54 / 93
【番外編】バック・ステージ
シャウラの双子① ―第34・35話の幕間―
しおりを挟む―― side:グレン ――
ブルーノ・ミルザムの無様を見届けたあと、俺たちは屋敷の中から意識のないロニーを連れ出し――そして、シャウラ子爵家へと向かった。
「エステル・シャウラ。ご両親は息災ですか?」
子爵家の邸宅内で一人、俺たちを待ち構えていたらしい彼は、俺を憎悪の目で睨みつけた。
「……っ、やっぱり、お父様とお母様に妙な魔法をかけたのはお前か……っ! グレン・アルナイル!!」
「ええ、そうですよ。――ああ、ベル。ごめんなさい。説明していませんでしたね……シャウラ子爵たちにも、伯爵家の人たち同様、眠ってもらっているんです。後で貴方の【予言】をお借りしても?」
俺の服の裾を不安そうに握りしめているベルンハルトに問いかける。
「いいけど……なにすんの……?」
「子爵たちにも貴方へ忠誠を誓わせます。そこの男へ与えたのと同じ予言を送って差し上げるんですよ」
彼の方へ視線を遣ると、薄汚く淀んだ青色がベルンハルトを見ていた。
――ああ、こいつは筋違いにもベルンハルトを恨んでいるんだったか。
鬱陶しい。
本来なら、お前のような奴にはベルを見る権利すらないと言うのに。
「……うん、わかった。任せる……あー、エステル。ロニーこれまだ生きてるからね。殺してないよ」
ベルンハルトは、俺が魔法でワープさせ床へと転がしたロニーの身体を指差し、彼へ微笑みかける。
「でも、どうなるかはこの先のお前の言動次第だ。まあ……お前はロニーのことはどうでもいいかもだけど」
――それがね、ベル。
この男が一番愛しているのは、ロニーなんですよ。
別に伝えるほど重要なことではないから口には出さない。ただの些事だ。
◆
昏倒しているシャウラ子爵と夫人に【予言】を使ったあと、シャウラ邸の地下室へと向かった。
ここはロニーが死の魔法を作り出した場所。ベルンハルトが裁きを下すのに相応しい舞台だ。
「【予言】――“この者と、その血を継ぐ者がこの先、ベルンハルト・ミルザムの不利益になる行いをすることがあれば、その姿はドブネズミへ変わるだろう“」
横たえられたロニーに拘束と目隠しの魔法をかけ、耳へ予言を流し込む。
その様を、ベルンハルトは黙って見ていた。
「あ、ごめんなさい。ドブネズミに変わって死ぬ、でないと意味がなかったですね。上書きします」
「え、いやいいよ。あんまりスキル乱発したら疲れるでしょ……?」
ベルは俺を気遣ってブンブンと首を振った。やっぱりベルは優しい。
「ベルこそ疲れているでしょう? こちらへ座ってください」
指を鳴らして、伯爵家の別邸から椅子をワープさせ、ベルンハルトの手を取って促し座らせると、少し顔色の悪い頬に唇を押し当てた。
「ありがと……」
「いえ。――さて、エステル・シャウラ」
ロニーを運ばせるために連れてきていた彼に向かって微笑む。
……別にさっきみたいに魔法で運んだって良かったんですけどね。使えるものは使わないと。
「貴方にもご協力願いましょうか」
「……わかった。なにをすればいい」
彼は顔を伏せたまま、静かに問いかけてくる。
「この部屋の前で、立っていてください。絶対になにがあっても声は出さず、動かずに」
彼の肩に手を置いて、囁いた。
「――喜べ。愛しい弟が悶え苦しむ様を、じっくり愉しめる特等席だ」
ベルンハルトには聞こえないような小さな声で。
――エステル・シャウラ本人は気がついていないが、彼は弟を愛しているのだ。
そして、俺を恐れている。
……まあ、後者は自覚があるだろう。
なにせ、彼は子供の頃から俺と会うときはいつも震えて、ロニーの後ろに隠れていたのだから。
それは、どうでもいい。
問題は彼が、ロニーを愛するがあまりにベルンハルトを害そうとすること。
――“あんたが弱っちくなかったらロニーがミルザムの養子になることは無かった“。
あの言葉が全て。
要するに彼は、弟が自分の元を離れてミルザム伯爵家の人間になったのはベルンハルトのせいだと思っているのだ。
それどころか、ロニーが歪んだのもベルンハルトのせいにしようとしている。
……馬鹿らしい。全部お前が原因だろうに。
俺は彼が嫌いだ。
自分がもたらした結果を他人に押し付けようとするその醜悪な精神を――自分と、重ねてしまうから。
69
お気に入りに追加
714
あなたにおすすめの小説
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
ゲーム世界の貴族A(=俺)
猫宮乾
BL
妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる