「隠れ有能主人公が勇者パーティから追放される話」(作者:オレ)の無能勇者に転生しました

湖町はの

文字の大きさ
上 下
68 / 93
【後日譚】幸せ貞操危機生活 〜ちゃすてぃてぃくらいしす・らいふ!〜

Days3「お前の子供は産めないもんな」

しおりを挟む
※BLあるあるの話をしてるだけなので男性妊娠要素はないです


 -----------------------------



「おはよ~ベルンハルトくん」

 明るい声に起こされて、のろのろと目を開ける。

「おはよう、スピカ。……グレンは?」

 いつもなら朝イチに見るのはグレンくんの煌めく笑顔なのだが、どういうわけか今日のオレのエスコート役はこのふわふわモフモフ生物らしい。

「実家からの呼び出しだって」

「へぇ……なんの用で?」

 グレンがオレより優先するんだから結構重要なことなのかな、なんて傲慢なことを考えつつスピカに洗浄魔法をかけてもらう。

 スッキリしたことで少しはっきりしてきたオレの頭に叩き込むように、スピカは大きな声で告げてきた。
 

「お見合いだって!」


 おみあい。オミアイ……お見合い????

「え……古代語で別の意味を持つ単語ですか?」

「いや、君の知ってるお見合いですよ。男と女のラブゲーム」

「へ……へぇ……そう……グレンが、ね」

 動揺しているのを悟られないようにパジャマを脱いで、クローゼットから適当に服を用意する。

「生着替え~! ヒュー!!」

「オッサンかよ。で、魔王様はグレンの代わりにオレの護衛に来てくれたわけですか」

「そうそう。あ、一応“お守りイヤリングも付けて“ってグレンくんから伝言~」

 お守りイヤリング……クラウスのところに乗り込むときにもらったあれか。

「いや、魔王様が傍にいるのに必要ないだろ」

 ソファーに座り、肘掛けにもたれかかると、スピカがとてとてと歩み寄ってきて、足元で丸まった。

「私もそう思うけどね。……てか、その服は季節感なくない?」

 指摘され、着ている服を見下ろす。
 長袖のブラウスとスラックスという、実に無難な組み合わせだが……外を見れば快晴なので、少し暑苦しいのかもしれない。

「でも、この世界さぁ……四季バラバラじゃない?」

 雪が降った次の日には夏のように暑くなったり――いや、オレは常にグレンに温度調整魔法をかけてもらってるから寒いとか暑いとかわからないんだけど――その逆もある。

「うん。バラバラ~~ちなみに今は二月だけど、季節的には気持ち夏寄りかな? ぐらいです」

 脳みそバグる……。
 日本の暦は一旦忘れた方がいいのかもしれない。

 
「……って、違うよ。ベルンハルトくん! 恋人が! お見合いに駆り出されたっていうのに! その冷静さはなんなの!!??」

「うるさいよスピカ」

 わめく彼女を抱き上げて膝の上に乗せる。

「いやだって……グレンがさ、オレから離れると思えないし……」

「おお……すごいなグレンくん……あの自己肯定感低すぎ君をここまで立派に育てたのか……」

 散々な言われようだが、まあそうです。
 さすがにちょっと動揺はしたけど……魔王と手を組んでまでオレを生き返らせるような男が、いまさら家のために望まない結婚をするとは思えない。

 
「ちぇ~嫉妬するとこ見たかったなぁ~!!」

「貴女、ハピエン厨なんでしょ」

「ハッピーにもスパイスは必要だよ」

 唇を尖らせるスピカに、ふむ、と思案して。

 
「そっか……そうだよな。グレンは……長男で……いつかはアルナイルの後継者になるんだもんな」

 声を震わせて目を伏せる。

「お前の傍にいれるなら……二番目でも、いいから」

 どう? 上手くない? と、スピカに問いかけるよりも先に。


「…………ベル」

 後ろから声がしました。
 タイミング!!!!

「スピカ!! 気づいてたなら止めろ!!」

「いやごめん、演技でも可愛いなって思ってつい見惚れてました」

 振り向くと、ちゃんとしたスーツを着込んだイケメングレンが立っていた。

「お、かっこいい」
 
 最近は黒のワイシャツだけとかラフな格好しか見てなかったからなんか新鮮。やっぱイケメンはなんでも似合う~!!

「本当ですか? 嬉しい……って、違いますよ。なんですか二番目って!!」

 怒ってるけどにこにこが抑えきれてなくて可愛い。

「いや……BLあるあるの、“俺は男だから、お前の子供は産めないもんな“ですけど」

「最近のBLは産めるけどね!!」

「ベルに変なこと教えないでください。あとベルも乗らない!」

 グレンはジャケットを乱暴に脱ぎ捨てるとソファーの背を跨いでオレの隣に座る。脚長いね……。

 
「わかってると思いますけど、断りましたよ」

「うん、知ってる。……でもさぁ、実際どうなの。グレンって長男だろ」

 アルナイル男爵家は没落しかけ――だった気がしていたが、それは『追放皇帝』の中での設定。つまりはグレンの願望で、本当は今も普通に立派にお貴族様だ。

 
「別に……俺の代で潰れても問題ありませんよ。今日も釘を刺しにいっただけです」

 グレンはオレの首筋に顔を埋めて笑った。

「――“俺の幸せを壊す気なら、貴方も愛しいブルーノ様の元へ送って差し上げます“って」

 ……父親に言ったの、それ。

「実質脅しじゃん……」

「紛れもなく脅しですよ。ね、ブルーノ・ミルザムがいまどうしているか知りたいですか?」

「…………いいや。なんとなくわかるし」
 
 排斥後のブルーノ・ミルザムの行く末をオレは詳しくは知らないが。
 風の噂では――ベネトナシュ公爵も、クラウスとグレンが共謀して同じ場所へ送ったそうなので、その顛末は聞くまでもない。

「そういえば、シャウラ子爵は今もブルーノ前伯爵に熱を上げているので……頃合いを見てご退場願います」

 ――子爵は、ロニーに陰謀の全容を知らされていなかったらしい。
 彼はブルーノへの忠誠を誓っていて、あくまでもオレ――敬愛する主人の忌み嫌う存在――の排除を目的としており、殺害計画はロニーの独断だったそうだ。

「そう……」

 子爵がいなくなれば、次のシャウラ子爵家当主はエステルになるのはまず間違いない。

 父親を排斥されればエステル辺りは騒ぐだろうが、まあいいや。
 
「その方が都合がいいかもな。いくら【予言オラクルム】で忠誠を誓わせてるとはいえ、お前が言ってたみたいに玉砕覚悟でなにかしでかさないとは限らないし……」

 ミルザム伯領での有力貴族。最有力は言うまでもなくミルザム伯爵家、次点がシャウラ子爵家、そしてアルナイル男爵家だ。
 
 その全ての当主をオレの味方――ロニーとエステルが味方かは疑問だけど、命を賭してまでオレとグレンに逆らうメリットは二人にはないはずだ――で固められれば、かなり安全安心。

 
「ええ。――作り物でない、真の忠誠想いは恐ろしいですからね」

「ね~」

 彼らは愉しげに黄金の目を細める。

 
「そうだね……」

 たった一人のために世界を滅ぼしかけたことのある彼らの言葉は重く、恐ろしく。

 それでも二人は決してオレを裏切ったりしないことをオレはもう知っているから――これからも日々は平穏に続いていくのだ。


 
 ◇◇◇



「俺が貴方を愛することはありません。貴方を抱くのは、ただの義務です」

 はい、フラグ回収です。

 
 ……いや、ただのお遊びだけどね。
 ベッドの上で開幕した“政略結婚ごっこ“だ。

 去り際にスピカが「第801回BLあるある選手権~!」とか叫んで消えたのが悪い。

 
「こんな感じですか?」

「これはどっちかっていうとTLティーンズラブあるあるだろ……」

 “冷徹公爵のお飾りの妻になりました~お前を愛することはないと言われたのに何故か溺愛されています~“みたいなやつ。

「最近はBLでも割と定番らしいですよ」

「そうなんだ、詳しいね……」

 わざわざ脱ぎ捨てたジャケットをもう一度着込んでオレを押し倒しているグレンの厚い胸板を押してみるがピクリともしない。

 くそ……なんか最近こいつまたちょっと筋肉増えてる気がするな。オレはずっと貧弱なままなのに……っ!!

「ほら、ベルの設定も教えてください。ちなみにオレは“戦の報酬として爵位と美しい妻を手に入れた戦闘狂“です」

 さっきの一言でそんな細かい設定読み取るのは無理だろ……!!

「え~……じゃあオレは“戦場の狂犬と呼ばれる男に密かに片想いしていた伯爵令息“で」

「…………ベルが俺に片想いって……ちょっと解釈違いですね……」

 めんどくせぇ~~!!!


「グレンさ……結構、イメプレ好きだね」

 今度、やっぱりメイド服着てあげたほうがいいかな……と思いつつ、“政略結婚“の相手にするのには甘すぎるキスに目を閉じた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます

野良猫のらん
BL
手違いで異世界に召喚されてしまったマコトは、元の世界に戻ることもできず異世界で就職した。 得た職は冒険者ギルドの職員だった。 金髪翠眼でチャラい先輩フェリックスに苦手意識を抱くが、元の世界でマコトを散々に扱ったブラック企業の上司とは違い、彼は優しく接してくれた。 マコトはフェリックスを先輩と呼び慕うようになり、お昼を食べるにも何をするにも一緒に行動するようになった。 夜はオススメの飲食店を紹介してもらって一緒に食べにいき、お祭りにも一緒にいき、秋になったらハイキングを……ってあれ、これデートじゃない!? しかもしかも先輩は、実は王子様で……。 以前投稿した『冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました』の長編バージョンです。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

異世界転移して出会っためちゃくちゃ好きな男が全く手を出してこない

春野ひより
BL
前触れもなく異世界転移したトップアイドル、アオイ。 路頭に迷いかけたアオイを拾ったのは娼館のガメツイ女主人で、アオイは半ば強制的に男娼としてデビューすることに。しかし、絶対に抱かれたくないアオイは初めての客である美しい男に交渉する。 「――僕を見てほしいんです」 奇跡的に男に気に入られたアオイ。足繁く通う男。男はアオイに惜しみなく金を注ぎ、アオイは美しい男に恋をするが、男は「私は貴方のファンです」と言うばかりで頑としてアオイを抱かなくて――。 愛されるには理由が必要だと思っているし、理由が無くなれば捨てられて当然だと思っている受けが「それでも愛して欲しい」と手を伸ばせるようになるまでの話です。 金を使うことでしか愛を伝えられない不器用な人外×自分に付けられた値段でしか愛を実感できない不器用な青年

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...