「隠れ有能主人公が勇者パーティから追放される話」(作者:オレ)の無能勇者に転生しました

湖町はの

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【後日譚2】異世界(日本)から聖女が来たらしいけど、オレ(元勇者で元日本人)には関係ないったらない!!!

第10話 公爵邸

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 閑話休題――気を取り直し改めて会議を、と思ったところで部屋のドアがノックされる。

「グレン様、ベルタ様」

 一瞬、もう居場所がバレたのかと思ったけど……その割には尖った気配が感じられない。

 目配せをするとグレンも頷くので、入室を促した。



 ◇◇◇



 訪れたのは公爵邸の執事。そしてその用事は――。


「昨夜到着されたばかりですのに、不躾に呼び付けてしまい申し訳ない」

「いえ、公爵様」

 現公爵――不思議マニア公爵からの呼び出しだった。

「朝食の席にもおいでにならなかったので気になりましてね。ところで……ベルタ嬢」

「っ、はい」

 突然呼ばれた仮初の名に声が上擦る。それが都合よく女のように高い声になったから……まあ結果オーライ。

「失礼ですが、お召し物が昨日と同じですね」

「あ、ああ……少し、事情がございまして」

 本当に失礼だな、と思いつつ意味ありげに顔を伏せる。
 踏み入ってくるなとあからさまに示したのだが……。

「事情、ね」

 却って公爵の興味をひいてしまったらしい。
 ……世界不思議発見公爵だもんね。無意味に意味深なこと言わないようにしよ。


 オレがそんなめちゃくちゃ失礼なことを考えてるとは思っていないだろう公爵は、ふっと微笑む。

「用意させますよ。ベルタ嬢は流行りのドレスはお好きですか?」

「え、ええ……」

 訳のわからないままたどたどしく首肯すると、そのまま仕立て屋を呼ばれそうになったが、断固固辞して吊るしのもの既製品を用意してもらうことになった。



 ◇◇◇



「……どう思う」

 部屋に戻り、運ばれてきた遅めの朝食を摂りながらグレンに問いかける。

「流行りのドレスに合わせるなら髪はもう少し長い方がいいでしょうね」

「違う。わかってんだろ……公爵が、オレ達だけ呼び出した理由だよ」

 
 そう――。
 
 執事は、同室していた双子(スピカは偉いのでちゃんと咄嗟に身を隠した)には目もくれず、オレとグレンだけを指名して公爵の元へ連れて行った。

 朝食の席にいなかった、という状況なら双子だって同じはずだ。
 それ以外になにか、公爵がオレ達に近付こうとするなにかがあったと考えるべきだろう。

 
「そうですね……貴方の素性は、適当な子爵家の三女として通してあるとクラウス様が言っていましたし、そんなにもすぐに貴方が“ベルンハルト・ミルザム“だと気づくはずもないと思うんですが」

「だよなぁ……単に男ってバレたのかな」

 それもまずいことにはまずいが。

 金髪碧眼だけならともかく、自分で言うのもナルシストのようで恐縮だがこの美貌。
 
 正体と性別を隠していることと、目立つ容姿とが、そのまま失踪しているベルンハルト・ミルザムを連想させる可能性もある。

「まあ……それならそれで、打つ手がないわけでもないけどな」
 
 紅茶の香りで気分を落ち着かせようとティーカップを持ち上げようとするが、手が震えてうまく行かない。

「――ベルンハルト」

 それを見兼ねたのか、グレンはオレの手からそっとカップを取り上げた。

 そしてゆっくりと、穏やかに言い聞かせてくる。

「大丈夫。なにがあっても、俺が貴方を守ります。貴方には指一本触れさせません」

「グレン……」

 目を閉じて、重ねられる唇を受け入れた。


 ――この屋敷を訪れるのは、先代公爵のの日以来だった。

 持ち主が変わったとはいえ、人形公爵の屋敷に、文字通り人形の姿で赴く――。
 そんな状況に、自分でも思っていた以上にストレスを感じていたのかもしれない。


 最悪の場合、身を差し出すことになりかねないと考えた。

 先代の手の感触が未だ生々しく残る背を、肩を男の視線が撫でるのを想像して寒気が走った。

 けれど。
 

「ベル……俺だけの可愛い人」

 そんな不安は、砂糖よりも甘い言葉で溶かされていく。

「は……なにその、ロマンス小説みたいな呼び方」

「だって、貴方は可愛い人ですよ。不満ならキティでも、マイスイートハートでも……貴方が望むようにお呼びします」

 全ては、貴方のために。
 全て、貴方の望みのままに。

 ……思いが重いのは相変わらずだね、ダーリン。

「いらない。ちゃんと……呼んで」

 変わったのはオレの方だ。
 グレンと同じぐらい、いやそれ以上に……日々を重ねるたびに彼への思いは強くなっている。

「はい、ベルンハルト」


 大丈夫。大丈夫――。


 紅茶がすっかり冷めてしまうまでキスを繰り返して、また時間を無駄にしてしまった。
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