上 下
69 / 93
【後日譚】幸せ貞操危機生活 〜ちゃすてぃてぃくらいしす・らいふ!〜

Days3.5『都合がいいので』

しおりを挟む

    ―― side:グレン ――

 
 政略結婚か……。
 
 もし、子供の頃にベルンハルトと出会っていなかったら。
 アルナイルがミルザムの配下でなければそういう未来もあったのかもしれない。

 男爵家の嫡子とはいえ、魔王の瞳を持つ不気味な男にまともな婚姻は望めなかっただろう。
 あてがわれるのは少し下位の、それも訳ありの令嬢。

 俺はそんな訳ありの女と――それこそ、ロマンス小説のような生活を繰り広げる羽目になっていたかもな。

 
「はっ……」

 我ながら寒々しい妄想だ。ゾッとしない。

「……ベル」

 “戦場の狂犬に密かに想いを寄せていた令息“は、とは思えない責めに疲れ果てて眠ってしまっている。

 魔法で清めたシーツに包まる麗しい姿を眺めながら、手慰みにをめくっていると、窓の方から女の声がした。
 

「――“戦の報酬として爵位と美しい妻を手に入れた戦闘狂“ってハマりすぎじゃない?」

「……魔王様ともあろうお方が、盗み聞きとは趣味が悪い」

 ため息を吐いて顔を上げる。

「君が“お守り“と私の連携を解除し忘れてたんだよ」

「ああ……本当だ」

 サイドテーブルの上のお守り――彼へと贈った蒼い宝石のイヤリングに手をかざす。

 今日は少しだけ彼の傍を離れる必要があった都合上、このイヤリングとスピカも“繋いで“おいたのだ。

 おかげで、会話が全て筒抜けだったらしい。

「もっと早くに教えてくれればよかったのに」

「だって、気づいたらおっ始めてたし。君、セックス中はベルンハルトくんのことしか考えてなくてテレパシー繋がんないから」

「……じゃあ、俺が悪いですね。わざわざありがとうございました。もう解除したのでお帰りいただいて結構ですよ」

 帰る、といいつつ彼女はいつもどこに帰ってるんだろうか。まあどうでもいいんですけどね。
 
 
「ご先祖様に向かって薄情な……ああ解除といえば……〈契約フェアトラーク〉も破棄しときなよ」

 窓枠に前足を引っ掛けて身体を揺らしながら、彼女が言う。

「なんでですか?」

「ベルンハルトくんがさ……“傍にいるって〈契約〉結んでるけど、どれぐらい離れたらダメとか決まってるのかな?!“って心配してたから」

 ……見たかったな、それ。
 想像しただけで可愛い。

「大丈夫です。ベルと結んだ〈契約〉は念のため全部破棄してあります」

 万が一にも、契約を破った代償が彼に及んだりしたら嫌だから、ちゃんと全部……一方的にだけど、破棄してある。

「……教えてあげなよ」

「でも、ほら……“傍にいないと死ぬ“って思っててくれたほうが都合がいいので」

 報告書を口元に当てて微笑むと、彼女は呆れたように嘆息した。

「腹黒~~」

「貴女に似たんですよ、ご先祖様」

「私は君みたいな権謀術数は苦手だよ。……で? “お見合い“は口実でしょ。メインはなんだったの」

「ああ……それは」

「――スピカ? なんでいんの」

 声を潜めていたつもりだったのだが、ベルンハルトを起こしてしまった。

「あ、ごめんね。うるさかったね」

「すみません、ベル」

「いやいいよ……まだ夕方だろ。昼寝にしては寝過ぎたな……なんの話してたの?」

 寝ぼけた様子で目をこすりながら身を起こす彼を支えながら、どう誤魔化そう、とそんな考えが頭を過ったが首を振る。

 必要のない隠し事は止そう。
 彼を安全な檻に閉じ込めないと決めたのは俺なんだから。

「……ベル、これを」

 報告書を差し出す。

「これは……?」

「ブルーノ・ミルザムと、前ベネトナシュ公爵のについての、医師の所見です」

「…………そう」

 ベルンハルトは動じない。
 嘆くことも、笑うこともせずに書面に目を滑らせて頷いた。

「今日の“お見合い“は口実で、お前は彼らの様子を見に行っていたわけか」

 医師の報告を疑うわけではなかったが、遠隔ではなくこの瞳でしっかりと――彼らを、ベルンハルト・ミルザムの心を壊した一因である“父親“たちの哀れな姿を見ておきたかったのだ。

 そうして、嘲笑いたかった。

「ええ。……ごめんなさい。貴方は、知りたくないと、言っていたのに」

 最も、彼は俺ほどには歪んではいなくて。ブルーノの行く末を知りたいとは願っていなかったのだから、これは俺の勝手なエゴイズムだ。

「……ごめんなさい」

 謝ることしかできない俺に、ベルンハルトは笑う。
 
 笑って、報告書を投げ捨て、俺の頬に手を伸ばした。


「知りたくなかったわけじゃない。どうだっていいんだよ……オレは、お前が傍にいれば、あんな奴ら、もうどうでもいいんだ」

 その美しい笑みは天使にも悪魔にも見えて――いや、違う。

 彼は彼だ。
 俺だけの美しい、愛しい人。

「……好きです」

「っと……スピカ~……なにこの子、どうしたの」

 押し潰すように抱きつくと彼が困惑している声が聞こえたが、もう言葉なんて発する余裕はなかった。

 
「あー……うん。グレンくんは来世も君と一緒にいたいらしいよ」

「いやなんの話……?」


 そういう話です。

 ベル……ごっこ遊びでも、嬉しかったですよ。
 貴方が、俺に恋をしてくれて。
 俺を選んでくれて。

 こんなにも醜く歪んだ俺を受け入れてくれる貴方が大好きで、愛しくて、俺も他はどうだってよくなったんです。

 
「……よくわかんないけど、俺のためにありがとう、グレン」

「はい、ベル……」

 きっと彼なら。
 この先俺が彼を守るために誰を害したって、同じように笑ってくれるんだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】ハードな甘とろ調教でイチャラブ洗脳されたいから悪役貴族にはなりたくないが勇者と戦おうと思う

R-13
BL
甘S令息×流され貴族が織りなす 結構ハードなラブコメディ&痛快逆転劇 2度目の人生、異世界転生。 そこは生前自分が読んでいた物語の世界。 しかし自分の配役は悪役令息で? それでもめげずに真面目に生きて35歳。 せっかく民に慕われる立派な伯爵になったのに。 気付けば自分が侯爵家三男を監禁して洗脳していると思われかねない状況に! このままじゃ物語通りになってしまう! 早くこいつを家に帰さないと! しかし彼は帰るどころか屋敷に居着いてしまって。 「シャルル様は僕に虐められることだけ考えてたら良いんだよ?」 帰るどころか毎晩毎晩誘惑してくる三男。 エロ耐性が無さ過ぎて断るどころかどハマりする伯爵。 逆に毎日甘々に調教されてどんどん大好き洗脳されていく。 このままじゃ真面目に生きているのに、悪役貴族として討伐される運命が待っているが、大好きな三男は渡せないから仕方なく勇者と戦おうと思う。 これはそんな流され系主人公が運命と戦う物語。 「アルフィ、ずっとここに居てくれ」 「うん!そんなこと言ってくれると凄く嬉しいけど、出来たら2人きりで言って欲しかったし酒の勢いで言われるのも癪だしそもそも急だし昨日までと言ってること真逆だしそもそもなんでちょっと泣きそうなのかわかんないし手握ってなくても逃げないしてかもう泣いてるし怖いんだけど大丈夫?」 媚薬、緊縛、露出、催眠、時間停止などなど。 徐々に怪しげな薬や、秘密な魔道具、エロいことに特化した魔法なども出てきます。基本的に激しく痛みを伴うプレイはなく、快楽系の甘やかし調教や、羞恥系のプレイがメインです。 全8章128話、11月27日に完結します。 なおエロ描写がある話には♡を付けています。 ※ややハードな内容のプレイもございます。誤って見てしまった方は、すぐに1〜2杯の牛乳または水、あるいは生卵を飲んで、かかりつけ医にご相談する前に落ち着いて下さい。 感想やご指摘、叱咤激励、有給休暇等貰えると嬉しいです!ノシ

R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉

あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた! 弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?

【完結R18】異世界転生で若いイケメンになった元おじさんは、辺境の若い領主様に溺愛される

八神紫音
BL
 36歳にして引きこもりのニートの俺。  恋愛経験なんて一度もないが、恋愛小説にハマっていた。  最近のブームはBL小説。  ひょんな事故で死んだと思ったら、異世界に転生していた。  しかも身体はピチピチの10代。顔はアイドル顔の可愛い系。  転生後くらい真面目に働くか。  そしてその町の領主様の邸宅で住み込みで働くことに。  そんな領主様に溺愛される訳で……。 ※エールありがとうございます!

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

【完結】巨人族に二人ががりで溺愛されている俺は淫乱天使さまらしいです

浅葱
BL
異世界に召喚された社会人が、二人の巨人族に買われてどろどろに愛される物語です。 愛とかわいいエロが満載。 男しかいない世界にトリップした俺。それから五年、その世界で俺は冒険者として身を立てていた。パーティーメンバーにも恵まれ、順風満帆だと思われたが、その関係は三十歳の誕生日に激変する。俺がまだ童貞だと知ったパーティーメンバーは、あろうことか俺を奴隷商人に売ったのだった。 この世界では30歳まで童貞だと、男たちに抱かれなければ死んでしまう存在「天使」に変わってしまうのだという。 失意の内に売られた先で巨人族に抱かれ、その巨人族に買い取られた後は毎日二人の巨人族に溺愛される。 そんな生活の中、初恋の人に出会ったことで俺は気力を取り戻した。 エロテクを学ぶ為に巨人族たちを心から受け入れる俺。 そんな大きいの入んない! って思うのに抱かれたらめちゃくちゃ気持ちいい。 体格差のある3P/二輪挿しが基本です(ぉぃ)/二輪挿しではなくても巨根でヤられます。 乳首責め、尿道責め、結腸責め、複数Hあり。巨人族以外にも抱かれます。(触手族混血等) 一部かなり最後の方でリバありでふ。 ハッピーエンド保証。 「冴えないサラリーマンの僕が異世界トリップしたら王様に!?」「イケメンだけど短小な俺が異世界に召喚されたら」のスピンオフですが、読まなくてもお楽しみいただけます。 天使さまの生態についてfujossyに設定を載せています。 「天使さまの愛で方」https://fujossy.jp/books/17868

推し様の幼少期が天使過ぎて、意地悪な義兄をやらずに可愛がってたら…彼に愛されました。

櫻坂 真紀
BL
死んでしまった俺は、大好きなBLゲームの悪役令息に転生を果たした。 でもこのキャラ、大好きな推し様を虐め、嫌われる意地悪な義兄じゃ……!? そして俺の前に現れた、幼少期の推し様。 その子が余りに可愛くて、天使過ぎて……俺、とても意地悪なんか出来ない! なので、全力で可愛がる事にします! すると、推し様……弟も、俺を大好きになってくれて──? 【全28話で完結しました。R18のお話には※が付けてあります。】

転生した脇役平凡な僕は、美形第二王子をヤンデレにしてしまった

七瀬おむ
BL
(追記)アンダルシュノベルズ様より書籍化予定となります。本当に、応援してくださった皆様のおかげです! ■転生した平凡執事が、無意識に美形第二王子をヤンデレ化させてしまう話。 美形ヤンデレ第二王子×平凡転生執事/ヤンデレ・執着攻め/ハッピーエンド ■あらすじ 前世でプレイしていた乙女ゲーム『ルナンシア物語』の世界に転生してしまった、第二王子の執事「エミル」。 『ルナンシア物語』は、ヒロインの聖女「マリア」が、俺様系第一王子「イザク」と、類稀なる美貌を持つが心に闇を抱える第二王子「アルベルト」、この二人の王子から取り合いをされるドキドキの乙女ゲームである。 しかし、単なる脇役執事であるエミルは、主人である第二王子アルベルトと、ヒロインのマリアが結ばれなければ死んでしまう!  死を回避するため奮闘するエミルだったが、なぜかアルベルトはマリアに興味がなく、それどころか自分に強い執着を向けるようになって……!? ■注意書き ※カップリングは固定、総受けではありませんのでご了承ください。 ※サブキャラ同士ですが、男女カップリングがあります。 ※攻め→→→[越えられない壁]→→(←←)受けくらいのイメージです!

処理中です...