〝無理もねェよ。人間の魂ってのは、その体を離れてる時間が長ければ長いほど、衰弱が激しいんだ。ましてやお前……酷使しすぎだろ、馬鹿〟
馬鹿、のところをそんなに優しく言わないで欲しい。鳴海はぎゅうっと目を閉じる。好きな子の前で、これ以上格好悪いところを見せたくはなかった。
「おいおい、余所見たァ随分余裕あるんじゃねーの?」
下卑た笑いを含ませながら、鎌を持った男が襖を蹴倒した。一之進は小さな竜巻を作り、指を回して大きく旋回させる。巻き込まれた襖を顔面に食らい、件の男は呻き声をあげながらもんどり打った。
〝和真、鳴海を見ててくれ。俺は圭吾の援護をしてくる〟
〝わ、わかりました……!〟
着物の裾を翻し、躊躇いなく戦闘の渦中へと進むその背中を、引き留める指が空しく弧を描いた。
(だめだ、このままじゃ勝てっこない)
鳴海の体を介在しなくなった一之進だけでは、できることに限りがあった。近くに転がった物だけをうまく利用して動くには、相手の反応によって判断しなければならないことが多い。それはこの戦局において、常に一歩遅れた状態にあるということ。
圭吾だって、結界を張ることに関しては不得手で、かといって、その霊力のすべてを攻撃に特化するには明らかに経験不足だ。徐々に単調な動きになっている刀の動きは、当たり前だけれどどこかの偉いひとに従事た流派がある訳でもない独学で。今はどうにか応戦しているが、じきに防戦一方になるだろう。
(こんなやり方、長くは続かない……!)
鳴海は叱咤した。圭吾でも、一之進をでもなく、自身の太腿をだ。これさえまともに動いて、しっかりと立ち上がって、何ならくるっと一回転なんかして見せたりして。「もう大丈夫だよ、俺の霊気を全部を使って」と一之進に提案するくらいのことができなければ、悪ぶってるくせにどこまでも優しいあの人は、簡単に首を縦には振らないだろう。
(動け、動け……!)
鳴海は、きつく拳を握って振り下ろした。骨と骨のぶつかる音が響く。こんなに守りたいのに。一之進といれば、自分は戦えるのに。お荷物になるだけの鳴海を、一之進だけがヒーローにしてくれるのに。
(動けよ……!)
ひたすら、拳を振り下ろしていた。痣になっても、鳴海の腕は止まらなかった。
戦況の不利には気づいていた。単純に、頭数という数えることのできる戦力に於いても、押されていることは明確だ。マンツーマンを貫き、スポーツマンシップに乗っ取った上で戦ってくれるような相手じゃない。すぐに前後は囲まれてしまうだろう。天井に張り巡らされた梁と、それぞれの柱の位置を確認する――多分、ここが限界。これ以上の侵入を許してしまうと、上手く切り落とすことはできないだろうから。
「……白虎」
〝はい〟
静かな声だったが、従順な動物霊はすぐに返事をしてくれた。
切り札はあった――けれど、それはたったひとつだけ。
必然、使うタイミングを厳選することになった。使ってしまえば、後は丸腰当然だ。だからって、出し惜しみをしていい局面ではなかった。一之進は後手に回っているし、鳴海の体力だって限界に近い。
(だったらもう、今しかないじゃないか)
恭介の言葉に従うと誓った。その時にもう、既に必要な覚悟は決めていたから。
「僕を信じてくれ」
〝はい〟
一泊も置かずに、白虎が返事をする。それは木々を伝い落ちる雪解けの山水のように、どこまでも透き通った声だった。
胸ポケットを探り、脱脂綿を取り出して口に放り込む。奥歯でしっかり噛んだそれから滲み出る血液を飲み込んでから、圭吾は刀を逆手に持ち変えた。
もしも、もしも――圭吾の信じた恭介の意図が何もかも的外れで、すべては自分達から戦うための切り札を奪い、恭介の救出を諦めさせ、外の世界に逃がすためだけの、あの上司の策略だったとしたら――。
(後、追いますからね)
圭吾は狙いを定め、その刀を大黒柱に突き立てた。
――瞬間、目を開けていられない程の閃光が全員を襲う。それは、その区画にだけ現れた、局所的なビッグ・バンだった。
渡り廊下の下を走っているだろう地脈エネルギーが爆発的に増加し、廊下の内側と外側にいる人間を隔離するかのような位置に、目映い光が現れ壁を作った。瞬く間に、それは圭吾たちの守ろうとしていた儀式の部屋ごと取り囲む大きな半円を作り、そのギリギリ外側にいた反乱分子たちは一様に吹っ飛ばされ気を失っている。
大きな結界は光を増すばかりで、突き刺した刀の柄を握り続ける圭吾から、恐ろしいスピードで膨大な霊力を奪っていった。
(あ……やばいかも)
根刮ぎ持っていかれる、と圭吾が嫌な予感と共に覚悟したその時に、狭い天井を旋回するかのような動きを見せて一匹の梟が姿を現した。
〝――圭吾!〟
その梟に先導されたかのようなタイミングで、犬神が飛び込んでくる。止まり木代わりに床の間の壺に着地した梟から一枚の羽を受け取った犬神は、口を器用に使って、それを柄の先端に押し当てた。
瞬間、接着剤でくっつけたように離れなくなっていた圭吾の手が柄からするりと離れ、暴力的にまで奪われていたエネルギーの供給をどうにか塞き止めることができたよう。自分じゃうまく閉められなかった蛇口の詮を閉めてもらえたことに安堵し、圭吾はずるずるとその場所にしゃがみこんだ。
「まったく……無茶をしおって」
「梟が喋った!」
力を振り絞って圭吾へと近づいていた鳴海が、さすがに違和感を見過ごせず叫んだ。折しも、それは圭吾も抱いた感想だった。口の中に含んだままだった綿を吐き捨てて、改めて鳥網フクロウ目フクロウ科フクロウ属に分類される鳥類を見遣る。
〝うわ、こいつまたひとんちで何か吐き捨てやがった〟
どうしても常識人であるところの一之進が、やんわりと圭吾の所業に突っ込んだ。
「あの……どちら様」
声にこそ聞き覚えはあったものの見た目の違いが余りにもあったため、悩んだ末に圭吾は、素直な質問をぶつけてみることにした。
〝馬鹿、楠師匠だよ。鳴海、一之進。安心しろ、味方だ〟
犬神が、その横で居住まいを正しながら言った。
「えっ……と、鳥ですよ?」
「梟じゃ馬鹿者」
動揺しつつもどうにか絞り出した質問は、あっさりと件の梟に訂正される。なるほど、その声は確かに楠のものだった。
「……梟の霊と、盟約を交わしてたとでもいうんです?」
「逆じゃよ。まあ、つもる話は機会があればいつか話そう」
片翼の先を広げて、パタパタと振られる。まるで人間の翳す掌に、制されたと思えるような仕草だった。
「さて圭吾……あのまま柄を握っておれば、その刀に霊力の殆どを搾り取られ、まともに立つこともできなくなっていたじゃろう。ひとまず、羽に溜め込んだ儂のエネルギーを使って制御を図ってやった。ああしておけば、お主が注ぎ込んだ力と地脈のパワーをキープしたまま、このレベルの結界を小一時間は維持できよう。しかし……」
太い眉を持ち上げて、呆れたように楠は言った。
「『地脈』と『穴』の話はしたが、まさか穴の力を根刮ぎ奪って、白虎の力に生かそうなどとはな……」
圭吾は、梟にも眉毛があるんだななどと、どうでもいいことを一人考えていた。
「普通なら地脈のエネルギーに押し負けてバランスが取れず、下手をしたら自滅していたぞ。お主、よっぽど結界を作る力に長けておるのか?」
〝あれ? でも圭吾って確か……結界とか、『守り』の力は割と弱かったよな……?〟
一之進が、今思い付いたというような口調で話に割って入ってきた。
「……ずっと、引っ掛かってたんです」
制服についた汚れをまるでやる気のない手つきで払いながら、圭吾が淡々と答えた。
「拓真さんの守護霊を説得するために霊門に向かった時、僕は確かに、一之進さんにそれを指摘されました。けれどその後で、土屋先輩の口の中に僕の舌を捩じ込んで口内炎から滲み出てた血液を舐めとり逃亡したことがあったんですけど」
「圭吾、言い方」
〝お前マジ何やってんだ〟
さすがに居たたまれなくなって窘めた鳴海の後ろで、一之進が真顔でひいていた。
「その直後に、白虎に指示を出して結界を張らせたところ、何故か烏丸さんの札から漏れていたオーラさえなければ、誰にも見つかることがないほど完璧な結界を作ることができたんです」
〝……ん? つまりどういうことだ?〟
一之進が、手をあげて質問を投げた。それは授業に追い付けない学生のような、たどたどしい声だった。
「土屋の血縁者でなければ、九尾を介した大きな盟約はできない。そう聞いていたので、最初は血筋を欺く目的で先輩の血液を摂取したんですけど……その時に、もしかしたら先輩の血液は血筋を高めるのみならず、一時的に霊力をあげる効果があるんじゃないかって気がついたんですよ」
〝いやいやお前、だったとしても、一体いつ恭介の血液を……〟
〝あっ、ああー!〟
問いを重ねる一之進の横で、犬神が飛び上がらんばかりに叫んだ。
「どうした犬神」
〝お前、だからあの時あんなねちっこい数珠の渡し方したのか!〟
〝数珠?〟
〝恭介に! これだけは持たせたいって! 数珠を!〟
犯人はこいつですと全世界に発信したいような心持ちで、犬神は前足をピンと伸ばして圭吾を指した。
「先輩の皮膚に直接触れる渡し方をしないと成立しない作戦だったので、致し方なくです。烏丸さんの死角になるような位置で、数珠を渡す素振りで腕の皮膚を引っ掻いて、いざという時に備えて血液を採取しておきました」
一之進はうわあと思ったが声には出さなかった。
〝烏丸が出てった後、そういやお前、脱脂綿か何かで爪を拭いてたな……!? あン時頬に怪我してたから、てっきりあれはお前の血だと思ってたんだが、恭介の……!〟
「あのタイミングで頬に怪我できたのは僥倖でした。お陰で先輩の血液が指先についていることも、うまくカモフラージュできましたから」
遅れて来た衝撃に耐えかねて、犬神は前足で器用に頭を抱える。一之進は腕を伸ばして、とりあえずその肩を叩き方向性のよく分からない激励を送った。
〝待て待て! そもそも何で都合よく脱脂綿なんか持ってたんだ!?〟
「ここに来るまでに、修学旅行に参加していたでしょう? ホテルのカウンターに置いてあったカッターナイフが原因で掌に怪我をしてしまったので、その時にたまたま多めにもらっていたんですよ」
〝……じゃあ、あの時恭介にキスしたのも……〟
へろへろな声で、犬神は最後の疑問点を確認した。
「勿論、烏丸さんに悟られないようにするためですよ。引っ掻き傷といえど、つく瞬間は痛いですから。僕が数珠を渡す振りをして血を掠め取ったことが呻き声でバレないように、あらかじめ口を塞いでおいたんです。特に理由もないのに、先輩にキスなんかする訳ないでしょう」
〝いやお前は特に理由もなくキスぐらいしそうだよ〟
そもそも職場の上司が声をあげないように口を塞ぐ方法を熟考した結果「キス」が選択肢上位に叩き出されるところだとか、突然恭介にキスをする不自然さは考慮しなかったのかだとか、あのキスによって確実に烏丸の理性はぶっ飛んだから結果的には良い心理戦を繰り広げているという事実がいっそ怖いだとか、言いたいことは湯水のように涌き出てきたが、犬神はそれらを全部飲み込んで穏やかに微笑んだ。
「待って……じゃあ、それってつまり……パワーアップできる切り札を、圭吾は持ってたってこと……?」
それまで黙って話を聞いていた鳴海が、急に口を開いて圭吾に聞いた。それは感情の見られない、ひどく機械的な声だった。
「そうなるな」
圭吾が簡易的に答える。鳴海はその瞬間、まるで動かなかった両足に、一気に血が廻ったのがわかった。それは踏み出す一歩となり、その勢いのまま圭吾の胸ぐらを掴む。
〝鳴海……!?〟
「何で!? 何でそれを今使っちゃうの!? 恭ちゃんを助ける時に、とっておくべきだったんじゃないのかよ……!?」
激昂に近い叫び声だった。圭吾は少し考えてから、視線を反らさずに答える。
「先輩が、絶対にここを守れって言った」
「それがほんとの最善かなんて、わかんないだろ……!? 恭ちゃんが自分の命と引き換えて俺らを守るために、そう言ったって可能性だってあるじゃん! 考えろよ!!」
〝な、鳴海……でも圭吾も、もしかしたら〟
「助けに来たんだろ!!」
宥めようとする一之進の優しい手を振り払って、鳴海は喉をも削りそうな勢いで叫んだ。それは全員に共通した目的だと信じていたから、ここまで頑張れた。だからこそ、圭吾の態度が許せなかった。
〝鳴海……落ち着け。圭吾もそれはわかってるよ、大丈夫だ〟
犬神が、柔らかい声でそう言った。それは駄々を捏ねる幼稚園児を、毛布でくるんで寝かせる時のような響きを含んでいた。
「確認しに行くか」
唐突に楠が言った。それは水面に投げられた小石のように、確かな波紋を作る明瞭な声だった。
「え……?」
毛繕いに似た仕草で自身に嘴を立てながら、胸元から何枚かの羽を毟る。空気抵抗を受けひらひらと畳へ落ちるそれらが無事着地するにはそれなりの時間が掛かったが、全員で静かに眺めることになった。不思議な空気感だった。
「儂の羽には、屍布と同等の効果がある」
「……屍布って?」
鳴海が、無表情のまま聞き返す。
「胸ポケットにでも入れておけば、その存在を他の人間に悟られることがないようにできるという呪具じゃ。但し、羽を持つ者同士の存在は認識できる。所謂、猫型ロボットのアニメに出てくる、石ころ何とかという帽子みたいなものじゃ」
〝楠師匠。いろいろギリギリです〟
神妙な声で、犬神が突っ込んだ。
「その目で、確認しに行くといい。自分達が守ったものが、選んだ未来が、どのような結果を迎えているのかを」
「鳥さん……」
〝楠師匠な〟
目を潤ませて感嘆の声をあげる鳴海に、聞き過ごす訳にはいかない部分だけ犬神はやんわりと訂正した。
〝ここで揉めてたって埒あかねーし、そうしようぜ。んで、納得いかない展開になるなら、全部ぶち壊しゃあいいんだよ〟
既にぶち壊す気まんまんな人間じゃなきゃそこまて筋肉を解さないだろうという勢いで、肩を回しながら一之進が明るく言った。まるで何でもないことをただ口にしたかのような、朗らかで曇りのない声だった。
「わかった。取り乱してごめん……圭吾がそれを選ぶんなら、とりあえず従うよ。だけど」
幾分か落ち着いたらしい鳴海が、少しだけ表情を和らげて言った。シワの寄ってしまった圭吾の制服の胸元を指先でならしながらも、ギロッと睨むことは忘れない。
「恭ちゃんと、心中するつもりなら許さないからな!」
ドン、と最後に胸を叩かれ、その襟元はあっさりと解放される。
痛いところを突かれたなと圭吾は思った。誤魔化すでもなく、曖昧に笑う。反射的に浮かんだ苦笑の意味を、鳴海は追求しなかった。
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