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第11話 新たな出発
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翌日、出勤するときに兄もビジュウ・オロールへ連れていった。
「アビーが男を連れてきた!」と揶揄う職人たちと、きょとんとする兄。
「実は、みんなとお兄様に黙っていたことがあるの」
ケッペル子爵と結婚していたこと、昨日離婚したこと、元夫には内緒でこの店で働いていたことなど、包み隠さず打ち明けた。
「えええ!昨日まで子爵夫人で今は公爵令嬢だって?」
狼狽えるオーナー。
「あら、やだ、私、失礼なことしなかったかしら」
「もう、やめてよ。オーナーはずっと優しかったわ。あんな酷い結婚生活に耐えられたのは、このお店と工房があったからよ。どれだけ救われたかわからないわ」
ヨハネスは工房長のマシューに頭を下げた。
「ようやく事情が呑み込めました。妹が本当にお世話になって。感謝の言葉もありません」
「公爵様、顔をあげてください。お礼を言われるようなことは何もしていませんよ。俺たちは一緒に働く仲間だ。それだけです」
「今後とも、妹をお願いできますか」
「もちろんです。今や、うちのメインデザイナーですよ。辞められて困るのはこちらです」
「ありがとうございます」
「それでね、お兄様、もっと宝石や地金を仕入れたいの。出来たら身内割引で」
「ふっ、ちゃっかりしているな」
「あら商売上手と言って欲しいわ」
「なら、ビジネスとして価格は交渉しよう。だが、質のいいものが採れたら優先的に売ろう、それでいいか?」
「ええ、ありがとうお兄様」
兄は領地に帰っていった。
アビゲイルは近くにアパートを借りて一人暮らしをすることになった。
「もう週2日と言わず、毎日でも来られるわ。デザインだけじゃなく、接客でも掃除でもなんでもやらせてほしいの」
「頼もしいね。さっそくだけど、今日はこれから大物が来るよ。午後から打ち合わせだからメインデザイナーとして参加してもらうわ」
打ち合わせのため、急遽店は休業となった。
特注品の注文に来る客は珍しくないが、こんなことは初めてだ。
それほどの大富豪がくるのか?
約束の時間になると、店の前に豪奢な馬車が停まった。
扉には国章が描かれている。王族の馬車だ。
降りてきたのはエリオット・ヘイスティング殿下だった。
輝くブロンド、澄んだ青い瞳、その美しい容姿と暖かな人柄から、国の太陽と称される第二王子。
「ようこそ、殿下。お待ちしておりました」
「オーナー、わがままをいって申し訳ないです」
「とんでもない、ご納得いくまでゆっくりご覧くださいませ。ご希望は、店舗と工房の見学でしたね。どうぞご案内します」
てきぱきと対応するオーナーの隣でアビゲイルは茫然としていた。
まさか王族だなんて、予想を上回る超大物だ。
エリオットは工房では宝石の研磨や彫金の様子を興味深そうに見学し、積極的に職人に質問していた。
「アビーが男を連れてきた!」と揶揄う職人たちと、きょとんとする兄。
「実は、みんなとお兄様に黙っていたことがあるの」
ケッペル子爵と結婚していたこと、昨日離婚したこと、元夫には内緒でこの店で働いていたことなど、包み隠さず打ち明けた。
「えええ!昨日まで子爵夫人で今は公爵令嬢だって?」
狼狽えるオーナー。
「あら、やだ、私、失礼なことしなかったかしら」
「もう、やめてよ。オーナーはずっと優しかったわ。あんな酷い結婚生活に耐えられたのは、このお店と工房があったからよ。どれだけ救われたかわからないわ」
ヨハネスは工房長のマシューに頭を下げた。
「ようやく事情が呑み込めました。妹が本当にお世話になって。感謝の言葉もありません」
「公爵様、顔をあげてください。お礼を言われるようなことは何もしていませんよ。俺たちは一緒に働く仲間だ。それだけです」
「今後とも、妹をお願いできますか」
「もちろんです。今や、うちのメインデザイナーですよ。辞められて困るのはこちらです」
「ありがとうございます」
「それでね、お兄様、もっと宝石や地金を仕入れたいの。出来たら身内割引で」
「ふっ、ちゃっかりしているな」
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「なら、ビジネスとして価格は交渉しよう。だが、質のいいものが採れたら優先的に売ろう、それでいいか?」
「ええ、ありがとうお兄様」
兄は領地に帰っていった。
アビゲイルは近くにアパートを借りて一人暮らしをすることになった。
「もう週2日と言わず、毎日でも来られるわ。デザインだけじゃなく、接客でも掃除でもなんでもやらせてほしいの」
「頼もしいね。さっそくだけど、今日はこれから大物が来るよ。午後から打ち合わせだからメインデザイナーとして参加してもらうわ」
打ち合わせのため、急遽店は休業となった。
特注品の注文に来る客は珍しくないが、こんなことは初めてだ。
それほどの大富豪がくるのか?
約束の時間になると、店の前に豪奢な馬車が停まった。
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降りてきたのはエリオット・ヘイスティング殿下だった。
輝くブロンド、澄んだ青い瞳、その美しい容姿と暖かな人柄から、国の太陽と称される第二王子。
「ようこそ、殿下。お待ちしておりました」
「オーナー、わがままをいって申し訳ないです」
「とんでもない、ご納得いくまでゆっくりご覧くださいませ。ご希望は、店舗と工房の見学でしたね。どうぞご案内します」
てきぱきと対応するオーナーの隣でアビゲイルは茫然としていた。
まさか王族だなんて、予想を上回る超大物だ。
エリオットは工房では宝石の研磨や彫金の様子を興味深そうに見学し、積極的に職人に質問していた。
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