「隠れ有能主人公が勇者パーティから追放される話」(作者:オレ)の無能勇者に転生しました

湖町はの

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【後日譚2】異世界(日本)から聖女が来たらしいけど、オレ(元勇者で元日本人)には関係ないったらない!!!

閑話 僕の神様

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    ―― side:ロニー ――

 
「なぁロニー? お前は魔王サマのお話、聞かなくてよかったのかよ。ああいうオカルト、昔から好きだろ?」

 ベルンハルト様に部屋を追い出され部屋に戻る道中、兄に揶揄うように言われ、苦笑する。

「別に。“魔王様“のお話が聞きたくてここへ来たわけではありませんから」

 自分と同じ高さにある兄の顔を見つめた。
 その面貌は、伯爵領にいた数刻前よりも随分とよくなっている。

「もう、辛くありませんか?」

「ん? ああ。何だったんだろうなぁ……魔法も、今は全然普通に使えるぜ」

 朝方に王都から放たれた謎の光。そして振動。――魔王やベルンハルト様の言葉を信じるなら、異世界から聖女が召喚された証の衝撃。

 その異変は、領地や民に影響を及ぼした。
 伯爵領の動植物と、一部の人間とが魔力を抜き取られたかのように――かつて、僕が編み出した〈毒針ギフト〉の影響を受けたかの如き様態になったのだ。

 とはいえ、農作物等への被害は普段からの備えもあるおかげで大したダメージではなかった。
 変調を訴えたのも本当に数えるほどの一部の人間だけで、本来ならそこまで大事にすることでもない。領主は騒がず、座して王宮からの発表を待てば良い問題だった。

 けれど、その一部の人間に、兄が含まれていた。

 何よりも優先するべき半身――神様よりも大切な、僕の兄さんが。


 
 ◆◇◆



「兄さん!」

 報告に目を通したところ、変調を訴えているのが有力貴族――豊富な魔力を持つ人間ばかりだと気がつき、慌てて兄のいるはずの子爵家へと向かった。

 彼がいつも座っている陽当たりのいい執務室。そこでくつろぐ大きな白馬は……。

「……っ、兄さん」

 肩で息をする彼を気遣うように寄り添っていた白馬を押し退け、その顔を覗き込む。

「酷い顔色だ……」

「……ロニー? なんか……さっきの、地震の、後から……変なんだ」

 魔法がうまく使えない、つまりは魔力がほとんど失われていると兄は訴えた。

 魔力――生命の源たるそれが失われる。即ち……。

「兄さん、僕……王都に、行かないと」

「馬鹿。領主が緊急事態に領地を離れてどうするんだ。冷静になれよ、ミルザム伯爵」

 原因を突き止めようと、領地を放り出して王都へと向かおうとする僕を止めた彼の顔は青ざめていて、見ているのが辛かった。

 
 そんな時に、あの銀の猫が――“魔王“が僕らの前に現れたのだ。


「やあ、こんにちは。シャウラの双生児」



 ◆◇◆


 
 初めから手放しに信じたわけではない。
 けれど、言葉を話す魔獣――その時点で、普通のモンスターではないことは確かだった。

 そして、疑いは。
 シャウラの人間しか知らないはずの内部情報と、王家と領主しか預かり知らないはずのミルザム伯領の歴史を彼女が口したことで晴れた。

 いや、正確に言えばまだ、彼女がグレン・アルナイルやベルンハルト様の魔法で生み出された何かである可能性は残っていた。

 それでも、僕はその可能性を考えることをやめた。
 彼女の言葉を信じた。ベルンハルト様の肉体を連れて領地を離れる方が安全だと、兄の回復に繋がると信じたのだ。


 根拠はなかったが結果的には正解だった。

 考え込んでいるといつのまにか部屋に着く。

「……ね、兄さん」

 公爵が用意したのは二部屋だったが、ベルンハルト様達を待つ間も当然のように一つの部屋を使った。
 今も、同じ部屋に――本来は兄のために用意された部屋に入る。
 
「ん? なに」

 彼はそれに疑問を呈することもなく、ソファーに腰を下ろした。

 その隣に腰掛けて、同じ顔に手を伸ばす。

「兄さんが……無事で良かった」

 頬を撫でる手にくすぐったそうに目を細め、彼は笑う。

「大袈裟なんだよ。……大丈夫。おれはお前より先に死なないって決めてんの」

 ――だから、安心しろ。

 僕と同じぐらい大袈裟なそんな言葉を吐いて、彼は僕を抱きしめた。


 その夜は、子供の頃のように同じベッドに入った。
 僕はこのまま死んだっていいと思いながら、目を閉じた。
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