33 / 93
第4章 モンスター襲来
第33話「ベルンハルトと【予言】」
しおりを挟む
なんてことはない。
単にトカゲの尻尾切りをすればいいだけの話だ。
勿論、こんな大規模な犯行が十七歳の少年一人の企てでした、なんて誰も本心からは信じないだろう。
そもそもロニーはもう戸籍上ミルザムの人間なわけで。下手すればミルザム伯爵家も咎められる可能性はある。
でも、オレが。
“当代勇者様にして王家の信任厚きミルザム伯爵家の長子、ベルンハルト・ミルザム様“が――悪いのは、ミルザム伯爵家に入り込んだネズミ一匹だけだと断言すれば誰もなにも言えなくなるのだ。
真実なんてものは始めから存在しない。
より権力を持った人間の言葉で後から作り上げられていくものなんだよ。
「事を荒立てるのはあの男……ブルーノも望まないだろうし、オレに感謝こそすれども、邪魔立てはしないさ」
まあ……“未知の魔法で領民を脅かそうとしていた犯人を未遂で捕らえた素晴らしい領主様“だ、と自分の功績にはするかもしれないが。
「さて……グレン。この計画に穴は?」
「ありません。完璧ですよ、さすがはベルです。ああでも……念のため――」
グレンは柔らかく優しい声でオレを褒め称えたその口で。
「【予言】――“この者と、その血を継ぐ者がこの先、ベルンハルト・ミルザムの不利益になる行いをすることがあれば、その身は即座に石となって砕かれるだろう“」
恐ろしい予言をエステルに与えた。
……え、なにそれ。そんなんありなの??
「と、まあ……こんな感じで、シャウラ子爵家の人間に片っ端から【予言】を使えばより安全ですね」
事後報告……。
てか今の例のつもりなんだ。えぐいな。
「うん……そうだね……」
「あ、もしかして石じゃない方がよかったですか? ネズミになって食われろとか、羽虫に変われとか……」
「ああいや……石でいいよ」
そんなとこにこだわりはないです。断じて。
「え……なに今の……なんであんたがベルンハルト様のスキルを……!! あんたのスキルは【防衛】……ただの盾のはずだろ!!」
放心していたエステルが、ハッとなってグレンを見上げる。
おお。すごい……チート主人公へのテンプレみたいな反応がようやく見れた……ちょっと嬉しい。
「これが俺の真のスキル ――【皇帝】です。その気になれば貴方のスキルだって使えますよ」
グレンもそれっぽい返ししてる。
わーい原作(?)再現だーーー!!
◇◇◇
エステルを追い返してから、オレとグレンは話し合いを始めた。
「ベル。まずは謝ります――貴方のスキルを、何度もお借りして……本当に申し訳ありません」
「え? なにが??」
初手謝罪……。
借りるっていうか、【皇帝】ってそういうスキルなんだからしょうがなくない? なんで謝ってんの……。
「だって……あの力は、本来貴方にだけ与えられたものなのに……俺、何度も軽々しく使ってしまって……」
まあ便利だもんね。
オレの身体だと反動で死にそうな予言連発してもグレンなら大丈夫なんだし、いくらでも使えばいいと思うよ。
と、まあ……オレの方はそういう気持ちなんだけど。グレンとしてはそうは思えないんだろう。
神から授かった【能力】は、その人間のアイデンティティ。誇り。
そういう考えの人間も少なくないはずだ――というかベルンハルトは多分そう。
だから、ベルンハルトに与えられたスキルを自分が使ってしまうことに、グレンは罪悪感を覚えているわけだ。
さて……どうしたものか。
「オレを守るためなんだろう? だって、【皇帝】はオレのためにしか使えないんだから」
「はい……でも……」
慰めてみたが、こうかはいまひとつのようだ。
――肉体でお慰めするのはどうかな?
井上さん。ステイ……と言いたいところだが、それかもしれない。
――え、マジで言ってる??
マジマジ。だから二人にして。
「グレン……おいで」
腕を広げて、呼びかける。
オレの身体は、グレンのように逞しくもなければ、女の子のように柔らかくもない。
だけどこの腕だって、誰かを……好きな人を抱きしめることぐらいはできる。グレンは、望んでくれる。
「ベルンハルト……」
グレンはオレの胸元に顔を埋めた。
「なぁ、グレン。お前にとってオレはなんだ?」
「ベル……ベルンハルト様……貴方は、俺の全てです。俺の心は貴方のためにだけあるんです……」
胸元が濡れていく。案外泣き虫だな、ヒーロー。
「そうだ。オレはお前の全て。ならお前も……オレの全部だよ、グレン」
――お前は、オレに全てを与えるんだ。
――オレの奴隷に、父に、友人に……その全てにお前がなれ。
頭の中に流れ込んでくる――いや、よみがえってきたのは、ベルンハルトの言葉だ。
グレン・アルナイルにとってはベルンハルト・ミルザムが全てで、その逆も然り。
「お前の神はオレで……オレの神はお前だ。そうだろう?」
「はい……ベルンハルト」
抱擁をといて、唇を交わす。
「グレン・アルナイル――お前には、オレの全てを行使する権利があるんだ。この肉体も、スキルも、心も……お前のものだ」
吐息の隙間の囁きは、自分でも驚くほどに淫らで――それでいて、神聖な響きを持っていた。
「好きです、愛してます……貴方のためなら俺は、なんだってします」
「オレも、愛してる……グレン……」
ああ――本当に、オレが始めからベルンハルトだったらよかった。
そしたらこんな風に、嘘を抱えたまま彼と触れ合う必要はなかったんだ。
ごめん、グレン。
ごめん、ベルンハルト。
終わりがきたら、ちゃんと返す。全部……返すから。
「あっ……グレン……」
「ベル、ベル……」
今だけ、オレにも与えて。与えさせて。
仮初の愛を――。
――めちゃくちゃBLみたいなこと言うじゃん。
井上さん!!! 二人にしてって言ったよね!!??
あとオレめっちゃシリアスな空気出したんだから空気読んで!!!
――井上さんはハピエンBLの伝道師だから……シリアスは受け入れられないんだよねぇ。
知らねぇよ。
――てかさぁ、NTRについてずっと悩むのやめよ? いいじゃん。セックスしまくってればそのうちどうでもよくなるって。
なんないです。
――あと、言いたかないけど、そんなことしてる場合じゃなくない? 早くしないと伯爵死ぬよ??
あ、忘れてた。
「……っグレン、本邸に行くぞ」
全部さっさと終わらせて――そんでめちゃくちゃセックスするからな!!!!
――赤谷くん、よく言った!!!
イマジナリー井上さんの声援を浴びながら、オレは本邸に向かうことに――。
「あ、毒殺ならもう防いでおきました」
……よーし。もう驚かないぞ~~!!
グレンくんはチートだもんな……!! 遠隔で毒殺の阻止ぐらい余裕……。
「いや、そんなことできるんだ……」
むりだ。スルーするには色々訊きたいことが多すぎる……。
単にトカゲの尻尾切りをすればいいだけの話だ。
勿論、こんな大規模な犯行が十七歳の少年一人の企てでした、なんて誰も本心からは信じないだろう。
そもそもロニーはもう戸籍上ミルザムの人間なわけで。下手すればミルザム伯爵家も咎められる可能性はある。
でも、オレが。
“当代勇者様にして王家の信任厚きミルザム伯爵家の長子、ベルンハルト・ミルザム様“が――悪いのは、ミルザム伯爵家に入り込んだネズミ一匹だけだと断言すれば誰もなにも言えなくなるのだ。
真実なんてものは始めから存在しない。
より権力を持った人間の言葉で後から作り上げられていくものなんだよ。
「事を荒立てるのはあの男……ブルーノも望まないだろうし、オレに感謝こそすれども、邪魔立てはしないさ」
まあ……“未知の魔法で領民を脅かそうとしていた犯人を未遂で捕らえた素晴らしい領主様“だ、と自分の功績にはするかもしれないが。
「さて……グレン。この計画に穴は?」
「ありません。完璧ですよ、さすがはベルです。ああでも……念のため――」
グレンは柔らかく優しい声でオレを褒め称えたその口で。
「【予言】――“この者と、その血を継ぐ者がこの先、ベルンハルト・ミルザムの不利益になる行いをすることがあれば、その身は即座に石となって砕かれるだろう“」
恐ろしい予言をエステルに与えた。
……え、なにそれ。そんなんありなの??
「と、まあ……こんな感じで、シャウラ子爵家の人間に片っ端から【予言】を使えばより安全ですね」
事後報告……。
てか今の例のつもりなんだ。えぐいな。
「うん……そうだね……」
「あ、もしかして石じゃない方がよかったですか? ネズミになって食われろとか、羽虫に変われとか……」
「ああいや……石でいいよ」
そんなとこにこだわりはないです。断じて。
「え……なに今の……なんであんたがベルンハルト様のスキルを……!! あんたのスキルは【防衛】……ただの盾のはずだろ!!」
放心していたエステルが、ハッとなってグレンを見上げる。
おお。すごい……チート主人公へのテンプレみたいな反応がようやく見れた……ちょっと嬉しい。
「これが俺の真のスキル ――【皇帝】です。その気になれば貴方のスキルだって使えますよ」
グレンもそれっぽい返ししてる。
わーい原作(?)再現だーーー!!
◇◇◇
エステルを追い返してから、オレとグレンは話し合いを始めた。
「ベル。まずは謝ります――貴方のスキルを、何度もお借りして……本当に申し訳ありません」
「え? なにが??」
初手謝罪……。
借りるっていうか、【皇帝】ってそういうスキルなんだからしょうがなくない? なんで謝ってんの……。
「だって……あの力は、本来貴方にだけ与えられたものなのに……俺、何度も軽々しく使ってしまって……」
まあ便利だもんね。
オレの身体だと反動で死にそうな予言連発してもグレンなら大丈夫なんだし、いくらでも使えばいいと思うよ。
と、まあ……オレの方はそういう気持ちなんだけど。グレンとしてはそうは思えないんだろう。
神から授かった【能力】は、その人間のアイデンティティ。誇り。
そういう考えの人間も少なくないはずだ――というかベルンハルトは多分そう。
だから、ベルンハルトに与えられたスキルを自分が使ってしまうことに、グレンは罪悪感を覚えているわけだ。
さて……どうしたものか。
「オレを守るためなんだろう? だって、【皇帝】はオレのためにしか使えないんだから」
「はい……でも……」
慰めてみたが、こうかはいまひとつのようだ。
――肉体でお慰めするのはどうかな?
井上さん。ステイ……と言いたいところだが、それかもしれない。
――え、マジで言ってる??
マジマジ。だから二人にして。
「グレン……おいで」
腕を広げて、呼びかける。
オレの身体は、グレンのように逞しくもなければ、女の子のように柔らかくもない。
だけどこの腕だって、誰かを……好きな人を抱きしめることぐらいはできる。グレンは、望んでくれる。
「ベルンハルト……」
グレンはオレの胸元に顔を埋めた。
「なぁ、グレン。お前にとってオレはなんだ?」
「ベル……ベルンハルト様……貴方は、俺の全てです。俺の心は貴方のためにだけあるんです……」
胸元が濡れていく。案外泣き虫だな、ヒーロー。
「そうだ。オレはお前の全て。ならお前も……オレの全部だよ、グレン」
――お前は、オレに全てを与えるんだ。
――オレの奴隷に、父に、友人に……その全てにお前がなれ。
頭の中に流れ込んでくる――いや、よみがえってきたのは、ベルンハルトの言葉だ。
グレン・アルナイルにとってはベルンハルト・ミルザムが全てで、その逆も然り。
「お前の神はオレで……オレの神はお前だ。そうだろう?」
「はい……ベルンハルト」
抱擁をといて、唇を交わす。
「グレン・アルナイル――お前には、オレの全てを行使する権利があるんだ。この肉体も、スキルも、心も……お前のものだ」
吐息の隙間の囁きは、自分でも驚くほどに淫らで――それでいて、神聖な響きを持っていた。
「好きです、愛してます……貴方のためなら俺は、なんだってします」
「オレも、愛してる……グレン……」
ああ――本当に、オレが始めからベルンハルトだったらよかった。
そしたらこんな風に、嘘を抱えたまま彼と触れ合う必要はなかったんだ。
ごめん、グレン。
ごめん、ベルンハルト。
終わりがきたら、ちゃんと返す。全部……返すから。
「あっ……グレン……」
「ベル、ベル……」
今だけ、オレにも与えて。与えさせて。
仮初の愛を――。
――めちゃくちゃBLみたいなこと言うじゃん。
井上さん!!! 二人にしてって言ったよね!!??
あとオレめっちゃシリアスな空気出したんだから空気読んで!!!
――井上さんはハピエンBLの伝道師だから……シリアスは受け入れられないんだよねぇ。
知らねぇよ。
――てかさぁ、NTRについてずっと悩むのやめよ? いいじゃん。セックスしまくってればそのうちどうでもよくなるって。
なんないです。
――あと、言いたかないけど、そんなことしてる場合じゃなくない? 早くしないと伯爵死ぬよ??
あ、忘れてた。
「……っグレン、本邸に行くぞ」
全部さっさと終わらせて――そんでめちゃくちゃセックスするからな!!!!
――赤谷くん、よく言った!!!
イマジナリー井上さんの声援を浴びながら、オレは本邸に向かうことに――。
「あ、毒殺ならもう防いでおきました」
……よーし。もう驚かないぞ~~!!
グレンくんはチートだもんな……!! 遠隔で毒殺の阻止ぐらい余裕……。
「いや、そんなことできるんだ……」
むりだ。スルーするには色々訊きたいことが多すぎる……。
156
お気に入りに追加
714
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる