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【後日譚2】異世界(日本)から聖女が来たらしいけど、オレ(元勇者で元日本人)には関係ないったらない!!!

第17話 一段落

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 二人の魔力がぶつかり合って、壁とかがミシミシ言い始めた。

 天井崩れる……っ!!
 グレンが守ってくれるだろうから大丈夫なのは分かってるけど、無理。シンプルにこわい。

「待てってば! やめてやめて……」

 半泣きになってグレンに抱きつき、どうにか愛莉ちゃんへの直接攻撃は防いだけど、まだ怒りはおさまってないみたいだ。

「ベル! この女を庇うんですか……まさか、本当にこの女と一緒に地球に行くなんて言いませんよね?」

「いや、単に怖いんだってば! それにお前がいない場所に行くはずないだろ!!」

 だから落ち着け、と。
 視線を合わせながら髪を撫でたり、背伸びして軽いキスを繰り返したりしてやれば、どうにかグレンは平静を取り戻してくれた。

 壁の崩壊もおさまった。
 よかった……。

「ごめんなさい……」

「うん。大丈夫、大丈夫だよ~。オレがいなくなっちゃうかもって不安だったんだよな? ごめんね」

 すっかりおとなしくなったグレンの目尻に浮かぶ涙を拭って、微笑む。

 
 ああ――こんなに可愛くて大好きなお前を、置いていったりなんかしないよ。グレン。

 
「ね、グレン。ちょっとだけ愛莉ちゃんと話してもいい?」

「…………はい」

 めちゃくちゃ渋々頷くのに苦笑しながら、その腕に抱かれたまま、愛莉ちゃんに語りかける。

「愛莉ちゃん。……君が、オレのことを心配してくれるのは、嬉しい。あっちの世界に残してきたものなんか……オレのことを考えてくれている人なんて、誰一人いないと思ってたから」


 家族は、お母さんと叔父さんだけだった。
 交友関係も少なくて、真正面から友だちと呼べるような間柄だったのは井上さんだけだった。

 たった三人。

 オレにとって大切だったのは三人だけで――そのうち一人はもういない。
 
 でも二人は。
 生きる世界は変わったけど、ずっと一緒にいてくれる。


「……蓮くん」
 
「オレは、愛莉ちゃんと一緒には行けない」

 声は震えなかった。
 
 迷いなんてない。未練なんてない。
 大切なものは全部、もう持ってる。

 
「……その人のこと、好きなの?」

「好きだよ。オレはグレンと一緒にいるためならなんだってできる。他になにも要らないくらい大好きなんだ」

 今更照れる必要もなかった。
 ……散々イチャイチャしてるの見られた後だし。

 
「そっか……好きなら、仕方ないね」

 愛莉ちゃんは言うと、オレの足元にいたスピカに視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。

「井上さん。私、帰るよ」

「うん。……ごめんね、巻き込んで」

 スピカは珍しく殊勝に謝り、愛莉ちゃんに向かって手を伸ばす。

「愛莉ちゃん。元の世界に戻ったら――君は、ここでの出来事を忘れる」

 もふもふの手がさらりと揺れる黒髪を撫でるのを黙って受け入れて、愛莉ちゃんは微笑んだ。

「仕方ないよ」



 ◇◇◇


 
 まばらに人が倒れている王宮の庭。そこに着くと、早速とばかりにスピカがオレの腕からすり抜けて地面に降りる。

「さ、愛莉ちゃん。ここに立って。後は……君が帰りたいと願って、グレンくんが魔法を発動すればいい」

 なんでも転送のための“座標“があるそうで、わざわざ移動してきたのだ。
 まあ、異世界に人を移動するわけだし、それぐらいの手間はあるよね。

「わかった」

 愛莉ちゃんは言われるままに座標に立ち、手を振る。

「バイバイ、蓮くん。井上さん」

 その動きに合わせるようにグレンが魔法を使い――次の瞬間には、彼女の姿は消えていた。


「――成功です。諸星愛莉は無事日本へと帰りました」
 
 ……なんかすごいあっさりだ。

「さすが~。君は魔力コントロールが上手だね」

「貴女の魔法が大雑把すぎるんですよ」

 召喚のときはあんなに派手だったのに、と思ったが、術者の違いらしい。グレンって改めてすごいんだね。

「そうだよ。君の彼氏はすごいんだよ~」

 お、テレパシー使えるようになってるじゃん。

「うん、もう“聖女“の魔力がないからね!! 完全復活!」

 魔王の完全復活――言葉だけなら不穏だけど、これは逆にオレたちにとっての日常が戻ってきたってことだ。



 ◇



 ひび割れた王宮を直したり、人々から“聖女“の記憶を消したり――そういう諸々を二人が魔法でちゃっちゃか済ませているのを適当な石に腰掛け眺めながら、愛莉ちゃんに想いを馳せる。


 ――愛莉ちゃん、なんで黒髪だったんだろ。
 というか、あれ赤谷蓮が死んでから結構時間が経ってるから、もう卒業してるはずなのに、まだ女子高生だったし……。

 まあ、文字通り世界が違うんだもんな。
 時間の流れぐらい違うか。

「……大学生か」

 オレはもうならないが、彼女はそのうち大学生になって、就職して……それで、“高校生の頃までいた幼馴染“のことなんか忘れちゃうんだろうな。

 魔法がなくたって、人はいつか忘れ去られる。
 でも……。

 できれば、たまにでいいから思い出してほしい。オレがいたこと。
 教室の片隅で俯いている暗い奴だった、とか。思ったより別にキモくなかったよね、みたいに同窓会とかで話しててほしい。

 ……あと、あわよくば積荷ノートは燃やしてほしい。


 そんなことを考えている間に、後始末が終わったらしい。
 
「終わりました。帰りましょう、ベルンハルト」

 疲れた素振りなんて微塵もないグレンは、いつも通り爽やかに笑ってオレに手を差し出した。
 
「うん。帰ろう、グレン」


 帰ろう。家に。
 ――少し退屈で、だけど愛しい日常に。
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