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第25話 喜びの再会
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「アビゲイル様!」
「エマ、久しぶりね。元気だった?」
二人は抱き合って1年ぶりの再会を喜んだ。
急な離婚だったから満足に別れの挨拶も交わせなかった。
「こちらは、エリオット殿下よ」
「以前、アビゲイル様の侍女をしておりましたエマと申します。お招きいただき、ありがとうございます」
「アビーから君のことは聞いているよ。ずっと支えになってくれたと。僕からもお礼をいいたい」
「そんな、もったいないお言葉です」
サロンに侍女が淹れてくれた紅茶の香りが漂う。
「前は、よく温室でこうやってお茶を飲んだわね」
「はい、ずいぶん昔のことのような気がします」
「それで、ケッペル家はどう?」
「先代様が亡くなって、ローマン様が事業を引き継いだのですが、会社は廃業寸前だそうです。今は、残された資産でやりくりしているそうですが、破産するのも時間の問題だろうと執事が言っていました」
「そう」
ローマンの様子からケッペル家の経済状況が思わしくないことは容易に想像できたが、それ以上に苦境にあるようだ。
「お給金も払えないらしく、使用人もどんどん辞めさせられています。私もいつクビになるか」
「それなんだけど、エマ、ケッペル家を辞めて、また私の侍女になってくれないかしら?」
「ええ!?」
「しばらく殿下のお屋敷でお世話になる予定なの。あなたがここのお屋敷に移ったら、その間、私付きになって欲しいの。殿下にお願いして了解いただいているわ」
「本当にありがたいお話です。でも……」
「もしかしてジョージのこと?」
「はい、彼を残して私だけ出ていけません」
「そのジョージというのは?」
「エマの恋人です。料理人で、とても感じのいい青年です」
「それなら、彼もここで働いてもらったらどうかな?」
「殿下、いいのですか?」
「もちろんです。もし、料理人として腕を磨きたいなら王宮の厨房を紹介しますよ。もっとも、料理長は非常に厳しいと評判ですが」
王族の料理番はすべての料理人の憧れだ。
「そんな、王宮で働けるなんてジョージがどれだけ喜ぶか」
「君の恋人の気持ち次第だが、ふたりで話し合ってみてくれるかな?」
「エマはジョージと離れたら寂しいかもしれないけれど、王宮はすぐそばだからいつでも会えるわよ、ふふ」
エマは顔を真っ赤にした。
「もう!アビゲイル様、揶揄わないで下さい!」
「ごめん、ごめん」
3日後、エマとジョージはふたりでケッペル家を退職してきた。
ジョージは夢だった王宮で働きたいという。
そしてこれを機に結婚することにしたと報告してくれた。
アビゲイルは可愛らしい夫婦の誕生を心から喜び、祝福した。
一方、エリオットはローマンをおびき出すために、アビゲイルが借りていたアパートに似た背格好の女騎士を代わりに住まわせた。
まんまと忍び込んできたローマンを張り込んでいた憲兵たちが取り押さえた。
不法侵入と元妻への暴行だけではなく、麻薬の輸入など違法な商売でも摘発された。
かなり重い刑が科されるのは間違いない。十数年は牢獄から出られないだろう。
残ったわずかな財産は没収され、爵位は剥奪、領地はほかの貴族へ譲渡されることになった。
「ようやくいい報告ができました」
「ありがとうございました。これで安心できます」
アビゲイルは心底ほっとした表情をした。
「遅すぎたくらいです。もっと早く捕まえられていたら、あなたを危険な目に合わせることもなかったのに」
「そんな、殿下には感謝しかありませんわ。私、もう大丈夫です。どこか近くに新しい部屋を借りようと思います」
「それなのですが、アビー、このままここで暮らしませんか?今後は僕の妻として」
「殿下……」
「エマ、久しぶりね。元気だった?」
二人は抱き合って1年ぶりの再会を喜んだ。
急な離婚だったから満足に別れの挨拶も交わせなかった。
「こちらは、エリオット殿下よ」
「以前、アビゲイル様の侍女をしておりましたエマと申します。お招きいただき、ありがとうございます」
「アビーから君のことは聞いているよ。ずっと支えになってくれたと。僕からもお礼をいいたい」
「そんな、もったいないお言葉です」
サロンに侍女が淹れてくれた紅茶の香りが漂う。
「前は、よく温室でこうやってお茶を飲んだわね」
「はい、ずいぶん昔のことのような気がします」
「それで、ケッペル家はどう?」
「先代様が亡くなって、ローマン様が事業を引き継いだのですが、会社は廃業寸前だそうです。今は、残された資産でやりくりしているそうですが、破産するのも時間の問題だろうと執事が言っていました」
「そう」
ローマンの様子からケッペル家の経済状況が思わしくないことは容易に想像できたが、それ以上に苦境にあるようだ。
「お給金も払えないらしく、使用人もどんどん辞めさせられています。私もいつクビになるか」
「それなんだけど、エマ、ケッペル家を辞めて、また私の侍女になってくれないかしら?」
「ええ!?」
「しばらく殿下のお屋敷でお世話になる予定なの。あなたがここのお屋敷に移ったら、その間、私付きになって欲しいの。殿下にお願いして了解いただいているわ」
「本当にありがたいお話です。でも……」
「もしかしてジョージのこと?」
「はい、彼を残して私だけ出ていけません」
「そのジョージというのは?」
「エマの恋人です。料理人で、とても感じのいい青年です」
「それなら、彼もここで働いてもらったらどうかな?」
「殿下、いいのですか?」
「もちろんです。もし、料理人として腕を磨きたいなら王宮の厨房を紹介しますよ。もっとも、料理長は非常に厳しいと評判ですが」
王族の料理番はすべての料理人の憧れだ。
「そんな、王宮で働けるなんてジョージがどれだけ喜ぶか」
「君の恋人の気持ち次第だが、ふたりで話し合ってみてくれるかな?」
「エマはジョージと離れたら寂しいかもしれないけれど、王宮はすぐそばだからいつでも会えるわよ、ふふ」
エマは顔を真っ赤にした。
「もう!アビゲイル様、揶揄わないで下さい!」
「ごめん、ごめん」
3日後、エマとジョージはふたりでケッペル家を退職してきた。
ジョージは夢だった王宮で働きたいという。
そしてこれを機に結婚することにしたと報告してくれた。
アビゲイルは可愛らしい夫婦の誕生を心から喜び、祝福した。
一方、エリオットはローマンをおびき出すために、アビゲイルが借りていたアパートに似た背格好の女騎士を代わりに住まわせた。
まんまと忍び込んできたローマンを張り込んでいた憲兵たちが取り押さえた。
不法侵入と元妻への暴行だけではなく、麻薬の輸入など違法な商売でも摘発された。
かなり重い刑が科されるのは間違いない。十数年は牢獄から出られないだろう。
残ったわずかな財産は没収され、爵位は剥奪、領地はほかの貴族へ譲渡されることになった。
「ようやくいい報告ができました」
「ありがとうございました。これで安心できます」
アビゲイルは心底ほっとした表情をした。
「遅すぎたくらいです。もっと早く捕まえられていたら、あなたを危険な目に合わせることもなかったのに」
「そんな、殿下には感謝しかありませんわ。私、もう大丈夫です。どこか近くに新しい部屋を借りようと思います」
「それなのですが、アビー、このままここで暮らしませんか?今後は僕の妻として」
「殿下……」
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