宝箱を開けたら

riki

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プロローグ

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 小さな村で生まれ育った。

 学もなく、容姿が整っているわけでもない。

 8歳の時、両親を魔物によって殺されたことで強くなりたいと思った。

 10歳で冒険者になれることを知ったことで、冒険者を目指すことにした。

 10歳の時、両親の友人の行商で村にやってきたドルダガさんに同行を頼み、村を出ることにした。

 行商の護衛をしていた冒険者に基礎を教えてもらいながら、ガトルド王国へ向かう。

 ガトルド王国にある冒険者ギルドで登録を行い、冒険者となった。

 冒険者となることはできても、子供にできることは薬草集めやゴミ掃除。

 宿を借りることもできない。
 日々の食事だけで精一杯だった。

 そんな時、うまい話があると年配の冒険者に誘われた。

 子供だった俺は彼を信じて誘いに乗ってしまった。

 子供が金貨を稼げるなんて、今にして思えばありえない話だ。

 彼について行った。
 大通りから外れて人が住んでいる様子もない建物が並び立っている人気のない場所に向かっていた。

 何かがおかしいと子供ながらに思った俺は、母の形見であるマジックバッグから父が使っていた短剣をこっそりと取り出した。

 スラムとは違う。
 大通りから離れた建物の一室に入る。

 彼がここで待つように言って部屋から出て行った。

 部屋の中を見渡せば、こちらを睨みつけている彼女が視界に入った。

 殴られたのだろうか。
 髪はボサボサで頬が腫れていた。

 よく見ると手足を縛られて、腕や足に切り傷が見える。

 彼女を見つめていると、彼女の口が動いているのがわかった。

 声が出ていなかった。

 睨まれていることもあって、恐る恐るゆっくりと彼女に近づいていく。

 微かにだが掠れた声が聞こえた。

「あんたは、てき?」

 彼女の言葉に首を横に降る。

 最近、貴族の子供が行方不明になっているという噂を思い出した。

 彼女を助けよう。
 相手は大人だ。
 無理かもしれない。

 そんなことを考えていた時、彼女の声が聞こえた。

「たすけて」

 それからの行動は早かった。

 扉の前に移動して外の様子を探った。

 声は聞こえない。
 足音もない。

 今しかない。
 彼女の手足を縛っている縄を短剣で斬る。

 出口は扉のみ。
 扉の先には奴がいるかもしれない。

 俺が彼女を助けるかもしれない、なんてことはどんなバカでも思いつくことだ。

 逃さない何かがあるのはわかっていても、彼女をたすけたい。

 人を殺す。
 相手は大人だ。
 子供の自分にできるのか。

 今思えば、無茶苦茶なことをしたものだと苦笑いを浮かべてしまう。

 あの時は何も考えていなかった。

 扉を開けて外を確認する。
 誰もいない。

 さっき歩いてきた道だ。
 帰り道もわかる。

 手足が自由になった彼女の手を握って、部屋を飛び出した。

 痛いと掠れた声が聞こえてくる。

 だけど止まってる時間はなかった。

 彼女の声をかき消すように、後方から数人の男の声が聞こえてくるのだ。

「ガキだ! ガキが女を逃しやがった!」

 迫ってくる足音。
 男たちの声。

 自分だけなら逃げ切れる。

 だけど彼女の手を離したくはなかった。

 彼女は俺に「たすけて」と言ったのだ。

 だから助けたい!

 そう思いながら彼女の手を強く握り、彼女を引っ張りながら走る。

 だんだん近づいてくる足音。

 もう、ダメだ。

「よくやった」

 掠れていない彼女の声。

 振り向けば傷のない彼女の姿があった。

「あとは任せな」

 彼女が迫ってくる男たちに手を向ける。

 掌を中心に現れた円。

 円の中には模様や文字のようなものがあった。

 魔法。初めて見た。

 魔法陣から飛び出る火の玉が男たちを吹き飛ばした。

「どんなもんだ!」

 さっきまでの弱々しい姿が、嘘のようだ。

 笑みを向けてくる彼女。

 すごいと思った。綺麗だと思った。

 その後のことは、よく覚えていない。

 気を失ったのだ。

 彼女の話によると俺の魔力を吸い取って、治癒魔法、攻撃魔法を使ったとのことだった。

 魔力が無くなった俺は気を失ってしまったらしい。

 俺が目を覚ましたのは、2日後のことだった。

 やはり彼女は貴族だったようだ。

「ごめんなさい。勝手にドレインをしてしまって」

 頭を下げて謝る彼女に、俺はどうすればいいのかわからず黙ったままでいた。

 なんというか、俺は話すのが得意じゃない。

 何を言ったらいいのかわからないことが多い。

 そして今回のことでよく知りもしない相手を信用することが無くなった。

 死ぬかもしれない。そんな気持ちが残り続けたのだ。

「話、聞いてる?」

 頭を上げてこちらを睨んでくる彼女に怯えながら頷く。

「そう。あんた、名前は?」

「…あ、んっ…アド。きみは?」

 2日ぶりに声を出したからか、喉がカスカスだった。

 名前を言おうとしたが声が出にくかったので、一度唾を飲み込んでから名前を告げた。

「私はフェル。よろしく」

 フェルを助けた報酬として金貨20枚と衣食住を手に入れた。

 教会という名の孤児院でお世話になることが決まった。

 シスターは優しく、孤児院にいた子供達は年下ばかりで弟や妹ができたみたいで嬉しかった。

 フェルには本当に世話になってしまった。

 フェルは助けてもらったお礼だからと、気にするなと言っていたが本当に感謝している。

 フェルから結婚したと聞いたのは、俺が13歳の時だった。

 フェルには幸せになって欲しいという気持ちと、思いを伝えられなかった悔しさで何も言えなかった。

 フェルと会うことがなかった2年は、フェルが好きだった気持ちを整理するには十分な時間だった。

 冒険者の仕事にも慣れて、1人で活動しても宿を借りて飯が食える以上の稼ぎができる。

 15歳の時、お世話になったシスターと泣いてしまった弟や妹たちに見送られながら、孤児院を出た。

 目標は、冒険者ランクS。

 そんなことを思いながら、冒険者として活動して35年。

 今日で、引退だ。
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