7 / 16
第7話 赤い羽根付き帽子の女-2-
しおりを挟む
三男夫妻に先に帰宅すると断ってから、玄関ホールへ向かっていると、テューダー伯爵がアイザック様に声をかけてきた。
「もうお帰りですか?」
「ええ」
「最近、婚約されたと聞きましたが、こちらが噂の婚約者ですか。とても可愛らしい方だ。お祝いにうちのいいワインを差し上げたいと思うのですが帰りに立ち寄っていただけませんか。なかなかお目にかかれない年代物の逸品ですよ」
別宅の一つを歴代の愛人専用にしていたが、最近は、ワイン好きのキャロライン嬢のためにワインの貯蔵庫を作ったという。
「テューダー伯爵は、もう帰られてもよろしいのですか?」
「むしろ、もっと早く帰ってキャロラインの機嫌をとらないといけないくらいですよ。あとあと面倒になりますからな。わははは」
社交界の色男は豪快に笑った。
テューダー伯爵の馬車が先に行き、その先導についていく。
アイザック様が申し訳なさそうに言う。
「適当なところで切り上げられるようにするから、しばらく我慢してくれ」
「少し疲れてしまっただけですから大丈夫です。そんなに心配しないでください」
テューダー伯爵は爵位を継いだハワード家の長兄と親交が深いらしいが、アイザック様にとってはあまり気の合う人ではないようだ。
想像するにハワード家としては好きではないが無下にもできない相手といったところだろう。貴族もいろいろ大変だ。
20分ほど走っただろうか、伯爵のお屋敷が見えてきた。
そんなに大きな家ではないといってはいたが、とんでもない。立派な邸宅だ。
門をくぐると、玄関の扉が大きく開いているのが見えた。
なんか様子がおかしい。
テューダー伯爵が馬車を降り、慌てた様子で走っていくのが見えた。
私たちも急いで向かう。
玄関扉の向こう、広間の中央に真っ赤なドレスの女性が倒れていた。
床には血だまりができ、長く艶やかな黒髪は血で濡れている。
羽根付き帽子は踏みつけられ、潰れていた。
あちこちの引き出しが開けられ、調度品は乱れて、いくつかは床に転がっていた。
家人の留守を狙って忍び込んだ強盗が部屋をあさっているときにキャロライン嬢がタイミング悪く帰宅してしまい、居直った強盗に襲われたのだろうか。
遺体を一目見るなり、伯爵は膝から崩れおち、彼女の名前を呼びながら泣き叫んだ。
従者も後ろで茫然と突っ立っていたが、アイザック様は護衛官に知らせに行くよう言いつけた。
「あれ?」
私はあることに気付いた。
「どうした?」
「なぜ彼女は靴を履き替えているんでしょうか?」
「靴?」
「ええ、舞踏会では黒のパンプスを履いていたんです」
「今は赤いハイヒールだな」
床に横たわる女性が今履いているのは、綺麗な宝石で縁取られた、一目で高級品とわかる10センチのハイヒールだ。
あの靴ならドレスにもピッタリなのに、どうして何の飾りもついていないパンプスで舞踏会に履いてきたのだろう。
「どうやら、見た目通りの居直り強盗の仕業ではなさそうだな」
アイザック様の言葉に、私はこくりとうなずく。
「もうお帰りですか?」
「ええ」
「最近、婚約されたと聞きましたが、こちらが噂の婚約者ですか。とても可愛らしい方だ。お祝いにうちのいいワインを差し上げたいと思うのですが帰りに立ち寄っていただけませんか。なかなかお目にかかれない年代物の逸品ですよ」
別宅の一つを歴代の愛人専用にしていたが、最近は、ワイン好きのキャロライン嬢のためにワインの貯蔵庫を作ったという。
「テューダー伯爵は、もう帰られてもよろしいのですか?」
「むしろ、もっと早く帰ってキャロラインの機嫌をとらないといけないくらいですよ。あとあと面倒になりますからな。わははは」
社交界の色男は豪快に笑った。
テューダー伯爵の馬車が先に行き、その先導についていく。
アイザック様が申し訳なさそうに言う。
「適当なところで切り上げられるようにするから、しばらく我慢してくれ」
「少し疲れてしまっただけですから大丈夫です。そんなに心配しないでください」
テューダー伯爵は爵位を継いだハワード家の長兄と親交が深いらしいが、アイザック様にとってはあまり気の合う人ではないようだ。
想像するにハワード家としては好きではないが無下にもできない相手といったところだろう。貴族もいろいろ大変だ。
20分ほど走っただろうか、伯爵のお屋敷が見えてきた。
そんなに大きな家ではないといってはいたが、とんでもない。立派な邸宅だ。
門をくぐると、玄関の扉が大きく開いているのが見えた。
なんか様子がおかしい。
テューダー伯爵が馬車を降り、慌てた様子で走っていくのが見えた。
私たちも急いで向かう。
玄関扉の向こう、広間の中央に真っ赤なドレスの女性が倒れていた。
床には血だまりができ、長く艶やかな黒髪は血で濡れている。
羽根付き帽子は踏みつけられ、潰れていた。
あちこちの引き出しが開けられ、調度品は乱れて、いくつかは床に転がっていた。
家人の留守を狙って忍び込んだ強盗が部屋をあさっているときにキャロライン嬢がタイミング悪く帰宅してしまい、居直った強盗に襲われたのだろうか。
遺体を一目見るなり、伯爵は膝から崩れおち、彼女の名前を呼びながら泣き叫んだ。
従者も後ろで茫然と突っ立っていたが、アイザック様は護衛官に知らせに行くよう言いつけた。
「あれ?」
私はあることに気付いた。
「どうした?」
「なぜ彼女は靴を履き替えているんでしょうか?」
「靴?」
「ええ、舞踏会では黒のパンプスを履いていたんです」
「今は赤いハイヒールだな」
床に横たわる女性が今履いているのは、綺麗な宝石で縁取られた、一目で高級品とわかる10センチのハイヒールだ。
あの靴ならドレスにもピッタリなのに、どうして何の飾りもついていないパンプスで舞踏会に履いてきたのだろう。
「どうやら、見た目通りの居直り強盗の仕業ではなさそうだな」
アイザック様の言葉に、私はこくりとうなずく。
1
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄されたので初恋の人と添い遂げます!!~有難う! もう国を守らないけど頑張ってね!!~
琴葉悠
恋愛
これは「国守り」と呼ばれる、特殊な存在がいる世界。
国守りは聖人数百人に匹敵する加護を持ち、結界で国を守り。
その近くに来た侵略しようとする億の敵をたった一人で打ち倒すことができる神からの愛を受けた存在。
これはそんな国守りの女性のブリュンヒルデが、王子から婚約破棄され、最愛の初恋の相手と幸せになる話──
国が一つ滅びるお話。
美人の偽聖女に真実の愛を見た王太子は、超デブス聖女と婚約破棄、今さら戻ってこいと言えずに国は滅ぶ
青の雀
恋愛
メープル国には二人の聖女候補がいるが、一人は超デブスな醜女、もう一人は見た目だけの超絶美人
世界旅行を続けていく中で、痩せて見違えるほどの美女に変身します。
デブスは本当の聖女で、美人は偽聖女
小国は栄え、大国は滅びる。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】待ち望んでいた婚約破棄のおかげで、ついに報復することができます。
みかみかん
恋愛
メリッサの婚約者だったルーザ王子はどうしようもないクズであり、彼が婚約破棄を宣言したことにより、メリッサの復讐計画が始まった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
悪役令嬢は王子の溺愛を終わらせない~ヒロイン遭遇で婚約破棄されたくないので、彼と国外に脱出します~
可児 うさこ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。第二王子の婚約者として溺愛されて暮らしていたが、ヒロインが登場。第二王子はヒロインと幼なじみで、シナリオでは真っ先に攻略されてしまう。婚約破棄されて幸せを手放したくない私は、彼に言った。「ハネムーン(国外脱出)したいです」。私の願いなら何でも叶えてくれる彼は、すぐに手際を整えてくれた。幸せなハネムーンを楽しんでいると、ヒロインの影が追ってきて……※ハッピーエンドです※
踏み台令嬢はへこたれない
三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」
公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。
春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。
そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?
これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。
「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」
ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。
なろうでも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄された令嬢の父親は最強?
岡暁舟
恋愛
婚約破棄された公爵令嬢マリアの父親であるフレンツェルは世界最強と謳われた兵士だった。そんな彼が、不義理である婚約破棄に激怒して元婚約者である第一王子スミスに復讐する物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~
華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。
突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。
襲撃を受ける元婚約者の領地。
ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!!
そんな数奇な運命をたどる女性の物語。
いざ開幕!!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
悪役令嬢に転生して主人公のメイン攻略キャラである王太子殿下に婚約破棄されましたので、張り切って推しキャラ攻略いたしますわ
奏音 美都
恋愛
私、アンソワーヌは婚約者であったドリュー子爵の爵士であるフィオナンテ様がソフィア嬢に心奪われて婚約破棄され、傷心……
いいえ、これでようやく推しキャラのアルモンド様を攻略することができますわ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる