宝箱を開けたら

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14.エルフ族

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「私はエルフ族の族長であるダリドの娘、カタルバだ」

「アドだ。ドルビドから話は聞いている」

 部屋にいるのは俺とドルビド、カタルバの3人だ。
 フィー達には自由行動をしてもらっている。

「盗賊の件はすまなかった。こちらを受け取って欲しい」

 テーブルに袋が置かれる。聞こえてきた音からして、金貨でも入っているのだろう。

「許すわけではないが、謝罪は受け取ろう」

「ありがとう。では単刀直入に、鬼を討伐して欲しい。
 報酬は私たちにできることならなんでもする。
 欲しいものがあったら言ってくれ。渡せるものならなんでも渡す覚悟がある」

「…どうして俺が鬼を討伐できると思ったのかは知らない。
 エルフ族や王国の騎士団が討伐できずに封印した鬼を、俺が討伐するのは無理だと思うぞ?」

「あの力があれば鬼を討伐することができると予想している」

「あの力? 鬼人化か?」

「あの時のアドは、まさに鬼だった。
 私たちの森にいる鬼は、鬼にしか殺すことができないと思われる」

 マサから聞いていた。
 自分では気づかなかったが鬼人化を使用すると角が生えていたそうだ。

 その姿は鬼だったと言っていた。

「どうしてそう思う?」

「鬼の素材で作られた武器でなければ、あの鬼を傷つけられなかったからだ。
 封印するのさえ、鬼の魔石を媒体にしなければ封印できなかった」

 なるほど。鬼の希少種ということか。
 同族にしか殺されない。

 稀に現れると記憶している。通常の武器で傷をつけることはできるが、すぐに再生してしまう魔物。

「また封印することはできないのか?」

「鬼の魔石があれば可能だ。すぐに用意できるのか?」

「無理だ。10日に一度しか鬼は現れない。鬼が現れなければ、討伐することはできない」

「あの魔石を売って、10日は経っていないか」

「そういうことだ。鬼の討伐か」

「引き受けてはもらえないだろうか?」

 正直に言えば討伐することは不可能だ。
 死ぬ未来しか見えない。

 しかしエルフ族の報酬は欲しい。もしも不老の呪いが消えた時、その代わりとなるものをエルフ族が持っている可能性があるからだ。

 長寿の種族なので予想もできないアイテムもあるかもしてない。多分だが黒い粉はエルフ族からドルビドが買ったものだろうと予想できる。

 あの美しいとさえ言える髪を晒したままでは目立つからな。

 それに昔はエルフ狩りなんてものがあったそうだ。よく深い人族がやりそうなことだ。

 人族から隠れる術を持っていてもおかしくはないだろう。

「すぐに頷くことはできない。死にたくないんでな」

「そうか…」

「だから情報が欲しい。鬼を直接見てみたい。そのあとで、依頼を受けるかどうか決めさせてもらう」

「では!」

「ドルビド。護衛の依頼はどこまでだ?」

「エルフ族が住む森までです」

「ということだ。運が良かったな」

「ありがとう!」

「まだお礼を言うのは早いと思うが」

「そんなこともないでしょ?」

「俺はできることしかやらないぞ」

「はい。知っていますよ」

 なんだか何もかもお見通しという感じだった。店を出て宿に向かう。フィー達に話すのは夜でいいだろう。

「というわけで、エルフ族の森に行くこととなった」

「足を引っ張らないよう頑張ります!」

「鬼なんて真っ二つにしてやる!」

「次の相手は鬼ですか。強いんでしょうね。ふふっ」

「ルナちゃん、こえぇよ。はぁ、鬼退治とか桃太郎みたいだな」

「モモタロウというのは知らないが、まだ鬼と戦うと決まったわけじゃない。手に負えない相手だったら逃げるから、そのつもりでな」

 まあ多少は戦うことになると思う。

「「「「はい」」」」

「あ、アドさん。2の迷宮に入れるようになったら、鬼がいるっていう隠し部屋に連れてってくれるんですか?」

「そこまで攻略できたらな」

「じゃあ俺も、鬼人化使えるようになるんですね!」

「さあな。どうやって手に入れたのか俺もわからないスキルだからな」

「あ、それはわかってるんで大丈夫です」

 鑑定か。本当に便利なスキルだな。

「出発は予定通り明日だ。もう夕方だがしっかりと体を休めてくれ。解散」

 各々の部屋に戻って夕食の時間になるまで休憩する。カタルバからの謝罪としてもらった臨時収入があるので、少し豪華な夕食となった

 深夜。扉をノックする音で目が覚めた。

「ん? 誰だ?」

「ご、ご主人様。入ってもよろしいでしょうか?」

「その声はルナか? いいぞ」

 何かあったのだろうか? 声が震えている。

「ご主人様。行っては、ダメです」

 扉を開けて入ってきたルナが俺の姿を見ると飛びついてきた。

 まさか抱きつかれるとは思わなかったので、ルナに押し倒されるような形になってしまった。

「どうした?」

 泣いているのが分かる。ルナを落ち着かせるように頭に手をやり優しく撫でる。

「落ち着いたか?」

「は、はい。すみません」

「何があった?」

 やっと落ち着いたルナに問いかける。父親と娘ほど歳が離れているとはいえ、そろそろ限界だったのでホッとした。

「夢を、見ました。ご主人様が殺される夢です」

「夢か。ただの夢じゃないのか?」

「だと思います。夢のはずなのに現実のような光景でした。
 ご主人様、気をつけてください」

「わかった。俺も死にたくはないからな」

「…ご主人様、一緒に寝てもよろしいでしょうか?」

「俺の理性が残っているうちに部屋へ戻って欲しいんだが」

「あ、えっと、大丈夫、です」

「それはどっちの意味だ?」

「ご主人様の、いじわる」

 謝罪の意味も込めてルナを抱きしめて、頭を優しく撫でる。そのままベッドに倒れて、眠りにつこうとしたが、

「しないん、ですか?」

 ルナの額にキスをして、おやすみと耳元で囁く。

「ヘタレ、ですね。おやすみなさい、ご主人様」

 朝。目がさめるとルナの姿はなかった。フィーが起きる前に部屋へ戻ったのかもしれない。

 何もなかった。理性が勝ったのだ。

 窓を開けて新鮮な空気を吸う。何とは言わないが、鎮まって行くのを感じる。

 顔を洗いに行くか。

「今日はエルフ族の森に向かう。
 案内人のカタルバだ」

「よろしく」

 同じ宿に泊まっているのは昨日の時点で知っていたので、朝のうちにフィー達へ紹介しておく。

「「「「よろしくお願いします」」」」

「やっぱりエルフって美人だな」

「マサ、気持ち悪いぞ」

「ルナさん、いつものことですよ」

「嫉妬かな?」

「「死ね」」

 右からルナに左からフィーに足を蹴られて倒れるマサにカタルバが手を差し伸べる。

「大丈夫か?」

「大丈夫です!」

 嬉しそうにカタルバの手を握るマサを、ルナとフィーは無言で見ていた。

 2人はマサが好きなのだろうか?

「「ないです!」」

 どうやら声に出していたらしい。

 朝食を済ませてドルビドとの待ち合わせ場所に向かう。美人を引き連れているからか、周りから視線を感じる。

「アドさん、おはようございます」

 ドルビドと合流して街を出る。カタルバの案内でエルフ族の森を目指す。

「2日も歩けば到着する。魔物も出てこないし盗賊もいない。定期的にエルフ族の戦士が見回りをしているからな。
 エルフ族がいつも森の中いるわけではない。森で取れた野菜や果物と肉なども交換するために街を利用しているからな」

「なるほどな。そのつながりでドルビドと知り合ったのか」

「商人とつながっておくのが一番楽だが、ドルビドと知り合ったのは私たちの森に迷い込んできたことがあったからだ」

「お恥ずかしい話、魔物に襲われてパニックを起こしてしまって、護衛とはぐれて魔物から逃げていたら、カタルバさんに助けられたんです」

 あの時は若かったとドルビドは呟く。

「やはり黒い粉はエルフ族が持っていたのか?」

「はい。髪の色を変えるものがないか聞いたところ、あの粉と作成方法を教えもらいました」

 エルフ族と商談できるというのは商人からすれば喉から手が出るほど欲しいものだ。

 隠しておきたいのもわかる。

 何事もなくエルフ族の森に到着した。カタルバの案内がなければ森の中で迷っていたかもしれないな。

「大丈夫です。私は一度見たものを忘れないので」

 ドルビドがいれば迷うことはないようだ。帰りは案内なしで帰ることができるということか。

「覚えたところで迷うようになっているはずなんだが、ドルビドは1人でくることもあるからな。おかしな奴だよ」

「それほどでもありませんよ」

 木に家が建っている。よくあれに住める。落ちたら怪我ではすまないぞ。

「ようこそ、エルフ族の村へ」

 数人の美男美女に出迎えられる。エルフ族は皆、容姿が整っているというのは、本当だったようだ。

 マサが喜んでいるのを見てルナとフィーが足を踏んだのを、俺は見なかったことにした。
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