宝箱を開けたら

riki

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4.忌み子

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 俺の名前はオーギス。

 忌み子って言われてる。
 忌み子って何だか知らないけどよく殴られた。

 今日おとーさんと会った!
 お姉ちゃんは違うっていうけど、あれはおとーさんだ。

 抱きしめてくれるし頭も撫でてくれる。
 殴ったりもしないしおいしいご飯をくれる。

 わかってる。

 本当のおとーさんじゃない事は。
 俺が捨てられたことは、わかってる。

 忌み子だから。

 けれど忌み子の俺でもいいと言ってくれた人だ。
 おとーさんって呼んで、甘えたかった。

 彼は拒まなかった。うれしかった。

 本当のおとーさんだったらよかったのに。

 俺は、この人のために生きる。
 そう決めたんだ。




 私の名前はフィルド。

 元貴族。借金の返済のために売られた。

 弟は忌み子。
 本当の弟じゃないけど、私の大切な弟。

 オーギスとの出会いは森の中。

 従姉の姉さんとピクニックに行った時だった。

 森から大きな音が聞こえたから姉さんと見に行った。

 小さな体に不釣り合いな大木を片手で軽々と持ち上げている、少年の姿があった。

 紫の髪、左目は赤、右目は青。
 歪だけど、綺麗だと思った。

 こちらを睨んでくる少年にゆっくりと近づいていく。
 もっと、近くで見たかったから。

 隣にいた姉さんが私を止めようとしていたが、私は止まることなく近づいた。

「君、名前は?」

「…オ、ギス」

「オーギス?」

 コクリと少年は頷いた。
 私が話しかけたことでオーギスは警戒を解いてくれた。

「私はフィルド」

「…おねえ、ちゃん」

「うん。お姉ちゃんだよ」

 オーギスの手から大木が落ちた。
 ドンッと音が森に響くと同時にオーギスが倒れこんできた。

 倒れてきたオーギスを受け止める。
 眠っていた。

 近づいてきた姉さんにオーギスを見せる。
 普通の、子供の寝顔だった。

 親を説得するのは困難だったが、姉さんの口添えもあって、屋敷から一歩も出さないこと条件にオーギスと一緒に暮らすことが決まった。

 オーギスと暮らし始めて、10日後だった。借金の返済のために私とオーギスが売られた。

 姉さんが、裏切った。
 姉さんにとって私は邪魔だったらしい。

 忌み子を匿っている。
 そんな噂が貴族たちに広まって10年後に返すはずだった借金を今すぐに返せと言われたそうだ。

 姉さんのことを恨んでないと言えば嘘になるけど、少しは感謝してもいい。

 弟のことを見てくれる人と、出会うことができたから。




 目が覚めると左腕にフィー、右腕にオーギスが抱き着いていた。

 俺は抱き枕ではないのだが。

 よく眠っている2人には悪いが、起きてもらわないと困る。

 2人を起こしてドルビド君の店に向かう。
 オーギスにはフード付きのローブを着せて髪を隠す。

「おはよう、ドルビド君」

「あ、アドさん。おはようございます」

 店の前にいたドルビド君とあいさつを交わす。
 待っていたのだろうか?

「中へどうぞ」

 家まで案内してくれるのかと思ったが、まだ何かしらの手続きがあるようだ。

 2人を引き連れてドルビド君の後追って店に入る。

 店の奥にある部屋に入って椅子に座る。
 奴隷である2人は立っていてもらう。

「忌み子を買われたとか」

 昨日の奴隷商人から聞いたのだろうか?
 心配してくれているのだろうと思う。

「あぁ。いい買い物だった。
 紹介状は助かった。ありがとう」

「アドさん、こちらをどうぞ」

 ドルビド君がテーブルの上に小袋を置いた。

「これは?」

「奴隷商人に売る予定だったものです。
 髪を黒くする魔法の粉です」

 髪の色を変えるアイテムか。

「開けていいか?」

「はい」

 小袋の口を縛っている紐を解く。
 中に入っていたものは、黒い粉だった。

「使い方は簡単です。
 一つまみして、髪に振りかけるだけです」

 ドルビド君が黒い粉を一つまみして、自身の髪に振りかける。

 金から黒へ。
 髪の色が一瞬で変わる。

「効果は1日。寝る前に忘れず振りかけ続ければいつまでも黒髪のままです」

「いくらだ?」

「一袋、大金貨1枚です」

「いくつある?」

「今はこの一袋のみですが作り方をお教えします」

 大金貨1枚は作り方の値段か。

「わかった」

 大金貨を1枚取り出してテーブルに置く。

「ありがとうございます。
 少々お待ちください」

 ドルビド君が部屋から出ていく。

「オーギス」

 黒い粉を一つまみして名前を呼ぶ。

 俺の意図をくみ取ったのか、オーギスは部屋に入ってからもローブのフードで隠していた髪を露わにさせる。

「はい」

 1日で別人のようなオーギスの対応に朝は驚いていたものだ。
昨日の彼も今の彼も、オーギスなのだろう。

 忌み子である証明となってしまう紫の髪に黒い粉を振りかける。

「フィーとお揃いだな」

「「はい!」」

 嬉しそうに2人が返事をした。

「お待たせいたしました。こちらが作成方法です」

 テーブルに一枚の紙が置かれる。
 紙を手に取って作成方法を確認する

 ブラックウルフの体毛に魔力を通しながら火であぶる。

 体毛が赤くなって来たらすり鉢に移してすり潰してブラックスライムの液体を混ぜていく。

 できた黒い塊を一日置いておけば、黒い粉になっている。

 ブラックウルフの討伐ランクはC。

 群れで行動するので数によりランクが上がる。

 ブラックスライムの討伐ランクはB。

 普通のスライムと違って魔法が効きにくい。
 中心にある核を剣などで核をつぶすのが基本的な討伐方法のはずだ。

 討伐ランクは1人の冒険者が討伐できるとされる目安だ。

 討伐ランクがCなら冒険者のランクがCの者なら討伐できるとされている。

 得意不得意があるのでしっかりと魔物のことを調べてから討伐依頼を受けるのが基本である。

 なので冒険者ランクがCの俺には厳しい素材だ。

「この製法はとある村で見つけました」

「とある村?」

 必要な素材の入手が村人には厳しいと思うのだが、普通の村ではないということだろう。

「はい。詳しくは言えません」

「そうか。ありがとう、助かった」

「いえ、商売ですから。
 では、家まで案内させていただきます」

「あぁ、頼む」
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