77 / 93
【後日譚2】異世界(日本)から聖女が来たらしいけど、オレ(元勇者で元日本人)には関係ないったらない!!!
第4話 ヒロインが聖女様
しおりを挟む
「大変お待たせいたしました、ベルンハルト様」
クラウスが戻ってきたのは、たっぷり二時間は経った頃だった。
その間にグレンといつも通りの会話をしていたおかげで、オレもかなり落ち着きを取り戻したから、多分何を聞いても驚かな――いや、驚くと思うけど、ちょっとはマシなはず。
「いえ。それで、ベネトナシュ卿……泉に現れた女性と言うのは、やはり……“聖女“なのでしょうか?」
まどろっこしいのは嫌だし、と単刀直入に尋ねれば、クラウスは目を見張り、首肯した。
「ご慧眼の通りです。彼女の魔力、そして我々の知り得ない異界の知識――異世界からの聖女だと考えてまず間違いないでしょう」
間違いないのか~……そっかー……。
間違いであって欲しかったなぁ、と項垂れていると、更にきつい一撃が入った。
「彼女についてですが――彼女は名を、“アイリ・モロボシ“と名乗りました」
アイリ……モロボシ……??
「正確には“モロボシアイリ“。ファーストネームが後に来るのが正式な名称らしいです。それから自分は“チキュウ“の“ニホン“から来た……ジョシ、コウコウセイ……? だと主張していました」
クラウスの言葉がうまく入ってこない。
モロボシアイリ。――諸星愛莉。
ただ、その名前だけが頭の中に響き続ける。
――諸星愛莉です。
澄んだ声で紡がれたその名前。
――諸星さん。
――愛莉ちゃん。
みんなが口々に呼んだその名前。
――アイリ。
オレが、“ヒロイン“に付けた――オレの初恋の女の子の名前。
彼女が、この世界に来た……??
治ったと思い込んでいた混乱が、ぶり返す。
「――ですので……ベルンハルト様?」
オレの様子がおかしいことに気がついたのか、クラウスの滔々と話していた声が止まった。
「……ベル」
グレンも気遣わしげにオレの顔を覗き込んでいる。
唇を噛む。
「大丈夫。……とにかく、オレ達はその聖女様から……王都から、離れた方が良さそうだな」
今は余計なことを考えている時間はない。
ただの同姓同名なことだってあり得るのだ。……そうだよ。愛莉ちゃんはもう黒髪ロングじゃなかった。茶髪だったはずだし、赤の他人だ。
偶然、偶然だと言い聞かせて話を進める。
「はい。ただ、ミルザム伯領へお戻りになれば、すぐに王国騎士団が貴方を再度こちらへお連れしようとするでしょうから……身を隠すのには、私の兄の――ベネトナシュ公爵邸をお使いください」
現ベネトナシュ公爵……クラウスの兄は、その父と同類で、収集癖がある輩らしい。
その屋敷に、と思うと気が重いが、都合はいいだろう。
「……ご存知の通り、あそこにいるのは素性のわからぬ者ばかりです。王家も貴方があそこへ身を隠すと思い至るのには時間がかかるでしょうから、少しは目眩しになるかと。屋敷までの馬車もすでに手配してあります」
「感謝します、ベネトナシュ卿」
軽く頭を下げて立ち上がる。
「……行こう、グレン」
唇を笑みの形に歪めて、グレンに手を差し出した。
「はい……ベルンハルト」
――大丈夫。
もし、聖女が……オレの知っている愛莉ちゃんなのだとしても。
「お前、この部屋から出たらオレのこと名前で呼ぶなよ。怪しまれるからな」
「ベルも、その姿でその口調は目立つのでやめてくださいね」
もう、関係ない。
オレの人生には、“ヒロイン“も“主人公“も必要ない。
この手の中のぬくもりだけがあれば、それで十分だ。
――ちょっと、私のこと忘れてない??
あ。ごめん、スピカ。
正直ちょっと忘れかけてました。というかテレパシー使えたんだ。スピカの魔法は阻害されてないの?
――影響は受けてるけど、私は君の眷属だからね。グレンくんみたいに完全に使えないわけじゃないみたい。
そっか。良かった。
じゃあ改めて――。オレは、グレンとスピカとの平穏な日常を過ごせれば、それで十分だから。協力してね、スピカ。
――ええ、勿論ですとも。
魔王様の心強いお答えを胸に、部屋の外への一歩を踏み出した。
クラウスが戻ってきたのは、たっぷり二時間は経った頃だった。
その間にグレンといつも通りの会話をしていたおかげで、オレもかなり落ち着きを取り戻したから、多分何を聞いても驚かな――いや、驚くと思うけど、ちょっとはマシなはず。
「いえ。それで、ベネトナシュ卿……泉に現れた女性と言うのは、やはり……“聖女“なのでしょうか?」
まどろっこしいのは嫌だし、と単刀直入に尋ねれば、クラウスは目を見張り、首肯した。
「ご慧眼の通りです。彼女の魔力、そして我々の知り得ない異界の知識――異世界からの聖女だと考えてまず間違いないでしょう」
間違いないのか~……そっかー……。
間違いであって欲しかったなぁ、と項垂れていると、更にきつい一撃が入った。
「彼女についてですが――彼女は名を、“アイリ・モロボシ“と名乗りました」
アイリ……モロボシ……??
「正確には“モロボシアイリ“。ファーストネームが後に来るのが正式な名称らしいです。それから自分は“チキュウ“の“ニホン“から来た……ジョシ、コウコウセイ……? だと主張していました」
クラウスの言葉がうまく入ってこない。
モロボシアイリ。――諸星愛莉。
ただ、その名前だけが頭の中に響き続ける。
――諸星愛莉です。
澄んだ声で紡がれたその名前。
――諸星さん。
――愛莉ちゃん。
みんなが口々に呼んだその名前。
――アイリ。
オレが、“ヒロイン“に付けた――オレの初恋の女の子の名前。
彼女が、この世界に来た……??
治ったと思い込んでいた混乱が、ぶり返す。
「――ですので……ベルンハルト様?」
オレの様子がおかしいことに気がついたのか、クラウスの滔々と話していた声が止まった。
「……ベル」
グレンも気遣わしげにオレの顔を覗き込んでいる。
唇を噛む。
「大丈夫。……とにかく、オレ達はその聖女様から……王都から、離れた方が良さそうだな」
今は余計なことを考えている時間はない。
ただの同姓同名なことだってあり得るのだ。……そうだよ。愛莉ちゃんはもう黒髪ロングじゃなかった。茶髪だったはずだし、赤の他人だ。
偶然、偶然だと言い聞かせて話を進める。
「はい。ただ、ミルザム伯領へお戻りになれば、すぐに王国騎士団が貴方を再度こちらへお連れしようとするでしょうから……身を隠すのには、私の兄の――ベネトナシュ公爵邸をお使いください」
現ベネトナシュ公爵……クラウスの兄は、その父と同類で、収集癖がある輩らしい。
その屋敷に、と思うと気が重いが、都合はいいだろう。
「……ご存知の通り、あそこにいるのは素性のわからぬ者ばかりです。王家も貴方があそこへ身を隠すと思い至るのには時間がかかるでしょうから、少しは目眩しになるかと。屋敷までの馬車もすでに手配してあります」
「感謝します、ベネトナシュ卿」
軽く頭を下げて立ち上がる。
「……行こう、グレン」
唇を笑みの形に歪めて、グレンに手を差し出した。
「はい……ベルンハルト」
――大丈夫。
もし、聖女が……オレの知っている愛莉ちゃんなのだとしても。
「お前、この部屋から出たらオレのこと名前で呼ぶなよ。怪しまれるからな」
「ベルも、その姿でその口調は目立つのでやめてくださいね」
もう、関係ない。
オレの人生には、“ヒロイン“も“主人公“も必要ない。
この手の中のぬくもりだけがあれば、それで十分だ。
――ちょっと、私のこと忘れてない??
あ。ごめん、スピカ。
正直ちょっと忘れかけてました。というかテレパシー使えたんだ。スピカの魔法は阻害されてないの?
――影響は受けてるけど、私は君の眷属だからね。グレンくんみたいに完全に使えないわけじゃないみたい。
そっか。良かった。
じゃあ改めて――。オレは、グレンとスピカとの平穏な日常を過ごせれば、それで十分だから。協力してね、スピカ。
――ええ、勿論ですとも。
魔王様の心強いお答えを胸に、部屋の外への一歩を踏み出した。
33
お気に入りに追加
713
あなたにおすすめの小説
悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~
トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。
しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。
貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。
虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。
そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる?
エブリスタにも掲載しています。
【完結】守銭奴ポーション販売員ですが、イケメン騎士団長に溺愛されてます!?
古井重箱
BL
【あらすじ】 異世界に転生して、俺は守銭奴になった。病気の妹を助けるために、カネが必要だからだ。商都ゲルトシュタットで俺はポーション会社の販売員になった。そして黄金騎士団に営業をかけたところ、イケメン騎士団長に気に入られてしまい━━!? 「俺はノンケですから!」「みんな最初はそう言うらしいよ。大丈夫。怖くない、怖くない」「あんたのその、無駄にポジティブなところが苦手だーっ!」 今日もまた、全力疾走で逃げる俺と、それでも懲りない騎士団長の追いかけっこが繰り広げられる。
【補足】 イケメン×フツメン。スパダリ攻×毒舌受。同性間の婚姻は認められているけれども、男性妊娠はない世界です。アルファポリスとムーンライトノベルズに掲載しています。性描写がある回には*印をつけております。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
【完結】異世界から来た鬼っ子を育てたら、ガッチリ男前に育って食べられた(性的に)
てんつぶ
BL
ある日、僕の住んでいるユノスの森に子供が一人で泣いていた。
言葉の通じないこのちいさな子と始まった共同生活。力の弱い僕を助けてくれる優しい子供はどんどん大きく育ち―――
大柄な鬼っ子(男前)×育ての親(平凡)
20201216 ランキング1位&応援ありがとうごございました!
第一王子から断罪されたのに第二王子に溺愛されています。何で?
藍音
BL
占星術により、最も国を繁栄させる子を産む孕み腹として、妃候補にされたルーリク・フォン・グロシャーは学院の卒業を祝う舞踏会で第一王子から断罪され、婚約破棄されてしまう。
悲しみにくれるルーリクは婚約破棄を了承し、領地に去ると宣言して会場を後にするが‥‥‥
すみません、シリアスの仮面を被ったコメディです。冒頭からシリアスな話を期待されていたら申し訳ないので、記載いたします。
男性妊娠可能な世界です。
魔法は昔はあったけど今は廃れています。
独自設定盛り盛りです。作品中でわかる様にご説明できていると思うのですが‥‥
大きなあらすじやストーリー展開は全く変更ありませんが、ちょこちょこ文言を直したりして修正をかけています。すみません。
R4.2.19 12:00完結しました。
R4 3.2 12:00 から応援感謝番外編を投稿中です。
お礼SSを投稿するつもりでしたが、短編程度のボリュームのあるものになってしまいました。
多分10話くらい?
2人のお話へのリクエストがなければ、次は別の主人公の番外編を投稿しようと思っています。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
冥府への案内人
伊駒辰葉
BL
!注意!
タグはBLになってますが、百合もフツーも入り交じってます。
地雷だという方は危険回避してください。
ガッツリなシーンがあります。
主人公と取り巻く人々の物語です。
群像劇というほどではないですが、登場人物は多めです。
20世紀末くらいの時代設定です。
ファンタジー要素があります。
ギャグは作中にちょっと笑えるやり取りがあるくらいです。
全体的にシリアスです。
色々とガッツリなのでR-15指定にしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる