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第4章 モンスター襲来

第31話「ベルンハルトとモブおじさんのアイドル」

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 獲物は空からやってきた。
 ……羽の生えた白馬に乗って。

 
「グレン……なんでこいつ白馬乗ってるんだろ」
 
「馬鹿だからじゃないですか?」

「あ? 馬鹿って言った方がバーカ」


 グレンが屋敷の周りに張っていたバリア(とついでに窓ガラス)を壊して部屋に押し入ってきた侵入者――エステル・シャウラは白馬に乗ったままそんな馬鹿丸出しな言葉を吐いた。
 
エステルモブおじさんのアイドル……なんでお前が……」

「ベル、殺しますか」

 グレン、ステイ。判断が早い。
 とりあえず、すぐに攻撃してくる素振りもない。殺すのはグレンくんならいつでもいけるし、話聞いてからにしよ? ね?

「どーも。お久しぶりですね、ベルンハルト様。ついでに黒髪……相変わらず仲がよろしいことで」

 そちらも相変わらず小物臭いことで。



 ◇◇◇



 仕切り直しだ。

 とりあえずオレもグレンも半裸だったので服を着た。
 ……エステルは馬鹿だから気付いてないけど、オレの身体結構キスマークとか付いてるし、けっこうあからさまに事後じゃんってこいつら交尾したんだ状態だったんだよなぁ。

 あ~~よかった、侵入者こいつで。
 いやよくない、よくないよーオレ。侵入者なんてなんぼいてもよくないですからね。


 オレとグレンは隣に、エステルはオレたちと向かい合う形でソファーに座る。

 ……羽の生えた白馬は割れた窓ガラスの傍でくつろいでる。

「話す前に……馬鹿エステル、気が散るからあれどうにかしろ」

「馬鹿じゃねぇよ、おれの名前はエステル! エステル・シャウラ! 人の名前ぐらい覚えろよバーカ!!」

「……おい馬鹿。ベルが命令してるんだ。黙って従え」

 グレンの低い声にエステルは物言いた気に唇を噛んだが、反論せず、黙って親指を鳴らす。すると白馬は姿を消した。……あの馬、こいつのスキルだったのかな。
 
 てか、エステルくんはオレよかグレンの方が怖いんですね~……いや、オレもそうだけど。

 でもなんか、意外だ。一応、グレンの強さはわかるんだなぁ。馬鹿なのに。ああでも、グレンの張ったバリア破れるぐらいだからこいつもそれなりに強いのか……。


「で? なんの用だ、侵入者」

 グレンを黒髪呼ばわりした相手を名前で呼んでやる義理はないので、呼び名なんてこれで十分だ。
 エステル・シャウラなんて贅沢な名で呼んでやるもんか。

 エステルは不満そうな顔をしつつも、足を組んで高慢に言い放った。

 
「ベルンハルト様、と黒髪――おれに協力しろよ」

 KYOURYOKU……キョウリョク……協力。
 変換に時間がかかるぐらいの上から目線だ。オレよりよっぽどこいつの方が悪役っぽいなぁ。

「気付いてんだろ。ロニーは伯爵家を乗っ取るつもりだ。おれ様が持ってる情報全部くれてやるから、あんたらも知ってること全部吐け」

 オレが返事をするよりも先にエステルはペラペラと話を続ける。
 ちょっと態度デカくない?? ちょっとオレより背高いからって調子にってない??
 
「生憎と……貴方を手放しに信用するわけにはいきませんね。大体、伯爵家の乗っ取りはロニー・ミルザム一人の策謀ではないでしょう? お前たち――シャウラ家も関わっているはずだ」

「……そうだ。でも、おれは反対してんだよ」

「何故? お前ような人間は……権力が好きだろう。そして権力を入れるためならどんな卑怯なこともする」

「はっ……力は確かに好きだが、おれ個人の物じゃないと意味がない。このままいけば、伯爵になるのも、領主になるのもロニー。そんなの……っ!! あいつがおれより上になるなんて、我慢ならないんだよ!」

 
 あ、やばい。
 オレ抜きで話進んでる。え、いま何の話してる??
 上とか言ってるからあれかな? 受け攻めの話? エステルくんは受けだと思うって結論がオレと井上さんの間で出てるんだけど、エステルはあれかな? 攻めたいの??
 
「大体、ベルンハルト様。あんたが悪いんだからな!」

「え、オレ?」

 急に矛先こっちに向いたんだけどなに……??
 知らん知らん……。身内でやっとけよ。あ、オレも一応身内か。

「あんたが弱っちくなかったらロニーがミルザムの養子になることは無かったし……それがなかったら、こんな計画、お父様たちだって立てなかったはずなんだ!!」

「計画と言うと……あの石――」

「ああそうだよ!! ロニーが作った新しい魔法で伯爵領をモンスターに襲わせて、それをぜんぶベルンハルト様のせいにしようっていう計画!! そんで、その計画をお前が邪魔したから、ロニーめっちゃ怒ってて、今日伯爵のこと毒殺する予定なんだって!!」

 ……エステル。
 
 それ、言っていいやつ?
 多分外部に漏らしたらだめな情報、つまりはオレたちとの取引材料になりそうな情報、全部タダで言ったよね……お前……。

 
「……グレン。こいつ多分、というか絶対バカだよな」

 なんか、呆れすぎて疲れた。

「そうですね」

「バカだから……全部、本当っぽいな」

「そうなんですかね……」

 グレンも心なしか疲れてる。

「お前の推理全部あってたね。オレが勇者辞めたらさ……二人で探偵事務所とかする?」

「それがベルの望みなら……俺は名探偵を目指します」

 うん。ツッコミ不在って疲れるな……。

 疲れたので、人前なことも気にせずに(エステルだしいいだろ)、グレンの太ももに頭を乗せる。硬いな……筋肉……膝枕感ゼロ……。


「……ねぇ、ベルンハルト様?」

「あ? なに」

 エステルがさっきまでよりだいぶ小さい声で問いかけてきた。硬い膝に頭を乗せたまま適当に返事をする。

「なにじゃなくて……伯爵、今日ロニーに殺されるんだけど……いいの?」

 ああ、それね。

「あー……いい。いいよ、あんなん勝手にくたばってくれた方がいいよ」

 むしろオレが身体鍛える手間が省けたわ。

「いいんだ……犯人、ベルンハルト様ってことになるんだけど、いいの?」

 はいはい、それもオレに押し付けるわけね。オッケーオッケー。
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