上 下
20 / 42

第20話 白皙の美青年は目と心のオアシス

しおりを挟む
部屋に戻り、軽く湯につかって汗と土ぼこりを洗い流す。
着替えが終わると、サナーが冷たい果実水を出してくれた。

「軽食をご用意いたしましょうか?」
「そうね、ちょっとお腹すいちゃったかな。なにか甘いものをお願いできる?」
「かしこまりました。すぐにお持ちしますね」
「ありがとう」

コンコンとドアがノックされた。
サリッドだ。一緒にティータイムにしよう。

「どうぞ」

私は声をかける。

ドアの向こうに立っていたのはサリッドではない騎士だった。

「ぜひ、聖女様とお近づきになれたらと思いまして。ご挨拶することをお許しいただけますか」

騎士は、カミール・アル=ハイヤートと名乗った。
サリッドとは同期で、王宮騎士団の副団長だという。

これまたとびきりのイケメンだ。
私の持論である『王宮騎士団の入団試験における顔面偏差値説』を裏付けられるかもしれない。
前世の世界でも、要人の警護にあたるSPは身体能力の高さだけだはなく、そこそこ顔の良さが求められると聞いたことがある。警護される要人が不愉快な気分にならないようにとかなんとか。
私と対戦してくれた若手の騎士もなかなか可愛い顔していたし、意外と真に迫っているんじゃなかろうか?
そんな妄想はおいといて。

カミールは、亜麻色の髪にエメラルドグリーンの瞳をしている。
これは中央大陸の人種の特徴だ。私と同じ異国人なのかもしれない。

侍女がお菓子とお茶を運んできた。
この状況からして、お茶に誘わないわけにもいかないだろう。

「よろしければご一緒にいかがかしら?」
「光栄です。聖女様」

私の手を取り、唇を落とす。

「今や王宮中があなたの噂でもちきりです。こんなにお美しい方だとは。想像以上でした」
「まあ、ありがとうございます。どうぞ、おかけになってくださいな」

カミールに椅子を勧める。
侍女がハーブティを注いでくれた。

「先ほどの試合を拝見しました」
「あら、ご覧になられていたんですか? 恥ずかしい」
「彼は若手のなかでも特に期待されている逸材です。正直、聖女様があそこまで健闘されるとは驚きました」
「ふふ、お世辞でもうれしいですわ」
「次は僕とお手合わせ願えませんか?」
「それは勘弁してくださいませ。私なんかでは副団長様の相手は務まりませんわ」

カミールは身を乗り出してきた。

「ぜひ、聖女様のことを聞かせてください。ご出身はコルトレーン王国だとか」
「あら、そんなことまでみなさんに知られているんですね」
「僕の母親はリコリス王国の生まれなんです」

リコリスはコルトレーンの隣国だ。

「外交官としてディルイーヤ王国から赴いていた父と知り合い結婚しました。僕は幼いころからこことリコリスを行ったり来たりしながら育ちました」

彼の髪と瞳は母親譲りなのか。きっと凄い美人のお母様なんだろうな。


ようやくサリッドがやってきた。

「ここで何やっているんだ、カミール」

不機嫌モードのサリッドに、カミール副団長は「よっ」と手をあげる。

「見ての通り、麗しの聖女様とお茶会だよ。遅かったな」
「お前がいなかったから代わりに軍法会議に呼ばれていたんだ」
「あはは。お疲れさん」
「いいからさっさと持ち場に戻れ」
「サリッドばかり聖女様を独り占めしてずるいだろ。俺だって仲良くなりたい」
「軍師が探していたぞ、すぐに行ってこい」
「あーあ、あのおっさんは怒らせると面倒くさいんだよな」
「わかったら出ていけ」

私は黙ってふたりのやりとりを見ていた。
へえ、サリッドって騎士団ではこんな感じなんだ、なんか新鮮。

カミールを追い出すと、お叱りの矛先が私に向かった。

「レイシー、どうしてあいつを部屋にいれたりしたんだ」
「ドアをノックされて、てっきりあなただと思って入室をOKしちゃったのよ」
「男と二人きりなんて危ないだろう」
「侍女がいてくれたから二人きりじゃないわ。ホントに二人だったら追い返すわよ」
「とにかく、あいつにだけは二度と近づかないでくれ」
「そんな猛獣じゃあるまいし。でも、あなたの言うとおりにすると約束します」

カミールはいかにも女たらしな風体だけど、そこまで警戒しなくてもいいんじゃないだろうか。もしかして、昔、彼女を奪われた経験でもあったとか?

私は間違ってもカミーユになびくことなんかない。
私の心にはサリッドしかいないのだもの、どれだけ美青年だろうが、ほかの男が入り込む余地はない。

まあ、カミールにはたっぷり目の保養をさせてもらったけれど。
鑑賞しただけだからセーフってことで。眼福、眼福。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「友好と借金の形に、辺境伯家に嫁いでくれ」  行き遅れの私・マリーリーフに、突然婚約話が持ち上がった。  相手は女嫌いに社交嫌いな若き辺境伯。子爵令嬢の私にはまたとない好条件ではあるけど、相手の人柄が心配……と普通は思うでしょう。  でも私はそんな事より、嫁げば他に時間を取られて大好きな歴史研究に没頭できない事の方が問題!  それでも互いの領地の友好と借金の形として仕方がなく嫁いだ先で、「家の事には何も手出し・口出しするな」と言われて……。  え、「何もしなくていい」?!  じゃあ私、今まで通り、歴史研究してていいの?!    こうして始まる結婚(ただの同居)生活が、普通なわけはなく……?  どうやらプライベートな時間はずっと剣を振っていたい旦那様と、ずっと歴史に浸っていたい私。  二人が歩み寄る日は、来るのか。  得意分野が文と武でかけ離れている二人だけど、マイペース過ぎるところは、どこか似ている?  意外とお似合いなのかもしれません。笑

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから

真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」  期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。    ※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。  ※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。  ※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。 ※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

処理中です...