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第10話 赤い羽根付き帽子の女-5-
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伯爵は護衛官長が身柄を預かることになり、屯所で拘留することになった。
舞踏会ではあんなに自信に満ち溢れ輝いていたのに、今は生気が抜けた人形のようだった。
移送のため馬車に乗せられた伯爵を見送る。
確かに、自供は遺体の状況と合致している。
しかし、伯爵は熊のような大男だ。
華奢な女性一人を殴り殺すのに何度も凶器を振り上げるだろうか。
一撃で間違いなく命を奪うことができるだろう。
彼は犯人ではない。
おそらく殺人は計画的ではなく突発的に起こったものだろう。
その場で強盗に襲われたという偽装をする手段もあったのに、わざわざ身代わりを仕立てて、舞踏会に連れていくという危険を冒したのはなぜか。
どうしても犯行時刻を胡麻化したかったのだ。
そうまでして伯爵が庇いたがる相手は、おそらく一人しかいまい。
夕方にこの家を訪れた伯爵家の馬車に乗った女性。
「アイザック様、奥様に会いに行きましょう」
「ああ、そうだな」
伯爵の自宅へ向かう。
夜も更けた時間の来訪に執事は難色を示したが、アイザック様は火急の要件だと告げた。
「フランキー・テューダー伯爵が殺人容疑で逮捕されました。奥様に取次ぎを」
現れた伯爵夫人は青白い顔をしていた。
「ご主人はキャロライン嬢を殺したと仰られています。本当にそれでいいのですか?」
伯爵夫人は横に首を振った。
そして、か細いが、しっかりとした声で告げた。
「私が彼女を殺しました」
「事情をお聞かせ願えますか」
「夫と結婚したのは8年前です。そのころから常に愛人がいました。しかし、どんな相手とも数か月で別れていました。しかし、キャロラインは違いました。2年以上たってもまるで別れる気配がありませんでした。今度こそ、夫が私を捨てるのではないかと恐ろしくなりました。それで、彼女に別れてくれるように頼みに行ったのです。私は必死に説得しました。お金が必要ならいくらでもあげるとも言いました。しかし、彼女は鼻で笑いました。夫を愛しているから別れる気はないと。気づいたら彼女を殴り殺していました」
夫人は自分の手をじっと見ていた。殴ったときの感触を思い出しているのだろうか。
「私が茫然としていると、夫かやってきました。一目見て、状況を理解したようでした。彼は泣きながら私に謝りました。お前にこんなことをさせてしまったのは自分が愚かだったからだと。あのプライドの高い男が土下座したんです、俺が悪かったって」
彼女は唇を噛みしめ、はらはらと涙をこぼした。
「驚きました。私に対して悪いことをしていると自覚があったことに。馬鹿にしていますよね。彼にとって私はいくら傷つけても、踏みにじっても構わない相手だったんです。まだ、お前が苦しんでいるなんて思いもしなかったと言ってくれたほうがマシだった!!」
夫への激しい失望。怒りと悲しみが入り混じった心の叫びだった。
「伯爵夫人、一緒に来ていただけますね」
「ええ、ご迷惑かけてごめんなさいね」
護衛官の屯所まで夫人を送り届けた。
伯爵は夫人に駆け寄ったが、彼女は一度も夫を見ようとはしなかった。
日付も変わった深夜、ようやく私たちも帰宅することができた。
「舞踏会で疲れたから早く帰る予定だったのに、もっと疲れさせてしまってすまなかった」
そういえばそうだった。
「そんな、謝らないでください。アイザック様も大変だったでしょう。ゆっくり休んでくださいね」
「ああ、ありがとう」
そして私を強く抱きしめた。
「アイザック様?」
「どうして妻になった女性にあんな仕打ちができるんだろうな。俺には理解できない」
「そうですね……」
テューダー伯爵夫妻がどのような経緯で結婚して、どのような結婚生活を送ってきたのか、それは私にはわからない。
浮気する夫が悪いとか、寂しい気持ちを早く打ち明けなかった妻も悪いとかいうつもりもない。
一組の夫婦の心の行き違いで、一人の女性の尊い命が犠牲となった。
彼女の奪われた未来を思うと胸が痛い。
今はただ、私の愛する人を抱きしめ返すことしかできなかった。
舞踏会ではあんなに自信に満ち溢れ輝いていたのに、今は生気が抜けた人形のようだった。
移送のため馬車に乗せられた伯爵を見送る。
確かに、自供は遺体の状況と合致している。
しかし、伯爵は熊のような大男だ。
華奢な女性一人を殴り殺すのに何度も凶器を振り上げるだろうか。
一撃で間違いなく命を奪うことができるだろう。
彼は犯人ではない。
おそらく殺人は計画的ではなく突発的に起こったものだろう。
その場で強盗に襲われたという偽装をする手段もあったのに、わざわざ身代わりを仕立てて、舞踏会に連れていくという危険を冒したのはなぜか。
どうしても犯行時刻を胡麻化したかったのだ。
そうまでして伯爵が庇いたがる相手は、おそらく一人しかいまい。
夕方にこの家を訪れた伯爵家の馬車に乗った女性。
「アイザック様、奥様に会いに行きましょう」
「ああ、そうだな」
伯爵の自宅へ向かう。
夜も更けた時間の来訪に執事は難色を示したが、アイザック様は火急の要件だと告げた。
「フランキー・テューダー伯爵が殺人容疑で逮捕されました。奥様に取次ぎを」
現れた伯爵夫人は青白い顔をしていた。
「ご主人はキャロライン嬢を殺したと仰られています。本当にそれでいいのですか?」
伯爵夫人は横に首を振った。
そして、か細いが、しっかりとした声で告げた。
「私が彼女を殺しました」
「事情をお聞かせ願えますか」
「夫と結婚したのは8年前です。そのころから常に愛人がいました。しかし、どんな相手とも数か月で別れていました。しかし、キャロラインは違いました。2年以上たってもまるで別れる気配がありませんでした。今度こそ、夫が私を捨てるのではないかと恐ろしくなりました。それで、彼女に別れてくれるように頼みに行ったのです。私は必死に説得しました。お金が必要ならいくらでもあげるとも言いました。しかし、彼女は鼻で笑いました。夫を愛しているから別れる気はないと。気づいたら彼女を殴り殺していました」
夫人は自分の手をじっと見ていた。殴ったときの感触を思い出しているのだろうか。
「私が茫然としていると、夫かやってきました。一目見て、状況を理解したようでした。彼は泣きながら私に謝りました。お前にこんなことをさせてしまったのは自分が愚かだったからだと。あのプライドの高い男が土下座したんです、俺が悪かったって」
彼女は唇を噛みしめ、はらはらと涙をこぼした。
「驚きました。私に対して悪いことをしていると自覚があったことに。馬鹿にしていますよね。彼にとって私はいくら傷つけても、踏みにじっても構わない相手だったんです。まだ、お前が苦しんでいるなんて思いもしなかったと言ってくれたほうがマシだった!!」
夫への激しい失望。怒りと悲しみが入り混じった心の叫びだった。
「伯爵夫人、一緒に来ていただけますね」
「ええ、ご迷惑かけてごめんなさいね」
護衛官の屯所まで夫人を送り届けた。
伯爵は夫人に駆け寄ったが、彼女は一度も夫を見ようとはしなかった。
日付も変わった深夜、ようやく私たちも帰宅することができた。
「舞踏会で疲れたから早く帰る予定だったのに、もっと疲れさせてしまってすまなかった」
そういえばそうだった。
「そんな、謝らないでください。アイザック様も大変だったでしょう。ゆっくり休んでくださいね」
「ああ、ありがとう」
そして私を強く抱きしめた。
「アイザック様?」
「どうして妻になった女性にあんな仕打ちができるんだろうな。俺には理解できない」
「そうですね……」
テューダー伯爵夫妻がどのような経緯で結婚して、どのような結婚生活を送ってきたのか、それは私にはわからない。
浮気する夫が悪いとか、寂しい気持ちを早く打ち明けなかった妻も悪いとかいうつもりもない。
一組の夫婦の心の行き違いで、一人の女性の尊い命が犠牲となった。
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今はただ、私の愛する人を抱きしめ返すことしかできなかった。
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