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第20話 白皙の美青年は目と心のオアシス
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部屋に戻り、軽く湯につかって汗と土ぼこりを洗い流す。
着替えが終わると、サナーが冷たい果実水を出してくれた。
「軽食をご用意いたしましょうか?」
「そうね、ちょっとお腹すいちゃったかな。なにか甘いものをお願いできる?」
「かしこまりました。すぐにお持ちしますね」
「ありがとう」
コンコンとドアがノックされた。
サリッドだ。一緒にティータイムにしよう。
「どうぞ」
私は声をかける。
ドアの向こうに立っていたのはサリッドではない騎士だった。
「ぜひ、聖女様とお近づきになれたらと思いまして。ご挨拶することをお許しいただけますか」
騎士は、カミール・アル=ハイヤートと名乗った。
サリッドとは同期で、王宮騎士団の副団長だという。
これまたとびきりのイケメンだ。
私の持論である『王宮騎士団の入団試験における顔面偏差値説』を裏付けられるかもしれない。
前世の世界でも、要人の警護にあたるSPは身体能力の高さだけだはなく、そこそこ顔の良さが求められると聞いたことがある。警護される要人が不愉快な気分にならないようにとかなんとか。
私と対戦してくれた若手の騎士もなかなか可愛い顔していたし、意外と真に迫っているんじゃなかろうか?
そんな妄想はおいといて。
カミールは、亜麻色の髪にエメラルドグリーンの瞳をしている。
これは中央大陸の人種の特徴だ。私と同じ異国人なのかもしれない。
侍女がお菓子とお茶を運んできた。
この状況からして、お茶に誘わないわけにもいかないだろう。
「よろしければご一緒にいかがかしら?」
「光栄です。聖女様」
私の手を取り、唇を落とす。
「今や王宮中があなたの噂でもちきりです。こんなにお美しい方だとは。想像以上でした」
「まあ、ありがとうございます。どうぞ、おかけになってくださいな」
カミールに椅子を勧める。
侍女がハーブティを注いでくれた。
「先ほどの試合を拝見しました」
「あら、ご覧になられていたんですか? 恥ずかしい」
「彼は若手のなかでも特に期待されている逸材です。正直、聖女様があそこまで健闘されるとは驚きました」
「ふふ、お世辞でもうれしいですわ」
「次は僕とお手合わせ願えませんか?」
「それは勘弁してくださいませ。私なんかでは副団長様の相手は務まりませんわ」
カミールは身を乗り出してきた。
「ぜひ、聖女様のことを聞かせてください。ご出身はコルトレーン王国だとか」
「あら、そんなことまでみなさんに知られているんですね」
「僕の母親はリコリス王国の生まれなんです」
リコリスはコルトレーンの隣国だ。
「外交官としてディルイーヤ王国から赴いていた父と知り合い結婚しました。僕は幼いころからこことリコリスを行ったり来たりしながら育ちました」
彼の髪と瞳は母親譲りなのか。きっと凄い美人のお母様なんだろうな。
ようやくサリッドがやってきた。
「ここで何やっているんだ、カミール」
不機嫌モードのサリッドに、カミール副団長は「よっ」と手をあげる。
「見ての通り、麗しの聖女様とお茶会だよ。遅かったな」
「お前がいなかったから代わりに軍法会議に呼ばれていたんだ」
「あはは。お疲れさん」
「いいからさっさと持ち場に戻れ」
「サリッドばかり聖女様を独り占めしてずるいだろ。俺だって仲良くなりたい」
「軍師が探していたぞ、すぐに行ってこい」
「あーあ、あのおっさんは怒らせると面倒くさいんだよな」
「わかったら出ていけ」
私は黙ってふたりのやりとりを見ていた。
へえ、サリッドって騎士団ではこんな感じなんだ、なんか新鮮。
カミールを追い出すと、お叱りの矛先が私に向かった。
「レイシー、どうしてあいつを部屋にいれたりしたんだ」
「ドアをノックされて、てっきりあなただと思って入室をOKしちゃったのよ」
「男と二人きりなんて危ないだろう」
「侍女がいてくれたから二人きりじゃないわ。ホントに二人だったら追い返すわよ」
「とにかく、あいつにだけは二度と近づかないでくれ」
「そんな猛獣じゃあるまいし。でも、あなたの言うとおりにすると約束します」
カミールはいかにも女たらしな風体だけど、そこまで警戒しなくてもいいんじゃないだろうか。もしかして、昔、彼女を奪われた経験でもあったとか?
私は間違ってもカミーユになびくことなんかない。
私の心にはサリッドしかいないのだもの、どれだけ美青年だろうが、ほかの男が入り込む余地はない。
まあ、カミールにはたっぷり目の保養をさせてもらったけれど。
鑑賞しただけだからセーフってことで。眼福、眼福。
着替えが終わると、サナーが冷たい果実水を出してくれた。
「軽食をご用意いたしましょうか?」
「そうね、ちょっとお腹すいちゃったかな。なにか甘いものをお願いできる?」
「かしこまりました。すぐにお持ちしますね」
「ありがとう」
コンコンとドアがノックされた。
サリッドだ。一緒にティータイムにしよう。
「どうぞ」
私は声をかける。
ドアの向こうに立っていたのはサリッドではない騎士だった。
「ぜひ、聖女様とお近づきになれたらと思いまして。ご挨拶することをお許しいただけますか」
騎士は、カミール・アル=ハイヤートと名乗った。
サリッドとは同期で、王宮騎士団の副団長だという。
これまたとびきりのイケメンだ。
私の持論である『王宮騎士団の入団試験における顔面偏差値説』を裏付けられるかもしれない。
前世の世界でも、要人の警護にあたるSPは身体能力の高さだけだはなく、そこそこ顔の良さが求められると聞いたことがある。警護される要人が不愉快な気分にならないようにとかなんとか。
私と対戦してくれた若手の騎士もなかなか可愛い顔していたし、意外と真に迫っているんじゃなかろうか?
そんな妄想はおいといて。
カミールは、亜麻色の髪にエメラルドグリーンの瞳をしている。
これは中央大陸の人種の特徴だ。私と同じ異国人なのかもしれない。
侍女がお菓子とお茶を運んできた。
この状況からして、お茶に誘わないわけにもいかないだろう。
「よろしければご一緒にいかがかしら?」
「光栄です。聖女様」
私の手を取り、唇を落とす。
「今や王宮中があなたの噂でもちきりです。こんなにお美しい方だとは。想像以上でした」
「まあ、ありがとうございます。どうぞ、おかけになってくださいな」
カミールに椅子を勧める。
侍女がハーブティを注いでくれた。
「先ほどの試合を拝見しました」
「あら、ご覧になられていたんですか? 恥ずかしい」
「彼は若手のなかでも特に期待されている逸材です。正直、聖女様があそこまで健闘されるとは驚きました」
「ふふ、お世辞でもうれしいですわ」
「次は僕とお手合わせ願えませんか?」
「それは勘弁してくださいませ。私なんかでは副団長様の相手は務まりませんわ」
カミールは身を乗り出してきた。
「ぜひ、聖女様のことを聞かせてください。ご出身はコルトレーン王国だとか」
「あら、そんなことまでみなさんに知られているんですね」
「僕の母親はリコリス王国の生まれなんです」
リコリスはコルトレーンの隣国だ。
「外交官としてディルイーヤ王国から赴いていた父と知り合い結婚しました。僕は幼いころからこことリコリスを行ったり来たりしながら育ちました」
彼の髪と瞳は母親譲りなのか。きっと凄い美人のお母様なんだろうな。
ようやくサリッドがやってきた。
「ここで何やっているんだ、カミール」
不機嫌モードのサリッドに、カミール副団長は「よっ」と手をあげる。
「見ての通り、麗しの聖女様とお茶会だよ。遅かったな」
「お前がいなかったから代わりに軍法会議に呼ばれていたんだ」
「あはは。お疲れさん」
「いいからさっさと持ち場に戻れ」
「サリッドばかり聖女様を独り占めしてずるいだろ。俺だって仲良くなりたい」
「軍師が探していたぞ、すぐに行ってこい」
「あーあ、あのおっさんは怒らせると面倒くさいんだよな」
「わかったら出ていけ」
私は黙ってふたりのやりとりを見ていた。
へえ、サリッドって騎士団ではこんな感じなんだ、なんか新鮮。
カミールを追い出すと、お叱りの矛先が私に向かった。
「レイシー、どうしてあいつを部屋にいれたりしたんだ」
「ドアをノックされて、てっきりあなただと思って入室をOKしちゃったのよ」
「男と二人きりなんて危ないだろう」
「侍女がいてくれたから二人きりじゃないわ。ホントに二人だったら追い返すわよ」
「とにかく、あいつにだけは二度と近づかないでくれ」
「そんな猛獣じゃあるまいし。でも、あなたの言うとおりにすると約束します」
カミールはいかにも女たらしな風体だけど、そこまで警戒しなくてもいいんじゃないだろうか。もしかして、昔、彼女を奪われた経験でもあったとか?
私は間違ってもカミーユになびくことなんかない。
私の心にはサリッドしかいないのだもの、どれだけ美青年だろうが、ほかの男が入り込む余地はない。
まあ、カミールにはたっぷり目の保養をさせてもらったけれど。
鑑賞しただけだからセーフってことで。眼福、眼福。
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