近未来怪異譚

洞仁カナル

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遺伝子改造

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 話に夢中になりすぎて、気づいたら目的地についていた。


この田舎町の端に聳え立つ小さめの山ーー無骨山。


山の麓の登山コースには古びたロープが一本張られて、立ち入り禁止の看板が建てられていた。


その看板も相当古くなっており、文字がだいぶ霞んでいた。


本当に立ち入りを禁止する気があるのかと腹が立つ。


もっと厳重に入れないようにすれば悲劇は生まれなかったのではないかと思うが、まあ一部の人を除き、誰も近づきたがらないから対処もしないのだろう。


登山コース入り口には一部の人が置いていった花やバイオプラスチックで包まれたお菓子などが備えられている。


僕たちは来る途中に買っていた花を備えた。


僕はカスミソウ、奨君は白式部の枝、それぞれお父さんが好きだった花だ。


僕のお父さんは四歳の時、奨君のお父さんは三歳の時に行方不明となった。


奨君とは小学一年生の時から知り合ったが、話していくうちに父親が行方不明になったこと、偶然にも、この無骨山で行方をくらましたと思われることが分かった。


警察によると僕のお父さんはいなくなる前この辺りで最後の目撃情報があり、奨君のお父さんも同じような状況だったらしい。


僕のお父さんも奨君のお父さんも、登山をしていたわけでなく散歩中にいなくなった。


登山が趣味だったわけではないお父さんが、なぜこの無骨山で姿を消したのか不可解だが、捜索が打ち切られてしまった以上どうすることもできない。



この無骨山は行方不明者が数多く出ている危険な山だ。


登山口付近でハイキングして帰ってくる人がいうには普通の山と変わりないそうだが、どうにも奥に入ると行方不明となってしまうらしい。


ドローンなどで上空から見渡しても分からない、何か不可解な謎がこの山にはあるのではないかとも言われている。


奨君が怪奇現象などを信じているのも、僕が否定しないのもこの山が原因だ。



「入ったら最後、死体はおろか骨も戻ってこないことから無骨山。昔からそんな風に言われてるらしいよ」



前に奨君が言っていた言葉だ。


そんな恐ろしい山にどうしてお父さんが入っていってのか、今でも分からない。



合掌して目を閉じ、ここ一か月あったことを心の中でお父さんに報告する。


お母さんのこと、学校のことがほとんどだ。


拝み終わり、僕が目を開けると、奨君はすでに目を開けていた。


待たせた事を詫び、帰ろうとした時、目の端に、いつも見ている風景には無い何かがちらついた。



「あれ、何かな?」



数メートル先の草むらに、白い塊があるのが見えた。


キノコか何かかと思ったが、もぞもぞと動いている。


不思議に思った僕たちは、恐る恐る近づいた。


しゃがんで白い物体を観察する。


僕の拳より一回り大きく、白いふわふわの毛でおおわれている。


黒い点が二つ付いている以外は何も特徴がない。


「なんだこの白いマリモ?」


「この黒いのが目かな?」


小刻みに震えて僕の足元に擦り寄ってくる。


どことなく寂しそうな仕草に僕の心が疼く。


なんとなく既視感のあるような姿に、僕の心はすでに捕らわれてしまっていたのかもしれない。



「煌君に懐いてるよ。どうするの?」


「うーん、置いていくのもなー」



僕は白い物体を持ち上げた。


思った以上に毛の体積が大きく、身体までは届かない。


そして体温が感じられない奇妙な生き物だった。



「連れて帰るよ。押し入れで育てて、お母さんの期限がいい時に打ち明けてみる」


「この子も遺伝子改造された生物なのかな」


「そうかもしれないね。白いマリモが動くようになったのかもよ」


「じゃあ植物ってこと?」


「マリモって植物なの?」


「なんだと思ってたの?」


自分の無知さ加減に恥ずかしくなった僕は、誤魔化すように少し先に視線を移した。


すると、もう一匹白い生き物がいることに気づいた。


するとそのもう一匹はもぞもぞと結構なスピードで奨君の足元に近づいた。



「奨君もなつかれちゃったね」



しかたない、と言って奨君は白い生き物を持ち上げた。



僕たちは一匹ずつパートナーを手のひらに乗せて無骨山を後にした。



「君はいなくならないでくれよ」



僕は奨君に聞こえないようにそっと白い生き物に囁いた。

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