56 / 93
【番外編】バック・ステージ
シャウラの双子③ ―最終話の舞台裏―
しおりを挟む―― side:ロニー ――
あれだけ色々なことがあったのに、僕はなぜか“ミルザム伯爵“の地位に収まった。
クラウス・ベネトナシュ――人形公爵の次男と、ベルンハルトが裏で色々と手回しをした結果らしいが詳しいことは知らされていない。
「細かいことはいいじゃん。お前伯爵になれたんだし。なりたかったんだろ?」
兄はそう言って僕の頭に書類を叩きつけてくる。
突然領主が僕のような若造に変わったミルザム伯領は混乱していて、執務が多い。
それを補佐するためにベルンハルト様が兄に命じてくれたようだが……彼は馬鹿だから、積み上がっていく書類を処理済みとそうでないものに分類するぐらいしかできないので、正直もう少し有能な人手が欲しい。
「やめてください。……ねぇ、兄さん。貴方は、僕が伯爵になるのが気に食わないんじゃなかったんですか」
ペンを走らせながら、呟く。
彼は、僕がミルザム伯爵の養子になることも最後まで反対していたし、シャウラの計画をベルンハルト様に漏洩し、失敗に追い込んだ。
全部――僕を、陥れるために。
贅沢なことだ。
貴方は、初めから全て持っていたくせに……僕の幸せを邪魔しようとしたんだ。
まあ、今となっては過ぎた話ではあるのだけれど。
兄は首を傾げる。
「あ? 別に。おれはただ、お前があいつらに近づくのが嫌だっただけだよ」
「……確かに、ろくなことになりませんでしたね」
僕は欲しかったものを手にはしたが、代わりにベルンハルト様の操り人形になった。
「だろ? だからお兄様の言うことちゃんと聞いとけばよかったのにさ~」
兄とて同じ状況のはずなのに、彼は妙に晴れやかに、楽しそうに笑っている。能天気な人だ。
◆◆◆
僕がミルザム伯爵になって半年が過ぎた。
屋敷も領地も平静を取り戻し、僕も含めて人々は皆、ブルーノ・ミルザムの存在を忘れつつある。
「ロニー。お前はなんで“ミルザム“が欲しかったの?」
そんなある日、兄が唐突にそんな問いを投げてきた。
――なんで?
伯爵に、領主になれば……僕は。
その先の望みはもう、とっくの昔に忘れてしまった。
「…………わからない」
「はぁ? わかんないのにあんなことしたのかよ! 馬鹿だなぁ」
兄は僕の返答に笑って。
伯爵家の執務室の椅子に座り慣れてきた僕の肩をガタガタと揺さぶった。
「兄さんに、言われたくない」
子供のような仕草にため息をついてその手を振り払うと、彼は今度は僕の肩に椅子越しに抱きついてくる。
そして、いつになく静かに言った。
「そうだよ。おれは馬鹿だから……なんにもわからない。だから、教えろよ。――お前がなに思ってて、おれはなにをしたらお前を笑わせられるのか」
いつの日か彼に言われた言葉を思い出す。
――“おまえ、変な顔で笑うようになったな“。
ずっと、ただの嫌味だとばかり思い込んでいた。兄よりも上の地位へ登りつめていく僕を妬んでそんなことを言うのだと、嘲笑っていた。
……ああ、でも兄さんは。
そんなことを考えられるような、考えるような卑劣で卑屈な人じゃない。
どうして、ずっと忘れていたんだろう。
「…………兄さんが、今すぐ白馬に乗って飛んでくれたら、笑いますよ」
「あ! お前、おれのスキル馬鹿にしてんだろ! あれ案外便利なんだからな!!」
兄はさっきまでの神妙な声音はどこへやら、途端にいつものように騒ぎ始めた。
「あははっ……兄さんは、本当に馬鹿ですねぇ。そんなので子爵なんて務まるんですか?」
――ああ、兄さん。
「弟のくせに……生意気なんだよ、お前。でも……いいよ。お前は、そうやって笑ってろ」
「……もう、変な顔じゃない?」
「ああ。ロニー……おれは、お前がちゃんと笑えるなら、もうなんだっていいんだ。他になんにもいらない」
兄さん。僕も……僕も、貴方が傍にいてくれればそれでいい。
貴方が僕を弟と呼んでくれるなら、僕はずっと笑っていられる。
「単純ですね、兄さんは……」
「そうだよ。馬鹿で単純な方が楽しいことばっかり考えて生きられるからお得だぜ?」
――僕はずっと、なにかに飢えていて。なにかを欲していて。
でも、僕が本当に欲しかったものは。
生まれる前から傍にあった。傍にいてくれたんだ。
79
お気に入りに追加
720
あなたにおすすめの小説
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について
はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる