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1.宝箱の中身は、呪いでした
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なんだこれ。
どうなってるんだ?
水面に映る自分の顔を見ながら、自分の顔を撫でるように触る。
20年前くらいだろうか?
確かこんな感じだった、気がする。
じっくりと見たこともない自分の顔なんて覚えていない。
「状態確認」
胸ポケットに入れていたカードを取り出して、確認というと大まかな自身の状態がカードに文字として浮き出てくる。
体調:万全 魔力:万全 付与:呪い[若返り][不老]
呪い。
どうやら宝箱の中身は呪いだったようだ。
しかし解くのがもったいない呪いだ。
確か、エルフ族やドワーフ族なんかが生まれた時から持っているスキルのはずだ。
「引退は、しなくて良さそうだな」
嬉しい。
無意識のうちに笑みを浮かべていた。
もしかすると俺の夢が叶うかもしれない。
「いや、叶えるんだ。絶対にランクSになってやる」
まずは宝箱を売りに行こう。
中身が空でも金の宝箱だ。
相当な値段で買い取ってもらえるだろう。
あとは仲間だな。
引退後のためにずっと溜めていた金で奴隷を買おう。
俺を騙すことも裏切ることもない仲間だ。
家も買ってしまうか。
宿代が勿体無い。
金の宝箱がどれくらいで売れるかにもよるが、最低でも2人は奴隷が買えるな。
強くなくてもいい。
俺好みに育てればいいんだ。
「早速、行動開始だな」
結論から言えば金の宝箱は大金貨20枚で売れた。
予想よりも高く売れたな。
それほど金の宝箱が希少であるということだろう。
家は庭付きの10人が住んでも広々と使えるものを買った。
家具を合わせて大金貨15枚。
ベッドは4つ購入した。
奴隷を何人買えるかわからなかったが、手持ちの金で買えると思うのは最低でも2人だ。
ベットは4つあれば十分だろう。
家は明後日に受け渡しの予定だ。
家具の設置や掃除なんかをするそうだ。
こちらの希望はしっかりと伝えたが、そこまでこだわりを持っているわけじゃないのでほとんど商人任せだ。
どんな家になるのか楽しみだ。
日も暮れてきたので今日は冒険者ギルドに顔を出して、明日は奴隷を買ってから迷宮で稼ぐことにしよう。
「ナーキはいるか?」
「少々お待ちください」
35年もやっていれば専属に近いギルド員ができる。
ランクがCであってもだ。
「どちらさんだ?」
やはり俺だとわからないようだ。
「アドだ。やっぱりわからないよな」
胸ポケットに入れているカードを取り出してカウンターに置く。
「アドだ? 何言ってーーー俺のダチに何しやがった?」
ナーキはランクAまで上がった冒険者だ。
そんな奴から殺気を向けられたら平気でいられるわけがない。
しかし35年もやっているとなんともなくなるというか、慣れてしまった。
隣の受付嬢が泣きそうになっているので早い所誤解を解かないとな。
「本人だ。状態確認」
ナーキが持っている俺のカードに人差し指を当てて確認を行う。
カードの持ち主であれば文字が浮かび上がる。
「…呪いか。大丈夫なのか?
何があった?」
カードに文字が浮かび上がったことで本人だと信じてもらえたようだ。
「本当は引退するつもりだった。
前に言ったろ?
金の宝箱を見つけたって」
「開けたのか?」
「宝箱の中身は空っぽ。
出てきたのは煙だけだ。
その煙のせいだと思うが、気を失って目が覚めたら」
「呪いを受けていたわけか」
ナーキからカードを受け取って苦笑いを浮かべながら頷く。
「で、どうすんだ?」
「決まってるだろ?」
「「ランクSになる」」
俺とナーキの声が重なる。
少しの沈黙の後、笑い声が重なる。
「アド! 夢を叶えろ!」
「言われるまでもない」
まるで自分のことのように嬉しそうに笑いながら肩を叩いてくるナーキに、照れ隠しで無表情を装うが口角が上がってしまう。
「やっぱり奴隷を買うのか?」
「あぁ。それが一番安心だ。
今まで貯めた金もあるしな」
「そうか。引退したら一緒にギルドで働けると思ってたんだがな」
「俺はギルド員に向かない。わかってるだろ?」
「やってみないとわからんだろ?
俺も昔はそう思ってたからな!」
元冒険者がギルド員になることは珍しくはない。
豊富な知識や経験を持っているから的確なアドバイスや、もしもの時に動くことができるからだ。
「やらなくてもわかる。まだ仕事か?」
「そろそろ終わりだ。久々に飲みに行くか?」
「あぁ。俺も誘おうと思っていた」
ナーキが仕事を終えるまでギルド内のベンチに腰掛ける。
なんだか視線を感じる。
「アド、先輩?」
声が聞こえてきた方を向けばよく知る人物と目があった。
よく俺だとわかったなと思いながら片手をあげる。
走り寄ってくる姿はまるで犬のようだ。
耳と尻尾が見えるのは気のせいではない。
「なんでなんでなんで?
うそ、本当に?
アド先輩の匂いだ。間違いない!
なんでなんでなんで?」
「落ち着け」
近づいてきたかと思えば、鼻を近づけて匂いを嗅いでくる彼女の額にチョップを与える。
「あいたっ…くぅ~ん」
彼女はアンという獣人だ。
10年くらい前に知り合ったランクAの冒険者。
ランクCの俺を先輩と呼ぶ変わり者だ。
「呪いにかかった。ほら」
チョップした手でアンの頭を撫でる。
頭の上にある犬耳がぴこぴこと反応して、尻尾をブンブンと振っているアンにカードを見せてやる。
他人にカードを見せるのは褒められる行為ではないが、よく知っている相手なら問題はない。
「わ、ホントだ!
若返りと不老。どこで、ですか?」
「宝箱を開けたら」
「うわぁ、アド先輩。流石です!」
何が流石なのかわからない。
「本当は引退する予定だったんだがな」
「じゃあ!」
「お前達とパーティーは組めない。悪いな」
「そんな気はしてました」
俺のランクはCでアンのランクはAだというのに、彼女は俺をパーティーに誘い続けている。
アンは信用できる冒険者だ。
しかし他人はどこまでいっても他人なのだ。
一緒に活動するには、安心できない。
「もう今日は終わりか?」
「はい。そろそろ迷宮の攻略が終わりそうです」
「そうか。怪我しないように頑張れよ」
迷宮の攻略。それが冒険者達の目標だ。
この王国には3つの迷宮がある。
1つ目は初心者用と言われている迷宮。
2つ目はランクC以上が入れる迷宮。
3つ目はランクA以上が入れる迷宮だ。
迷宮の攻略がランクを上げる方法だ。
他にもランクを上げる方法はある。
魔物の討伐。
魔物は迷宮の中だけの存在ではない。
王国を守るようにそびえ立つ壁の外にも存在する。
ごく稀に魔物の統率者が現れる。
普通の魔物と比べ物にならない強さを持っている。
俺は15年前の討伐作戦に参加したことがある。
良い戦果は出せなかったが、遠目から見ていてわかったことがある。
俺では倒せない。
ランクSの夢が砕けた瞬間だった。
砕けただけで諦めたわけではなかった。
諦めたくはなかっただけだ。
そんな時に見つけた金の宝箱。
なんとなくその場で開けることはなかったが、あの時の選択は間違っていなかった。
「アド先輩?」
黙ってしまったからだろう。
アンが心配そうに声をかけてくる。
「ちょっと考え事だ。アン、すぐに追いつく」
「…はい! 待ってますね!
遅いと置いていっちゃいますよ!」
「まあ、それでもいいかな」
「ちょっと! 置いていかないでくださいよ! アド先輩!」
ベンチから立ち上がってアンに背を向けて歩き出す。
アンが追いかけてくる。
俺の向かう先にはナーキがいる。
とりあえずの目標はランクAだ。
「待ってろ。すぐ、追いついてやる」
どうなってるんだ?
水面に映る自分の顔を見ながら、自分の顔を撫でるように触る。
20年前くらいだろうか?
確かこんな感じだった、気がする。
じっくりと見たこともない自分の顔なんて覚えていない。
「状態確認」
胸ポケットに入れていたカードを取り出して、確認というと大まかな自身の状態がカードに文字として浮き出てくる。
体調:万全 魔力:万全 付与:呪い[若返り][不老]
呪い。
どうやら宝箱の中身は呪いだったようだ。
しかし解くのがもったいない呪いだ。
確か、エルフ族やドワーフ族なんかが生まれた時から持っているスキルのはずだ。
「引退は、しなくて良さそうだな」
嬉しい。
無意識のうちに笑みを浮かべていた。
もしかすると俺の夢が叶うかもしれない。
「いや、叶えるんだ。絶対にランクSになってやる」
まずは宝箱を売りに行こう。
中身が空でも金の宝箱だ。
相当な値段で買い取ってもらえるだろう。
あとは仲間だな。
引退後のためにずっと溜めていた金で奴隷を買おう。
俺を騙すことも裏切ることもない仲間だ。
家も買ってしまうか。
宿代が勿体無い。
金の宝箱がどれくらいで売れるかにもよるが、最低でも2人は奴隷が買えるな。
強くなくてもいい。
俺好みに育てればいいんだ。
「早速、行動開始だな」
結論から言えば金の宝箱は大金貨20枚で売れた。
予想よりも高く売れたな。
それほど金の宝箱が希少であるということだろう。
家は庭付きの10人が住んでも広々と使えるものを買った。
家具を合わせて大金貨15枚。
ベッドは4つ購入した。
奴隷を何人買えるかわからなかったが、手持ちの金で買えると思うのは最低でも2人だ。
ベットは4つあれば十分だろう。
家は明後日に受け渡しの予定だ。
家具の設置や掃除なんかをするそうだ。
こちらの希望はしっかりと伝えたが、そこまでこだわりを持っているわけじゃないのでほとんど商人任せだ。
どんな家になるのか楽しみだ。
日も暮れてきたので今日は冒険者ギルドに顔を出して、明日は奴隷を買ってから迷宮で稼ぐことにしよう。
「ナーキはいるか?」
「少々お待ちください」
35年もやっていれば専属に近いギルド員ができる。
ランクがCであってもだ。
「どちらさんだ?」
やはり俺だとわからないようだ。
「アドだ。やっぱりわからないよな」
胸ポケットに入れているカードを取り出してカウンターに置く。
「アドだ? 何言ってーーー俺のダチに何しやがった?」
ナーキはランクAまで上がった冒険者だ。
そんな奴から殺気を向けられたら平気でいられるわけがない。
しかし35年もやっているとなんともなくなるというか、慣れてしまった。
隣の受付嬢が泣きそうになっているので早い所誤解を解かないとな。
「本人だ。状態確認」
ナーキが持っている俺のカードに人差し指を当てて確認を行う。
カードの持ち主であれば文字が浮かび上がる。
「…呪いか。大丈夫なのか?
何があった?」
カードに文字が浮かび上がったことで本人だと信じてもらえたようだ。
「本当は引退するつもりだった。
前に言ったろ?
金の宝箱を見つけたって」
「開けたのか?」
「宝箱の中身は空っぽ。
出てきたのは煙だけだ。
その煙のせいだと思うが、気を失って目が覚めたら」
「呪いを受けていたわけか」
ナーキからカードを受け取って苦笑いを浮かべながら頷く。
「で、どうすんだ?」
「決まってるだろ?」
「「ランクSになる」」
俺とナーキの声が重なる。
少しの沈黙の後、笑い声が重なる。
「アド! 夢を叶えろ!」
「言われるまでもない」
まるで自分のことのように嬉しそうに笑いながら肩を叩いてくるナーキに、照れ隠しで無表情を装うが口角が上がってしまう。
「やっぱり奴隷を買うのか?」
「あぁ。それが一番安心だ。
今まで貯めた金もあるしな」
「そうか。引退したら一緒にギルドで働けると思ってたんだがな」
「俺はギルド員に向かない。わかってるだろ?」
「やってみないとわからんだろ?
俺も昔はそう思ってたからな!」
元冒険者がギルド員になることは珍しくはない。
豊富な知識や経験を持っているから的確なアドバイスや、もしもの時に動くことができるからだ。
「やらなくてもわかる。まだ仕事か?」
「そろそろ終わりだ。久々に飲みに行くか?」
「あぁ。俺も誘おうと思っていた」
ナーキが仕事を終えるまでギルド内のベンチに腰掛ける。
なんだか視線を感じる。
「アド、先輩?」
声が聞こえてきた方を向けばよく知る人物と目があった。
よく俺だとわかったなと思いながら片手をあげる。
走り寄ってくる姿はまるで犬のようだ。
耳と尻尾が見えるのは気のせいではない。
「なんでなんでなんで?
うそ、本当に?
アド先輩の匂いだ。間違いない!
なんでなんでなんで?」
「落ち着け」
近づいてきたかと思えば、鼻を近づけて匂いを嗅いでくる彼女の額にチョップを与える。
「あいたっ…くぅ~ん」
彼女はアンという獣人だ。
10年くらい前に知り合ったランクAの冒険者。
ランクCの俺を先輩と呼ぶ変わり者だ。
「呪いにかかった。ほら」
チョップした手でアンの頭を撫でる。
頭の上にある犬耳がぴこぴこと反応して、尻尾をブンブンと振っているアンにカードを見せてやる。
他人にカードを見せるのは褒められる行為ではないが、よく知っている相手なら問題はない。
「わ、ホントだ!
若返りと不老。どこで、ですか?」
「宝箱を開けたら」
「うわぁ、アド先輩。流石です!」
何が流石なのかわからない。
「本当は引退する予定だったんだがな」
「じゃあ!」
「お前達とパーティーは組めない。悪いな」
「そんな気はしてました」
俺のランクはCでアンのランクはAだというのに、彼女は俺をパーティーに誘い続けている。
アンは信用できる冒険者だ。
しかし他人はどこまでいっても他人なのだ。
一緒に活動するには、安心できない。
「もう今日は終わりか?」
「はい。そろそろ迷宮の攻略が終わりそうです」
「そうか。怪我しないように頑張れよ」
迷宮の攻略。それが冒険者達の目標だ。
この王国には3つの迷宮がある。
1つ目は初心者用と言われている迷宮。
2つ目はランクC以上が入れる迷宮。
3つ目はランクA以上が入れる迷宮だ。
迷宮の攻略がランクを上げる方法だ。
他にもランクを上げる方法はある。
魔物の討伐。
魔物は迷宮の中だけの存在ではない。
王国を守るようにそびえ立つ壁の外にも存在する。
ごく稀に魔物の統率者が現れる。
普通の魔物と比べ物にならない強さを持っている。
俺は15年前の討伐作戦に参加したことがある。
良い戦果は出せなかったが、遠目から見ていてわかったことがある。
俺では倒せない。
ランクSの夢が砕けた瞬間だった。
砕けただけで諦めたわけではなかった。
諦めたくはなかっただけだ。
そんな時に見つけた金の宝箱。
なんとなくその場で開けることはなかったが、あの時の選択は間違っていなかった。
「アド先輩?」
黙ってしまったからだろう。
アンが心配そうに声をかけてくる。
「ちょっと考え事だ。アン、すぐに追いつく」
「…はい! 待ってますね!
遅いと置いていっちゃいますよ!」
「まあ、それでもいいかな」
「ちょっと! 置いていかないでくださいよ! アド先輩!」
ベンチから立ち上がってアンに背を向けて歩き出す。
アンが追いかけてくる。
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