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第7話 『ブリエ・フルール」の誕生

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私がジュエリーデザイナーなんて。
胸の高鳴りが抑えられなかった。
自分のデザインが商品化されたらどんなに嬉しいだろうか。
でも、それ以上に自分が必要とされた喜びでアビゲイルの心は震えていた。

「それでね、願いが叶うジュエリーとしてブランド化したらどうかと思うのよ。女の子はおまじないが大好きだし、絶対に当たるわ」

ターゲットは10代後半から20代半ばまで。
なるべく価格を抑えて誰でも手に取れるようにしたい。

「ひとりでも多くの人に宝石を楽しんでもらうのがうちのモットーだからね」

オーナーはぽんと手を叩く。

「ブランド名は、そうね、アビー・シャルムなんてどう?」
「ごめんなさい、できれば、本名は出したくないの」
「じゃあ、匿名のデザイナーにしましょうか。かえってミステリアスでいいかもしれないわね」


翌日から温室に籠って、ブランド用のデザインと試作品の製作を始めた。
昔からの趣味が役に立つなんて想像もしていなかった。
絶対に期待にこたえたい。

ティーテーブルの花瓶にベロニカの花が活けてあった。
エマが持ってきてくれたのね……。

「うん!」

アイデアが降ってきた。
さらさらとデザインを描いてゆく。
ベロニカの花をモチーフにしたブローチ。
宝石はカラットが大きければどうしても価格は高くなる。
でも、小さなくず石をいくつも組み合わせたなら、同じ1カラットでも若い人が手の取れる値段で商品化できる。

次は試作品作りだ。
売り物は職人たちが制作してくれるのでデザイン画だけでも十分だけれど、まずは自分で作ってみたい。
まず、ゴールドで茎をつくり、それに小粒の青いサファイヤを片側にまとわりつかせるように留めていく。
同じものをいくつか作り、花束になるように束ねる。
ホワイトゴールドでリボンの形を作り、花束を固定させる。
うらにピンを付けたら出来上がり。
サファイアでできたベロニカの花束だ。


「可愛いわね。これをアビーのブランド第一号にしましょう!どう?」

工房長や職人も賛成している。
ブランド名は『ブリエ・フルール』に決まった。
デザイナーは匿名の『マダム・フルール』とした。
第一弾は青い花をモチーフにしたシリーズになった。
ベロニカのブローチをメインに、それに合わせられる指輪やネックレス、髪飾りも制作した。

職人たちが作ったアクセサリーにアビゲイルが一つずつ願いを込めて祝福の魔法をかける。
これを身に着けてくれた女性に幸せが訪れますように。
魔力をまとった宝石はさらに美しく独特の輝きを放った。

願いが叶うという神秘性と祝福の魔法という珍しさは、女性たちのハートを捉え、発売まもなくして大ヒットした。
安価とはいえ宝石だからそれなりの値段はするのに客が途切れることがなかった。
作ったそばから売れてゆくから、製造が追いつかないと、職人たちは嬉しい悲鳴をあげていた。

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