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【後日譚2】異世界(日本)から聖女が来たらしいけど、オレ(元勇者で元日本人)には関係ないったらない!!!

第12話 野次馬

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 スピカが見ている方に探査魔法を使う。かなりの数の人間が、こちらに向かっているのがわかった。

「……逃げるのは、もう無理だな」

 立ち上がり、重たいドレスを、“ベルタ仮初“を脱ぎ捨てる。

「ベルンハルト」

「大丈夫。聖女様のお考えはオレにはさっぱりだが……ただで殺されたりはしない。信じて待ってろ」

 心配そうに見上げてくるグレンの額に唇を落として、微笑んだ。



 ◇◇◇



 念のため残していた自分の服を身にまとい、グレンと共に公爵邸の廊下を歩く。


「――ベルンハルト様」

 出口で、背後から呼び止められた。

 この館の主人、クラウスの兄――フランツ・ベネトナシュだ。

「公爵様」

「お兄様と呼んでくれても構いませんよ。クラウスを、そう呼ぶようにね」

 公爵はコツンと足音を鳴らして、オレに歩み寄る。

「いつから、オレがベルンハルト・ミルザムだと?」

「初めからです。ご存知の通り、私は人間には興味がありませんが……貴方だけは、別です。いいえ、別でした。ベルンハルト・ミルザム」

 視線が身体中に絡みつく。
 グレンが今にも公爵を食い殺しそうな目で睨むのを片手で制止し、どうにか笑みを作った。

「へぇ……それはまた、どうして」

「私はね、ずっと不思議だったんです。どうして父上やクラウスは貴方のようなただの少年に異様なまでに執着するのか」

 公爵は独白のように嘆き、天を仰ぐ。

「確かに貴方は美しい。強い。でも――それだけだ。本当は少し、ほんの少しだけ期待していたんです。もしかすると、私が知らない何かが貴方にはあるのではないかと。……そう考え、クラウスの見え透いた嘘を受け入れたのです」

 その瞳に浮かぶのは、オレへの失意。

「けれど、貴方は“普通“だった。かつてこの屋敷にいた、父上の人形達と同じだ」

 無遠慮に向けられる落胆も、侮蔑に等しい言葉も、オレには響かない。

「ええ。今のオレはただの道楽貴族。貴方を愉しませるに足る存在ではありません」

「……そのようですね。では、さようなら――ベルンハルト・ミルザム」


 公爵が背を向けるのと同時に、オレ達も扉へと向き直る。

「さようなら、ベネトナシュ公爵」

 
 そうしてオレ達は、公爵邸を後にした。



 ◇



「…………あの不思議大好き野郎、ずっと魔王とその末裔がオレと一緒にいたって気づかなかったね」

 屋敷を出てすぐ、思わず呟く。

「見る目がないよねぇ。君だってこの魔王様のご主人様だってのに」

 草むらに隠れていたらしい魔王が、まとわりついた葉っぱを振り払うように身体を揺らして笑った。

「貴方を凡俗扱いだなんて……聖女が片付いたら絶対にあの男も同じ目に遭わせてやる」

 魔王の末裔はまた物騒な独り言をもらしながら、オレの手を硬く握った。

 
「じゃ……行こうか」

 そんな二人を従えた平凡なオレは、これから異世界からの聖女様への謁見に赴くのだと教えなかったのは――趣味の悪いドレスへの、ちょっとした意趣返しだ。
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