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別れました
しおりを挟むイケメンだと思っていた人は、チャラ男でした。
「蓮~!なんか気付くことなーい?」
「んー爪?かわいいじゃん」
「でしょ~!」
朝からどこぞのカップルがイチャイチャしてるんだと思っ
て目を向けると、廊下で遊馬蓮が何人かの女子に囲まれて
いる。
「……」
関わりたくないのでそっと通り過ぎようとすると、遊馬が
声をかけてくる。
「ひめちゃん」
ニコッと笑っておはようと返し、その場を立ち去ろうと足
を早めるが
「あ、まって」
女子の輪をいつのまにか抜けて、遊馬は姫野の手を掴む。
女子の視線が一気に姫野に突き刺さった。
「このチャラ男が…」
小さく呟いた声は遊馬に聞こえるはずもない。
振り返り、姫野は先ほどと変わらない笑顔で尋ねる。
「どうしたの?」
遊馬は手をぱっと離し、ちょっとごめんと言いながら
「寝癖ついてる、かわいいね」
と姫野の髪に触れる。
「教えてくれてどうもありがとう」
笑顔が引きつってしまっただろうが、とにかくそこを離れ
たかった姫野は、じ、じゃあ直してくるからと遊馬の取り
巻きの鋭い目から逃げるようにして教室へ向かった。
遊馬蓮が距離を詰めてくるようになったのは、姫野に高校
初の彼氏ができたすぐ後である。
初めは挨拶だけであったが、少し経つと呼び名が姫野さん
からひめちゃんに変わり、休み時間もなにかと話しかけて
くるようになった。今では遊馬ファンと同じような扱いで
ある。イケメンが好きなのに、チャラ男が嫌いな姫野にと
って鬼の所業であった。そして遊馬を突き放せない理由が
もう一つ。橋本から誘われたパンケーキデートである。
遊馬と2人きりで遊べるくらいの仲になるという条件で、
奢ってもらえる上に久しぶりに橋本と遊べるということが
姫野を堪えさせた。がしかし…
「やっぱり無理だよ!頭の中ではチャラ男が無理でもう
無理すぎてあいつのこと思い出しちゃうんだけど、目では
イケメン見ちゃってるからさぁ。」
いつもの3人でご飯を食べながら、姫野は叫ぶ。
「そんなこと言ってるから彼氏に振られたんだよお前」
矢島は箸で姫野を指しながら言う。内心、意外にも遊
馬が姫野に興味を持ってることに冷や冷やしているのだ
が。
「しかも、わたしみたいなタイプ苦手そうだから頑張って
清楚ぶってるんだけどいつかバレそうで怖い!」
「多分もうバレてるっつーの」
「まあそんだけイケメンイケメン言ってたら彼氏もプレッ
シャーだろうね、イケメンではなかったし(笑)」
「イケメンを強要したわけじゃないのになぁ」
項垂れる姫野に、ドンマイと声をかけ橋本はふと考える。
今回は確かに見た目優しそうな人だったけど、あたしらが
出る幕もなくすぐに別れたな。多少のプレッシャーじゃあ
姫子くらいの優良物件手放さないと思うけど…
だが最終的に「まぁいいか、今は遊馬蓮ってやつと仲良く
なってもらわないと。利用してごめんなさい」と自己完結
した。
「とりあえず、ほいほい付き合うのやめろよ、続かないか
ら」と言う矢島に対し、橋本はすかさず「お前が言うな」
とツッコむ。
黙っている矢島を、お?なんだよ??と煽ると、特に悲し
んだ様子もなく言う。
「俺も別れたんだよ」
「まじか!傷口抉ってすまぬ。メンゴメンゴ」
「うぜえ…」
傷口もなにもないとわかっていながらも、橋本は手を合わ
せて謝る仕草をする。そして矢島もそれをわかっている。
「えっ……悠人ってほいほい付き合ってたんだ。」
姫野は幻滅したように矢島を見る。
「ちげえよ!ともかく、杏子の場合相手のことを知ってか
らの方がいいから!」
「えー…わかりましたぁ気を付けます」
姫野はまあ幼なじみの見解は聞いとくべきかもね、と笑っ
た。
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