復讐令嬢の甘く美しき鉄槌

きのと

文字の大きさ
上 下
2 / 14

第2話 法務官side 「白いリボンが結び付けるもの」

しおりを挟む
「おい、カーティス」

執務室を出たところで、法務官のケビン・カーティスは上司に呼び止められた。

「なんでしょうか、裁判官」
「急で悪いが、調査を頼みたい。先日、森で女性の遺体が見つかっただろう。その夫が、妻の不倫相手を殺人の罪で訴えようとしているんだ」
「わかりました」
「夫はいま応接室にいる。不倫相手も後から来るから、双方から話を聞いておいてくれ」

裁判官から訴状を受け取り、そちらへ向かった。
歩きながら目を通す。

原告はベンジャミン・ブルース、画廊を営んでいる
被告はヒューイ・エヴレット
罪状は、妻オードリー・ブルースへの付きまといと殺人となっている。

5日前、ベンジャミンの妻、オードリーの遺体がレアド村近郊の森で発見された。
刃物で喉を切り裂かれ、出血多量で亡くなったと思われる。
夫ベンジャミンによると、妻は出入り業者のヒューイ・エヴレットと浮気をしていたが、夫の説得により、夫婦でやり直すことになった。妻は浮気相手に別れを告げたが、ヒューイは納得せず、家の周辺をうろつくなど付きまとっていたという。


まず、夫と面談し聞き取りを行う。

「ヒューイ・エヴレットが奥様を殺したと思われる根拠はあるのでしょうか?」

夫のブルースは鞄の中から白いリボンを取り出した。
ところどころに黒ずんだ血液の染みがある。

「妻が亡くなったときにこのリボンで髪を結んでいたのです。妻は白が好きではなく、家には白い服やアクセサリーはひとつもありません。殺した日に奴が妻に贈ったのでしょう」

カーティスはリボンを手に取る。
生糸を使ったレース編みのリボンだ。細かい細工で、独特の模様が編みこまれている。
女性の装飾品には詳しくないので、これ以上のことはわかりそうにない。


そして、次に別室で待たせていたエヴレットの聴取を行う。
エヴレットは犯行を真っ向から否定した。
殺人があった日は仕事で遠く離れた別の街に行っていたこと、同行者もいるし数人の客と会っているので、無実を証明できるとのことだった。

「遺体の髪は白いリボンで結ばれていました。あなたが贈ったものではないですか?」
「リボン?オードリーはそんなちゃちな安物で喜ぶような女じゃないさ。アクセサリーをねだられることはあったが、いつも宝石のついた高級品を要求してきたよ。」
「なるほど。しかし、あなたはオードリーにつきまとっていましたよね。ブルース夫妻の自宅付近であなたの姿が何度も目撃されています」
「付きまとってなんかいない!たしかに家には行ったが、貸した金を返して欲しかっただけだ。女には困っていないし、アイツが別れたいというならそれで構わなかったよ」


両者の言い分は食い違っていた。
しかし、どちらを信じ、有罪か無罪かを決めるのは裁判官だ。
法務官の仕事は、少しでも多くの事実を調べ上げることだ。



執務室に戻ると、同僚のフォードが出先から戻ってきていた。

「いや、まいったわ」
「事件か?」
「ああ。なんとグレンヴィル伯爵の末の妹が事故死した」
「なんだって」

グレンヴィル伯爵家は広大な領地と資産を持ち、貴族社会での影響力も大きいと言われている名門だ。
伯爵の末の妹リリアンは、帰省するために王都の寄宿学校から馬車に乗ったが、伯爵邸に現れることはなかった。
学校からも実家からも離れた川沿いの崖から馬車ごと転落したのだ。
なぜそんな場所に行ったのか、それもわかっていない。
単純な事故なのか、それとも貴族の令嬢を馬車ごと誘拐しようとしたのか、いろいろな可能性が考えられる。
有力者の身内の一大事だけに、裁判所も護衛官の調査に協力することになった。

「現場に落ちていた遺留品のリストを作らなければならない。急ぎの仕事を抱えていないやつは手伝ってくれ」

フォードが手際よく指示をだす。
カーティスと数人の若手法務官も作業に加わった。

「このリボンは?」
「現場に落ちていたものなんだが、令嬢の所持品ではないらしい。第三者がいたのではないかと護衛官が探しているところだ」
「これはイクシー編みですね」

年若い後輩が手元をのぞき込んでいた。

「知っているのか?」
「はい。私はイクシー地方出身なんです。これはイクシーの特産品の生糸のレース編みですよ。養蚕が盛んでシルクを多く生産していますが、昔は女たちが家事の合間に編んで、売っては生活の足しにしていたのです。
今は伝統工芸品とされていますが、編むのに時間がかかり量産できないので、ほとんど領内で消費され、ほかの地方に出回ることはまずありませんね」

カーティスは動転した。
画商の妻と、伯爵令嬢。希少なリボンが遺体とともに見つかるなんて、そんな偶然があるだろうか?
まさか……連続殺人?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

r18短編集

ノノ
恋愛
R18系の短編集 過激なのもあるので読む際はご注意ください

坊っちゃまの計画的犯行

あさとよる
恋愛
お仕置きセックスで処女喪失からの溺愛?そして独占欲丸出しで奪い合いの逆ハーレム♡見目麗しい榑林家の一卵性双子から寵愛を受けるこのメイド…何者? ※性的な描写が含まれます。

合法カタストロフィー

霜月美雨
恋愛
デートで急な眠気に襲われて、気がつくと彼の部屋だった… 20代の甘い恋愛、非日常的な悦楽を描く。 合法ドラッグ、読み切りキメセクストーリー。

大好きな幼馴染と結婚した夜

clayclay
恋愛
架空の国、アーケディア国でのお話。幼馴染との初めての夜。 前作の両親から生まれたエイミーと、その幼馴染のお話です。

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

【R18】隣のデスクの歳下後輩君にオカズに使われているらしいので、望み通りにシてあげました。

雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向け33位、人気ランキング146位達成※隣のデスクに座る陰キャの歳下後輩君から、ある日私の卑猥なアイコラ画像を誤送信されてしまい!?彼にオカズに使われていると知り満更でもない私は彼を部屋に招き入れてお望み通りの行為をする事に…。強気な先輩ちゃん×弱気な後輩くん。でもエッチな下着を身に付けて恥ずかしくなった私は、彼に攻められてすっかり形成逆転されてしまう。 ——全話ほぼ濡れ場で小難しいストーリーの設定などが無いのでストレス無く集中できます(はしがき・あとがきは含まない) ※完結直後のものです。

【R18 大人女性向け】会社の飲み会帰りに年下イケメンにお持ち帰りされちゃいました

utsugi
恋愛
職場のイケメン後輩に飲み会帰りにお持ち帰りされちゃうお話です。 がっつりR18です。18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。

処理中です...