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人体実験
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数日後、僕と奨君は駅前のマンションでエレベーターを待っていた。
龍治さんに「自宅に遊びに行きたい!」と半ば無理やり約束を取り付けたのだ。
奨君はお礼をしないと気が済まないから、と言っていたが、おそらく自分の推察が正しいかどうか確かめたいのだろう。
手に持ったエコバッグが手に食い込んで痛い。
右手と左手交互に持ち替えて負担を減らしながら運ぶ。
奨君も同じくらいの重さのエコバッグを引きずるように運んでいた。
エレベーターで三階まで上がり、301号室の呼び鈴を押した。
龍治さんは勉強をしていたのか、シャープペンを持ったまま出迎えてくれた。
邪魔をしたかな、と僕は恐縮したが、奨君は相変わらず気にしていないようだった。
「いなり寿司をもらったんだ。一緒に食べない?」
奨君は手に持ったエコバッグを龍治さんに見せながら言った。
本当は貰ったのではなく買ったのだが、奨君なりの気遣いだろう。
「狐と言ったら油揚げじゃん?」
学校の帰りに、奨君はお礼の品を買おうと僕をスーパーへ誘った。
せっかくお礼をするのなら好きなものをあげたほうがいいと、スーパーに着くや否や惣菜コーナーに向かい、大量のいなり寿司をカゴに入れ始めた。
なけなしのお小遣いでいなり寿司と油揚げを買い、ここまで来たのである。
「おー、ありがとう。とりあえず上がれよ」
広いLDKはいつ来ても綺麗に片付けられていて、居心地がいい。
龍治さんも、同居している親戚の人も几帳面なんだろうと推測する。
ダイニングテーブルの上に大量のいなり寿司を並べると、箸などを用意していた龍治さんは目を丸くした。
「この量食べるのか? 五人前はあるぞ?」
「遠慮しないで食べてください! あ、油揚げもありますよ!」
「いや、そんな食わねえって! なんでこんな油揚げばっかり買ってきたんだよ」
龍治さんはちょっと引いているようで、笑顔が引き攣っていた。
奨君の予想が外れ、僕は焦って隣の奨君を小突いた。
「え? 油揚げ好きじゃないの?」
奨君は心底驚いたようだ。
「いや、普通に食べるけど……大好物ってわけじゃ……」
「龍治さん、油揚げ大好きなのかと思ったのに……」
奨君は自分の推理が外れてショックを受けたようだ。
動揺している彼を久しぶりに見た。
「いや、食べるよ!? 食べるけど! 一体何がお前達にそう思わせたんだよ……」
龍治さんはかなり引き攣った苦笑いを浮かべた。
僕は思ってません! と心の中で叫んだが、そんなことをしても無意味だということは分かっていた。
「実は、奨君は龍治さんのことを狐だと思っていたんです」
僕は観念して白状した。
そこで奨君は、先日僕に話したものと同じ自論を龍治さんに伝えた。
「よくそんな事考えたな……」
龍治さんは呆れていたが、目の奥が笑っていた。
結構めちゃくちゃな事を言ったけど、怒ってはいないようだ。
「安倍晴明みたいに狐の子なのかと思ったのに」
奨君は頬を膨らませていじけた。
「がっかりさせて悪いが、俺の母親は正真正銘の人間だよ。それに狐が好きな油揚げっていうのは、コレじゃなくて別の物だ。まあいいさ、食おうぜ」
「別のものって何ですか?」
僕は割り箸を割りながら聞いた。
「食事前には聞かないほうがいいぞ」
「気にしないので教えてください」
「ネズミを油であげたもの」
「聞かなかったことにします」
「そうそう、煌に頼みたい事があってさ」
「え? 僕に?」
僕は食べかけのいなり寿司をポロッとテーブルに落とした。
「これ、わさび入ってるー。辛いー」
奨君は相変わらずのマイペースぶりだ。
何が起こっても動じない図太さ、いつのまに彼はEQが高くなったんだ。
龍治さんに「自宅に遊びに行きたい!」と半ば無理やり約束を取り付けたのだ。
奨君はお礼をしないと気が済まないから、と言っていたが、おそらく自分の推察が正しいかどうか確かめたいのだろう。
手に持ったエコバッグが手に食い込んで痛い。
右手と左手交互に持ち替えて負担を減らしながら運ぶ。
奨君も同じくらいの重さのエコバッグを引きずるように運んでいた。
エレベーターで三階まで上がり、301号室の呼び鈴を押した。
龍治さんは勉強をしていたのか、シャープペンを持ったまま出迎えてくれた。
邪魔をしたかな、と僕は恐縮したが、奨君は相変わらず気にしていないようだった。
「いなり寿司をもらったんだ。一緒に食べない?」
奨君は手に持ったエコバッグを龍治さんに見せながら言った。
本当は貰ったのではなく買ったのだが、奨君なりの気遣いだろう。
「狐と言ったら油揚げじゃん?」
学校の帰りに、奨君はお礼の品を買おうと僕をスーパーへ誘った。
せっかくお礼をするのなら好きなものをあげたほうがいいと、スーパーに着くや否や惣菜コーナーに向かい、大量のいなり寿司をカゴに入れ始めた。
なけなしのお小遣いでいなり寿司と油揚げを買い、ここまで来たのである。
「おー、ありがとう。とりあえず上がれよ」
広いLDKはいつ来ても綺麗に片付けられていて、居心地がいい。
龍治さんも、同居している親戚の人も几帳面なんだろうと推測する。
ダイニングテーブルの上に大量のいなり寿司を並べると、箸などを用意していた龍治さんは目を丸くした。
「この量食べるのか? 五人前はあるぞ?」
「遠慮しないで食べてください! あ、油揚げもありますよ!」
「いや、そんな食わねえって! なんでこんな油揚げばっかり買ってきたんだよ」
龍治さんはちょっと引いているようで、笑顔が引き攣っていた。
奨君の予想が外れ、僕は焦って隣の奨君を小突いた。
「え? 油揚げ好きじゃないの?」
奨君は心底驚いたようだ。
「いや、普通に食べるけど……大好物ってわけじゃ……」
「龍治さん、油揚げ大好きなのかと思ったのに……」
奨君は自分の推理が外れてショックを受けたようだ。
動揺している彼を久しぶりに見た。
「いや、食べるよ!? 食べるけど! 一体何がお前達にそう思わせたんだよ……」
龍治さんはかなり引き攣った苦笑いを浮かべた。
僕は思ってません! と心の中で叫んだが、そんなことをしても無意味だということは分かっていた。
「実は、奨君は龍治さんのことを狐だと思っていたんです」
僕は観念して白状した。
そこで奨君は、先日僕に話したものと同じ自論を龍治さんに伝えた。
「よくそんな事考えたな……」
龍治さんは呆れていたが、目の奥が笑っていた。
結構めちゃくちゃな事を言ったけど、怒ってはいないようだ。
「安倍晴明みたいに狐の子なのかと思ったのに」
奨君は頬を膨らませていじけた。
「がっかりさせて悪いが、俺の母親は正真正銘の人間だよ。それに狐が好きな油揚げっていうのは、コレじゃなくて別の物だ。まあいいさ、食おうぜ」
「別のものって何ですか?」
僕は割り箸を割りながら聞いた。
「食事前には聞かないほうがいいぞ」
「気にしないので教えてください」
「ネズミを油であげたもの」
「聞かなかったことにします」
「そうそう、煌に頼みたい事があってさ」
「え? 僕に?」
僕は食べかけのいなり寿司をポロッとテーブルに落とした。
「これ、わさび入ってるー。辛いー」
奨君は相変わらずのマイペースぶりだ。
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