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第4章 モンスター襲来
第36話「ベルンハルトと折れた毒針」
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「僕自身の、毒……? なに言って……」
ね~……オレなに言ってんだろうね……。
「グレン、できるな?」
丸投げです。オレだったらキレる。
だってこんなん、「なんかいい感じにやっといて!」と一緒じゃんね。(オレはよく先生に仕事を押し付けられるときに言われてました。)
「勿論、貴方のためなら――【複製】」
でもできる。そう、グレンならね。
……え、なぁにそのスキル。強そ~。
「この世に存在する魔法なら、原理を理解した上で全て使えるようにするスキルです。これで、俺も〈毒針〉を手に入れました」
おお……すごい。そんなんあるんだ。
【皇帝】の次ぐらいにすごそう。なんかあれだな……インフレしすぎたバトル漫画みたいになってきたね。
いやでもチートってそういうもんなんで!!!
「貴方は石にこの力を付与して、包囲網として利用していましたが……そうだ」
グレンは、瞠目して震えるロニーの眼前に魔力を放出させる。
「俺は貴方の目を直接、毒針で突いてみましょうか」
「そんなの、できるわけない……っ! 〈毒針〉は、強い媒介がないと……」
ロニー、それフラグ。
「試してみる価値はあると思いますよ。だってせっかくこんなに強力で素晴らしい魔法なんですから……ね?」
「あ……いや、いやだ……やめろ!!」
怯えて叫び続けるロニーに、前に会ったときのような余裕は一切感じられない。
いやぁ~怖いよね……わかる。だって目に魔法使われるって……ねぇ。
あ、やば……想像したらグロい痛い痛い……。
「――グレン」
今にもロニーに毒を流し込もうとしていたグレンの名前を呼ぶ。
「はい、ベル」
「……脅しは、それで十分だ。あとは子爵達と同じように“忠誠“を誓わせればいい」
死の魔法――もとい〈毒針〉でロニーが死なずにモンスター化しても、グレンならすぐに殺せるんだろうけど、ぶっちゃけモンスターグロいし怖いし見たくない。
「そうですか。少し残念ですが、貴方の命令なら」
「いい子だ、グレン。ああ、そうだ……折角の終幕だ。この舞台の立役者にもお立ち合い願おうか。――入れ、エステル」
その名前を耳にした瞬間、恐慌状態だったロニーが怒りの形相で扉の方に視線を向けた。
へぇ……恐怖よりも怒りが上回るんだ。
「……お呼びですか。ベルンハルト様」
初めからは考えられないほど殊勝な態度で部屋に入ってきたエステルは、苦々しい表情でロニーを見遣った。
こっちは案外、その無様さを愉しむわけでもなく、どちらかと言えば同情している様子だ。
ほ~ん……わかんないもんだなぁ……。
エステルはロニーのことを心から憎んでるってほどでもなかったのか?
「さて、親愛なる従兄弟、そして弟よ。これからの話をしようか」
◇◇◇
「良かったんですか? あの程度で済ませて……」
「いいんだよ。ロニーもエステルも……まだ利用価値がある」
オレとグレンはミルザム伯領を後にして、予定よりは遅くなったが王都に向かっている。――羽を持った白馬に乗って。
思わぬ収穫だった。
伯爵領では不快な思いをたくさんしたが、この便利で快適な足を手に入れられたのは大きい。
まあ一人乗りは怖いから、『伯爵取り合い乱行事件』の見物のときと同じように、グレンと二人乗り――彼に後ろから抱き抱えられるような形でしか乗れないけど。
「連中には全員、【予言】でオレに忠誠を誓わせられた。折角だから便利な操り人形として動いてもらうさ」
ロニー、それから彼らの両親。
死の魔法に――ミルザム伯領襲撃計画に関わっていた全ての人間にエステルと同じような予言を与えた。
少なくとも、オレが生きている間は伯爵領は安泰だ。
彼らはオレに逆らえないのだから、ロニーはオレの代わりに優秀な伯爵様として、領主として生きてもらう。エステルや子爵も伯爵領のために尽力させる。
結局、ブルーノ・ミルザム一人が利益を得たような気がしないでもないが……彼は忠実な執事を含む不特定多数に襲われかけ少なからず精神的被害を被っただろうし、それで溜飲を下げるとしよう。(まあ昏倒させられたから覚えてないんだろうけどね。)
「貴方は……本当にお優しいですね」
「どこが?」
自分でもなかなか悪どいことしたな~って自覚はあるんだけど……。
「だって……その気になれば、彼らを生きた屍にして、言葉通り人形にすることだってできたんですよ?」
できたんですか? 初耳です。
「……いいよ。いらない」
「無欲なお方だ」
グレンはオレの首筋に唇を寄せて笑った。
「ん……落ちたら嫌だし、地上に降りるまでは変なことするなよ」
「ええ。ねぇ……キスはしてもいいでしょう?」
……いいですよ。
「そういえば、あの猫って結局なんだったんだろうな」
てっきりシャウラ家のスパイかと思ったが、騒動の間も姿を見せなかった。
「さぁ? いいんじゃないですか。どうでも」
「お前な……っ、ん……」
こうして人知れず――首謀者たち以外には知られずに――故郷を救ったオレたちは、英雄と呼ばれることはないけれど、いくつかの手駒を手に入れたのであった。
あとは勇者を辞めればこの旅も終わり、のはずなんだけど……無事に終わるのかな。
あー……疲れた。あの大きい風呂……もう一回入りたかったな~………一人で!!!
ね~……オレなに言ってんだろうね……。
「グレン、できるな?」
丸投げです。オレだったらキレる。
だってこんなん、「なんかいい感じにやっといて!」と一緒じゃんね。(オレはよく先生に仕事を押し付けられるときに言われてました。)
「勿論、貴方のためなら――【複製】」
でもできる。そう、グレンならね。
……え、なぁにそのスキル。強そ~。
「この世に存在する魔法なら、原理を理解した上で全て使えるようにするスキルです。これで、俺も〈毒針〉を手に入れました」
おお……すごい。そんなんあるんだ。
【皇帝】の次ぐらいにすごそう。なんかあれだな……インフレしすぎたバトル漫画みたいになってきたね。
いやでもチートってそういうもんなんで!!!
「貴方は石にこの力を付与して、包囲網として利用していましたが……そうだ」
グレンは、瞠目して震えるロニーの眼前に魔力を放出させる。
「俺は貴方の目を直接、毒針で突いてみましょうか」
「そんなの、できるわけない……っ! 〈毒針〉は、強い媒介がないと……」
ロニー、それフラグ。
「試してみる価値はあると思いますよ。だってせっかくこんなに強力で素晴らしい魔法なんですから……ね?」
「あ……いや、いやだ……やめろ!!」
怯えて叫び続けるロニーに、前に会ったときのような余裕は一切感じられない。
いやぁ~怖いよね……わかる。だって目に魔法使われるって……ねぇ。
あ、やば……想像したらグロい痛い痛い……。
「――グレン」
今にもロニーに毒を流し込もうとしていたグレンの名前を呼ぶ。
「はい、ベル」
「……脅しは、それで十分だ。あとは子爵達と同じように“忠誠“を誓わせればいい」
死の魔法――もとい〈毒針〉でロニーが死なずにモンスター化しても、グレンならすぐに殺せるんだろうけど、ぶっちゃけモンスターグロいし怖いし見たくない。
「そうですか。少し残念ですが、貴方の命令なら」
「いい子だ、グレン。ああ、そうだ……折角の終幕だ。この舞台の立役者にもお立ち合い願おうか。――入れ、エステル」
その名前を耳にした瞬間、恐慌状態だったロニーが怒りの形相で扉の方に視線を向けた。
へぇ……恐怖よりも怒りが上回るんだ。
「……お呼びですか。ベルンハルト様」
初めからは考えられないほど殊勝な態度で部屋に入ってきたエステルは、苦々しい表情でロニーを見遣った。
こっちは案外、その無様さを愉しむわけでもなく、どちらかと言えば同情している様子だ。
ほ~ん……わかんないもんだなぁ……。
エステルはロニーのことを心から憎んでるってほどでもなかったのか?
「さて、親愛なる従兄弟、そして弟よ。これからの話をしようか」
◇◇◇
「良かったんですか? あの程度で済ませて……」
「いいんだよ。ロニーもエステルも……まだ利用価値がある」
オレとグレンはミルザム伯領を後にして、予定よりは遅くなったが王都に向かっている。――羽を持った白馬に乗って。
思わぬ収穫だった。
伯爵領では不快な思いをたくさんしたが、この便利で快適な足を手に入れられたのは大きい。
まあ一人乗りは怖いから、『伯爵取り合い乱行事件』の見物のときと同じように、グレンと二人乗り――彼に後ろから抱き抱えられるような形でしか乗れないけど。
「連中には全員、【予言】でオレに忠誠を誓わせられた。折角だから便利な操り人形として動いてもらうさ」
ロニー、それから彼らの両親。
死の魔法に――ミルザム伯領襲撃計画に関わっていた全ての人間にエステルと同じような予言を与えた。
少なくとも、オレが生きている間は伯爵領は安泰だ。
彼らはオレに逆らえないのだから、ロニーはオレの代わりに優秀な伯爵様として、領主として生きてもらう。エステルや子爵も伯爵領のために尽力させる。
結局、ブルーノ・ミルザム一人が利益を得たような気がしないでもないが……彼は忠実な執事を含む不特定多数に襲われかけ少なからず精神的被害を被っただろうし、それで溜飲を下げるとしよう。(まあ昏倒させられたから覚えてないんだろうけどね。)
「貴方は……本当にお優しいですね」
「どこが?」
自分でもなかなか悪どいことしたな~って自覚はあるんだけど……。
「だって……その気になれば、彼らを生きた屍にして、言葉通り人形にすることだってできたんですよ?」
できたんですか? 初耳です。
「……いいよ。いらない」
「無欲なお方だ」
グレンはオレの首筋に唇を寄せて笑った。
「ん……落ちたら嫌だし、地上に降りるまでは変なことするなよ」
「ええ。ねぇ……キスはしてもいいでしょう?」
……いいですよ。
「そういえば、あの猫って結局なんだったんだろうな」
てっきりシャウラ家のスパイかと思ったが、騒動の間も姿を見せなかった。
「さぁ? いいんじゃないですか。どうでも」
「お前な……っ、ん……」
こうして人知れず――首謀者たち以外には知られずに――故郷を救ったオレたちは、英雄と呼ばれることはないけれど、いくつかの手駒を手に入れたのであった。
あとは勇者を辞めればこの旅も終わり、のはずなんだけど……無事に終わるのかな。
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