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【後日譚2】異世界(日本)から聖女が来たらしいけど、オレ(元勇者で元日本人)には関係ないったらない!!!

第4話 ヒロインが聖女様

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「大変お待たせいたしました、ベルンハルト様」

 クラウスが戻ってきたのは、たっぷり二時間は経った頃だった。

 その間にグレンといつも通りの会話をしていたおかげで、オレもかなり落ち着きを取り戻したから、多分何を聞いても驚かな――いや、驚くと思うけど、ちょっとはマシなはず。

 
「いえ。それで、ベネトナシュ卿……泉に現れた女性と言うのは、やはり……“聖女“なのでしょうか?」

 まどろっこしいのは嫌だし、と単刀直入に尋ねれば、クラウスは目を見張り、首肯した。
 
「ご慧眼の通りです。彼女の魔力、そして我々の知り得ない異界の知識――異世界からの聖女だと考えてまず間違いないでしょう」

 間違いないのか~……そっかー……。

 間違いであって欲しかったなぁ、と項垂れていると、更にきつい一撃が入った。

 
「彼女についてですが――彼女は名を、“アイリ・モロボシ“と名乗りました」

 
 アイリ……モロボシ……??
 

「正確には“モロボシアイリ“。ファーストネームが後に来るのが正式な名称らしいです。それから自分は“チキュウ“の“ニホン“から来た……ジョシ、コウコウセイ……? だと主張していました」

 クラウスの言葉がうまく入ってこない。

 モロボシアイリ。――諸星愛莉。
 ただ、その名前だけが頭の中に響き続ける。


 ――諸星愛莉です。

 澄んだ声で紡がれたその名前。

 ――諸星さん。
 ――愛莉ちゃん。

 みんなが口々に呼んだその名前。

 ――アイリ。

 
 オレが、“ヒロイン“に付けた――オレの初恋の女の子の名前。


 彼女が、この世界に来た……??


 治ったと思い込んでいた混乱が、ぶり返す。
 
「――ですので……ベルンハルト様?」

 オレの様子がおかしいことに気がついたのか、クラウスの滔々と話していた声が止まった。
 
「……ベル」

 グレンも気遣わしげにオレの顔を覗き込んでいる。

 唇を噛む。

「大丈夫。……とにかく、オレ達はその聖女様から……王都から、離れた方が良さそうだな」

 今は余計なことを考えている時間はない。
 ただの同姓同名なことだってあり得るのだ。……そうだよ。愛莉ちゃんはもう黒髪ロングじゃなかった。茶髪だったはずだし、赤の他人だ。

 偶然、偶然だと言い聞かせて話を進める。

「はい。ただ、ミルザム伯領へお戻りになれば、すぐに王国騎士団が貴方を再度こちらへお連れしようとするでしょうから……身を隠すのには、私の兄の――ベネトナシュ公爵邸をお使いください」

 現ベネトナシュ公爵……クラウスの兄は、その父前公爵で、収集癖がある輩らしい。

 その屋敷に、と思うと気が重いが、都合はいいだろう。

「……ご存知の通り、あそこにいるのは素性のわからぬ者ばかりです。王家も貴方があそこへ身を隠すと思い至るのには時間がかかるでしょうから、少しは目眩しになるかと。屋敷までの馬車もすでに手配してあります」

「感謝します、ベネトナシュ卿」

 軽く頭を下げて立ち上がる。

「……行こう、グレン」

 唇を笑みの形に歪めて、グレンに手を差し出した。

「はい……ベルンハルト」


 ――大丈夫。

 もし、聖女が……オレの知っている愛莉ちゃんなのだとしても。


「お前、この部屋から出たらオレのこと名前で呼ぶなよ。怪しまれるからな」

「ベルも、その姿でその口調は目立つのでやめてくださいね」


 もう、関係ない。

 オレの人生には、“ヒロイン“も“主人公“も必要ない。
 この手の中のぬくもりだけがあれば、それで十分だ。


 ――ちょっと、私のこと忘れてない??

 
 あ。ごめん、スピカ。
 正直ちょっと忘れかけてました。というかテレパシー使えたんだ。スピカの魔法は阻害されてないの?

 ――影響は受けてるけど、私は君の眷属だからね。グレンくんみたいに完全に使えないわけじゃないみたい。

 そっか。良かった。


 じゃあ改めて――。オレは、グレンとスピカとの平穏な日常を過ごせれば、それで十分だから。協力してね、スピカ。

 
 ――ええ、勿論ですとも。


 魔王様の心強いお答えを胸に、部屋の外への一歩を踏み出した。
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