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【後日譚2】異世界(日本)から聖女が来たらしいけど、オレ(元勇者で元日本人)には関係ないったらない!!!

閑話 救世主

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 高校生活も今日で終わり。

「愛莉ちゃん~向こう行っても連絡してね」

「うん、するよ。いっぱい」

 私は遠い大学への進学を選んだから、この春から地元を離れて、一人暮らし。
 みんなが口々にそんな私との別れを惜しんでくれる。
 
 ……初めだけだろうな。

 私もみんなも、新しい友だちができて、新しい生活があって……。
 きっと、忘れちゃうんだ。ああ、そんなこともあったかなぁ。そんな人もいたかなぁ?って。

 ――蓮くんのときみたいに。


 赤谷蓮くん。
 幼稚園の頃からずっと一緒の幼馴染。

 家が近所で、小さい頃はよく遊んでた。

 少し引っ込み思案だったけど、優しくて……誰からも、嫌われてなんかなかった。

 でも、みんな。

 蓮くんが死んだって聞いても“卒業まであとちょっとだったのにね“とか、“残念だったね“って。
 それだけだった。

 私だって、大きくなってからは話すことなんて全然なかったし、蓮くんのお母さんが亡くなったときも、言葉をかけてあげることもできなかったし。みんなのこと、冷たいとか言いたいわけじゃない。


 でも、人ひとりがいなくなるのがこんなに呆気ないって、当たり前なんだって……怖くなった。


「ね、愛莉ちゃんも行くよね」

「愛莉ちゃん来てよ~! もっと話したい。最後なんだもん」

 蓮くんのことを考えてぼんやりしていると、クラスのみんなはいつのまにか卒業パーティーの話で盛り上がっていた。

 卒業パーティー。
 お話しして、食べて、笑って……。
 そうして最後のお別れをするんだろう。
 
 いつかある同窓会とか誰かの結婚式とかの思い出になるような、楽しい思い出を作るんだ。

 ――行かないと。

 そう思ったのに、唇からは正反対の言葉が溢れた。


「ごめん。用事があるから……バイバイ、みんな」

 手を振りながら、走る。
 呼び止められるのも構わずに、受験のために染め直した黒髪が風で乱れるのも構わずに、走った。



 ◇



 第二校舎の三階の隅っこ。
 文化祭のとき、遠すぎて誰も買いに来る人がいなかった冊子を売っていたらしい、文芸部の部室。


「はー……は、あ……」

 誰もいないその教室を、息を整えながら見回す。

 ――ここに、蓮くんはいたんだ。

 蓮くんはいつも少し退屈そうな顔をしていたけど、部活のある放課後になると嬉しそうだった。

 今の私みたいに息が切れるほどじゃないだろうけど、足早に、ここに毎日向かっていたんだろう。


「蓮くん、今日は卒業式だよ」

 いないことなんてわかってるけど、でも、蓮くんの入っているお墓――共同墓地らしい――よりも、ここの方が蓮くんを感じられる気がした。

「私……蓮くんのこともっと知りたかった」

 十年も近くにいたのに、私は彼のことをろくに知らない。


「ねぇ……なんで君は私のこと、好きにならなかったの?」

 傲慢な考えだけど、私の周りの人はみんな――私がなんにもしなくても、私のことを好きになってくれた。

 たまに、敵意をぶつけてくる人もいたけど、それは劣等感の裏返しなんだって蓮くんが教えてくれた。

『愛莉ちゃんみたいな完璧な人間を嫌う奴は、愛莉ちゃんじゃなくて自分自身が嫌いなんだよ』

 友だちだと思ってた女の子に“大っ嫌い“って言われて泣いてた私に、彼がそう教えてくれたのだ。

 私は愛されるか、筋違いに憎まれるか――そんな人間なんだって。特別なんだって。

 そんなことを言っていた割に、蓮くんは、私のことを好きでも嫌いでもなかった。

 私に、興味なんて持ってなかった。

 私も蓮くんのことを好きだったわけじゃない。でも、私に興味を持っていない蓮くんは――特別だった。


「……蓮くん」

 呼びかけたって彼はもういない。
 彼の心が知りたかったなんて、今更だ。

 いつまでもここに留まっている意味なんてない――そう思い、一つ息を吐くと埃っぽい文芸部の教室を後にしようとした。

「わっ……」

 振り返った拍子、乱雑に積まれていた紙の束にぶつかってしまう。

「あーあ……ごめんなさい……」

 勝手に入って、散らかして。本当に私は駄目だ。
 物悲しくなりながら落ちた物を拾い集める。文化祭の時の冊子みたいだ。

「あれ……これ」

 冊子に混じって、一冊のノートが落ちていた。

 表紙に大きく“秘密“って書かれた、シンプルなノート。

 名前は書かれていない。
 でも私にはそれが、蓮くんの字だってわかった。


「なに書いてあるんだろ。日記? ここ文芸部にあるんだから小説かな?」

 彼の形見だと思うと中身を見たくなってしまったけど、それはいけないことだ。
 蓮くんの家族は全員――お母さんだけだったけど――亡くなってるから、渡す相手もいない。


 名残惜しいけど処分しよう。きっとそれが蓮くんのためだ。


 明日捨てる予定だった教科書の山に紛れ込ませて、このまま誰の目にも触れないように。

「……さよなら」

 明日はゴミ収集車を見て泣いてしまうかもしれないな、なんて。
 ちっともロマンチックじゃないけど、センチメンタルなことを考えた。
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