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【番外編】バック・ステージ

シャウラの双子① ―第34・35話の幕間―

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    ―― side:グレン ――


 ブルーノ・ミルザムの無様を見届けたあと、俺たちは屋敷の中から意識のないロニーを連れ出し――そして、シャウラ子爵家へと向かった。


「エステル・シャウラ。ご両親は息災ですか?」

 子爵家の邸宅内で一人、俺たちを待ち構えていたらしい彼は、俺を憎悪の目で睨みつけた。

「……っ、やっぱり、お父様とお母様に妙な魔法をかけたのはお前か……っ! グレン・アルナイル!!」

「ええ、そうですよ。――ああ、ベル。ごめんなさい。説明していませんでしたね……シャウラ子爵たちにも、伯爵家の人たち同様、眠ってもらっているんです。後で貴方の【予言オラクルム】をお借りしても?」

 俺の服の裾を不安そうに握りしめているベルンハルトに問いかける。

「いいけど……なにすんの……?」

「子爵たちにも貴方へ忠誠を誓わせます。そこの男エステルへ与えたのと同じ予言を送って差し上げるんですよ」

 彼の方へ視線を遣ると、薄汚く淀んだ青色がベルンハルトを見ていた。

 ――ああ、こいつは筋違いにもベルンハルトを恨んでいるんだったか。

 鬱陶しい。
 本来なら、お前のような奴にはベルを見る権利すらないと言うのに。

「……うん、わかった。任せる……あー、エステル。ロニーこれまだ生きてるからね。殺してないよ」

 ベルンハルトは、俺が魔法でワープさせ床へと転がしたロニーの身体を指差し、彼へ微笑みかける。

「でも、どうなるかはこの先のお前の言動次第だ。まあ……お前はロニーのことはどうでもいいかもだけど」


 ――それがね、ベル。
 この男が一番愛しているのは、ロニーなんですよ。

 別に伝えるほど重要なことではないから口には出さない。ただの些事だ。



 ◆



 昏倒しているシャウラ子爵と夫人に【予言】を使ったあと、シャウラ邸の地下室へと向かった。
 
 ここはロニーが死の魔法を作り出した場所。ベルンハルトが裁きを下すのに相応しい舞台だ。

「【予言】――“この者と、その血を継ぐ者がこの先、ベルンハルト・ミルザムの不利益になる行いをすることがあれば、その姿はドブネズミへ変わるだろう“」

 横たえられたロニーに拘束と目隠しの魔法をかけ、耳へ予言を流し込む。
 その様を、ベルンハルトは黙って見ていた。

「あ、ごめんなさい。ドブネズミに変わって死ぬ、でないと意味がなかったですね。上書きします」

「え、いやいいよ。あんまりスキル乱発したら疲れるでしょ……?」

 ベルは俺を気遣ってブンブンと首を振った。やっぱりベルは優しい。
 
「ベルこそ疲れているでしょう? こちらへ座ってください」

 指を鳴らして、伯爵家の別邸から椅子をワープさせ、ベルンハルトの手を取って促し座らせると、少し顔色の悪い頬に唇を押し当てた。

「ありがと……」

「いえ。――さて、エステル・シャウラ」

 ロニーを運ばせるために連れてきていた彼に向かって微笑む。
 ……別にさっきみたいに魔法で運んだって良かったんですけどね。使えるものは使わないと。

「貴方にもご協力願いましょうか」

「……わかった。なにをすればいい」

 彼は顔を伏せたまま、静かに問いかけてくる。

「この部屋の前で、立っていてください。絶対になにがあっても声は出さず、動かずに」

 彼の肩に手を置いて、囁いた。

「――喜べ。愛しい弟が悶え苦しむ様を、じっくり愉しめる特等席だ」

 ベルンハルトには聞こえないような小さな声で。



 ――エステル・シャウラ本人は気がついていないが、彼は弟を愛しているのだ。

 そして、俺を恐れている。

 ……まあ、後者は自覚があるだろう。
 なにせ、彼は子供の頃から俺と会うときはいつも震えて、ロニーの後ろに隠れていたのだから。

 それは、どうでもいい。

 問題は彼が、ロニーを愛するがあまりにベルンハルトを害そうとすること。

 ――“あんたが弱っちくなかったらロニーがミルザムの養子になることは無かった“。

 あの言葉が全て。
 
 要するに彼は、弟が自分の元を離れてミルザム伯爵家の人間になったのはベルンハルトのせいだと思っているのだ。

 それどころか、ロニーが歪んだのもベルンハルトのせいにしようとしている。
 
 ……馬鹿らしい。全部お前が原因だろうに。


 俺は彼が嫌いだ。
 自分がもたらした結果を他人に押し付けようとするその醜悪な精神を――自分と、重ねてしまうから。
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