41 / 73
アンリミテッド・スノーマンの情景
12.
しおりを挟む「あー満足しましたわ。私は帰ります」
マジで何しに来たんだこいつ……。
ネコと一緒に居るうちに病んでしまったのだろうか……。
『アルマ……惜しい人亡くしたわね』
勝手に殺すな。
「おい、俺達の事は気にしなくていい。六竜だとか神に選ばれただとかそんなのは抜きにして話を進めさせてくれ。ここで何か問題が起きていると聞いて来たんだが?」
爺さんに対して話を促しつつも、小声でジオタリスには「バラすなって言った筈だよな……?」と睨みをきかせておいた。
別に今更こいつをどうにかする気は無いけれど、約束を破った事に関してのお仕置きはしてやらないと気が済まない。
ジオタリスは怯えた瞳でプルプルと頭を抱えていた。
「で、では……何から話せばいいものかのう……」
爺さんは「うーん」と唸って、黙ってしまった。
「なんだ? そんなにややこしい事になってるのか?」
「いや、逆に大した問題ではないのじゃよ。ただし、真偽のほどを確かめる手段も無く……儂としてはどうでもいいんじゃが本人たちが騒ぐのでなぁ」
「全然話が見えてこないんだが」
「とにかく、じゃ。お主等の面接は勿論合格じゃ、後は直接里の中で本人たちに話を聞いてもらうのが早かろう」
爺さんが「よっこいしょーいち」とか言いながら立ち上がり、俺達に付いて来るように告げて歩き出す。
爺さんが扉を開けると、突然ユミルが倒れ込んできた。
「あわわわっ!」
事もあろうに爺さんはそれに驚いてユミルを避けてしまったので、慌てて地面とユミルの間に滑り込んでその身体を受け止める。
どうやら扉に寄り掛かっていたらしい。内開きの扉だったからとはいえ、こんなお約束展開をやらかしてくるとはこのユミルって子もなかなかやるな。
「おい、大丈夫か?」
「す、すすすすいませんっ!!」
顔を真っ赤にして俺の上から飛び起き、爺さんをぽかぽか叩く。
「終わったら呼んで下さいって言ったじゃないですかーっ!」
「ほっほっほ、すまんすまん。この人達をあの連中の所へ案内するぞ」
「分かりました。ではこちらへ」
俺達を爺さんが、爺さんをユミルが先導する形で先程の廊下正面、大きな扉まで移動する。
爺さんがぼそっと呪文を唱えると、扉がゆっくりと開いていく。
俺はその呪文をしっかりと聞いていた。どうやら自由に設定できるらしい。
なぜそう思ったかと言えば、聞き覚えのある言葉だったから。
「開けゴマ」とか……安易というかふざけているというか。
しかもそれを唱えた瞬間こちらをチラリと見て笑ってたのがなんとも茶目っ気満載である。
で、だ。
扉の中は獣人だらけの地下世界。
天井にはかなり明るい光源が付けられているらしく暗くて困るような事はなさそうだ。
しかも直接見ても眩しくない。
建物は地下に元々あった物なのか、この世界の文明レベルよりかなり進んだデザインだった。
突然現れた俺やジオタリスに驚く事もなく、獣人たちは次々に爺さんに挨拶をして、俺達にもぺこりと頭を下げていく。
ここに入ったという事は信じられる相手、という事だろうか?
だとしたら許可を与えている爺さんへの信頼はそれほど厚いという事だろう。
爺さんたちに連れていかれたのは他の建物よりも小さい家。新入り用とでもいったところか。
「ここじゃよ。なかなかに癖のある奴等じゃから驚くかもしれんが、とにかく話を聞いてやってくれ」
言われた通り、俺はスライド式の扉を開け中に入る。
すると……。
「きゃぁぁぁぁっ!! ノックも無く扉を開けるなんてどんな非常識野郎ですの!?」
……獣人がお着替えの真っ最中だった。
『らっきーすけべってやつかしら?』
いやぁ……完全に見た目タヌキだからあまり嬉しくはないかなぁ。
そう、そこにいたのはタヌキ型の獣人。獣要素が結構多い感じ。全身毛に覆われていて、顔はほんとタヌキ。
人型をしてるタヌキがお着替えをしていた所に押し入った形になる。
「す、すまん……ちょっとお前らに用事があって来たんだ。後ろ向いてるから着替え済ませちゃってくれよ」
「馬鹿言うんじゃありませんわ! 扉を閉めなさい!」
それもそうだ。一応レディのようだからこちらも人間と変わらないように対応しないと失礼という物だろう。
彼女の言う通り外に出て着替えが終わるのを待つ事数分。
先程のタヌキとは違って今度は白い毛並みの背の低い犬獣人が扉を開けて出てきた。
「……準備ができた。入ってもいいとの事だが……くれぐれも失礼の無いように」
お前らはどこのお偉いさんだっての。
「む……? き、貴様がなんでこんな所に!?」
犬が俺達の誰かを見てとても驚いていたが、中から「早くお通しなさいまし!」と催促の声が聞こえてきた為犬獣人は大人しく俺達を中へ導き入れた。
爺さんとユミルは、また後で合流するとの事でどこかへ行ってしまった。
きっと面倒そうだから逃げたに違いない。
タヌキ獣人も俺達のうち一人に釘付けになって固まってしまった。
「じ、ジオタリス……?」
「へ? 俺? 俺獣人の知り合いは居ないと思うが……」
「ジオぉぉぉっ!!」
どごっ!!
タヌキ獣人が勢いよくジオタリスに飛びつき、彼は壁に叩きつけられた。
「ぐはっ! こ、この感じ……覚えがあるぞ……!! あんたまさか……!?」
「やっとわたくしを知ってる人間に出会えましたわ! 早くここの皆さまにわたくしが人間だと証明してくださいまし!」
「や、やっぱり……」
どうやらジオタリスとタヌキは知り合いらしい。でも獣人の知り合いはいないと……。
いや、人間だって言い張ってるのが事実だとしたら、外見が獣人なだけで人間の知り合いって事か?
「こんな所で何を……というか、そのお姿はどうしてしまったんですか、姫」
……ひめ?
ひめって、あの?
姫? お姫様? リリア帝国の?
「それはそれはもうとっても大変な事情がてんこもりなのですわ! 詳しくお話しますから中へ入りなさい! そちらの従者の方々もどうぞこちらへ」
……おいおい誰が、誰の従者だって?
0
お気に入りに追加
182
あなたにおすすめの小説

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?


鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
神様の手違いで、俺がアイツに狙われるなんて!?~縁結びの神様、マジで勘弁してください!
中岡 始
BL
「彼女ができますように!」
恋愛成就を願い神社を訪れた高校生・鈴村涼希。
だが、翌日から超絶イケメン同級生・霧島要が異常に構ってくるようになった――。
「お前が俺の運命の人、らしい」
「いやいやいや、違うから!! 俺は女の子と恋愛したいんだ!!」
どうやら、縁結びの神・大国主命の手違いで、涼希と要の「最高の縁」が結ばれてしまったらしい!?
以降、席替え、体育祭――なぜかすべてで要とペアになってしまう涼希。
さらに要の「運命の恋人」ムーブは加速するばかり!
壁ドン、顎クイ、甘やかし…その上、妙に嫉妬深い!?
「お前、本気で俺のこと何とも思わないの?」
必死で否定する涼希だったが、要の隣にいると、なぜか心がざわついて――?
これは、「運命」から始まった恋の物語。
彼らが選ぶ未来は、神に定められたものか、それとも――。
じれったくて、甘くて、時々切ない、縁結びラブコメBL!
涼希と要の恋の行方を、どうか見届けてほしい。
イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です
はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。
自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。
ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。
外伝完結、続編連載中です。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる